魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第355話 ゴミ掃除 in ヤマト皇国

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「戦線を下げろ! 結界能力持ちの陰陽師を前線に出して防御するのだ! その間に遠距離から術と弓で攻撃して手勢を削るしか……」

「ダメです! 敵の攻撃範囲が広すぎて、結界では保護しきれません!」

「威力もけた違いで、屋敷の塀や生垣を遮蔽物にすることができない……まさか連中、全員が術者だとは……!」

「しかも賊めら、常に驚異的な防御性能の結界を発動しております! それこそ、連中が攻撃している最中ですら……こちらの攻撃が全く届きません!」

「何ということだ……奴ら、全員が達人級の術者だとでも言うのか……!?」

 開始からまだ、わずか数分。
 オサモトが率いていた軍勢は、壊滅の様相を晒していた。

 装備を整え、武器を構え、陣形を組み、いつどこから敵が襲ってきても応戦できるようにと身構えていた精兵達は、彼らの……それこそ、指揮官であるオサモトにとっても想像の埒外と言えるほどの規格外の力により、なすすべもなく蹂躙されている。

 装備も、戦術も、術すらも役に立たず、
 ここにおいて、彼らは圧倒的な弱者でしかなかった。

「哀れな。愚かにも下等種族が我々に逆らうからこうなるのだ。黙って従いさえしておけば、手荒な真似に出るつもりは毛頭なかったというのに」

 そんな言葉と共に、浮遊しつつ、周囲に無差別に攻撃を放っていた『月の使者』の1人が、オサモトとロクスケの目の前に降り立った。

 すぐにその前に護衛の兵が刀を、槍を手に進み出て彼らを守ろうとするが、男が手を一振りすると、風と雷が同時にその兵士たちに殺到し、そのほとんどが一瞬にして命を散らした。
 残る何名かも危険な状態で地面に転がっている。見るからに命に係わる傷だ。

「おおよそ6割ほどは死んだか。どうだ、己の無力を思い知った気分は?」

「……化け、物め……!」

「……いかに頭の足らぬ下等生物であれど、我々にその物言いは不敬であるぞ。殊勝にしていれば命は助けてやろうかと思ったが……愚者には釣り合わぬ慈悲だったか」

 そう言って、男は手のひらをオサモトに向ける。

 オサモトは術は使えないが、その掌に、背筋が凍り付くほどの寒気を感じる何かが……恐らくは、自分を殺すに十分すぎるほどの威力の『術』ないし『力』の類が収束していっているであろうことは察することができた。
 どうあがいても、その凶刃から逃れることはできないだろう、ということも。

 とっさにオサモトをかばうようにロクスケが立ちはだかる。手には呪符……様々な術を発動させる際に媒介になる、いわゆる『おふだ』を持っているが、焼け石に水だろう。

 自分と共に、今まで自分に尽くしてくれた忠臣を死なせてしまう。そのことにオサモトは、どこか他人事のように残念さを感じながら……


――バチュン!!


「ぐがっ!?」

 放たれると思われた術が、ロクスケ共々自分を焼き尽くす前に……爆ぜるような異音がその場に響くと同時に、目の前の男が突如として、糸の切れた人形のように崩れ落ちた光景を見た。

「「「!?」」」

 そして、その背後には……手刀を振りぬいたような姿勢でたたずんでいる、つい数時間前に言葉を交わしたばかりの、今は村の宿屋にいるはずの、黒髪の少年が立っていた。
 その手に、赤黒い火花を幾十幾百と散らしながら。

 その隣には……こちらは数時間前の面通しの時には会うことはなかったため、今初めて見る、濃い藍色の髪の女もいる。その手に、凶悪なまでに鋭い大鎌を携えて。

 突如現れた乱入者に、オサモトはもちろん、ロクスケもその他の部下たちも、一体何が起こったのか察するまでに、しばし時間が必要そうだったが……どうやらこの2人に、それを待つつもりはないようだった。

「あん? 殺ってねーのか?」

「いやホラ、尋問用に何人か確保しとかないといけないじゃないですか。ここに来てるので全員だとは限らないし……こいつら根っこから駆除しないと、また逆恨みしてきますよ」

「それもそうだな。じゃ、あと何人かとっ捕まえんのか?」

「なるべく偉そーにしてるのがいいですね、情報持ってそう」

「偉そーってんなら、似たようなもんだろ、こいつら、どいつもこいつも」

「あー、確かに。んじゃ、適当に捕獲しつつ、残りは消し飛ばす方向で」


 ☆☆☆


 語ることは多くはない。
 ただ、『暴れていたハイエルフ共を全滅させた』。これだけである。

 伊達にエルフ系の最上位種と呼ばれているわけじゃない。こいつら1人1人の戦闘能力は、一兵卒でもAAからAAAランクの冒険者と同程度には高いのだ。

 もちろん、兵卒といいつつそこまで鍛えてる奴は限られるだろうし、そもそもこいつらは個体数そのものが少ないが、凡百の兵士を数を集めた程度で抵抗できる相手じゃない。ポテンシャルにおいて、他の種族に比べて圧倒的なアドバンテージを持っていると言っていいわけだ。

 その強さもまた、こいつらの選民思想の原因の一つなのかもだな。

 とはいえ、僕と師匠が来た以上は、こいつらは完全に狩られる側に回ったわけで。

 僕はもちろん、師匠も『女楼蜘蛛』時代からずっと、無駄にこいつらとは因縁があり、偏見であることは認めつつも、印象とか感情は最悪である。
 ゆえに、手加減などという選択肢は存在しなかった。

 熱い戦いも、劇的でドラマチックな展開も何もない。
 極めて事務的に、さくっと終わらせた。

 今回、尋問用に何人か捕獲したら、後はもう助けるつもりはなかったので、久々に手加減度外視の殺人技を……切り刻む電撃『エレキャリバー』を解禁した。

 無数の黒紫色の火花を手、あるいは足から放ち、纏うこの技は、火花の1つ1つがカミソリより鋭い切れ味を誇り、触れた相手をズタズタ……なんてもんじゃない程に切り刻む。ジェットエンジンの中に放り込んだみたいに、触れた部分が一瞬で血煙になって散る。

 そこにさらに、追い打ちとばかりに電熱で焼き尽くすため、効果範囲は広くはないけど、魔法自体の殺傷力はえぐいぐらいに高いのだ。僕の身体能力が合わさると、さらに。

 拳に纏わせて腹を殴れば、周囲の肉も骨も消し飛んで風穴が空く。

 足に纏わせて蹴りを見舞えば、刃物を振るったように相手は真っ二つになる。

 触れた部分を削り取るように切り刻み、焼き尽くし、消し飛ばす。ゆえに、手加減不可能。
 殺す、あるいはその一歩手前までやる、欠損させるのもいとわないと決めた相手にしか使わない技である。人ないし亜人相手に使ったの、いつぶりだっけな。

 ともあれそんな感じなので、あらかじめ生け捕りにしといた連中以外は全員死んだ。
 僕は『エレキャリバー』で、師匠は、いつだったか見たあの『殺傷力の権化』な武器――槍と鎌と斧と金棒とメイスを合わせたようなアレ――を使って戦ったので、原形をとどめて死んでる死体はかなり少ない。知ったこっちゃないが。

 ちなみに、生け捕りにした奴らには、赤黒い火花を出す電撃技『アノキャリボール』を使った。
 『エレキャリバー』と同時期に開発した技で、見た目も近く、対をなすような位置づけである。

 この技は『エレキャリバー』と違い、殺傷能力自体は低いんだが……電撃が体を駆け巡ると同時に、通過した体組織から酸素を強奪し、強制的に酸欠に陥らせるという恐ろしい効果がある。

 出力を抑えればスタンガン、ないし制圧技として使えるが、高出力で使うと、全身の細胞から酸素が失われてショック死するという、やっぱり危険な技である。
 ま、その辺の手加減はばっちりなので、きちんと尋問用の捕虜は手に入れた。



 そんなわけで、僕と師匠が介入して以降、あっさり戦いは終わった。

 ハイエルフは捕虜を除いて全滅。ロクスケさんとオサモトさんも無事だ。
 兵士の人隊は大勢死んじゃったけどね……介入は控えるように指示されていたとはいえ、そこは流石に痛ましい。

 それでも一応、戦いながらも救命措置はさせてもらってたけど。
 揮発性のポーションをそこら中にばらまいて、気化して霧状になって充満したそれを吸い込ませる形で、その辺にいた兵士さんたち全員を同時に、ね。

 え、それだとハイエルフ達も治療しちゃわないかって? 大丈夫大丈夫、即死するか酸欠で気絶してるかだから。

 生き残ったオサモトさんとロクスケさんは、僕らに礼を言った後、今回の件の後始末のために、色々と駆け回っているようだ。大勢犠牲が出たのはもちろん……件の『月の使者』が、単なる人さらいじゃなく、色々と予想外に危険な武装組織だってことがわかったからな。

 その構成員は、見たこともない種族の亜人――彼らからすれば『妖怪』か――だってんだから、なおさらだ。

 ……もっとも、その組織も、あと数時間以内には壊滅するけどね。
 つーか、僕がさせるんだが。

「さーて、それじゃ君には、君たちの本拠地とか構成メンバーとかその数、その他諸々、攻め込むのに必要な情報を聞かせてもらわないとね」

「ふざけるな! 至高の種族たる我らハイエルフに仇なす愚か者どもめ! 今すぐにこの拘束を解け! さもなくば、オーエ山にいる我らの同胞の手により、貴様らは惨たらしい最後を迎えることとなろう!」

 まあ、うん、こうなるよね。

 状況すら理解できないほどのプライドの塊であるこいつらが、素直に情報を吐いてくれるはずがない。
 形式的にちょっと聞いてみただけで、僕らも期待はしてない。最初から。

 だから、きちんと次善の策は用意してあるわけで、早速……と言いたいところだけど、何か今、気になるフレーズが聞こえた気がしたんだが?

(こいつ今、何言った? 発音ちょっと変だったけど……『オーエ山』?)

 オーエ山……おーえ、おおえ……ど? いや違うか。

 こいつらの本拠地かな……しかし何だろう? どこかで聞いたような……

「ちょっと待て耳長! お前今、『大江山』って言ったのか!?」

 考え込んでいると、横で聞いていたゴン君が、僕も引っかかったそのフレーズについて、何か思い当たることがあったらしい。
 ハイエルフが行っていたのとは違う、日本語的に自然なイントネーションで聞き返した。

「何だ貴様? ふん、大した力もない低級妖怪の……しかもまだ小僧か。おい、大方こいつらに奴隷か何かとして使われているのだろう? 私の縄を解けば、下働きとして我らハイエルフに仕える名誉をやるぞ? 駄賃もくれてやろう」

「知らねえよ! それよりお前、大江山から来たってどういう意味だ!? お前ら『鬼』なのか!? 角は……あるように見えねえけど……」

「何を無礼を抜かす! 小僧貴様、言うに事欠いて我らが『鬼』……あのような野蛮で愚鈍なでくの坊と同類だと!? バカも休み休み言えこの下等種族が!」

 おおえ……大江山……鬼……ああ! そうか思い出した!
 日本で、『大江山の鬼』って言えば……

「あそこは鬼の総大将『酒吞童子』のねぐらだろ!? 危険すぎるからって、人間はもちろん他の妖怪達だって近づこうとしない場所だ! 大妖怪の一角である『隠神刑部狸いぬがみぎょうぶだぬき』のロクエモン様さえも……」

 そう、大江山の鬼といえば……日本でも屈指の有名な妖怪である、鬼の総大将『酒吞童子』だ。
 平安時代の京都で、人をさらって食う、金銀財宝を奪うといった、悪逆非道の限りを尽くし、最後は『源頼光』……だったかな? それと、四天王と呼ばれる武者たちによって倒された。

 しかしそれも、毒入りの酒を飲ませて弱らせてから寝首をかくようにしてようやく、って感じだったとか。話の真贋はともかく、とんでもなく強大な鬼としてその名を知られている。

 どうやらそのネームバリューはこの異世界、『ヤマト皇国』でも同様だったらしい。叫ぶようにしてまくしたてるゴン君からは、名前を呼んだだけでもその存在を恐れるような感情を感じる。

 ……なお、何気に一緒に名前が出て来た『隠神刑部狸』ってのは、四国最強の神通力を持つと言われる狸の妖怪だったはずだ。八百八狸の頂点……だっけか?

 ロクエモンってのが名前かな? 『六右衛門狸』……っていう妖怪もいた、ような気がする。

 ……ロクスケさんに名前が似てるのは偶然だろうか? まあ、いいかそれは別に。

 「ふん、下等な狸風情と一緒にするな! 山の鬼共など、配下の妖怪たち共々、とうの昔に我らのしもべよ。加えてあの山の城と地形、自然の要塞と言ってもいい立地条件は、我らハイエルフにこそふさわしい」

 相変わらず変というか、ピントのずれた種族ヨイショを絡めてくるが、その辺は気にしないことにして……僕が聞く前に、師匠が、

「その鬼の総大将はどうした? お前らでも勝てるくらいに実は弱かったとかか?」

「そんなわけないだろ! 酒吞童子と言えば、『ヤマト皇国』最強と言われる8大妖怪『八妖星』の一角だ! かつて同じ大妖怪である『大天狗』と戦った際は、山が1つ燃え上がり崩れ落ち、この世の終わりかと思えるほどの戦いが繰り広げられたって伝わってるんだぞ! ロクエモン様だって、今は鬼も大人しくしているから、決していたずらに大江山に近づいて、刺激するなって言ってた!」

 ……山一つ燃やして崩すくらいなら僕もできる……というか、知り合いに他にも何人かできそうな人はいるけど……まあいいとして。

「ふん! いかに力が強かれど、所詮は考えることを知らぬ蛮族どもよ……我らハイエルフには、智略といいう偉大なる武器がある! たしかに奴ら、力だけならば我らでも危険なほどに強かった……しかし、卑しくも我らが用意した罠、毒入りの酒を飲んで力を奪われた奴らは、裁きを受ける直前に恨み言をこぼすことしかできぬ無様さだったわ!」

 ……偶然か知らないけど、源頼光と同じことやってるよ。
 こちらは微塵も尊敬とかそういう念は起こらないけど……こいつらはこいつらでクズだしな、根っこが。

 死ぬ直前に恨み言ね……かの有名な『情けなし、鬼神に横道なきものを』って奴だろうか?
 ……うん、相手がこいつらなら全力で同意したくなる。酒吞童子が悪だったかは知らんけど。

 つまりアレか。『とうの昔に』っていうのがいつのことかはわからんけど、こいつらその酒吞童子を闇討ちして、鬼の本拠地である『大江山』を乗っ取ってたのか。
 なまじ各方面からノータッチを貫かれていたがために、誰もそれに気づかなかったと……

 それ以外にも、何気に情報量多かったな。尋問したわけでもないのに、色々とわかった。ゴン君、ファインプレーである。

(『八妖星』に『大天狗』ってのも気になるけど……ま、後回しでいいか。今はこっちだ)

 その後はしかし、流石にこいつらもこれ以上の情報を放してはくれなかったので、予定通りに。

「……『オーエ山』の城は2重の堀と石垣に覆われ、備蓄の食料や武器も多く籠城戦に適した設備が整っている。奴隷として抱えている妖怪は主に鬼どもが従えていた者達で、数と種類は……」

「ふむふむ……なるほど。じゃあ、他にも聞きたいことがあるから……そうだな、覚えている範囲で構わないからこの紙に……」

「な、なあ……なんでさっきからあいつ、急にペラペラ喋り始めたんだ?」
 
 ザリーがメモを取りつつ、ハイエルフの1人から根こそぎ情報を聞き出しているのを見ながら、不思議そうに、ちょっと怖そうに尋ねてくるゴン君。

 それはね、僕特性のお薬を使ったからだよ。

 ハイエルフの後ろに立っているネリドラ。その手には、中身が空になった注射器がある。
 数分前までその注射器は、血のように真っ赤な薬品……僕が作った最強の自白剤『閻魔喚問えんまかんもん』で満たされていた。それがどこに行ったかは、言うまでもない。

 薬効のみならず、薬液に溶かし込まれた精神操作系の術式の効能により……およそ自我と呼べるものは消失し、こちらの聞くことに答えるだけの生ける屍と化したハイエルフには、せいぜい情報を残らず吐いてもらおう。ザリーと、立ち会ってるクロエとナナに任せとけば、聞き出す情報に不足を心配する必要はあるまい。情報屋と元軍人だし。

 その後は……必要ならロクスケさんとかにあげよう。僕はいらん。
 人さらいの罪人として、プロパガンダか何かのために処刑するなら、そうすればいい。

 ……どの道、『閻魔喚問』は副作用の毒性が強すぎて、投与したが最後、長くは生きられんし。

 あーでも、念のため1人だけ、もしもの時の情報ベース代わりに連れて行こうかな?
 でも、生かして連れてくとうるさいから……ミシェル兄さんに頼んでアンデッド化させて……こっちは逆に薬品で精神を一時的に保護すれば……

「ま、どの道情報が出揃ったら敵の本拠地に攻め込むわけだし、考えるのは後でいいかな」

「攻め込むのかよ……だまし討ちとはいえ、大江山の鬼たちを打ち破って従えた奴らだぞ? 甘く見ない方がいいんじゃ……本拠地ってことは、数も多いだろうし……たった数十人で、数百人からなる、ロクスケやその主人の軍勢が蹂躙されたんだ。いくらあんたが強くても、危なくないか?」

「大丈夫だと思うよ? こいつらの同族、2万人くらいなら前に相手したことあるし……ああでも、あの時はいろんなのが混じった混成軍だったけども」

「2ま……は? え? ……冗談?」

 ガチ。
 2万人全部『ハイエルフ』だったわけじゃないけど、『吸血鬼』とか『巨人族』とか、基礎スペックでは近いのが揃ってたと思う。

 本拠地に何人いるかにもよるけど、まあ何とかなるだろ。というか、何とかするし。
 自重さえしなければ、どうにでもできる自信はある。

「1000や2000くらいなら問題にはならないし、もし数が多すぎるようなら、『ピスケス』のパニックモードで食い散らかすとか、『マウス』で増殖&自爆祭とか、いくらでもやりようはある。最悪、新開発した『ブラックホール爆弾』で……いや、それだとつかまってる被害者とかがいた場合に巻き込んじゃうな……」

「なんか恐ろしいことやよくわかんないことをぶつぶつ呟いてるんだが……」

「精神衛生上気にしない方がいいわ」

「……止めないのか? 戦力的に……は何だか大丈夫そうな気がしてきたけど……あんたら一応。他国の使者なんだろ? 今回のコレはええと、あんたらの言う……正当防衛だっけ? それで仕方ないとしても……あんまり断りもなく国で暴れると、都の連中ににらまれないか?」

「それなら心配無用。きちんと理由は用意してあるから」

 建前だけどね。僕らが武力を行使する理由は、実はすでに用意してある。

 個人的には、エルクが……僕の仲間が人さらいのターゲットにされた、っていう事実だけで十分だと思ったけど、念のためにもう1つ。

「理由……それって、戦いの最中に、あんたらの仲間の女が1人、奴らに攫われてたアレか?」

 そう、実は、ロクスケさん達を助けた戦いの場で……終始僕らがハイエルフ共を狩る感じで進んでいたわけだけども、最後の最後に1回だけ、連中を取り逃がした一幕があった。

 その時、ハイエルフは僕らと共に戦っていた、1人の少女を人質に取り、こちらを口汚くののしりながら、彼女を盾にして時間を稼ぎ、そのまま転移魔法で退却していった。わずかな仲間と共に。
 その際、その『少女』は、奴らのねぐらに共に連れ去られてしまっている。ハイエルフ共は逃げおおせると共に、こちらに対してけん制に使える人質を1人、確保したわけだ。

 ……その人質が、リュドネラが遠隔操作しているCPUM『バルゴ』だとも知らないで。

 『十二星座シリーズ』の1つ、『おとめ座』の人工モンスター。人間の少女のような姿に擬態することができ、自立行動も可能だが、精神体であるリュドネラがそれに『憑依』したり、あるいは離れたところから遠隔操作でその体を動かしたりすることもできる、汎用性の高いCPUMだ。

 ここに来る途中の竹林の中では、武装を換装してついてきてもらってたりもしたし、『リアロストピア』の一件その他では、その時その時の状況に合わせて重武装にしたり軽装にしたりして、あらゆる状況に対応可能である。

 何より遠隔操作なので、追い詰められ危なくなっても、リュドネラの『精神の本体』はネリドラと共にあるため全く影響はないし、『バルゴ』は倒されても僕の所に戻ってくるようになっている。

 そんな『リュドネラinバルゴ』は、今回、『仲間が攫われているので助けに行きます。止めるな』という大義名分のために、わざと連中の本距離に連れて帰ってもらったわけだ。

 現在は縛られて牢の中に閉じ込められているようだ。乱暴とかはされていない……する余裕がなかっただけかな? まあ、いずれにしろぶっ潰すが。

 『バルゴ』が発信機代わりになってるし、『転移』の術式を観測・逆探知してある。
 既に、殴り込みの準備は整っているのだ。あとは、情報が集まるのを待つばかりである。

 一応、捕らわれて酷使されていると思しき妖怪や人間たちは保護する方針で行こう。

 僕の推理が正しければだが、恐らく、エルクやカグヤさんと同様に攫われた、ないし攫われそうになった人達の共通点も、目星がついたからね……今迄に捕まった人達全員が無事ではないかもしれないけど……

(……考えてても気分が悪くなるだけだな。とりあえず、カグヤさんには『応急処置』をネリドラに頼んでおいたし、僕はこっちに専念。害虫は一匹残らず駆除、救える者は救う、的な感じで)

 目標としては、夜明け前に全て終わらせる方針でいこう。

 ……あと5時間ちょっとか。余裕余裕。



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