魔拳のデイドリーマー

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第14章 混沌庭園のプロフェッサー

第256話 れっつ☆商談

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今回、いわゆる『説明回』になると思います……読み味としては、ややくどいかもしれません。

********************************************

さて、ドレーク兄さんと国王様達の話を聞いた後……今度は予定通り、ノエル姉さんとジェリーラ姉さんとの用事を済ませることに。

東西の大商人であるこの2人への用事は何なのかというと……簡単に言えば、商談である。

この『キャッツコロニー』およびその周囲では、他では取れないものがたくさん収穫できる……ってのは、前に話したと思う。
ぶっちゃけ、僕が生態系そのものに手を入れたおかげで、色々と別物なのだ。

それとは別に……僕が作ったものや、術式なんかを、たまに姉さん達経由で流通させてる……ってのは、前に話したと思う。
主に、高性能のポーションとか、簡単なマジックアイテムとか。

気まぐれや、たまに腕が鈍らないようにってことで練習用に作ったのを流したりもするし、正式な依頼として受領して作ったものを納品→流通、っていう形になることもある。

あとは……特殊薬の販売権とか、レシピとかを、特許みたいな感じで方々に公開しつつ、その使用料みたいなのをもらってたりもする。これも前に話したな。

その辺が、僕の冒険者としての副業?みたいな感じで……結構な収入になってるんだよね。

で、今回……色々と新しく作れる&収穫できるものが増えたので、その一部について、姉さん達に流通の相談を行うことにしたのでした。

「と、いうわけでよろしく、ノエル姉さん、ジェリーラ姉さん」

「何が、というわけで……なのかはともかくとして、期待させてもらうわよ、ミナト」

「せやな……まあ、こないだのあのパーティで見た食材や、この『拠点都市』の街並みだけでも、えらい色々と作れるようになったらしい、っちゅーのはわかるしな」

はい、では、アルマンド大陸の東西で事業を展開している大商人さん2人をコメンテーター? ご意見番? にお迎えして、わたくしミナト・キャドリーユがCEOを務めます最先端魔法技術研究機関『D2ラボ』によって生み出されました品物の数々をご覧いただきましょう! 皆さまどうぞごゆるりとお楽しみくださいませー♪

「ごゆるりと……は、無理ね」

「せやな、精神的に疲れるさかいな」

無視して始めまーす。

☆☆☆

まず1品目。超高品質ポーション。
これは、今現在ノエル姉さんのとこに卸してる高品質ポーションのパワーアップ版だ。

一般的なポーションは、飲んだり傷にかけることで効果を発揮し、傷を癒す。いくつかのグレードがあり、当然高いグレードのものほど効能も値段も高い。
また、ものによっては、疲労回復などの追加作用がある場合もある。

僕の高品質ポーションは、一般の薬屋で取り扱う一番効果が高いものと比べても同等以上の性能を持っていることに加え、コストを抑えてあるので値段が安い。

そして今回紹介する『超』高品質ポーションは……既存の流通品とは完全に別格と言っていいレベルの性能を誇る。一口飲むだけで軽傷なら即座に治り、それなりに深い傷もふさがり始める。疲れはとれるし、魔力まで回復する。

欠点としては、当然ながらコストは高く、その分値段も高くなる。

そして、高級だが一応量産も可能だった前作と違い……かなり貴重な材料も使っているので、こちらはそう大量には作れない……ということになっている。
え、実際は違うのかって? まあ、一応ね。

『御神木』の周辺の樹海の奥地に群生してる薬草が原料なんだけど、結構な数生えてるし、ネールちゃんの力のおかげで再生も早いので、一度にかなりの数を収穫できる。
しかも、年に何度も。品質を損なうこともなく。

しかし、その薬草は本来、他の地域では人が到底立ち入れないような秘境にしか生えていない、という感じの貴重な品であり――あ、いや、あのへんも外から見れば十分秘境か――ともかく、むやみやたらと流通させていいものではない。

そのため、売るとすれば、『用意できる数が限られる限定品』として、限られた上客にのみ、注文に応じて少しだけ流す特別な販売品……ってことになると思う。あとは、たまに『こんなのが入ったよ』って数量限定で店頭に並べるくらいか。

言ってみれば、地球のRPGで……終盤の町とかの店で入手できる高級な傷薬みたいなもんだ。

「値段つけるとすれば……こんくらいやろか」

「そうね……でも、この効能ならこの値段でも確実に売れるわ。最近は色々と物騒だし」

「冒険者だけでなく、行政府や貴族なんかにも需要が見込まれる、か……慎重にせなあかんな」

「あーまあ、色々うるさそうだもんね、高ビーな貴族あたりが」

「量産させて買い占めようとか……たまにあるのよね、高品質な薬が売り出されたりすると」

「転売しよ思て、こっちに圧力かけて来たりな。売らんとただじゃおかんぞとか、自分たち以外に売らないで独占させろ、とか、アホな連中が」

「そういう時どうすんの? 叩っ返すの? 鉄拳制裁?」

「あんたやあるまいし、そんな直接的な報復でけへんっちゅーねん。けど……」

「あんまりしつこいようなら、裏で色々とさせてもらうけどねぇ……蛇の道は蛇、ってことで……大っきな商会や財閥には、多少なりそういう仕事を担当してもらう部署があるから」

「おーぅ、怖っ……」

☆☆☆

さて、次は……超々高品質ポーション。

「「ちょっと待て」」

「え、何いきなり? ……あ、やっぱ名前これじゃひねりないか。うん、やっぱ変え……」

「ちゃうわボケ」

「さっきのでも結構扱いに困るレベルの性能だったのに……え、まだ上あるの?」

「『異常品質ポーs』……あれ、そういう意味だったの?」

「どんな名前に変わっとんねん……そないごっつい回復力なんかそれ?」

「うん、まあ……さっきのより上だね。材料とか違うから、別に紹介した」

何せコレ、結構な大傷とか、火傷とかでも治癒するからね。即座にとは言わないまでも、飲んで数分もじっと休んでれば……致命傷に近い傷でも結構治る。
例えば、剣で腹部を貫通させられた感じの刺し傷でも治る。

加えて鎮痛作用や、疲労回復、魔力回復、精神力・集中力回復作用もある。

時間が経ってふさがり切っちゃった傷にもある程度効果あり。火傷の跡とか、残っちゃった傷跡とかにかけても、完全にとは言わないまでも、ある程度元の状態に戻せる。

「またとんでもないものを……コレはさっきの以上に下手に売れないわね」

「せやな……非常時にいくつか流すレベルや。オーダーメードで」

「まあ、もともとの材料が、こっちはさらに貴重だからね……量産も難しいから、それが一番だと思うよ、僕も。超非常時用にドレーク兄さんとかに何本か流すくらいがせいぜいかな」

ゲームで例えれば、ダンジョンとかに落ちてるものを拾うことでしか手に入らない類の薬だ。

☆☆☆

「さて次は、超超超高品質ポーショ……」

「またかっ!!」

「ええかげんにせえ!!」

「効能は、飲むか振りかければ部位欠損だろうと徐々に復元され……」

「「危なくて売れるかそんなもん!!」」

ちなみに、別名は『エリクサー・レプリカ』です。僕命名。

『エリクサー』っていう名前の伝説の魔法薬は、遺跡からの出土品でたまに見つかったりするので。それには及ばない効能だけど、かなり近いレベルのものを作れたのでそう名付けた。

☆☆☆

んじゃ4つ目……普通の剣。

「……ホントに、普通の剣、ね……?」

「せやな……特に魔力も感じひんし、普通の金属の剣……か?」

ことり、と机の上に置かれた剣を、手に取ってそれぞれ見てみている2人。

ルーペを使ったり、どこからか取り出した金属の棒みたいなのでキンキン、と叩いてみたりして、品質なんかを調べているようだ。

なんか、時代劇のニセ小判の判定で似たようなことやってたな……とか思いつつ、待つ。

しばらく後、気のすむまで調べてみた後、2人は再び剣をことりと机に置いて、

「よく調べてみたけど、本当に何の変哲もない普通の剣ね」

「せやな。まあ、品質はなかなかよさそうやけどな。そこらの無名の鍛冶師が打つ安物よりは上質……せやけど、一流の職人の作品にはおよばず、っちゅうとこか」

よくある数打ちの剣。粗悪ではないが、そこまで良質というわけでもない。
王国軍の一般兵の装備とかになら、普通に採用されるであろうレベル……といったところ。

それが、姉さん達の見解だった。

「そっかー、それなら大丈夫だね。むしろ、ちょうどいいかも」

「ちょうどいいって……ミナト、結局その剣、何なの?」

「今度は鍛冶関係の品物でも作って売ろうっちゅーんか? そういうの、結構職人の縄張りとかあるさかい厳しいで? 品質も、ありきたりなもんじゃ競争に割り込むのは……」

「ああ、そうじゃない、大丈夫。ただ、普通に売る分に問題なければいいだけだし」

「……何か特殊な能力がある、ってわけでもないのよね、その剣? だったら……せいぜい、武器屋に持ち込んで売るか、非常時に武器を大量に欲しがってる客に売るくらい?」

「まあ、そんな感じの使い方メインで考えてる」

「ちゅーことは……それ、量産が利くもんなんか? 薄利多売、数で稼ぐ、と」

「うん。何せこの剣、1本作るのに1分かかんないからね」

「「…………え?」」

さて、実は今回僕が話の核にあげたいのは……この剣そのものではない。
この剣もまあ、売るものとしては品質を確認しておきたかったわけだけど……本命は、この剣を作るにあたって活躍した、僕オリジナルの新マジックアイテムだ。

その名も……『M3DP』
正式名で言うと……『魔法式三次元物体投影形成装置』。

つまりは……魔法式のギミックや術式によってものを作り出す3Dプリンターだ。
3Dプリンターが何なのかがわからない人は……多分いないと思うので、説明は省く。もし知らなかったら調べてみてね。

その使い方は簡単。試しに、さっき姉さん達に見せた剣を作るプロセスでも紹介しよう。

えーまず、原料となる鉄を、特殊な方法で粉末状にします。
なお、この時点で『虚数魔法』使います。なので、僕以外にできません。
同じように、他の材料も粉にします。柄の部分の布とか、鞘に使う木材とかも。

次に、その粉を装置にセットします。材質ごとにカートリッジに入れてセットします。

そして、装置の下の方に、水槽があるんだけど……そこを、特殊な薬液で満たします。
この薬液は、見た目は水っぽいし、手を突っ込むと冷たい感触もするし、その状態で動かせば水をかくような感触もあるんだけど、手を入れても布を入れても濡れない、しみこまない……っていう不思議な薬品です。あと、コレ作るのにも『虚数』使います。

そして、どんなものを作りたいか設定をします。
今回は剣なわけだけど……その剣の形とか、大きさとか、密度とかをあらかじめ『M3DP』に入力しておくわけです。どこにどの材料を使うかも、もちろん設定します。

装置を作動させ、薬液の中に座標指定して、材料の粉を超高速で吹き付けていきます。
それによって、薬液の中で、さっき設定した形状が形作られていきます。

魔法発動してるので魔力光のエフェクトが出てて、なんかビームっぽいです。
紫色のビームが走った軌道の後に物質が出現してるみたいに見えます。SFっぽいです。なんか映画でこんな感じのワープ技術をみたことがあるようなないような。

まず、鉄の粉によって、大本の剣の部分……刃の部分ができました。
次に、柄の部分ができました。鍔もできました。
別な材質の粉を吹き付けて、柄の手に持つ布部分ができました。
それに合わせて作られた鞘もできました。ぴったり収まる大きさと形のが隣にできてます。

そして微調整。レーザー系の魔法で刃の部分を簡単に研磨して切れるようにします。
数打ちのレベルなので研ぐだけならこれで十分です。

仕上げに、薬液の中から完成品となった剣と鞘を取り出します。濡れていません。
そして、剣を鞘に納めて……はい、完成。

ここまで……粉をセットとかの前準備を含まず、形成だけなら……およそ30秒前後だ。その後の微調整と、薬液から取り出して鞘に納めるまでで、もうちょっと、ってとこ。

「か、数打ちとはいえ、十分に実用に足るレベルの剣を……1分かからずって……」

「しかもそれやったら、事前に材料さえ用意しとけば、あとは組み立て?だけやし……素人でもできるっちゅうことやな? 剣やったら、剣を鞘に納めて、運んでまとめて置いとくだけ……」

「うん。実際、コレ作った時はメイドロボにやらせた。魔法発動だけ僕がやって、あとはオートでどんどんできてった端から剣を回収させて……って感じ。こないだためしに、1機を1時間フル稼働させて作ってみたんだけど、全く同じ品質の剣が1時間で80本くらい作れたよ」

「……な、何ちゅうもんを……」

「ちなみにミナト……そのマジックアイテム、1機しかないの?」

「いや、『ファクトリー』に10機ある。それと、僕が徹底的にチューンしたそれより性能のいいやつが『ラボ』に3機ある」
「全部で13個……その気になったら80×13で……」

「いや、『ラボ』の奴は『ファクトリー』の奴の5倍くらい早く動くからもっと作れるよ」

「じゃあ、ええと……だめだわ、頭痛くなってきた。何その生産能力……」

ちなみに正解は、えーと……80×10+80×5×3=2000。
わお、1時間で剣が2000本作れるよ。やったね!

「やったね!やあらへんやろボケ……ちなみに、その何とかってマジックアイテム、他には何を作れるん? 剣だけやあらへんねやろ?」

「あ、うん、そりゃもちろん」

ええと……例えば消耗品だと、ポーション入れるガラス瓶とか、酒瓶とか、金属容器とか……矢とか、チョークとか。あ、紙も作れるな。

あと、釘とか、ねじとか、色々細かい金具とかも作れるな。

数打ち品程度の性能でよければ、剣以外の武器も作れる。槍とか、斧とか、弓とか、盾とか、鎧もOK。ただしものによっては、細かい組み立てや調整が必要なものもある。

時間かかるけど、細かいデザインのもの……ガラス細工とか、トロフィーとかも作れるし……やらないけど、やろうと思えば、偽造貨幣とかも作れる。

「「………………」」

あれ、2人とも静かになっちゃった。

☆☆☆

それからしばらく、他のアイテムの紹介を続けた。
主に、市場に流してもギリギリ問題なさそうなのを中心に。

アイテムその5、タバコ。この近くで取れる薬草を使って作ったオリジナル銘柄。
成分的な依存性なし、健康への悪影響なし、嗜好品として多分めっちゃ優秀。どころか、従来のタバコによって肺や気管支系が負ったダメージを徐々にではあるが癒やす効能あり。
イオ兄さんのとこの愛煙家さんたちに試してもらったところ、すこぶる好評。

ちなみに、この世界におけるタバコは、紙に包んで燃やして吸うやつと、キセルタイプのやつと両方あります。でも、どっちでも使えます。

その6、特殊石炭。
色々配合して作った……分類的には、魔法薬と鉱物の中間、みたいな感じの物質。
燃やすと、通常の石炭よりも長い時間、大量の熱を安定して放出し続ける。

作る段階で調整すれば、部屋の暖炉に入れてあったまる程度の火力で使うことも、鍛冶場の溶鉱炉とかの熱源になるレベルの火力にすることもできる。

その7、毒喰玉どっくだま
薬草各種と特殊な鉱物を混ぜて作った、小さめのビー玉くらいの大きさの玉。
毒があって食べられない食材や薬草と一緒に煮込むと、食材の中の毒を吸い取ってくれるので、毒がなくなるか弱まった状態になる。残った玉は焼却処分すること。

素材によってはそれで食べたり、魔法薬の原料として使えるようになる。
ただし、どの程度毒性を弱められるかは事前に調査しておく必要あり。

その8、コーティング用ワックス。
魔法薬の一種。色んなものの表面に塗ることで、様々な効能を発揮させることができる。

具体的には、さび止めや表面の保護、静電気除去や艶消し(金属光沢とかを出ないようにする)なんかの、普通に地球とかでも使われてるものから……衝撃吸収、魔法効果軽減、消臭・殺菌、遮音、表面保護(ただし強度が金属板レベル)なんてものまで多種多様。
当然だが、それぞれ材料も作り方も違う。労力はさほど違わないけど。

そしてさらに、量産なんて絶対に無理な代わりにぶっ壊れ性能を誇るものもある。
具体的には、衝撃反射、魔法反射、瘴気浄化、範囲内の酸素濃度増大、範囲内の自然治癒力増大、幻術による表面の隠蔽、塗布する際に術式を組み込むことによる魔法付与……etc。
まあ、もちろん……限度あるけどね、どれも。

その9、虚無の黒真珠。
イオ兄さんからもらったアレを、どうにか量産に成功。

特殊な環境下で、特定の貝の魔物の体内でのみ合成されることを発見したので、それをさらに品種改良して、短期間で十分な品質を持つ『黒真珠』を作り出すことに成功。

ただ、量産……というにはまだ心もとない生産力なので、流通させるのはちと厳しいかも。
現時点では、ほとんど僕が研究で使ってたり……。

その10、人造グリモア。
遺跡とかからたまに出土する、読むだけでそこに記録されている魔法が使えるようになる魔法書物『グリモア』……を、人為的に再現することに成功したもの。

作り方はすごくややこしいので省くが、魔法を登録して作り上げることで、出土品のグリモアと同じように、才能がある人が読めばその魔法を使えるようになる。

めっちゃ大変だったけど、『アトランティス』の技術遺産と『ネクロノミコン』から読み取った情報、そしてアドリアナ母さんから聞いた部族伝統の術式の組み合わせて再現できた。

現在、1回きりの使い捨てから最大20回使用可能なものまで製作に成功している。
また、込める魔法は上級魔法まで成功している。最上級魔法とかその上はまだ無理。

……コレを紹介した時が一番怒られた。「何てものを作ってんだ!」って。
さっきの『エリクサー・レプリカ』以上に怒られた。

☆☆☆

さて、ここで気分転換もかねて……別ジャンルの紹介に行きますか。
具体的には……食料品!

「ああ、食べ物な……そっちはまだ少し安心できるわ。パーティの時に実際に食うとるし」

「むしろ期待できるわね。『スノーホワイト』とか、幻レベルの食材まで出てたもの」

「そりゃよかった……というか、そろそろ昼時なので、昼食もかねて試食会みたいなのやろうかと思って、厨房に頼んで色々用意してもらってるんだけど……食べる?」

「「もちろん」」



ということなので……それでは、フルコース形式で順次紹介していきましょうかね。

場所を食堂に移し……まずは前菜オードブル! かもん、ターニャちゃん!

「はいはーい! こちら、オードブルのカナッペでーす!」

ノリノリのメイド長こと、ターニャちゃん――このたび彼女、就任しました――によって運ばれてきたのは、大きめのお皿にのせられた、いくつもの『カナッペ』。
知ってるかな? 薄く切ったフランスパンやクラッカーなんかに、チーズとか野菜とか、色んなものをのせて食べる……っていうお手軽料理なんだけど。

土台?になってるパンも、ノエル姉さんの商会経由で買った、高級品とまでは言わないがかなり上質なやつだけど……主役はやはり、その上に乗っかってる具材だ。

「……色々乗ってるわね。魚卵に、チーズに……あら、コレ、サワークリームかしら?」

「まあ、バリエーションとしては普通、やけど……ただの店売りの食材ちゃうねんやろ?」

「そりゃもちろん。食料品の『紹介』だからね」

乗っかってる食材はどれも、この周辺でとれたものだ。
全部で三種類、チーズと、サワークリームと、キャビア。

まずチーズは、『ホワイトバッファロー』という、この近くに住んでいる牛の魔物のミルクから作ったもの。栄養満点の上、口当たりもなめらかで、美味しい。

サワークリームは、その『ホワイトバッファロー』の牛乳から作った生クリームとヨーグルト、そして大型のカニの魔物『テラキャンサー』の身で作ったものだ。これも美味。

そしてキャビアは……塩味を付けた以外は、素材のまんまである。出所はサメじゃなく、『ハンマーヘッドドラゴン』っていう龍だけども。
あ、ちなみに品種改良で生み出した奴じゃなく、天然ものである。
このへんの水生生物の生態系の頂点に君臨していた種だ……最近まで。

え、今? 僕が新しくこの辺に放ったモササウルスとか、師匠のペットの『リヴァイアサン』のロギアとかの餌になってますけど何か?
大丈夫だよ、その分自分たちが食べる餌も増えて、数は減る一方とかにはなってないから。

「例によって高級食材ばっかり……しかも、『ホワイトバッファロー』って……地域によっては守り神として崇められてる種族ね……」

「けど、ミナトの手が入ってない天然食材ってだけでちょっと安心してる自分がおる……」

「あ、うん、それ私も思ったわ」

おい、どういう意味だ。

そうツッコミたくなったが、一応料理自体は美味しく食べてくれているようだ。
味も品質も問題なし。これなら、商会での取り扱いも検討したい、とのこと。

うん、滑り出しは上々、かな。

それに……いい商談になりそうなのは、もちろん姉さん達個人にも喜んでもらえるなら、それが一番だと思うしね。うん。

「これなら、この後の食材も期待できそやな、ジェリーラ」

「そうね、ノエル姉さん。リラックスして、楽しい食事ができそう」

☆☆☆

「「そう思っていた時期がありました」」

……って、次の『スープ』に移ったとたんにこれだよ。
いたって普通の、むしろすっごく美味しいコーンポタージュなのに……原材料以外は。

「その原材料が問題なんやろが……」

「ま、まあ、栄養価も高くて、味もいいんだけどね……うん……」

え? 材料が何かって?
そりゃ、コーンポタージュなんだから……コーンでしょ。

……まあ、たしかに、ただのとうもろこしじゃないけどさ。『カタストロフコーン』は。

別名、『爆撃もろこし』。普通のとうもろこしみたいに、背の高い茎のあちこちに、突き出すような形でコーンが実る。見た目は、普通のコーンとほぼ変わらない。

ただ、このコーンは……実が完全に熟しきると、実の部分が根元からミサイルみたいに『発射』され、さらに空中で爆散、硬い実の1粒1粒を広範囲に散弾のごとくまき散らす……っていう凶悪な性質を持っている。その中の何粒かが、次世代として芽吹くのだ。

で、運悪くその時近くにいると……普通の人なら、ほぼ確実に死ぬ。てか、魔物でも死ぬ。
周囲の外敵をそれによって排除するとともに、その死体を養分として成長することができる……という、頭のいい種でもある。ただのネタ行動じゃないのだ。

けど、そんなとんでもない現象を起こせるだけの栄養価エネルギーを内部にため込んでるだけあり、すっごく美味しいのだ。ネールちゃんの能力で強化してるから、余計に。

それに、コレだって僕が品種改良で作った種族じゃなく、天然ものなんだからさー、そんなショック受けられても……ただ、その周囲は通常、魔物でも近づかない森の立ち入り禁止区域とされているような凶悪植物ってだけなんだから。


「……ちなみにミナト……『フルコース』ゆーてたやんな? あとこれから……何出てくるん?」

「それはほら、出てきてのお楽しみ、ということで……じゃ、次行こっか?」

あ、ちなみに……『フルコース』って言っても、国や地域、店によって品数や出てくる順番には差があるわけだけど……今回は昼食だし、さっと食べられるように、デザート等含めて全部で8品のコースにしてある。

前菜オードブル』に始まり……『スープ』『サイドメニュー』『口休め』『メインディッシュ』『サラダ』『デザート』『食後のコーヒー』の順番だ。
そしてこれらとは別に、ドリンクもある。飲み放題。種類いっぱい。

で、今『スープ』のコーンポタージュまで終わってるから、次は……

☆☆☆

『サイドメニュー』……カキフライ。
この近くの湖でとれた、ばっちり新鮮なやつだ。

「……カキって、湖でとれる種類だったかしら?」

「いやそこはほら、僕の仕業っていうか……『貝柱』ってもんを作ってあってさ」

「「……『貝柱』?」」

きょとんとなる姉2人。あーうん、わかんないよね、名前だけじゃ。
大丈夫、説明するから。うん。

樹海の奥に、たぶん琵琶湖くらいある大きさの湖があるんだけど……その湖底に、僕が作った『貝柱』という名前のものが立っているのだ。というか、建っているというか。
遠目でパッと見ると、その見た目はただの岩石の柱なんだけど……実際は違う。

その正体は、樹皮や幹が岩石のように硬質な、水中で育つ巨木だ。まっすぐ育つ上に枝がほとんどないため、1本の柱のように見える。
そしてその表面に、アワビやカキなんかの貝類がびっしりと張り付いているのだ。

『貝柱』の本体の樹木は、地中から吸い上げた膨大な栄養の一部をその表面から放出するため、貝たちにとっては最高の餌場なのである。ゆえに、そこに吸い付いて離れない。
そしてそれらは、たっぷりと餌を食べて大きく、美味しく育つ。それも、通常より早く。

貝の柱、あるいは貝類が獲れる柱だから、『貝柱』ってわけだ。
海鮮料理に必要な貝は、ここに来ればほぼそろう。海の食材だろうがお構いなしだ。

「それで、内陸の湖でも海の貝類が……」

「まあ、味はいいし……生産方法はともかく、商品としてはまだ常識の範囲内、やろか……?」

☆☆☆

どんどんいくよー。次は『口休め』の、ビシソワーズスープ。
知ってるかな? ジャガイモの冷たいスープなんだけども。

で、原料はもちろんジャガイモ。
ただし、『トロピカルタイラント亜種』の根っこからとれたやつ。

原種はサツマイモっぽいのが取れたけど、亜種はジャガイモが取れるんだよねー……まあ、そういう風に『品種改良』したんだから当然なわけだけども。
栄養満点で、身がぎっしり詰まっていつつ瑞々しい、っていう夢の味を実現してる。

スープ以外にも、フライドポテトやポテトサラダ、ステーキとか肉料理の付け合わせのマッシュポテトなんかにしてもOKだ。
切ってそのままシチューやポトフに入れる、なんてやり方でももちろんOK。

「……たしかに美味しいけど……」

「何であんた毎回、わざわざそんな収穫に戦闘っちゅープロセスを要する形で作るん?」

「いや、ちゃんと理由あるよ? コレ育ててるの主に荒地周辺だからさ……芋だけ単体で育ててると、そこにいる魔物とかに掘り起こされて食われちゃうんだよ。けど、その点『トロピカルタイラント』なら、防御手段っていうか、反撃手段もばっちりだし」

「せやかて、逆に魔物を食ってまうような仕様にせんでも……」

だってその方が安心だし、その分栄養いっぱい取り込んで美味しくなるから。
まあ、おっしゃる通り、収穫はちょっと大変だけども。

……けどそれだって、僕には心強い味方がいるからさ。

「? 味方……って?」

「後で話すよ」

この森や、その周辺で……ネールちゃん同様、僕のことを助けてくれる、『あいつら』のことは。

☆☆☆

はい、いよいよメインディッシュ!
『3種の恐竜の合い挽き肉ハンバーグ』でござい!

プテラノドン、トリケラトプス、ティラノサウルスを、企業秘密の黄金比で混ぜた合い挽き肉が織りなす極上の味、ご堪能あれ!
ちなみに僕は知らない。全部、料理長のシェーンと副料理長のコレットに任せてます。

「……美味しいわね。肉汁すごいけど、くどさやしつこさはない……色々な食材と合う味よ。高級な牛肉や、特秘ルートで出回るドラゴンの肉でも、こうはいかないわ」

「貴族の食卓に流しても十分通じる味やな。うん……惜しむらくは、色んな理由で、あちこちに大量に流すようなことがでけへん、っちゅーとこか」

「……あれ? 2人とも……意外とリアクション薄いっていうか……さっきみたいに疲れたりしないんだね? 僕が言うのもなんだけど」

「もう慣れて来たわよ」

「それに、恐竜、やったっけ? もう何度も見とるし、パーティーで食べとるしな」

あー、そういうことね。

☆☆☆

「慣れて来たんじゃなかったの?」

「限度ってもんがあるわよ!」

「最後の最後にとんでもないもん持って来よってからに!!」

えー……『デザート』として出てきた、『3種の特選リンゴで作ったアップルパイ』を出された時の、姉2人の心の叫びである。
どうやら、原材料に使ったリンゴの種類があまりにショッキングだったようで。

名前の通り、このアップルパイには3種類のリンゴを使っている。それも、僕は一切手を加えていない、天然もののリンゴだ。

1つは、パーティーでも話に上がった『スノーホワイト』。幻と言われる、高級リンゴ。
しかし実は、今回使った3種類の中では……一番普通というか、安上がりな材料だ。

2つ目が……『トロイアゴールド』という種類。
黄金に輝く皮と果肉、蜜を持つ……これまた幻のリンゴである。

『スノーホワイト』同様、食材でもあり魔法薬の材料でもあり……しかも、『スノーホワイト』よりもその効力は高い。
そしてこちらは、大規模な儀式魔法の触媒なんかにもなったりする。

しかし、希少さ、見つかりにくさも『スノーホワイト』以上である。

というか、ここ数百年で両手の指で数えるほどしか見つかっていないらしい。少なくとも、表立っては。

おまけにこのリンゴ、生鮮食材なのに……何ヶ月経っても、何年たっても痛まないのだ。まるで、作り物みたいに……いや、作り物だって、何百年もたてば劣化し、朽ちるだろう。

だが、聞いた話じゃ……数百年前に収穫された『トロイアゴールド』が、今もどこかの国の保管庫に大切に保管されているのだとか……。
主に戦争の時とか、大規模な儀式魔法を使う際の触媒にされるために、だ。

そのため、本来は食用にするなんてとんでもない、という代物だ。売ればひと財産、どころではない金額が動くわけであるからして。

……おいしいのに、もったいない。

で、3つ目の品種だが……どうもコレには、決まった名前がないらしい。
呼び名は国や地域によって違い、『禁断の果実』とか『ユグドラシルの恵み』とか、色々呼ばれているそうだ。

ぶっちゃけて言っちゃうと、コレ……ネールちゃんが契約してる『御神木』になった果実だ。
どうやら、『ユグドラシルエンジェル』が契約した樹が、その力の結晶であり、森の恵みの象徴として結実させるものらしい。

しかし、『ユグドラシルエンジェル』自体、幻といっていい種族である。いつの時代にどこにいたなんて資料もなく、ただ知識としてその存在が知られているだけの存在だった。

それとセットになっている『果実』もまた、これまで確認されたことなんてほぼなかったため、伝説みたいなものの中にその存在が語られるのみ。

一説には、食べると神に等しい力が手に入るとか、不老不死になるとか……

「いや、実際にはそんなことないんだけどね。ただ、栄養満点でものっすごくおいしくて、食べると『エリクサー』みたいに大怪我・大病でもすぐ治るだけで。ちなみにコレおすそ分けしてくれたネールちゃん、今絶好調だからけっこうそこそこの頻度でコレ穫れるらしいよ」

「だからって……伝説に出てくるような秘宝級の代物を……っ!」

「簡単に食卓に乗せるなっちゅーねん!!」

えー……だってネールちゃんだって『とっても美味しいんですよ、食べたら感想くださいね?』って言ってたし……。
ていうか、ああ言ってたってことは、彼女も食べたんだろうな。

……この分だと、地脈に沿って植えた木からとれるコーヒー豆と、水の精霊力が宿ってる水脈から汲み出した天然水で入れた、『食後のコーヒー』も何か言われそうだな。

アレ、下手なポーションより強力かつ多用途な感じの効能持ってるからなー。怪我治るし、病気もけっこう治るし、痛みも引くし、疲れもとれるし、力がみなぎってくるからなー。

食事を締めくくる以外にも、徹夜の時にも最高のドリンクなんだけどなー……。
ラボで研究しまくって気が付いたら朝になってた時とかにも、よくお世話になってるし。

……ま、その時はその時、かな。



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