魔拳のデイドリーマー

osho

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第14章 混沌庭園のプロフェッサー

第254話 新しい仲間?×2

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とりあえず、投稿は続けようかな、と。
正式にどう対応するかは、近く報告させていただきます。

********************************************


さて、開けて翌日。

昨日、『スタジアム』にて、ドレーク兄さんとアクィラ姉さんとの、死闘と言っていいレベルの模擬戦を終えた僕は……反省会と母さんの講評だけ済ませると、その後はもうゆっくり休むことにして、ホームでのんびりしながら1日を終えた。

その時に聞いたんだけど、あの時、ドレーク兄さんもアクィラ姉さんも、結構本気だったんだそうだ。少なくとも、屋内の訓練施設で戦える出力の枠内においては(最後の方は結構そうでなかった気もするけど)。

そして聞くことには、僕もそのくらいのレベルまで強くなってるんだから、きちんと自覚を持て、とのこと。
母さんが組んだこの対戦カードは、それを僕に教える意味もあったんだそうな。

普通というか、よくある感じだと、僕みたいに――自分で言うのもなんだけど――強い力を持った人間は、自分の力とそこからくる万能感や選民意識に酔って増長して、嫌な性格になったり、いらんトラブルを起こしたりすることが多々あるらしい。

が、僕の場合……一応、強い力を持ってる部分は否定はしないけど、日常的に僕より強い人をがっつり見てきてしごかれてたので、慢心なんてもんはする暇はなかった。
師匠に弟子入りしたときもそうだったし、自分なんてまだまだだ、と常に思ってた。

まあ、増長するよりはいいとはいえ、そういう自分を下に見すぎる考え方もよくはないとのことで……自分の実力を正確に把握させる必要があると考えた母さんが、コレを企画した。

で、それはうまくいったかというと……正直、微妙だ。

自分が思ってたよりも高いレベルに来てるってのはわかったけど、『正確に把握』できたかというと……いや、戦った相手がこちらも結局規格外だったもんだから……。

いわゆる『普通』のレベルとの比較ができない。普通の人から見て自分が強さ的にどんな立ち位置なのか、わかんない。

……まあ、これはもう仕方ない。とりあえず、増長せず、謙遜もしすぎず、くらいに考えて今後気を付けてやっていくことにしよう。それでいいだろ。
バトル、結構楽しかったし。

☆☆☆

そんなわけで僕は、昨日がっつり動いた分、今日は普通に過ごすことにした。
パーティーも、王女様とかへの案内やら説明やらも済んだし……兄・姉の中には、仕事やらなにやらの都合で帰り始める人もちらほら出てきている。いつまでもイベント気分で、ホストとして何かやらなきゃ、と気を張っている必要はないだろう。

羽休めってことで、ひとまず今日から平常運転に戻すことにした。

最近新調した、高級な布地のパジャマに身を包んだ状態で目を覚ました僕は……洗面台まで行って顔を洗い、シャキッと目を覚まさせる。

いつもならこの後、ジャージ(っぽいデザインの稽古着)に着替えて、『ホーム』内にあるトレーニングルームに行く流れだ。

『オルトヘイム号』と同じようなトレーニング器具各種に加え、プールやアスレチック系の訓練機材、スライムタイルのバトルフィールドまであるので、朝練にぴったりなのだ。

ちなみに僕は最近、訓練用の、時速数十キロで流れるプールでがっつり泳ぐのがマイブームだったりする。僕以外がやったら多分死ぬけど。
ああ、でもシェーンも大丈夫かもな。マーマンの血入ってるし。

ただし今日は、昨日がっつり動いてちょっと疲れてるということもあるので、朝練はお休みということにして……遅めに起きて、すぐ食堂に行くことにした。

服も、ジャージではなくいつもの普段着に着替えて、すでに外にまでいい匂いが漂ってくる食堂の扉をがちゃりと開ける。

するとそこには、僕以外のメンバーはほぼ全員そろっていた。

そのうちの1人、今日もジト目がキュートわが嫁は……僕を視界に収めるなり、すっくと立ちあがってすたすたと近寄ってきて、

「髪」

「へ?」

「髪の毛。寝癖できてる。もー……またあんた朝起きて鏡見てこなかったわね?」

「いや、顔洗った時に見てるよ。ただ、寝癖までは眼中になかっただけで」

「余計悪いわ。全く、あんたのその身だしなみへの無頓着さってどうにかならないの?」

ほら頭下げて! と言いながら、左手薬指の『指輪』の機能の一つである『収納』からブラシとクシを取り出し、お辞儀状態の僕の髪を手早くセットしてくれるエルク。

それを見る周囲の視線はほほえましいものを見る感じで、若干恥ずかしい。

まあ、普段はこんなことないんだけどね……僕がしっかりしてるとかじゃなくて、起きた瞬間にエルクのチェックが入るから。

今ちらっとそれをにおわせるようなことをエルクが言ったが、僕とエルクは、あの『プロポーズ』以降、一緒の部屋で寝起きするようになった。

一応それまでは、個室はそれぞれ持っておいて、気分その他で一緒の部屋で寝るか別々に寝るかしてたんだけど、今は完全に、寝るのもくつろぐのも同じ部屋だ。

まあ、今までも似たような感じで暮らしてはいたけど、正式にプロポーズというものを経てからのこれらってのはまた違った感じがするというか……ごにょごにょ。

で、当然一緒のベッドで一緒に寝て、一緒に起きるわけだけど……いつもは、僕もエルクも同時に起きて(起きた方がもう片方を起こすので)、その時にエルクの身だしなみチェックが発動する。
鏡の前に行って、顔を洗って、僕1人なら今朝みたいにそこで終わるところを、寝癖やら何やらきちんとするように整えられるのだ。

この後汗かいたり水に入ったりして、さらにその後汗流すためにシャワー浴びるんだからいいって言ってんのにね。最低限整えるくらいはしなさいとのこと。
んで、朝練後の汗の始末した段階でまたチェックされる流れですはい。

「全くもう、1人で寝かせるとコレだもの……身内しかいないと思ってだらけすぎよ」

身内以外がいても多分変わんないと思う、って言ったら怒られるだろうか。
とか思いつつ、エルクの隣の椅子に座る。

その周りは、今のエルクの言葉通り、2つの意味での『身内』によって固められている。

同じ『邪香猫』のメンバーあるいはスタッフ各員と、キャドリーユ家の母と子供たち――子、十数人。全員僕の兄か姉――である。合計30名近い人数が、同じ部屋で食事している図。

それゆえに、テーブルの上にはいろんな種類の料理が大量に並んでいる。
さらに、現在進行形で新しい皿が運び込まれ、空になった皿が片づけられていく。この『ホーム』にもきっちり配備されている、『メイドロボ』たちの手によって。

その大本として、彼女たちに指示を出しつつ、自らも厨房で鍋を振るって美味しい料理を作ってくれているのが、厨房主任のシェーンだ。
彼女の下には、その指示に従って炊事と配膳を行えるメイドロボを30体ほどつけている。

いつもなら、彼女自身もそこそこ作り終えたら食卓に加わるんだけど、さすがに人数が人数だからまだちょっと無理なようだ。

「シェーン、悪いけど料理追加でお願い……あー、今ならんでるやつ以外で、何か食べたいものある? ミナト」

「そーだねー……じゃ、ビーフステーキとポークチョップとローストチキン。あと、主食はパンと白米両方で。飲み物は……まだちょっと眠いからオレンジジュースにしよっかな」

「毎度のことながら寝起きからヘビーなもんを……聞いてるこっちの胃がもたれそうだわ」

はっはっは、何を今更。朝食は一日の活力というじゃないですか。

「限度があるっての……シェーン、今のでできるー?」

「すまん、エルク。今……辣子鶏ラーズージーを作っている途中で手が離せん。少し待……いや、コレット、手が空いたな? 代わりに頼む!」

「あ、はいはいー、わっかりましたー!」

と、シェーンの後に続いて、明るい+軽い感じの声が聞こえた後……厨房からこっちに、扉を開けてメモ帳を手に駆け出してくる女の子が1人。

色白で体の線は細いが、出るとこは出ている健康的な体つきで、女性にしては短めの金髪と碧眼、そしてそのとがった長い耳が特徴的だ。
背丈は僕より少し高いくらい。年齢も、僕より少し年上……って感じに見える。見た目は。

あまり派手さのない、シックな感じのメイド服に身を包んでいる彼女は……このたび、新しく『邪香猫』のスタッフの1人として加わった1人である。

覚えている人ももしかしたらいるかもしれないが……この間、ジェリーラ姉さんの奴隷商館で出会った、シェーンの知り合いだったあの子である。

「ビーフステーキとポークチョップとローストチキンですね。あ、パンとご飯とオレンジジュースはどうします?」

「今もう持ってきちゃって、すぐ食べる」

フルネームは、コレット・ディレゴット。『ハイエルフ族』だ。
この間から、うちの厨房で『副料理長』を務めてもらっている。

今言った通り、ジェリーラ姉さんのお店で出会って、そのまま購入してきた元・奴隷の女の子なわけだけど……この子実は、色々と深いというか、根深いというか……そんな感じのバックグラウンドを抱えていたことが、その前後に判明したのである。

まず順番に説明していくと、あの場で予想できた通り、彼女はシェーンと知り合いだった。
というか、元同僚だった。
というか、キーラ姉さんとも知り合いだった。

シェーンが一時期、ネスティア王国の王城の厨房で……すなわち、キーラ姉さんの下で働いていたことは覚えているだろうか? その後、僕が引き抜いたわけなんだけど。

コレットは、その時の同僚の1人だったのである。
シェーン同様、市井の食事処でバイトをしてたところをキーラ姉さんが引き抜いたらしい。

その時のコレットは、シェーンと同じように、諸国を巡って美味しいものを食べ歩きながら、自分でも作ったりして料理の修行をする……っていう感じの旅をしていたらしい。
その途中で、キーラ姉さんの目に留まった。そして、これも経験として、王城の食堂でバイトをしてた……ってわけだ。

……てか、キーラ姉さん、そんなによく街中の食事処に出没すんのかな? 自分の眼鏡にかなう料理人を偶然見つけてスカウトするくらいに。

その後しばらく務めた後、シェーンと大体おなじくらいのタイミングでそこを辞めて旅に戻ったらしいんだけど……実はこの後、ちょっとイラッと来るストーリーが割り込んでくる。
というのも……彼女の種族名である『ハイエルフ』、これが絡んでくるのだ。

実は彼女、あのハイエルフの王……ギャナーガスの支配下にある集落の1つの出身らしい。

ハイエルフの集落で生まれ育つと、その凝り固まった考え方の中で、洗脳に近い教育を施されるため、選民思想をはじめとしたアレな考えが根っこの部分に形成されてしまい、ろくな性格に育たないんだけども……ごく希に、まともに育つ人もいる。バラックスさんとか。

コレットはその1人だった。そして、こんな隠れ里で一生を終えなくない、見聞を広めてやりたいことを存分にやりたい、と考え、ずっと昔に里を抜け出したんだそうだ。

それから今までやってきたんだけど、最近……この近くを通った時に、斥候をやっていたハイエルフの兵士に見つかり、強制的に連れ戻されてしまったらしい。

集落に連行されたコレットは、ハイエルフ全体の意思に従わない行動をとったとして『裏切り者』のレッテルを張られ、罪人扱いで投獄されていた。

その時に乱暴されたり、ひどい目にあわされることこそなかったものの……それは何の慰めにもなっていなかった。『裏切り者には相応のみじめな結末がふさわしい』とか何とか言われ、奴隷として人間の奴隷商人に――しかも裏家業の違法なやつに――売られることになったからだ。

最後ぐらい、その身を金に換えて自分たちの役に立て、とか言われたそうだ。
……思い通りにならないと、同族にまでそんな扱いか。つくづく最悪だな、あの連中……。

が、売られた直後にクーデターが発生し、その中で違法な奴隷商人も摘発された。

その際に回収された奴隷たちは、身元や違法な売買であったことが確認できた者は解放されたものの……残念ながらコレットはそれはかなわず、正規の奴隷商人に売り渡すことになった。
その先が、ジェリーラ姉さんのとこだったのである。

奴隷商の個室でその話を聞いた後、シェーンから進められて彼女を買うことにした。

かつて同じ釜の飯を食った友達だから、っていうのもあったけど……それ以上に、今まさにシェーンが必要とする『新たな人手』の条件を、彼女はすべて満たしていたからだ。

料理の腕もそうだし、接客とかその他の家事のスキルも問題なし。
信頼の方も、シェーンに加え、キーラ姉さんのお墨付きとあれば問題なし。
そして、長い間いろんなところを旅していただけあり、胆力その他も申し分なし。それによるものか、奴隷という身分にあっても明るさや陽気な性格は失ってなかったようだし。

そして……シェーンがその時言い放った、僕が彼女を買う決定打となった一言が……


『ミナト。こいつは、コレットはな……スイーツづくりの達人なんだ』


いや~、うん、速攻決めたね、買うって。

甘党男子、ミナト・キャドリーユ。
毎日三食のデザートとおやつにスイーツ食べたいくらいに砂糖大好き人間ですハイ。

☆☆☆

ブルース兄さんから『おめー強くなりすぎだろ』とか、
ノエル姉さんから『もう戦闘分野で教えられることはあらへんな』とか、
ダンテ兄さんから『念のために今度また健康診断な』とか、
キーラ姉さんから『あたしが目ェつけた料理人次々に囲い込みやがって』とか、
ミシェル兄さんから『いい感じの死体が手に入ったから今度実験付き合ってよ』とか、
ジェリーラ姉さんから『こないだ話した商談、今日午後からでいいのよね?』とか、

そんな感じで色々雑談しながらの楽しい朝食も終わった。

あと、最後から2番目のだけは、できれば食事の席ではご遠慮願いたい話題です。めっ。

『そういう問題じゃない気がするのだけど……』

いいのいいの、そういう問題で。ほら、誰も気にしてなかったでしょ?

『いや、アレはむしろ諦めてるだけ、って感じだったと思うんだけど』

「でも、今更なのは確か」

『……まあ、それもそうか』

『え、それで納得してしまうの?』

「割り切りも大事です、お義母さん」

『とかいいつつ本心から別に気になってない我が半身であった』

「否定はしない」

……で、だ。
朝食を終えて、僕は今どこで何をしているかというと……ただいま、ネリドラ、リュドネラと共に、いくつもの電子画面に囲まれております。

まあ、電子画面って言っても、映像を魔法で写す水晶板なんだけどね。液晶とかじゃなく。

ここ『メインコンピュータールーム』は……その名のとおり、いくつも魔法式コンピューターが――つっても、それっぽい役割を果たすマジックアイテムをそう名付けただけで、機械系の仕掛けとかほぼ皆無なんだけど――設置されている、『キャッツコロニー』の中枢部である。

ここでは、各所から運び込まれる大量かつ様々な情報を処理・閲覧や、この『キャッツコロニー』全体に張り巡らせたネットワークの各種端末の操作が可能だ。

『ターミナル』の発着設備やその状態、格納されてる各種乗り物の整備点検等の情報、

『スタジアム』の使用予定に現在の修復状況、各種機能のメンテナンスやアップデート、

『ファクトリー』の生産ラインや製作状況、品質やノルマの達成状況、

『ビオトープ』での繁殖・生活等の状況、予想していた成長との合致点・相違点、

挙句の果てには、ネールちゃんに協力してもらって管理下に置いている外のエリアの情報屋侵入者の有無、その位置から対処状況、そしてそれら全ての過去ログ等にいたるまで全部わかる。記録されてるし、閲覧できるし、色々と遠隔操作なんかもできる。

言うまでもないことだが、そんな警備会社も真っ青な内容の管理業務……合わせれば、本来なら膨大な量の情報を処理しなければならず、とんッでもない人数と労力がかかる。

しかしそれを可能にしているのが……僕の最高傑作の1つ『魔量子コンピューター』。
そして、そこにインストール?されている管制人格だ。

『魔量子コンピューター』ってのは……あー、その前に、『量子コンピューター』ってものを知ってる方はいらっしゃるだろうか?

SFとかのフィクション作品で時々見かけると思うんだけども――現実でも地球では研究開発があちこちで進められてるんだっけ?――要は、想像を絶するレベルの凄まじい性能をもつコンピューター、って考えてくれればいい。スーパーコンピューターも比較にならないくらいに。

振っといてなんだが……詳しい説明は、すごくややこしくなるので省く。

ともかく、僕はそれを作った。すげー大変だったけど、その分、渾身の逸品になったと思う。

使い方としては、この『メインコンピュータールーム』みたいな特定の場所や設備からか、『アクセス権限』を持ってるごく一部の存在が直接こいつにアクセスし、必要なシステムを呼び出してその力を借りる。
こいつはそれに応えて、そのすさまじい演算能力で持ってサポートを行ってくれる。

こいつのおかげで、膨大な情報の処理・管理はもちろん、それを使った施設の運用や各種機能の完全な統制が可能になっている。
さらには必要に応じて家事や移動、戦闘のサポートにまで使えるすぐれものだ。

例えば、ネールちゃんもこいつへの『アクセス権限』を持ってるんだけども、本来ネールちゃんは、力が森全域に及ぶとはいえ、そこまで細かく力を使うことはできない。

テリトリーの森林内に不審者が入っても、それがどういう存在かを細かく感じ取ることなんで不可能だ。せいぜい、どこにいるか、魔力その他の力の大きさはどのくらいか、把握できるくらいだ。それでも十分ハイスペックなわけだけども。

しかし、『魔りょ……面倒だな、今後こいつを『CHC』と呼ぶことにする。

何かの略かって? 『Cats Hand Computer』の略だよ?
ほら、よく言うじゃん、『猫の手も借りたい』って。それをもじってつけた。
まあ……こいつはそれどころじゃなく頼もしいけどね。

脱線した。話を戻そう。

こいつのサポートで、ネールちゃんの管理能力は尋常じゃなくパワーアップしている。

森の現在の状態をリアルタイムで事細かに把握できるわ、遠隔で植物や、規模や条件次第では環境そのものを操作して生態系に直接手を入れたりできるわ、

外部から何者かがテリトリー内に一歩でも入れば即感知できるわ、それをリアルタイムで追跡できるわ、どういう種族でどの程度の実力かなんかも遠隔で分析できるわ、それを記録して後から好きな時に好きなように情報を閲覧したりコピーして加工して資料にしたりできるわ、それを即座に森中の眷属たちやコロニー内の僕らに伝達できるわ、指示出せるわ、

そしてそれら全てを、演算補助のおかげでほぼ負担なくあっさり行えるんだからもう……いやまあ、そうなるようにした犯人は自分なんだけどね?
正直その……ちょっとばかり無敵になりすぎたかな、とか思ってるっていうかね?

おまけに彼女、戦闘でもその演算能力のサポート受けられるから、ただでさえ滅茶苦茶に強いってのに、魔法の種類なんかにもよるけど、普通の数倍から十数倍の規模で魔法使ったり、高速で術式を構築したりできるのだ。

きっちり準備しても、人間とかエルフで数分から数十分はかかる儀式魔法も、『CHC』のバックアップを受けている彼女なら数秒である。しかも並列していくつも同時に使える。

うん、どう考えてもチートだなコレ。森の守護神だよ、誇張抜きで。

なお、この『CHC』にアクセスする権限を持つ者は、他にもいる。
僕とか、ネリドラとか、エルクとか……まあ、おいおい説明しようか、そのへんは。

そして、だ。
この『CHC』について話しておく上で、もう1つ説明しなきゃいけないことがある。

それは、こいつに搭載している『人工知能』についてだ。

『スーパーコンピューター』ってのが、すごく性能のいいコンピューターだってのは、普通にわかると思うんだけど……『性能がいい』と『使いやすい』は別だってわかるだろうか?

たしかにスパコンは、通常のコンピューターとは比較にならない速さで演算ができる。
しかし、演算が早くても、そのための『準備』については別だ。演算をするための準備は、変わらず外部の手で……つまりは人間がやる必要があるのだから。

電卓は、桁数が多い難しい計算でも、数字を打ち込んで『+』や『=』を押して計算方法をしていすれば、一瞬にして正しい数値を導き出してくれる。
しかし、あくまで数字を打ち込み、計算方法を指定するまでは、人間の仕事だ。

コンピューターは、人間には到底不可能な複雑かつ正確な作業を確実にこなしてくれる。
画面上で文字を打ち込み、写真を切り貼りし、レイアウトを整えて印刷すれば、人力では到底できない完成度のチラシやら何やらを簡単に量産できる。

しかしそれだって、キーボードをたたいて文字を打ち込み、写真やイラストをどこからか用意してサイズや画質を調整・指定して貼り付け、余白だの文字の大きさだの書体だのってレイアウトをいちいち整え、印刷枚数を指定してスイッチを押すところまでは、人間の仕事だ。

スーパーコンピューター……ってここまでくると丁度いい例がすぐには出てこないんだけども、ともかく、複雑な演算をするということは、その前準備として打ち込む情報も複雑かつ膨大な量であるわけで……それらを正確に打ち込むのは結構な労力だ。

そこで僕は、『魔量子コンピューター』に管制用の人工知能を入れることを考えた。

SFとかでよくあるじゃん。意思を持つ、喋る機械。
『これこれこういうことをしてほしい』『こういう情報が欲しい』って口頭で簡単に言うだけで、それに応じた情報を用意して提示してくれたり、必要な機能を使ってくれるじゃん?

アレをイメージして、口頭あるいは思念での最低限の指示だけで、最大限の結果をだしてくれるよう、『CHC』と僕ら利用者の仲介役になるAIがほしかったわけよ。

これがあるとないとでは、効率が大きく違う。それはもう、天と地だ。
大変だろうけど、頑張って作るつもりだった……ある事実に、気づくまでは。

すでに、存在したのだ。組み込むAIとして……ちょうどいい『人格』が。
というか、『魂』が。それも……僕の中に。

僕がそれに気づいたのは……ネールちゃんが『ユグドラシルエンジェル』になってしばらく後、その力の検証に付き合っていた時のことだ。

いろいろと試す中で僕は、ネールちゃんと僕の間に、『縁』のようなものができていることをしった。それも、直接ではなく……『世界樹』を通してだ。

契約しているネールちゃんはともかく、何で僕と世界樹コレの間にそんなもんがあるのか、と思って調べてみたら……とんでもない事実が明らかになった。

なんと……アドリアナ母さんが、僕の中でまだ生きていた。
いや、生きていた、って言い方もちょっと違うけど。いるの、『魂』だけだし。

あの日、てっきり成仏したとばかり思っていたアドリアナ母さんは、僕との魂同士のつながりがあまりに強かったために、完全に『御神木』に吸収されず、御神木と一体化しつつ僕の魂とも共にある……みたいな、ややこしい状態になっていた。
そんな不安定な状態だったので、意識すらはっきりせず、今まで表に出てこなかったのだ。

それを知った僕は、すぐさま『精神世界』にダイブしてアレコレして、アドリアナ母さんをサルベージし、あらかじめ用意しておいた『器』役のマジックアイテムに移して独立させた。

その後、意識を取り戻したアドリアナ母さんと色々話していた。
いやあ、今度こそ死んだと思ってたらしくて、驚いてた驚いてた。

で、問題はその後なんだけど……ふと思いついて、母さんにあることを頼んでみたのだ……っと、ここまで言えば、勘のいい人もそうでない人も、わかっただろう。


……そう。今、『CHC』に組み込まれている『AI』は……アドリアナ母さんの魂である。


せっかくまた会えた母さんを、むざむざ消滅させるつもりは僕にはなかった。
どのみち『器』は、近いうちに本格的なものを用意するつもりだったし。

だったら、どうせならこういうのはどうかなー……と思って提案してみたら、ちょっと悩んだ様子ではあったけども、快く応じてくれたのである。AIの代役として、『CHC』の中から自分たちやこの『キャッツコロニー』を助けてくれることを。

……よくわからないうちに承諾してしまった気配があったけども、きっと気のせいだ。

そして、これがホントの『マザーコンピューター』……なんちて。

……まあ、それはともかく。

なんか、利用するような形にさせてもらってしまったわけだけど……一応言っておくと、コレはきちんとアドリアナ母さんのためにもなる手段である。

何せ……これにより、本来は消滅寸前の霊魂に過ぎないはずのアドリアナ母さんが、その状態からは考えられないほどにいろんなことができるようになったのだから。

「それよりアドリアナ母さん、だいぶ自然な感じで『実体化』できるようになってきたね」

『ええ……何とかね』

その1つが……今こうして彼女が、僕の隣に普通に立って笑っているという状況である。

アドリアナ母さんは、魂そのものは『CHC』の中に組み込まれている。けど、こうして……『アバター』を使うことにより、体を実体化させて出てくることが可能なのだ。
ネリドラの別人格であるリュドネラが、ネリドラの首輪の機能でやるのと同じことである。

そして、ただの『仮初の体』なんて思うなかれ、その性能は破格の一言だ。
アドリアナ母さんだけでなく、リュドネラのアバターにも共通して言えることなんだけど……いい機会だし、ちょっと詳しく説明しておこうか。

アバターの体は魔力で構成されており、自在に出したり消したりできる。

しかし、ザリーの『砂分身』みたいに、単に魔力に人の形を取らせただけではない。
以前のリュドネラのアバターはそうだったけど、今は違う。魔改造済みだ。

2人のアバターは、『CPUM』や『召喚術』に使われる魔法術式および技術をベースにして組み上げられている。そのため、限りなく生身の肉体に近い性能を持っているのだ。

見て、聞いて、触って……っていう基本的なことのみならず、飲食もでき、しかもそれを分解して魔力に還元することができる。無論、味覚もきっちりある。

これだけのことが可能でありながら、あくまで偽物の体なので、戦闘なんかで破損あるいは消滅しても、魂は無傷だし、何度でも復活できる。まあ、そんな機会は多分ないが。

そして、魔法も使うことができる。

アドリアナ母さんの場合は、生前、『霊媒師シャーマン』として覚えた魔法はすべて使うことができる。それがたとえ、精霊魔法であってもだ。
リュドネラの場合は、ネリドラと記憶と技能を共有しているので、ネリドラが使えればリュドネラも使える。

それだけでなく、後から追加で魔法を覚えることも可能なのだ。
『CHC』のデータベース内に術式をあらかじめ登録しておくことで、それをダウンロードしてアバターで行使する、なんてことができる。
さすがに、本人のもともとの素質や技能を大きく超えた魔法は使えないんだけど。

それでも、僕が趣味で『CHC』にデータを組み込みまくっている魔法のうち、生前使えなかった、あるいは本体が使えない魔法までも使えるというのは破格どころではない性能だろう。

そして、コレはアバターというか、2人に与えている固有能力みたいな感じなんだけども……2人はその意識を、この『キャッツコロニー』全体に張り巡らせている術式ネットワークに潜行させることで、そこにおける術式情報ネットワークの管理・操作を行える。

現代風に言えば……電脳空間に意識をダイブさせて、その中での思考操作で、色々な情報を検索したり加工したり、機器やプログラムを操作したりすることができるのだ。
ファンタジーっていうより、SFや近未来でよく見かける能力だと思う。

それを、『CHC』のAIであるアドリアナ母さんのみならず、アクセス権限を与えている+実体がない存在であるってことで、リュドネラもできるのだ。

なので、ネリドラや自分がPCで作業を行う時は、時々リュドネラにネットワーク内にダイブしてもらい、中からコンピューターを操作して高速演算とかで助けてもらっている。

また、このネットワークのおかげで、2人は『キャッツコロニー』内部ならどこにでも姿を現すことができる。

以前のリュドネラは、媒介になるアイテムか何かがない限りは、ネリドラから一定以上離れることができなかったけど、今はそんなこともないというわけだ。
まあ、さすがにここから外に出れば、依然と同じ感じになってしまうけども。

まあ、そんな感じで……ここ『キャッツコロニー』内部限定ではあれど、リュドネラもアドリアナ母さんも、限りなく普通の人間に近い形で生活できているのである。

一緒に食べて、飲んで、笑って……やっぱ、そういう普通なことが普通にできるっていいよね。

「ただし残念ながら、環境そのものがそもそも普通ではなかったりする」

「ネリドラ、オチをつけなくていいから」

「ん」



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