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第15章 極圏の金字塔
第261話 寒冷地対策
しおりを挟むフロギュリア連邦。
アルマンド大陸北東部に位置する国であり、ネスティア王国やジャスニア王国なんかと同じ、『6大国』に数えられる1つ。
連邦、とは言っているものの、元々あったいくつかの国がまとまってできた際、そこから流用した統治機構を採用しているため……国家元首は『国王』である。
ただし、大概のことはきちんと議会みたいなのを開いて決めるらしいけど。
そして、うちのザリーとオリビアちゃん、そしてネリドラの故郷だ。
2人にとっては里帰りになるな……とか考えてた僕に、その2人がそろって声をかけて来たのが、昨日の夜のこと。
何でも、準備とか、言った後の旅程その他に関して色々と話があるとのこと。
どうやらオリビアちゃんに、フロギュリアの方からあらかじめ話があったみたいなのだ。『もし『邪香猫』がフロギュリアを訪れるようなことがあれば、王家への謁見その他について可能かどうか打診してほしい』……ってな感じのことを。
申し訳なさそうにして、そう教えてくれた。メッセンジャーは大変だね。
要は、以前僕がネスティアの王城に呼び出されて、謁見とか色々やった時みたいなのを、フロギュリアでもやりたい……ということらしい。
ただ、もし嫌なら別に断ってくれてもいい、とも伝えてきた。これは、便宜上そう言っていて実質はそんなことできるわけありません強制です、というものではなく……ホントに嫌ならいいそうだ。ただ冒険とか探索のためだけに来て、王都によりもせずに帰ってもいいと。
オリビアちゃんにきちんと聞いたので、間違いない。このへん、オリビアちゃんは必要であればきちんと、婉曲表現抜きできっちりはっきりばっさり言ってくれるので助かる。
ホントのホントに強制ではなく、自由意志だそうだ。
ただ、加えて言うなら、もしお望みなら向こうから出向く、とも言われてるらしい。国王様、あるいは王族の人が、僕らに会うために。それでよければそっちでぜひ、とのこと。
どうも……ネスティアの時代劇さんと同じくらいにフランクらしいんだよね、フロギュリアの王様ってのも。
ま、これについては……何か厄介そうなことにならなければ、別に受けてあげてもいいかなと思っている。最近、オリビアちゃんにはマジでお世話になってるので、恩返しは必要だ。
最近じゃ、ナナやクロエ、ネリドラと同じように、国に対する対応の仕方その他について、アドバイザーみたいな役割お願いしてるし。
うん、王様に会ってちょっと話すくらいなら、してもいいだろう。
……王様に会う『くらい』なんて言い方ができる時点で、何か僕の中の価値観とか考え方も、だいぶ母さんよりになってきてる気がするな……。
その辺の調整は、また今度詳しくやるとして……さて、今日は、そのフロギュリア行き関係ではあるんだけど……また別な用事で、2人に協力してもらっている。
話ちょっと戻るけど、昨日の夜、オリビアちゃんとザリーからもたらされた話は、王様への謁見云々の話だけじゃなかったのだ。
もっと基本的なところで、提案というか、注意事項があった。
それは、ずばり……『寒冷地対策』だ。
☆☆☆
「それでは皆様! 僭越ながら私オリビアより、此度のフロギュリア遠征について、注意点等を簡潔に説明させていただきたく思います。皆様、お手元の資料の1ページ目をご覧くださいませ」
と、『ホーム』に用意したミーティングルームで、オリビアちゃんが声を張る。
事前にこんな、イラストまで入った資料まできっちり用意して……気合い入ってるな。
なんか心持、いきいきしてるも見えるし……結構こういうの好き?
まあそれはおいといて、とりあえず言われた通りに資料に目を落とす。
「さて、今回皆様に来ていただきます我が祖国『フロギュリア連邦』ですが、堅苦しい部分の説明は皆さまも肩が凝ると思いますので簡潔に、ぶっちゃけていきます。国王陛下……というか、今代は『女王陛下』なんですが、その方を頂点にまとまっている国家です。いろいろと細かい差はありますが、ネスティアと大きくは違いませんね。王族がいて、貴族がいて、軍隊があって……もちろんギルドもあります。あと、『アントワネット』の支店もあります」
聞いてもそれほど退屈しないように、内容を選んだ感じの説明が続く。
話すの上手だな、オリビアちゃん。説明調なのに、聞いてても眠くならない。
それでいて、ホントに必要なことはきちんと説明の中に盛り込んでる。
「女王陛下他各位との謁見その他の申し込みについては、後で申し込みが届くと思います。多分、陛下以外にも……有力な貴族からはこぞって面談の申し込みが来ると思います。お任せいただければ、相手にする必要なさそうなのや権力・財力目当てのろくでなしは弾いておきますが?」
「あ、超助かる。じゃ、それでお願いできる? あと、そういう貴族について後で、簡単にでいいから聞かせてもらえると嬉しいんだけど……」
「かしこまりました。そういう連中のリストについては、貴族以外も含めてすでに用意してありますので、後でお届けします」
……ホントすごいな、この娘。周到。
「さて、そのあたりはまた今度細かくお話しするとして……まず、皆様には、フロギュリアに来ていただくにあたり……本国の『気候』について知っておいていただかなければいけない、と考えております。それについて……」
と、ここで今日の本題の1つ。
『寒冷地』であるフロギュリアについての説明と、それへの対策について説明が始まった。
さて……思えば僕は、この世界に来てからというもの……『四季』というものに触れる機会がなかったように思える。
『チャウラ』の一件で海に行ったりとか、そのへんがせいぜいだ。
しかしながら、この世界……今更ではあるものの、『四季』というものがないわけじゃない。
きちんと、春夏秋冬揃ってるのだ。
ただ……場所が悪かったというか、よかったというか。
ネスティアは、季節風とか地形とか、色んな自然条件の関係で、気候が1年を通してほとんど変わらない。変わりづらいのである。
夏でもちょっとあったかくなる程度。冬でもちょっと涼しくなる程度。
地球の日本みたいな、夏はがっつり蒸し熱く、冬は凍えるほど寒い、なんてことはなく……僕の感覚から言わせてもらえば、ぶっちゃけ、この世界には春と秋しかないのかと思った。
しかし、他の国となると違ってくる。
例えばジャスニアは……かなり温暖湿潤な気候である。場所によっては、亜熱帯や砂漠地帯的なものになっている地域もあるようだ。
以前、僕がジャスニアに行ったとき……あの『アトランティス』の一件の時は違ったけど……もし夏にあの国に行っていたら、おそらく……真夏の沖縄ぐらいの暑さはあっただろう。
そして、その逆に位置しているのが……今回の目的地、フロギュリアだ。
この国、大陸北部に位置していることに加え、吹き込んでくる季節風その他の条件がかなり悪い感じでマッチングしているそうで……要は、夏涼しく、冬めっちゃ寒い。
そして実は……今の季節は、冬だ。
つまり、これからフロギュリアに行くには……きちんと寒さ対策をしていかないと、日常生活にすら支障をきたす恐れがある、ということなのである。
オリビアちゃんいわく……『ネスティア生まれ、ネスティア育ちの方々では……申し訳ありませんが、想像するのが難しいくらいに絶望的に寒いです』とのことだ。
大げさ……とは思わない。
実際、日本でも似たような話はいくらでもある。沖縄生まれ沖縄育ちの人は、冬に東北とかに行って初めて生で雪を見た、なんてことはざらにあるらしいし。
それに……前に一度、ちらっと言ったことがある気がするけど、前世での僕のおばあちゃんの実家は、東北にある。年に何度か、遊びに行ったことがある。無論、冬も。
だから知ってるんだけど……あのへん、冬になるとすんげ―寒いし、雪とか凶悪な積もり方するんだよね……。温暖な地域・地方で育った人じゃ、想像できないだろうほどに。
膝上まで雪が積もるなんて当たり前。さらさらのパウダースノーだから、踏むと足がとられて歩きにくい。毎朝雪かきしないと、出勤・通学すら不可能なレベル。
風、顔とかに吹き付けると、冷たい通り越して痛いしね。
吹雪となると、視界が前方数mくらいで見えなくなっちゃったりするし……それがさらに地面の雪を巻き上げて地吹雪とかになったりすると、さらに最悪。
おまけに、日中ちょっと気温が上がって道路の雪が少し溶けて、夜に氷点下になって凍って……朝、路面凍結が出来上がるからね。超滑るよ。転ぶよ普通に。車のタイヤも滑るよ。
で、オリビアちゃんの話を聞いてみると……どうも、フロギュリアの寒さってのもそのレベルか、それ以上らしいんだよな……。
まあ、地域によって差はあるみたいだけどね。南の方は、比較的温暖らしいし。
けど、今回の目的地の一つである、首都シィルセウスやその周辺の危険区域は、もれなくその極寒地帯に入っているらしいので……がっちり寒冷対策はしていく必要あり、と。
寒いのが嫌なら、冬――寒い時期に行かなきゃいいじゃん、という意見もあるかもしれないが……困ったことに、そうもいかないのである。
何せ、今回の主目的である、そのご当地のダンジョンや危険区域、そしてそこで取れる素材やら何やら……そういったものを手に入れられるのは、冬だけなのだ。
探索するだけなら確かに、夏とかそういう季節でもできないことはないが……冬しか出ない魔物、冬にしかできない地形、冬しか取れない素材、その他色々……
よくまあできてるもんで、この時期にこそフロギュリアには一番行く価値がある、というわけなのである。
そしてそのせいで、毎年結構な数の凍死者、行方不明者が出るってんだから怖い。
外から来た、この国の寒さをよく知らない人がそうなることも多いが、冬空の下で仕事にいそしんでいた地元の人でも、雪関係の事故や天候の突然の変化、魔物の急襲なんかで命を落とすこともおおい。
大陸でも有数の過酷さなのだ、冬のフロギュリアは。その意味では、危険区域とか関係ない。
「……さて、ここまで説明させていただきましたので、皆さまお分かりのことと思いますが……これからフロギュリアに行くにあたり、絶対に必要なのが防寒具です。が……僭越ながら、この中には、今までそういったものとは無縁の生活を送っていらした方も少なくないと思われます」
特に、とつぶやくように言いながら、オリビアちゃんが目を向けるのは……僕ら『邪香猫』メンバーのうちの何人か。正確に言えば、その服装だ。
まず真っ先にシェリー、次にシェーンとミュウ、最後にエルクと僕。
他のメンバーには、ちらっと視線を送る程度だった。
「今までは……場所や環境にこだわらず、自分の好きな服装で十分に戦えていたことと思われますが……フロギュリアではそうはいきません。特に、肌の露出多めの服装の方々」
で、再びシェリーを見るオリビアちゃん。
まあ……この中で一番露出多いからね。標準装備だと。
彼女ほどじゃないけど、僕やエルク、そしてシェーンとミュウも薄着だ。加えて、シェーンとミュウは熱い地域の海育ちだって前に話したことがあったはずだから……さっき『要注意』的な視線を向けてきたのは、それもあるのかも。
「それってつまり……もしかして、厚着する、ってこと?」
「もしかしなくても、そうです」
「えー、やだなー……動きづらくなっちゃう」
ちょっと不満そうなシェリー。
どうも彼女、あの、人によっては恥ずかしくて着られないんじゃないか、ってくらいに露出多めの服装が気に入っているようだ。動きやすくて。
加えて、彼女……あまり肌をさらすことを恥ずかしいと思わないきらいがあるので、へそが出てようが大きく胸元が開いてようが気にしない。
機能性を重視……と言えば聞こえはいい、のかな?
ただ……あの開放性を武器にして時たま迫ってきたりするのは、確信犯だと思うんだけども。
その誘いに、時間帯によっては結構な確率で流されてしまうことの多い僕も、えらそうなことは言えないのであるが。
「まあ、その土地その土地の環境に合わせるのが重要だっていうのはわかるし、オリビアを信用しないわけじゃないけどさ……ホントに、厚着って戦闘に差しさわりがあるのよ? 動きづらいのもそうだし……精霊系統の魔法も使いづらくなっちゃうし」
今さらっと言ったけど、シェリーも『精霊魔法』は使える。
そもそも彼女、ダークエルフ系統の上位種『ネガエルフ』であるため、そういう魔法に関する適正はあるのだ。
ただ、あんまし得意じゃないので、今まではせいぜい通常の魔法に上乗せして威力をブーストする程度の使い方しかしていなかっただけ。
しかし、徐々に実力をつけていくうちで、そっちの才能というか能力も伸び始めている。
加えて今は、全属性の精霊魔法のスペシャリストであるアドリアナ母さんがいるので、彼女からアドバイスをもらいつつ精力的に修行に励んでいる。
もうそろそろ、ブースト以外の精霊魔法も実践レベルになりつつあるくらいだ。
そしてそれは、シェリーに限った話ではなく……ハイエルフの『先祖返り』であるエルク、マーマンの能力を持つシェーンも大体そんな感じ。
それに一歩遅れる感じで、エクシアであるギーナちゃんと、ケルビムであるミュウがついてきている。この2種族は、対応する属性であれば使えはするものの、専門家である種族やその先祖返りには一歩劣るところがあるみたいだ。
セレナ義姉さんと僕は完全に実践レベルで修めている。姉さんは年の功で、僕は血筋で。
で、他のメンバーは、種族がら『精霊魔法』が使えない。
ただ……ひとくちに精霊魔法と言っても、これがちょいと曲者で……使う『感覚』とでも言うべきものが、人によって違うみたいなんだよね。
と、それについて疑問を持った子が、ちょうどおあつらえ向きにいたようだ。
「厚着をすると、精霊魔法が阻害……ですか? 私は特段、そういったことはないのですが……」
と、ギーナちゃん。
彼女、普通に軍服――手の指と、首から上くらいしか肌の露出がない――に鎧までつけて修行してるしね。その状態で、問題なく精霊魔法の訓練こなしてるし。
しかし、これはギーナちゃんとシェリー、どちらかがおかしいわけではない。
どちらも正しいのだ。さっき言った通りの、『感覚』……感じ方が理由となっている。
簡単に言えば……シェリーは魔力を『肌で直接感じる』タイプであり、また、厚着の動きづらさが原因で思うように体が動かなかったりすると、それ関係のコンディションが下がってしまう。感覚で動き、物事を判断する天才肌に多い。
対して、ギーナちゃんは魔力を『理論・理屈として理解していれば服装はほぼ関係なく感じ取れる』感じであり、装備品なんかに左右されることは少ない。理屈派、とでも言えばいいか。
ちなみに、シェーンと義姉さんは前者で、ミュウは後者。義姉さんは長期の鍛錬で、天才肌の弱点的な部分とか、克服してるけども。
そしてエルクや僕は……言うなれば、両方の長所のハイブリッド型だ。えっへん。
と、いうようなことを簡単に説明し、『はぁ…』とギーナちゃんが納得したところで、シェーンがこっちを向いて、
「ねえ、これって結構、切実な問題だと思うんだけど……ミナト君、何とかならないかな? 例えばほら……防寒効果のあるマジックアイテムとかさ」
「マジックアイテムで防寒する気かあんたは……」
「いいじゃないのよー、100点満点の解決策をいとも簡単に提示してくれる旦那様に、こんな時くらい頼ったってさー! で、どう? そういう感じの、ない? 例えば……つけるだけであったかくなるペンダントとか、体温の低下を防いでくれる髪留めとか」
「あるよ」
「あんのかい」
エルクのツッコミ。ええ、割と研究にはまった初期段階で作ったのがあります。
アクセサリーで各種マイナス効果の対策するのは、RPGの基本中の基本なので、思いつくのも早かった。試すまではもっと早かった。
「さっすがミナト君、頼りになるぅ! ねえねえ、どんなの?」
「装着すると発熱でもするんですか?」
「アクセサリーにそんな危ない機能つけないって……火傷するでしょ」
ミュウの質問にさらっと答えておく。
そんなホッカイロみたいな、直接的な熱で対処する奴でなくて……きちんとした魔法系だよ。例えば、装着者の周囲半径1~2mの空間の気温を20度くらいに保つペンダントとか。
アクセサリーにこだわらなければ、来てるだけで保温効果抜群の服とかもある。
例えば、見た目は普通の部屋着なのに、それ一枚でもダウンコート以上にあったかかったり、防水性・断熱性もばっちりで雪道とか普通に歩ける服とかもある。
特殊素材の上に術式を組み込んで作った奴だから、性能は折り紙付きだ。
というか……すでに皆、似たようなアイテムなら持ってるんだけどね。
ほら、僕が前に、転移による誘拐とか、精神制御系の魔法によるかく乱・洗脳なんかを警戒して、そういったものに防御・阻害効果のあるマジックアイテムを、仲間全員に配布してる……って話をしたことがあると思う。そのアイテムに、防寒・耐熱効果も組み込まれているのだ。
ただし、あくまでもそれらは緊急時用。常に発動させておく前提で作ってるわけではないので、あんまりそれに頼りっぱなしで常時使って、っていうのも好ましくない。
発動にはアイテム自体に蓄積している魔力を使うか、使用者の魔力を直接吸い上げて使うので、その辺の消費の問題も出てくるし。
でも、仮にそれで対処できたとしても……
「服はともかく、アクセサリーで寒さ対策とかは、あんまりお勧めできないかなあ……」
「え、何で?」
「いや、単純な考えかもしれないけどさ……色々悪目立ちするじゃん。例えばほら、シェリーのそのかっこで、寒空の下で平気な顔で歩いてたりしたら……」
「何か特別な装備で対策してる……って、一発でばれるわね」
「それか、頭のかわいそうな人だ、って思われるかのどっちかよね」
「ちょっ……リュドネラちゃん、酷い、いくら何でも。クロエちゃんはまだしも」
「でも、事実」
ばっさりとネリドラ。うん、僕もそう思う。
確実に、そういう系のマジックアイテムを使ってるってばれる。そして目立つ。
そして……目をつけられて、狙われる。奪い取ろうとする奴らに。
それでシェリーがどうにかなることはまずないけど……トラブルを呼ぶとわかっててわざわざそれをやるってのも違うだろうし。
けど、シェリーの言うことにも一理ある。防寒着って、すべからく厚手だから……どうしても動きづらくなるんだよな。着脱衣も大変だし。
それによる運動性能への悪影響は、決して無視していいものではない、と言っていいだろう。
だとすれば、いくらそれが一番メジャーかつ無難な解決法だとしても、実行するのをためらう理由になる。改善点があり、それに正当性があるわけだし。
と、なれば……
「ま……作るのが一番手っ取り早くて確実、か」
動きを阻害せず、傍目から見ても防寒具として不自然ではなく、機能性その他のダウン要素を排除した性能のものを、ね。
もちろん、僕が。あと、ネリドラ達と……アドリアナ母さんにも手伝ってもらおう。
「オリビアちゃん。フロギュリアでメジャーな防寒具とか、ひとそろえもらえないかな? 悪目立ちしないのが前提だから、デザインは現地に合わせたい」
「そうおっしゃるだろうと思って、すでに手配済みですわ。来週頭には届きますので、しばしお待ちいただければと」
「了解。さすが。じゃ、届き次第デザインについて……各自相談、ってことで」
「それがいいわね。機能性の方は、まあ……あんたに全面的に任せるわ」
「OK。腕が鳴るってもんだ。ネリドラ、リュドネラ、大仕事だよ。とりあえず……材料の選定・発注くらいは今からでもできるね。今夜から始めよう」
「了解、所長」
「りょーかい、プロフェッサー」
これで、一番大事な『防寒具』についての方針は決まった。
そしてそれに加えて、オリビアちゃんは『寒冷地での冒険・サバイバルに必要なもの』というくくりでも一式手配してくれていたので、後日、それを手本に『D2ラボ』仕様のスペシャルバージョンを作り、それを引っ提げて出かける予定でいる。
野営用のテントや寝袋、携帯食料、その他いろいろ……やることは、多いな。
それでも、大体の方針は決まったわけだし、これからこつこつ準備していこう。
そう思って、会議を解散しようとした僕の目に……ふと、少し気になるものが飛び込んできた。
どうやら……ある程度は納得したものの、ガワだけとはいえ、不自然に見えない程度には厚着をする必要がある、という結論にまとまってしまった点が……わずかながら不満なようだ。
精霊魔法の発動に関しても、もちろんアシスト系の機能はつけるつもりだけど……まあ、こればっかりは個人の感覚とか価値観絡んでくるからなあ、飲み込んでもらうしか……
とか僕が思っていると……そのシェリーのところに、すたすたと歩み寄るネリドラ。
そして、何事か耳元で囁く。
するとその直後、なぜか急にシェリーが笑顔になって、元気になって……これまたなぜか、満面+会心の笑みでネリドラにサムズアップをしていた。
それにこたえるように、ネリドラもシェリーにサムズアップ。
……おーい、そこ。今、何を話して何が通じ合った?
ネリドラを呼んで、とりあえず聞く。
すると、
「……何でもない。ただ、シェリーを説得して納得させただけ」
「何て言って?」
「戦闘の際とか、ワンタッチで厚着から今と同じような感じに変形できるようにするって」
あー、なる。それならまあ、妥協点としてはありかもね。
変形後は……その時くらいはマジックアイテムで防寒すればいい話だし。
戦闘中にいきなり薄着になったりしたら、びっくりされるかもしれないけど。
「それと」
「うん?」
まだ何かあるの?
「……夜用に、ワンタッチで一気に全裸になる機能とかも追加を」
「それはいらないよね」
「…………え?」
不思議そうな顔をするな。こら。
てか、それでシェリーはあの満足そうな顔をしてたのか。
そしてネリドラ。何で君、今着ているナース服もどきの飾り紐の一つをしきりに気にしてるのかな?
……ひょっとして、その服……
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