魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第359話 事情聴取・後編

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「ではカグヤ殿、次はあなたからお話をお聞かせいただけますか?」

「はい……。まず、このたびは、私が正直に話さなかったが本当に、皆様にご迷惑をおかけしてしまったことを、心よりお詫び申し上げます……」

 そう言って、、床に手をついて深々と頭を下げるカグヤさん。
 畳の床に(座布団は敷いてるけど)正座してそうするもんだから、見た目としては土下座そのものって感じになってしまってるんだけど……。

 しばらくそうしてから顔を上げ、カグヤさんは語りだした。

「まず私は……皆様に嘘をついておりました。私は、月から来た人間などではありません。生まれも育ちも、皆様がご存じの通りの身の上しか持っておりませんし、月にいた記憶などもありません」

「つまり、竹から生まれた、というところは本当なれど……『月の使者』云々の騒動に関して、あなたが語ったことは偽りだったと?」

「はい……」

「なぜそのようなことを? わざわざ、人さらい共の話に合わせるような……」

 心底不思議そうにしているロクスケさん。
 そりゃそうだろうな、何で攫われる被害者の立場にあるカグヤさんが、わざわざ敵であるはずのハイエルフ達の妄言に合わせるようなことを言ってたのか、わからないだろう。

 けど僕は……僕たちは、ある程度その理由に目星はついている。
 ついているというか、ついていたというか……あの夜からすでに、ね。

 見ると、鬼と猫又の2人も同様のようだ。
 恐らく、似たような境遇の人ないし妖怪が、あの城の中に住んでたからだろうな……そう、例えば……『コロポックル』とか。

「それをお話しするにはまず、私の身の上について正確に話さねばなりません。ご存じの通り、私は竹から生まれた『妖怪』です……そしてそれゆえに、単なる人間とは異なる、ある弱点を持っておりました」

「弱点……?」

「私は、分類としては、『古椿』や『木霊』、エゾなどの北の地に住む『コロポックル』といった、草木に宿る、ないしそこから生まれる妖の仲間になるのですが……その多くは、宿っている『本体』とも言うべき木や、生まれ故郷の森から離れることができません。もしそこから離れすぎたり、それが失われてしまえば、命は急激に縮み……やがて死んでしまいます」

 そう、植物系の精霊種の魔物が持つ、大弱点の1つ。『生まれ故郷の森から離れられない』。
 どうやら大陸だけでなく、ここ『ヤマト皇国』でも、この点は共通だったようなのだ。

 かつて『花の谷』で出会った『ドライアド』や『アルラウネ』がそうだったように、カグヤさん……種族名は何て言ったらいいのかわかんないけど、彼女もそうだった。生まれ故郷の森、すなわち、『裏山の竹林』から離れることができない身の上だったのである。

 しかし……

「お、お待ちをカグヤ様! ということは、しかし……あ、貴方がお生まれになった竹林は、つい三月ほど前に、山火事で……」

「はい、燃えてしまいました……つまり、私が身の拠り所としていた『生まれ故郷』は、もうないのです」

 その意味を悟り、青ざめるロクスケさん。
 当然だろうな。話の通りなら、カグヤさんはもう、長くは生きられない、ってことなんだから。

 しかし、『ドライアド』なんかは、生まれ故郷を放されてからおよそ数日から数週間で死んでしまうんだが……彼女はもう3ヶ月生きている。こう言っちゃなんだが、結構長い。

 それにも、きちんと理由はあった。

「私は、純粋な妖怪ではないのです……私の父は人間で、母は『古椿』という、椿の木に宿る妖怪でした。ですが、2人共既にこの世にはおりません」

 聞けば、その2人が恋に落ちてカグヤさんができたのは、もう何十年も前のことなのだという。

 しかしその時すでに、母親である『古椿』は、本体である椿の木が寿命を迎える寸前まで来ていた。同じ木に宿ることはできず、また新たに椿の樹を作る種を作ることもできなかったため、カグヤさんは、周囲に生えていた『竹』、というか『竹林』そのものに宿り、竹の精霊種となった。

 しかし、『古椿』から『竹精霊』(種族名わからんので仮にこう呼ぶ)という、異種族として生まれることとなったためか、はたまた、人間とのハーフである『半妖』だったからか、すぐには生まれることはできず、自我も確立できず、長いこと休眠状態だったそうだ。

 そしてその間、カグヤさんには、母親である『古椿』が、枯れた後も魂だけで、何十年も娘に寄り添っていたのだという。
 カグヤさんが身の上を知っていたのは、そういう理由だった。

 その母親も、彼女が立派に育ち(って言っていいんだろうか)、無事に竹から生まれたのを見届けると……消えてしまったらしい。成仏した、ということなんだろうか。

 ……いいお母さんだったんだな。

「そこから先はご存じの通りです。私はおじい様達に拾われ、お2人の娘として育てられました……私も、生みの父母とは別にではありますが、お2人の愛情を一身に受けて育つことができ、とても幸福な時間だったと思っております。店を手伝えるようになって、2人に恩返しできるようになってからは、こんな幸せが、ずっと……ずっと続いてほしいと思っておりました」

 しかし、それは脆くも崩れ去る。
 3ヶ月前に起こった、竹林の火災によって、カグヤさんは生命力が急激に削られ出した。

 幸いと言っていいのか、彼女は純粋な精霊種ではなく、『半妖』だったために、普通の精霊種よりはその影響は小さかった。生命力の減衰は遅かったし、土地そのものや、燃え残った草木から『力』をもらうことで、何とか命を維持してきた。

 だが、それも限界に近づいていた。日に日に自分の力が、自分の存在そのものがすり減っていくような感覚に、彼女は言い知れぬ恐怖を覚えていた。

 しかし、これは薬でどうにかなるようなものではないし……生まれ故郷以外の竹林では、受け取れる力は圧倒的に少なく、命をつなぐことはできない。何もしないよりはマシらしいが。

(……あの時、カグヤさんがあの竹林にいた理由って、それか……。少しでも力を取り込んで、命を長く持たせようとしてたわけだ)

 絶望の中にあった彼女に……ある日、秘密裏に『ハイエルフ』の使者が接触してきた。

 曰く、『お前が死なずにすむ方法が一つだけある』とのこと。

 それは、ハイエルフ達に忠誠を誓い、あの城で暮らすこと。

 大江山のあの城は、不思議な力を秘めているらしい。
 詳細は、詳しく調べないとわからないけど……何でも、そこで使う魔法を強化したり、そこに住む者に力を与えたりするらしいのだ。

 彼らが長距離の転移を可能にしていたのも、その城の力によるものだったらしい。

 そしてその力の1つに、植物系の精霊種の命をつなぐ力がある。
 あの城に暮らしていると、本来、生まれ故郷の森でしか命を繋げないはずの植物精霊は、城から同質の力を受け取ることにより、生きながらえることができるというのだ。

 自分達に忠誠を誓うなら、その城に住むことを認める。
 しかしその代わりに、その力を自分達のために使え。

 いうことを素直に聞くならば、いい暮らしをさせてやるし、時々ならおじいさんやおばあさんに合わせてやる、と言って、カグヤさんをたぶらかし……頷かせた。
 そして、カバーストーリーである『月の使者』の話を伝え、口裏を合わせさせた。

 それが、あの騒動の真実である。

「……どこまでも胸糞悪いことを……ったく、あの粗大ゴミ共が……」

「いえ、ミナト様……これはただ単に、私が死を恐れたがゆえのこと。そのために、命を繋ぐ希望だった『城』に行くために、彼らの機嫌を損ねることを恐れ、嘘をついて……その結果、皆様には多大なご迷惑をおかけしてしまったことは、お詫びの使用もございません……いかなる罰もお受けする所存にございます」

 確かに今回の件、味方によっては、彼女はハイエルフ達との共犯になってしまうかもしれない。

 仕事の上でのこと、どの道戦うことになっていただろうとはいえ、オサモトさんの部下たちには死傷者も大勢出てるし。

 ……けど、僕が言いたいのは、実はそこじゃなくて……

「……この上さらにショックなことを言うのはちょっとアレなんだけど、一応教えておいた方がいいと思うから、言うね。カグヤさん……それに、ロクスケさんにも」

「「……?」」

「あのさ…………その、3ヶ月前に起こった山火事……下手人はあいつらだよ」

「「「!?」」」

 その言葉に、カグヤさんやロクスケさん、さらに、『鬼』と『猫又』の2人といった、その事実を知らなかった面々が、目玉が飛び出そうなほどに驚いていた。

 半面、僕ら『邪香猫』関係者は……その時のことを思い出して、苛立つにとどまっている。

「それは、どういう……?」

「どういうも何も言ったままだよ。あいつら多分、最初からカグヤさんを手に入れるために、あの山に火をつけてカグヤさんの生命線を絶ったんだ……それでその後、あたかも善意で彼女の命を救おうとしてるふりをして、接触してきた」

 これはあの日、『閻魔喚問』でハイエルフから聞き出していたことの1つだ。

 どう考えても、偶然にしちゃ出来すぎてたし……城で『コロポックル』を見つけて、まさかと思って、城から帰った後に、副作用の毒で虫の息だったそのハイエルフに、もう1回『閻魔喚問』を投与して、トドメを刺すついでにもういくつか質問してたんだ。

 ここから先は、僕が個人的にハイエルフ共から聞き出した話だったので、ロクスケさんに改めて許可をもらい、僕からの証言として話させてもらうことに。

 ハイエルフの連中が『月の使者』を騙って攫っていた人たちには、ある共通点があった。

 それは、彼らが暮らしていく上で、欲しい、ないし役に立つ能力を持っていたこと。

 そして、ハイエルフの『先祖返り』だったこと。

 この2つの条件の、どちらか1つを満たしている者を手に入れるために、ハイエルフ共は『月の使者』の事件を起こし、人々を攫って奴隷にしていた。
 そしてそのために、時には裏工作として色々と暗躍してもいた。今回のカグヤさんの生まれ故郷の竹林をあらかじめ焼いたのなんかも、その一環だ。

 どうしてそんな回りくどいことをしていたかと言うと、カモフラージュのためだった。

 『月の使者』の事件でハイエルフ達が攫っていた人や妖怪は、実は彼らが攫っていた人や妖怪の中では、氷山の一角に過ぎない。あくまで、表社会での立場があったりで、いきなりいなくなると騒ぎが大きくなる可能性がある人を攫う時にのみ、『月の使者』をやっていた。

 そうでない者……例えば、山の中にぽつんとあるような山村の中で、本人自身もそのことを知らずに暮らしている『先祖返り』とか、森の奥でひっそりと暮らしている精霊種だとかの場合は、『月の使者』なんてまどろっこしいことはせず、普通にというか強引に攫っていた。
 時には、村に住む知り合いやら何やらを皆殺しにしてまで。

 恐らくエルクは、その類だと思われたのかも。単なる旅人か何かだと判断されたか?
 だから、あんなふうに強引に宿に押しかけて来た。……一応、月の使者は名乗ってたが。

 『先祖返り』の方は、僕らが『リアロストピア』で戦った連中がそうだったように、『ハイエルフ』の力を奪い取るつもりだったんだろう。
 そして、『役に立つ』方は、そのまま奴隷として飼い殺しにするために攫っていたんだろう。

 連中のことだ。カグヤさんに当初約束していたっていう、『いい暮らしをさせる』だの『たまにはおじいさん達に会わせる』だのって条件も、守ってた可能性は限りなくゼロだな。
 少なくとも、あの城に、一般的に見て『いい暮らし』をしている奴隷はいなかったし。1人も。

 カグヤさんの場合も、草木や森を反映させる精霊種の能力を欲しがったハイエルフ達が、自分達の手駒にするために、1から10まで仕込んだ上で……
 
 ……そこまで話したところで、カグヤさんが泣き崩れた。
 ……やっぱり、ちょっと急な話というか、刺激が強かったかな?

「そんな……そんな、ことって……ひどい……!」

「か、カグヤ様! 落ち着いて、お気を確かに……」

 こんな話を聞いちゃ無理もないが、冷静でいられなくなってしまったカグヤさんを落ち着かせるため、少し間を開けて話を再開することにし……一旦、休憩をとることにした。



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