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第14章 混沌庭園のプロフェッサー
第248話 おいでませ、人外魔境
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今回から新章突入になります!
いきなりぶっ飛ばしてますが……うちの子はホントにもう……
********************************************
「そろそろ時間ではないか?」
「ええ……あと5分ほどです」
場所は、ネスティア王国中西部。
とある丘陵地帯。周りに何もない、開けた場所。
そこに……通常ならばこんなところにいるはずのない者たちが、そよ風をその身に受けながら、ぽつりぽつりと雑談をかわしつつたたずんでいた。
ネスティア国王・アーバレオンに……第一王女メルディアナ、第二王女リンスレット。
加えて、彼らの護衛である、王国騎士団総帥ドレーク、魔法大臣アクィラ。さらにその部下として、王国軍大将イーサ、一等騎士団所属上級騎士ギーナ。そして、王国軍少佐スウラに、二等級騎士団団長格アリス……と、少数ながら、それぞれの部下たち。
そして、身の回りの世話をする侍従が数名……といった、そこそこの所帯であった。
そこから少し離れたところには、かなり大型かつ豪華な装飾の『竜車』が止まっており、それに乗って彼らがここまで来たのだということが見てわかる。
「……もうそろそろだな」
と、メルディアナは……アクィラが手にもっている、やや厚めの一枚の紙を覗き込む。
大きさにして、掌に乗せられる程度の、その紙面では……おそらくは、魔法で刻印されたのであろう文字列が、時間と共に変化していた。
つい先ほどまで、『00:05:00』であったはずのそれは……今、『00:00:12』にまでその数――カウントを減らしている。
ドレークはそれを見て、全員に準備をするよう目で合図を出し、部下たち――アクィラと王族以外はおよそ全てそう言って差し支えない面々は、それに従う。
彼らは、これから何が起こるかは知らされていない。
というよりも、ドレークやアクィラ、王族たちですら、何が起こるのかは知らない。
知っているのは……今からここに、『迎え』が来るということだけだ。
これから自分たちが行く場所からの……そして、そこの主である、ドレークとアクィラの最も『否常識』な弟からの、迎えが。
そして、とうとうその紙面のカウントが『00:00:00』になった……その瞬間、
―――♪~♪♪~♪♪~♪♪、♪~♪♪~♪♪~♪♪
「「「!?」」」
突如として丘陵地に響き渡った、耳慣れない電子音。
音質といい、きちんとメロディーを形作っていることといい、明らかに自然に由来する音ではない、と誰でもわかるものだった。しかも、どこから聞こえて来たのかわからない。
半ば条件反射的に、護衛の兵士や騎士たちは抜剣、王族たちの周囲に展開して陣形を整えようとするが……それより早く、全く別な場所で異変が起こった。
それは……空。
地上数十mはあろう、はるか上空に……突如として、『何か』が現れた。
「……何だ、あれは?」
「わかりませんが……多分、うちの弟の仕業だとは思います」
つぶやくように言ったメルディアナに、アクィラがそう返した。
2人の――否、そこにいる全員の視線が集まる先には……その誰もがこれまでの人生で、1度も見たことのないものが走っていた。
「蛇……? いや、まさか……龍、でしょうか?」
「いや、それにしては……見た目、硬質な感じが……虫ではありませんか? ムカデとか……」
「そもそも……生き物に見えませんね。車輪がついていて……空中にある道のようなものの上を走っているようです。となると……資材運搬用のソリや、トロッコの類か……?」
「皆目わからんが……1つだけ確かなことがあるのう」
と、ギーナ、アリス、スウラの予想をまとめる形で……イーサが言った。
「アレは……ミナト殿の仕業じゃ」
「「「はい、間違いなく」」」
女性3人のキレイにハモった返しに、何がおかしかったのか、くすりと笑うリンスレット。
その隣にいるメルディアナは、最初こそ驚いたものの……初っ端から面白いものを見ることになったこの旅程を思い、期待と興奮を隠し切れない様子で笑みを浮かべていた。
そんな彼女たちのもとに……大きく蛇行するような軌道で空中を走っていたそれは、ようやく降りてきた。アナウンスと共に。
『間もなくー、列車が到着いたしまーす。危ないですのでー、白線の『外側』までー下がってー、お待ちくださーい』
と同時に、草原に、エネルギー体と思しき2本の白いラインが走った。
もともとメルディアナ達を避けて設置されたのか、誰もその2本の内側に入っている者はいなかったが。
その十秒ほど後、そのラインの間にちょうど収まるように、空中を走って降りてきた『何か』……どう見ても『新幹線』にしか見えない、しかしなんだかやたらメカメカしく、特撮っぽいデザインが取り入れられた、色も黒系メインで異質なものが……駅も何もない草原に停車した。
そして、ちょうど一行の前に来ていたドアが、ぷしゅー……と音を立てて開き、
そこから、魔法によってレッドカーペットが一行の目の前まで伸び、
それに一拍遅れて……件の人物が顔を出した。
「えー……お久しぶりです。国王様」
今回の、彼ら一行の訪問目的そのものにして、現在この大陸全体で話題になっている人物……世界唯一のSSランク冒険者、ミナト・キャドリーユが。
☆☆☆
突然だけど、このたび、僕らの新しい拠点に……ネスティア王家の皆さん他をお招きすることになりました。
主に、うちの母のわがままから派生した理由で。
僕がSSランクになってから、もう2か月ほどになる。
野次馬避けにローザンパークに引きこもり、自分たちの『拠点』を作り始めてから経過した時間でもあるわけだけど……その『拠点』が、ようやく出来上がった。
まだ未完成な部分もあるにはあるけど、拠点として活用する分にはもう申し分ないレベルにまで仕上がってるし、『未完成』なのは僕の趣味でちょっといじくってる部分だ。
それに、趣味と言っても……一番重要な部分に関しては真っ先に終わらせてあるし。
とまあ、そんな感じで拠点はできたわけだが……そこで母さんが前々から言っていた、僕のSSランク昇進記念パーティなるものを開催するらしい。
……とかいいつつ、それにかこつけて家族皆で集まりたいだけらしいけど。
母さんいわく、ここ数年から、長いと20年近く会っていない兄弟姉妹もいるようで、久々に顔を見たい面々を全員集めるのにいい機会だ、と思ったそうだ。
ここぞとばかりに強権を発動、大陸中から自分の子供たち……僕の兄・姉を集め始めた。
そしてその中には当然、ドレーク兄さんとアクィラ姉さんもいたわけだけど……ここで問題が発生。
普段、王様の守護についている2人が一遍に国を空けるわけにはいかない、という話になった。もっともである。いくら家族から呼ばれたからって、そんな無理、普通は通らない。
しかし今回招集をかけたのは、そんな無理を通してしまえるお方。しかも、ご丁寧に『2人とも』という部分を強調した通知文が届いた。
断ったりして不興を買ったら後が怖い、と、国の上層部でどうしたもんかと話し合いになり……その結果、一緒についていっちゃえ、ということになったそうだ。
よくもまあそんなすさまじい案が出てきて、そして通ったもんである。
まあ、王様とドレーク兄さんは途中で抜けるらしいけど……そこはもう当然と言うか、仕方ないだろう。
さて……そんなわけで、僕らの『拠点』にネスティア王家御一行様をお招きするわけだけど……普通に『じゃ、来てくださいね』というわけにはいかない。
だって、道中、普通に危険だし。
『ローザンパーク』は、もとから危険区域の中ってことで、使節団1つ派遣するにも大変だった場所だけど……最近、僕が色々やったせいでもっと大変になっている。
ぶっちゃけ、今までと同じ感覚で使節団派遣すると、よくて被害倍増……悪いと全滅する。
まあ一応、いろいろ工夫してその前に引き返せるようにしてあるけど。
ともあれ、そういうわけで……ドレーク兄さんたちの護衛なら不可能じゃないかもしれないけど、危険には変わりないし、そもそも普通に時間がかかる。
なので、当初からドレーク兄さんたちの『送迎』に使用しようと思っていたコレ……魔力機関式旅客輸送列車『ナイトライナー』を使うことにして……こうして今日、迎えに来たわけだ。
なお、あらかじめ兄さん達に、こっちで用意した『チケット』を送っておいた。
その表面には待ち合わせ時間までのカウントがリアルタイムで表示される上、それが目印になって迎えを待っている場所がわかる、というマジックアイテムである。
そして、注文通り大きく開けた草原の上で待っててくれていた王族御一行様を回収。
部下や侍従の皆さんも回収。別の車両に、だけど。
で、今、僕らは……先頭車両にて、王女様たちと一緒に過ごしている。『ローザンパーク』への到着を待ちながら。
「まあ……! 私、こんなに早く、しかも空を飛んで動く乗り物など初めてです! 今は斯様な乗り物があるのですね!」
「いやいやいや、こんなもん私だって知らんさ。どう考えても、ここ数か月の間に誕生した乗り物だろう。……しかし、本当に速いな……飛龍も容易く置き去りにできそうだ」
車窓から窓の外を見ながら、王女様たちはそんな風に……まさしく、初めて新幹線に乗った子供のような感じで、それぞれにはしゃいでいた。
その様子を、向かいに座っている僕とナナが笑いながら見ている形だ。
最初は、2両目に用意した、グリーン車的な『VIP用車両』に案内したんだけど、そこにはドレーク兄さんと国王様、それにそば仕えの侍従の人たちだけが残り、あとの王女様2人はギーナちゃん達ともども僕らと同じ車両を希望したので、こっちに通した。
まあ、本人たちさえいいなら、ってことで、許可した。
別に、見られて困るもんもないし。
本当は国王様が、ドレーク兄さんも兄弟ってことでこっちにやってくれようとしたんだけど、護衛として来てるんだからってことでドレーク兄さんから辞退して同じ車両に残った。先頭車両には、王女様たちの護衛ってことでアクィラ姉さんだけが来ている。
ああ、あとギーナちゃんとスウラさん、それにアリスとイーサさんも来てるけど。
一応、第二車両には……こっちからもメイド兼監視を派遣してあるので、まあ何も特に問題はあるまい。
それと、先頭車両には当然、王女様たちの他に、今回迎えに行くのについてきた僕の仲間たちもいるわけだけど……実は、それ以外のメンバーもいる。
王女様たちと、同じような立場の人たちだ。
ここに来るまでに拾ってきた……他の国の要人の招待客達である。
……っつっても、レジーナとルビス、それにエルビス王子なんだけど。
あと、諸事情により、昨日のうちに、オリビアちゃんを『拠点』まで送り届けてある。
オリビアちゃんは、単にザリー経由で『参加したい』って言ってきたのと……あと他にも1つ、彼女を呼ぶ理由があるため。それも理由の1つとして、一足先に彼女は送ってある。
色々とお世話になってるし、ザリーのガールフレンドだ、拒む理由はない。
というか、むしろ招待させてもらいたい気分だ。歓待という名の自慢のために。
レジーナは、向こうが出席を希望してきたってのもあるけど……こっちからも彼女にはちょっと用事というか、伝えておきたいことがあったため。
そして、エルビス王子とルビスは……親友であるメルディアナ王女や、他の国の代表の人たちを招いておいて、彼女たちだけ呼ばないのもどうかな、と思ったから。
ちなみに、貴族令嬢だけど、堅苦しい呼び方は嫌いだそうなので……ルビス、って呼び捨ての上、タメ口で話してます。
そういうわけで、今回のパーティ……家族以外に、ゲストとして参加を許可しているのが以上の面々であり……今、この『ナイトライナー』で大陸各地を回って集めてきたとこだ。
今は皆、さっき渡した、こっちが用意した駅弁――っぽい感じでシェーン達に作ってもらっておいた弁当――を食べながら、さっき話したようなはしゃぎ方をしている。
当然ながら初めて乗る『特急列車』に、驚いたり喜んだりと忙しそうだ。
「……なあ、ミナト……この窓、開けるわけにはいかないのか?」
と、窓の外の上下左右にせわしなく眺めながら、ルビスがそんなことを。
「いや、あいにく開けられないんだけど……何で?」
「ああ……上や横を、もっと見れんものかと思ってな」
「……言っとくけど、ホントに何も引っ張ったりつりさげて飛んだりしてないよ?」
ルビスは最初、この『ナイトライナー』を見て、『竜車』や、飛べる龍を調教して移動に使う『龍籠』のように、魔物か何かに運ばせてるものだと思ったらしい。乗る前に、しきりに気にしていた。
もちろんそんなことはなく、こいつは僕が作った移動用マジックアイテムであるので――アイテム、って言うにはやや大型な気がしなくもないけども――きちんと自力で走っている。
先頭車両の先端部に組み込まれている、精霊魔法を応用した具現術式によって、疑似的にではあるけど、線路……の、役割を果たす力場を作り、その上を走っている。
その力場の形が線路に見えるようにいじってあるけど、そこは遊び心だ。あれに実体はない。
したがって、車輪が回転して走ってるように見えるのもフェイクであり……確かにあれは回ってるんだけども、魔法駆動のためのギミックの1つに過ぎない。あと、遊び心。
この列車……実態は、電車というよりリニアモーターカーなのだ。磁力と魔力を利用し、そこにいくつものマジックアイテムを介して、飛行+高速移動を実現している。
「……魔力や磁力、その力場で飛び、走る……か」
「詳しく説明すると、これでもかってくらいに難しい話になっちゃうんだけど……聞く?」
「いや、いい。どうせ理解できなさそうだ……納得することにする」
「……ああ、それと……窓開けらんない理由は、もう1つあるんだけどね」
「風か? たしかにこれだけの速さで飛……じゃないのか……これほど速く走っていれば、窓など開ければ、すさまじい空気の爆弾が飛び込んでくるだろうと思うが……」
と、メルディアナ王女。
まあ、それもなくはないんだけど……
「今というか、走行中に車体表面で使ってる魔法が、ちょっと特殊なもので。体を外に出すと危険なんですよ」
「ほう……加速か? それとも、風よけの障壁か何かか?」
「えっとですね、何て言ったらいいか……説明が難しくて……」
メルディアナ王女の質問に、どう答えたもんか……パッと出てこない。
大雑把に言えば空間魔法の一種なんだけど、詳しく説明しようとすると、属性そのものの性質から解説しないといけないからな……僕の『虚数属性』は。
「簡単に言えば、空間の位相を……あー……猛スピードで飛んでると、飛んでる鳥とか魔物にぶつかる可能性があるので、その対策です。あ、風よけも一応兼ねてます」
「……あれ? 何アレ!?」
と、独り言のような調子でレジーナが言ったのが聞こえて、全員の視線が窓の外に向かう。
すると、そこに見えてきたのは……森だった。
富士の樹海やアマゾンのジャングルもかくや、って感じの、うっそうと生い茂る緑の森。
木々には木の実がなっていたり、所々に魔物なんかも見える。
「ほぉ……立派な森だな。いや、これほど生い茂っているなら、樹海と言った方がいいか」
「ええ、本当に……迷子になったら、絶対に出てこれなそうです」
「住んでいる魔物も強そうだ。あれが話に聞いていた、『ローザンパーク』を覆う危険区域か?」
と、メルディアナ王女の問いかけ。
すると、僕がそれに答えるより前に……イーサさんが口を開いた。
「いや、おそらく違いますな。というか……妙です」
「妙?」
「わしの記憶が正しければ……このあたりはまだ、旧『リアロストピア』……現『ニアキュドラ』から広がる荒野が続いている場所のはずです。この辺りまで森林が生い茂っていたはずはありませぬし、そもそも、砂礫ばかりの痩せた土地、植物が育つような土壌はなかったはず……」
「何、そうなのか?」
そう聞き返しつつ、メルディアナ王女は……イーサさんから、レジーナに視線を移した。
それにちょっとドキッとしつつ、レジーナは、
「う、うん……あ、いや、その……はい! えっと……最近、それこそ3、4か月前くらいまで、あの辺りはまだ砂ばっかりの土地だったはずなんですけど……」
「………………まさか……」
と、何かを勘ぐるようなアリスの声に……自然と、全員の視線が僕に集まった。
おいおい、何だよ皆、その目は? 何、また僕が何かしたって疑ってんの早速?
……まあ、大当たりなんだけど。
「やはりか……ミナト殿、今度は砂漠地帯の緑化実験でも始めたのか?」
「いや、そーいうわけじゃないんだけど……まあ、おいおい話しますんで」
スウラさんの呆れたような調子を含んだ問いにはそう返しつつ、
「けど、この森が下に見えたってことは……もうすぐ着きますね。目的地に」
「もはやおぬしらの縄張りというわけか……しかし、気のせいじゃろうかなあ……そこらの危険区域よりも安心などできんような場所に入った気がするわい」
「……その感覚、多分二重の意味で当たってますよ、イーサさん」
と、皮肉のつもりで言ったらしいイーサさんのセリフに……その隣に座っているアクィラ姉さんがそう返していた。
心なしか……顔には笑みが浮かんでいるものの、目や雰囲気は、比較的真剣な感じに見える。
「どういうことじゃ、アクィラ?」
「うちのミナトはまた、ちょっと目を離した隙に色々無茶苦茶やったみたいだなあ、と思いまして。ええとですね……あのあたりなんか、わかりやすいんじゃないかと」
そう言いながら、アクィラが指さしたのは……森林の一角、少し開けた場所。
そこには……かなり大きな湖があった。
「? アクィラ、あの湖がどうかし……」
イーサさんがどうかしたのか、と言い終わる前に、そこで異変が起きた。
湖の湖面で、ぱしゃっと魚が跳ねたと思ったら……そこに素早く飛来した猛禽っぽい鳥の魔物が、鋭い爪で魚を空中で捕獲。
その見事な技に、見ていたレジーナやルビスが『おぉ』と感嘆の声を上げた……その瞬間、
湖の中から飛び出した、赤い甲殻と長い胴体を持つ……エビと蛇が合わさったような魔物に食いつかれ、猛禽が捕まった。
「「「……!?」」」
ほとんどの面々が絶句する中、彼女らの脳内処理が追いつくのを待たず、さらなる異変が。
たったの二口で獲物を腹に収め、そのまま湖に消えようとしていた赤い魔物を……湖岸近くから高速で飛来した、さらに大きな鳥型の魔物がつかんで湖から引きずり出した。
食われまいとそれに抵抗し、体を巻き付けたり、噛みつこうとする赤い蛇の魔物に、大きく動いて振り回し、爪やくちばしで攻撃して弱らせようとする鳥。
空中を舞台に、並の人間よりもかなり大きな2匹の戦いが繰り広げられる。
しかし、そんな2匹の、食うか食われるかの戦いは……最終的に、湖から飛び出した、ワニとサメを合わせたような、巨大な魔物によって2匹とも食らいつかれ、水中に引きずり込まれるという形で終結した。あまりにも唐突かつ鮮烈な結末だった。
「「「…………」」」
皆、一様に絶句する中……次第にその湖も小さくなって見えなくなっていく。
しかし代わりに――ってわけでもないけど、次々に、外の人達からしたら、目を疑うような超ド級のインパクトの光景が飛び込んでくる。
高さ20m以上ありそうな巨木がいくつも立ち並び……そこに、さっきの食物連鎖バトルの中にもいた巨鳥が巣を作って子育てしてたり、それとは別の木の葉っぱを首長龍が食べてたり。
四足歩行に三本角の龍が、進行方向の邪魔な岩を頭突きで粉砕して直進してたり、その近くにいた鳥とトカゲを合わせたような魔物が驚いて逃げ出したり、
お、あっちには、体長3mはあろう、ランクにしてAに位置する獰猛なイノシシの魔物『バーバリアンボア』……を、一撃で仕留めて捕食してる2足歩行の巨大なトカゲが。
さっきから絶句しっぱなしの皆さんを横目で見つつ、僕はその光景に、
(うんうん、上出来上出来)
そんなことを考えていた。
(『プテラノドン』に『ブラキオサウルス』、『トリケラトプス』に『リザードバード』に『ティラノサウルス』、あとさっきの『モササウルス』に『エビドラゴン』……どれもよく育ってるな。さすが僕の作品たち…………『収穫』が楽しみだよ(じゅるり))
この後、タイミングを見計らって教えるつもりだが……今ちょうど上空を通過しているこのエリアの名は……『ロストガーデン』。
僕が『品種改良』で作り出した、古代生物ちっくな魔物たちが跋扈するエリア。
そして、もうすぐそこも抜けるわけだけど……その先にそろそろ見えてきたのは……
(よーし、やっと着いた……)
見えてきたのは……僕が作った、新しい拠点。
ずっと遠くからでも一発でわかる……色んな意味で見た目のインパクト大な建物。
……というか、都市。
建物、いくつも密集してるし。あれはむしろ都市だ。『拠点都市』だ。
しかも、そのど真ん中にある建物……僕ら『邪香猫』のホームが、一際異彩を放っている。
デザインがもう……普通なんて言葉をはるかかなたに投げ捨てている。
ヴェルサイユ宮殿のような豪勢なお城……というわけではない。
荘厳かつ重厚、上品な雰囲気を漂わせる、ホワイトハウスみたいな感じ……でもない。
当然だが、天守閣を持つ日本風の城というわけでも、世界遺産みたいな遺跡チックにまとまっているわけでもない。
もし、現代に生きる日本人がアレを見たら……こんな感想を抱くんじゃないかな。
――地球防衛軍の基地か何かか?
ファンタジー0。時代・歴史を感じる要素0。
てか、滑走路とか迎撃用兵装とか見えるし。あと……そこはかとなく、多少変形しそう。
……ま、ともあれ……もう間もなく到着だ。
あと少しして皆さんが絶句から回復したら、言ってあげるとしますか。
ようこそ、僕らの拠点『キャッツコロニー』へ……とでも。
いきなりぶっ飛ばしてますが……うちの子はホントにもう……
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「そろそろ時間ではないか?」
「ええ……あと5分ほどです」
場所は、ネスティア王国中西部。
とある丘陵地帯。周りに何もない、開けた場所。
そこに……通常ならばこんなところにいるはずのない者たちが、そよ風をその身に受けながら、ぽつりぽつりと雑談をかわしつつたたずんでいた。
ネスティア国王・アーバレオンに……第一王女メルディアナ、第二王女リンスレット。
加えて、彼らの護衛である、王国騎士団総帥ドレーク、魔法大臣アクィラ。さらにその部下として、王国軍大将イーサ、一等騎士団所属上級騎士ギーナ。そして、王国軍少佐スウラに、二等級騎士団団長格アリス……と、少数ながら、それぞれの部下たち。
そして、身の回りの世話をする侍従が数名……といった、そこそこの所帯であった。
そこから少し離れたところには、かなり大型かつ豪華な装飾の『竜車』が止まっており、それに乗って彼らがここまで来たのだということが見てわかる。
「……もうそろそろだな」
と、メルディアナは……アクィラが手にもっている、やや厚めの一枚の紙を覗き込む。
大きさにして、掌に乗せられる程度の、その紙面では……おそらくは、魔法で刻印されたのであろう文字列が、時間と共に変化していた。
つい先ほどまで、『00:05:00』であったはずのそれは……今、『00:00:12』にまでその数――カウントを減らしている。
ドレークはそれを見て、全員に準備をするよう目で合図を出し、部下たち――アクィラと王族以外はおよそ全てそう言って差し支えない面々は、それに従う。
彼らは、これから何が起こるかは知らされていない。
というよりも、ドレークやアクィラ、王族たちですら、何が起こるのかは知らない。
知っているのは……今からここに、『迎え』が来るということだけだ。
これから自分たちが行く場所からの……そして、そこの主である、ドレークとアクィラの最も『否常識』な弟からの、迎えが。
そして、とうとうその紙面のカウントが『00:00:00』になった……その瞬間、
―――♪~♪♪~♪♪~♪♪、♪~♪♪~♪♪~♪♪
「「「!?」」」
突如として丘陵地に響き渡った、耳慣れない電子音。
音質といい、きちんとメロディーを形作っていることといい、明らかに自然に由来する音ではない、と誰でもわかるものだった。しかも、どこから聞こえて来たのかわからない。
半ば条件反射的に、護衛の兵士や騎士たちは抜剣、王族たちの周囲に展開して陣形を整えようとするが……それより早く、全く別な場所で異変が起こった。
それは……空。
地上数十mはあろう、はるか上空に……突如として、『何か』が現れた。
「……何だ、あれは?」
「わかりませんが……多分、うちの弟の仕業だとは思います」
つぶやくように言ったメルディアナに、アクィラがそう返した。
2人の――否、そこにいる全員の視線が集まる先には……その誰もがこれまでの人生で、1度も見たことのないものが走っていた。
「蛇……? いや、まさか……龍、でしょうか?」
「いや、それにしては……見た目、硬質な感じが……虫ではありませんか? ムカデとか……」
「そもそも……生き物に見えませんね。車輪がついていて……空中にある道のようなものの上を走っているようです。となると……資材運搬用のソリや、トロッコの類か……?」
「皆目わからんが……1つだけ確かなことがあるのう」
と、ギーナ、アリス、スウラの予想をまとめる形で……イーサが言った。
「アレは……ミナト殿の仕業じゃ」
「「「はい、間違いなく」」」
女性3人のキレイにハモった返しに、何がおかしかったのか、くすりと笑うリンスレット。
その隣にいるメルディアナは、最初こそ驚いたものの……初っ端から面白いものを見ることになったこの旅程を思い、期待と興奮を隠し切れない様子で笑みを浮かべていた。
そんな彼女たちのもとに……大きく蛇行するような軌道で空中を走っていたそれは、ようやく降りてきた。アナウンスと共に。
『間もなくー、列車が到着いたしまーす。危ないですのでー、白線の『外側』までー下がってー、お待ちくださーい』
と同時に、草原に、エネルギー体と思しき2本の白いラインが走った。
もともとメルディアナ達を避けて設置されたのか、誰もその2本の内側に入っている者はいなかったが。
その十秒ほど後、そのラインの間にちょうど収まるように、空中を走って降りてきた『何か』……どう見ても『新幹線』にしか見えない、しかしなんだかやたらメカメカしく、特撮っぽいデザインが取り入れられた、色も黒系メインで異質なものが……駅も何もない草原に停車した。
そして、ちょうど一行の前に来ていたドアが、ぷしゅー……と音を立てて開き、
そこから、魔法によってレッドカーペットが一行の目の前まで伸び、
それに一拍遅れて……件の人物が顔を出した。
「えー……お久しぶりです。国王様」
今回の、彼ら一行の訪問目的そのものにして、現在この大陸全体で話題になっている人物……世界唯一のSSランク冒険者、ミナト・キャドリーユが。
☆☆☆
突然だけど、このたび、僕らの新しい拠点に……ネスティア王家の皆さん他をお招きすることになりました。
主に、うちの母のわがままから派生した理由で。
僕がSSランクになってから、もう2か月ほどになる。
野次馬避けにローザンパークに引きこもり、自分たちの『拠点』を作り始めてから経過した時間でもあるわけだけど……その『拠点』が、ようやく出来上がった。
まだ未完成な部分もあるにはあるけど、拠点として活用する分にはもう申し分ないレベルにまで仕上がってるし、『未完成』なのは僕の趣味でちょっといじくってる部分だ。
それに、趣味と言っても……一番重要な部分に関しては真っ先に終わらせてあるし。
とまあ、そんな感じで拠点はできたわけだが……そこで母さんが前々から言っていた、僕のSSランク昇進記念パーティなるものを開催するらしい。
……とかいいつつ、それにかこつけて家族皆で集まりたいだけらしいけど。
母さんいわく、ここ数年から、長いと20年近く会っていない兄弟姉妹もいるようで、久々に顔を見たい面々を全員集めるのにいい機会だ、と思ったそうだ。
ここぞとばかりに強権を発動、大陸中から自分の子供たち……僕の兄・姉を集め始めた。
そしてその中には当然、ドレーク兄さんとアクィラ姉さんもいたわけだけど……ここで問題が発生。
普段、王様の守護についている2人が一遍に国を空けるわけにはいかない、という話になった。もっともである。いくら家族から呼ばれたからって、そんな無理、普通は通らない。
しかし今回招集をかけたのは、そんな無理を通してしまえるお方。しかも、ご丁寧に『2人とも』という部分を強調した通知文が届いた。
断ったりして不興を買ったら後が怖い、と、国の上層部でどうしたもんかと話し合いになり……その結果、一緒についていっちゃえ、ということになったそうだ。
よくもまあそんなすさまじい案が出てきて、そして通ったもんである。
まあ、王様とドレーク兄さんは途中で抜けるらしいけど……そこはもう当然と言うか、仕方ないだろう。
さて……そんなわけで、僕らの『拠点』にネスティア王家御一行様をお招きするわけだけど……普通に『じゃ、来てくださいね』というわけにはいかない。
だって、道中、普通に危険だし。
『ローザンパーク』は、もとから危険区域の中ってことで、使節団1つ派遣するにも大変だった場所だけど……最近、僕が色々やったせいでもっと大変になっている。
ぶっちゃけ、今までと同じ感覚で使節団派遣すると、よくて被害倍増……悪いと全滅する。
まあ一応、いろいろ工夫してその前に引き返せるようにしてあるけど。
ともあれ、そういうわけで……ドレーク兄さんたちの護衛なら不可能じゃないかもしれないけど、危険には変わりないし、そもそも普通に時間がかかる。
なので、当初からドレーク兄さんたちの『送迎』に使用しようと思っていたコレ……魔力機関式旅客輸送列車『ナイトライナー』を使うことにして……こうして今日、迎えに来たわけだ。
なお、あらかじめ兄さん達に、こっちで用意した『チケット』を送っておいた。
その表面には待ち合わせ時間までのカウントがリアルタイムで表示される上、それが目印になって迎えを待っている場所がわかる、というマジックアイテムである。
そして、注文通り大きく開けた草原の上で待っててくれていた王族御一行様を回収。
部下や侍従の皆さんも回収。別の車両に、だけど。
で、今、僕らは……先頭車両にて、王女様たちと一緒に過ごしている。『ローザンパーク』への到着を待ちながら。
「まあ……! 私、こんなに早く、しかも空を飛んで動く乗り物など初めてです! 今は斯様な乗り物があるのですね!」
「いやいやいや、こんなもん私だって知らんさ。どう考えても、ここ数か月の間に誕生した乗り物だろう。……しかし、本当に速いな……飛龍も容易く置き去りにできそうだ」
車窓から窓の外を見ながら、王女様たちはそんな風に……まさしく、初めて新幹線に乗った子供のような感じで、それぞれにはしゃいでいた。
その様子を、向かいに座っている僕とナナが笑いながら見ている形だ。
最初は、2両目に用意した、グリーン車的な『VIP用車両』に案内したんだけど、そこにはドレーク兄さんと国王様、それにそば仕えの侍従の人たちだけが残り、あとの王女様2人はギーナちゃん達ともども僕らと同じ車両を希望したので、こっちに通した。
まあ、本人たちさえいいなら、ってことで、許可した。
別に、見られて困るもんもないし。
本当は国王様が、ドレーク兄さんも兄弟ってことでこっちにやってくれようとしたんだけど、護衛として来てるんだからってことでドレーク兄さんから辞退して同じ車両に残った。先頭車両には、王女様たちの護衛ってことでアクィラ姉さんだけが来ている。
ああ、あとギーナちゃんとスウラさん、それにアリスとイーサさんも来てるけど。
一応、第二車両には……こっちからもメイド兼監視を派遣してあるので、まあ何も特に問題はあるまい。
それと、先頭車両には当然、王女様たちの他に、今回迎えに行くのについてきた僕の仲間たちもいるわけだけど……実は、それ以外のメンバーもいる。
王女様たちと、同じような立場の人たちだ。
ここに来るまでに拾ってきた……他の国の要人の招待客達である。
……っつっても、レジーナとルビス、それにエルビス王子なんだけど。
あと、諸事情により、昨日のうちに、オリビアちゃんを『拠点』まで送り届けてある。
オリビアちゃんは、単にザリー経由で『参加したい』って言ってきたのと……あと他にも1つ、彼女を呼ぶ理由があるため。それも理由の1つとして、一足先に彼女は送ってある。
色々とお世話になってるし、ザリーのガールフレンドだ、拒む理由はない。
というか、むしろ招待させてもらいたい気分だ。歓待という名の自慢のために。
レジーナは、向こうが出席を希望してきたってのもあるけど……こっちからも彼女にはちょっと用事というか、伝えておきたいことがあったため。
そして、エルビス王子とルビスは……親友であるメルディアナ王女や、他の国の代表の人たちを招いておいて、彼女たちだけ呼ばないのもどうかな、と思ったから。
ちなみに、貴族令嬢だけど、堅苦しい呼び方は嫌いだそうなので……ルビス、って呼び捨ての上、タメ口で話してます。
そういうわけで、今回のパーティ……家族以外に、ゲストとして参加を許可しているのが以上の面々であり……今、この『ナイトライナー』で大陸各地を回って集めてきたとこだ。
今は皆、さっき渡した、こっちが用意した駅弁――っぽい感じでシェーン達に作ってもらっておいた弁当――を食べながら、さっき話したようなはしゃぎ方をしている。
当然ながら初めて乗る『特急列車』に、驚いたり喜んだりと忙しそうだ。
「……なあ、ミナト……この窓、開けるわけにはいかないのか?」
と、窓の外の上下左右にせわしなく眺めながら、ルビスがそんなことを。
「いや、あいにく開けられないんだけど……何で?」
「ああ……上や横を、もっと見れんものかと思ってな」
「……言っとくけど、ホントに何も引っ張ったりつりさげて飛んだりしてないよ?」
ルビスは最初、この『ナイトライナー』を見て、『竜車』や、飛べる龍を調教して移動に使う『龍籠』のように、魔物か何かに運ばせてるものだと思ったらしい。乗る前に、しきりに気にしていた。
もちろんそんなことはなく、こいつは僕が作った移動用マジックアイテムであるので――アイテム、って言うにはやや大型な気がしなくもないけども――きちんと自力で走っている。
先頭車両の先端部に組み込まれている、精霊魔法を応用した具現術式によって、疑似的にではあるけど、線路……の、役割を果たす力場を作り、その上を走っている。
その力場の形が線路に見えるようにいじってあるけど、そこは遊び心だ。あれに実体はない。
したがって、車輪が回転して走ってるように見えるのもフェイクであり……確かにあれは回ってるんだけども、魔法駆動のためのギミックの1つに過ぎない。あと、遊び心。
この列車……実態は、電車というよりリニアモーターカーなのだ。磁力と魔力を利用し、そこにいくつものマジックアイテムを介して、飛行+高速移動を実現している。
「……魔力や磁力、その力場で飛び、走る……か」
「詳しく説明すると、これでもかってくらいに難しい話になっちゃうんだけど……聞く?」
「いや、いい。どうせ理解できなさそうだ……納得することにする」
「……ああ、それと……窓開けらんない理由は、もう1つあるんだけどね」
「風か? たしかにこれだけの速さで飛……じゃないのか……これほど速く走っていれば、窓など開ければ、すさまじい空気の爆弾が飛び込んでくるだろうと思うが……」
と、メルディアナ王女。
まあ、それもなくはないんだけど……
「今というか、走行中に車体表面で使ってる魔法が、ちょっと特殊なもので。体を外に出すと危険なんですよ」
「ほう……加速か? それとも、風よけの障壁か何かか?」
「えっとですね、何て言ったらいいか……説明が難しくて……」
メルディアナ王女の質問に、どう答えたもんか……パッと出てこない。
大雑把に言えば空間魔法の一種なんだけど、詳しく説明しようとすると、属性そのものの性質から解説しないといけないからな……僕の『虚数属性』は。
「簡単に言えば、空間の位相を……あー……猛スピードで飛んでると、飛んでる鳥とか魔物にぶつかる可能性があるので、その対策です。あ、風よけも一応兼ねてます」
「……あれ? 何アレ!?」
と、独り言のような調子でレジーナが言ったのが聞こえて、全員の視線が窓の外に向かう。
すると、そこに見えてきたのは……森だった。
富士の樹海やアマゾンのジャングルもかくや、って感じの、うっそうと生い茂る緑の森。
木々には木の実がなっていたり、所々に魔物なんかも見える。
「ほぉ……立派な森だな。いや、これほど生い茂っているなら、樹海と言った方がいいか」
「ええ、本当に……迷子になったら、絶対に出てこれなそうです」
「住んでいる魔物も強そうだ。あれが話に聞いていた、『ローザンパーク』を覆う危険区域か?」
と、メルディアナ王女の問いかけ。
すると、僕がそれに答えるより前に……イーサさんが口を開いた。
「いや、おそらく違いますな。というか……妙です」
「妙?」
「わしの記憶が正しければ……このあたりはまだ、旧『リアロストピア』……現『ニアキュドラ』から広がる荒野が続いている場所のはずです。この辺りまで森林が生い茂っていたはずはありませぬし、そもそも、砂礫ばかりの痩せた土地、植物が育つような土壌はなかったはず……」
「何、そうなのか?」
そう聞き返しつつ、メルディアナ王女は……イーサさんから、レジーナに視線を移した。
それにちょっとドキッとしつつ、レジーナは、
「う、うん……あ、いや、その……はい! えっと……最近、それこそ3、4か月前くらいまで、あの辺りはまだ砂ばっかりの土地だったはずなんですけど……」
「………………まさか……」
と、何かを勘ぐるようなアリスの声に……自然と、全員の視線が僕に集まった。
おいおい、何だよ皆、その目は? 何、また僕が何かしたって疑ってんの早速?
……まあ、大当たりなんだけど。
「やはりか……ミナト殿、今度は砂漠地帯の緑化実験でも始めたのか?」
「いや、そーいうわけじゃないんだけど……まあ、おいおい話しますんで」
スウラさんの呆れたような調子を含んだ問いにはそう返しつつ、
「けど、この森が下に見えたってことは……もうすぐ着きますね。目的地に」
「もはやおぬしらの縄張りというわけか……しかし、気のせいじゃろうかなあ……そこらの危険区域よりも安心などできんような場所に入った気がするわい」
「……その感覚、多分二重の意味で当たってますよ、イーサさん」
と、皮肉のつもりで言ったらしいイーサさんのセリフに……その隣に座っているアクィラ姉さんがそう返していた。
心なしか……顔には笑みが浮かんでいるものの、目や雰囲気は、比較的真剣な感じに見える。
「どういうことじゃ、アクィラ?」
「うちのミナトはまた、ちょっと目を離した隙に色々無茶苦茶やったみたいだなあ、と思いまして。ええとですね……あのあたりなんか、わかりやすいんじゃないかと」
そう言いながら、アクィラが指さしたのは……森林の一角、少し開けた場所。
そこには……かなり大きな湖があった。
「? アクィラ、あの湖がどうかし……」
イーサさんがどうかしたのか、と言い終わる前に、そこで異変が起きた。
湖の湖面で、ぱしゃっと魚が跳ねたと思ったら……そこに素早く飛来した猛禽っぽい鳥の魔物が、鋭い爪で魚を空中で捕獲。
その見事な技に、見ていたレジーナやルビスが『おぉ』と感嘆の声を上げた……その瞬間、
湖の中から飛び出した、赤い甲殻と長い胴体を持つ……エビと蛇が合わさったような魔物に食いつかれ、猛禽が捕まった。
「「「……!?」」」
ほとんどの面々が絶句する中、彼女らの脳内処理が追いつくのを待たず、さらなる異変が。
たったの二口で獲物を腹に収め、そのまま湖に消えようとしていた赤い魔物を……湖岸近くから高速で飛来した、さらに大きな鳥型の魔物がつかんで湖から引きずり出した。
食われまいとそれに抵抗し、体を巻き付けたり、噛みつこうとする赤い蛇の魔物に、大きく動いて振り回し、爪やくちばしで攻撃して弱らせようとする鳥。
空中を舞台に、並の人間よりもかなり大きな2匹の戦いが繰り広げられる。
しかし、そんな2匹の、食うか食われるかの戦いは……最終的に、湖から飛び出した、ワニとサメを合わせたような、巨大な魔物によって2匹とも食らいつかれ、水中に引きずり込まれるという形で終結した。あまりにも唐突かつ鮮烈な結末だった。
「「「…………」」」
皆、一様に絶句する中……次第にその湖も小さくなって見えなくなっていく。
しかし代わりに――ってわけでもないけど、次々に、外の人達からしたら、目を疑うような超ド級のインパクトの光景が飛び込んでくる。
高さ20m以上ありそうな巨木がいくつも立ち並び……そこに、さっきの食物連鎖バトルの中にもいた巨鳥が巣を作って子育てしてたり、それとは別の木の葉っぱを首長龍が食べてたり。
四足歩行に三本角の龍が、進行方向の邪魔な岩を頭突きで粉砕して直進してたり、その近くにいた鳥とトカゲを合わせたような魔物が驚いて逃げ出したり、
お、あっちには、体長3mはあろう、ランクにしてAに位置する獰猛なイノシシの魔物『バーバリアンボア』……を、一撃で仕留めて捕食してる2足歩行の巨大なトカゲが。
さっきから絶句しっぱなしの皆さんを横目で見つつ、僕はその光景に、
(うんうん、上出来上出来)
そんなことを考えていた。
(『プテラノドン』に『ブラキオサウルス』、『トリケラトプス』に『リザードバード』に『ティラノサウルス』、あとさっきの『モササウルス』に『エビドラゴン』……どれもよく育ってるな。さすが僕の作品たち…………『収穫』が楽しみだよ(じゅるり))
この後、タイミングを見計らって教えるつもりだが……今ちょうど上空を通過しているこのエリアの名は……『ロストガーデン』。
僕が『品種改良』で作り出した、古代生物ちっくな魔物たちが跋扈するエリア。
そして、もうすぐそこも抜けるわけだけど……その先にそろそろ見えてきたのは……
(よーし、やっと着いた……)
見えてきたのは……僕が作った、新しい拠点。
ずっと遠くからでも一発でわかる……色んな意味で見た目のインパクト大な建物。
……というか、都市。
建物、いくつも密集してるし。あれはむしろ都市だ。『拠点都市』だ。
しかも、そのど真ん中にある建物……僕ら『邪香猫』のホームが、一際異彩を放っている。
デザインがもう……普通なんて言葉をはるかかなたに投げ捨てている。
ヴェルサイユ宮殿のような豪勢なお城……というわけではない。
荘厳かつ重厚、上品な雰囲気を漂わせる、ホワイトハウスみたいな感じ……でもない。
当然だが、天守閣を持つ日本風の城というわけでも、世界遺産みたいな遺跡チックにまとまっているわけでもない。
もし、現代に生きる日本人がアレを見たら……こんな感想を抱くんじゃないかな。
――地球防衛軍の基地か何かか?
ファンタジー0。時代・歴史を感じる要素0。
てか、滑走路とか迎撃用兵装とか見えるし。あと……そこはかとなく、多少変形しそう。
……ま、ともあれ……もう間もなく到着だ。
あと少しして皆さんが絶句から回復したら、言ってあげるとしますか。
ようこそ、僕らの拠点『キャッツコロニー』へ……とでも。
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