魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第341話 打ち合わせ、そして出航

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 2ヶ月。
 オリビアちゃんから『ヤマト皇国遠征』の依頼を聞かされてから、準備に要した時間である。

 僕らにしては長めの準備期間を終えて――もっとも、ホントに準備大変だったのはオリビアちゃん達『フロギュリア』だろうけど――いよいよ出発の時が近づいてきた。

「やっほー皆の衆、お久しぶり! 今回は護衛、よろしくねッ!」

「……ああ、うん、久しぶりだねドナルド……ホント変わんないなあんた」

 というわけで僕らは、まずその前段階の手続きとかも含め、最終準備のために、出港予定地でもある港町『グラシール』に来たんだが……そこで、迎賓館で待っていたのが、この人だった。

 半年ほど前にフロギュリアに来た時も、出迎えとか簡単な説明を担当してくれた、フロギュリア連邦辺境伯にしてザリーの兄。ドナルド・トリスタンさんである。
 
 元気そうな兄の姿を前にして、しかしザリーはちょっと疲れた顔をしていた。

 そういやこないだ、ドナルドさんのこと聞いた時、『辺境伯になったんだからもうちょっと落ち着いてくれてたらいいんだけどな』って言ってたっけ……見る限りその望みは絶たれたようだけど。

 ザリー以上にチャラくて軽い感じの人ではあるが、公私をしっかり分けるON・OFFのしっかりした大人で、公務の場ではきちんと丁寧かつ優雅な礼儀作法をわきまえた動きができ……何より、女王陛下自ら評価して目をかけるほどに有能な人材、ってこの前にも聞いたな。

 その能力は、今回こうして『ヤマト皇国』行きの外交特使に選抜されていることからも明らかだ。

 今回の旅、メインの外交責任者が、このドナルドさんとオリビアちゃんの2本柱で行くって感じらしいんだよね。聞かされた時はびっくりしたなあ。

 で、そんなドナルドさんと、今回のクエストについての詳細な最終打ち合わせを行うため、こうして今日、迎賓館で待ち合わせたわけである。

「んじゃ、立ち話もなんだし、適当に座っちゃってよ。資料は人数分そこに、椅子の前に1つずつ並べてあるから適宜参照してちょーだい。あと、飲み物は基本なんでもあるからメイドに好きなもんジャンジャン頼んじゃっていいけど、会議だからできれば酒類はなしで」

 会議室に案内された僕たちは、言われた通りに席につく。

 席に置かれた資料はかなり分厚かったけど、少し読んでみると、かなり整理されてわかりやすくまとめられているのが分かった。これなら読むのにそんなに苦労はしなさそうだな。

 なお、この会議室に来ているのは、僕、エルク、ナナ、ザリー、ネリドラ、セレナ義姉さん、そしてオリビアちゃんの7人だ。あ、リュドネラも合わせれば8人だけど。
 主に『邪香猫』において、事務方を担当することが多い面々が中心である。

 そうでないメンバー……シェリーとかシェーンとかは、自由行動ってことで好きに町を回って待ってもらってる。面白そうなものがあったら、道中の暇つぶしとかに買っといて、って頼んで。

 そこにドナルドさんが加わったメンツが全員卓についたところで、会議というか説明が始まった。

「それではこれから、今回の遠征に関する説明に入ります。皆様、お手元の資料の2ページを開いてご覧ください」

 と同時に、ドナルドさんの雰囲気が180度変わる。
 さっきまでのチャラ男オーラは一瞬で消え失せ、出来る大人感バリバリのエリート公務員、って感じに変貌した。いつ見てもこれはびっくりするというか、慣れないな……

 まあ、だからって水差すこともないし、そのまま説明を聞く姿勢に入ったけども。



 今回の『ヤマト皇国』への遠征、及び僕たちのその使節団護衛のためのクエストは、フロギュリアの連邦政府が主体となって行う、いわば『国策』の一環である。と同時に、フロギュリアのみならず、このアルマンド大陸全体と『ヤマト皇国』がつながりを持つための第一歩でもある。

 基本的に連邦政府の選抜した使節団(ドナルドさん達)と、連邦の正規軍が主導で進むももの、何せ目指す先は未だかつて誰も言ったことがない秘境なわけだ。道中も含めて。

 そこに外交のための高級官僚を送り込むわけだから、そりゃいくらでも慎重にならざるを得ない。

 もちろん、国軍所属の超のつく実力者たちも何人か動員したらしいけど、その上で、オリビアちゃんを介してパイプのある僕を同行させればより安全だと思ったそうだ。100%自分達の力だけでできないのは残念だけど、安全に関わることである以上、背に腹は代えられない、って。

 むしろ、数多の規格外のマジックアイテムを所有している僕であれば、単なる戦闘能力以上に、その汎用性は無類である。どんな事態が起こっても迅速に対応してもらえると期待できる、という評価をもらっていたようだ。ちょっとこそばゆい。

 実際にそうなった場合……具体的には、僕に当初依頼した、道中及び現地での『護衛』以外で僕らに何かしら世話になった場合、その分も後から追加して料金を支払うということになった。

 時に、そんな『行ったこともない場所』にどうやって行くのか、そもそもどうやって今回その『実在する』っていう情報をつかんだのか、っていう疑問が元々あったんだが……それについても説明をもらえた。

 遡ること数か月前、フロギュリアの沖合で数人の漂流者が保護された。

 この漂流者が、どうやら『ヤマト皇国』出身の漁師らしく……漁のために船で沖合に出たところを、操船を誤って潮流に捕まり、そのまま流されて1ヶ月近く漂流したそうだ。

 漁船にしては大型だったため、保存食とかも積んであったものの、すぐに底をついてしまった。
 それからは釣りとか素潜りで取れる魚や海藻類を食べて食いつないでいたが、流石に栄養偏るだろうし、限界に近づいていたところを、フロギュリアの船に保護されたらしい。

 そこから当然『あんたらどこの人?』という話になり、何かうさんくさいけどもし本当だったら大変だってことで行政府にも話がいき、調査した結果どうやらマジらしい、ということになった。

 で、その漁船の乗組員の1人が、航海術や測量の技能を持っている人だったらしく、流されている間も何かの役に立てばと思って、出来る限りの観測を続けていたんだそう。

 簡易的とはいえ、船にあった専門の機材も使って行われた測量だったため、そのデータはかなり信頼できるもので……実際、フロギュリアの近海に来てからの測量データを、海軍が持っているそれを比較してみたところ、少々の誤差はあったものの、概ね性格だった。

 検分を担当した人は、あの極限状況下でよくここまで続けたものだ、って褒めてたらしい。

 それから何度か、その測量データを使って、少しずつ海路の開拓を行っていたらしい。
 が、小規模かつ散発的に行うには限界があるところまで来ていた。

 ゆえに、勝負に出る……という言い方をするとアレだけど、今回は一気に『ヤマト皇国』本土まで足を進め、完全な海路を開拓・確定させると同時に、可能であれば送り込んだ使節団に頼んで条約の1つも結んでしまおう、という風に考えているんだそうだ。

 さらに同時に、その時保護した『ヤマト皇国』出身の人たちも故郷に返そうというつもりらしい。当たり前かもだけど、もう何か月も故郷の土を踏んでいないから、彼らもずっと帰還を嘱望していたんだそうだ。

 他に打算的な部分がないわけじゃないが、彼らもこの航海が上手くいけば、ようやく故郷に帰れるとあって期待しているそうだ。

 この後、出向前にちょっと会えるそうなので、少し楽しみだ。どんな人達なんだろ。やっぱ東洋系かな?

 まあそれはさておいて、

 そういうわけで、その人達の測量データを元に『ヤマト皇国』を目指すわけだが、旅程は以下の通り。あくまで予定というか、目安くらいに考えてるけど。

 まず、片道の航海に2週間から1ヶ月程度かかる。

 これは、漂流者たちが乗っていた漁船と、フロギュリア正規軍配備の軍艦の船速の差を考慮した上で産出された期間である。

 今回は軍艦5隻+オルトヘイム号の計6隻で隊列をなして動くわけだけど、それによる速度低下を考慮に入れても、このくらいの期間があれば、彼らの言っていた情報や測量データからして、到着できる見込みだとのこと。

 気象条件や海の魔物の襲撃など、不確定要素によって多少なり前後はするだろう。
 スムーズにいけば2週間程度、長くても距離的には1ヶ月あればどうにか、っていう計算。

 なお、最大で1ヶ月半まではこの航海日程は伸ばせるものの、それ以上経っても目的地が見つからない場合は、帰りの期間もあるので、残念ながら任務失敗と判断して帰還するそうだ。
 まあ、何か月も延々と探してるわけにもいかないからね、そういう損切りも重要ってことか。

 無事に『ヤマト皇国』に到着したら、何らかの形で先触れを出し、上陸許可をもらった上で、代表者が少人数で上陸。この時、護衛として僕ら『邪香猫』も一緒について行く。

 この説明をもらった際、小さくガッツポーズしてしまった。
 よかった、船で留守番とかじゃなくて。

 まあ、ホントに何が起こるかわからないのは、そりゃ上陸した後だろうからね。当然ではある。

 そこからは現地でケースバイケース、臨機応変に対応する必要がある。
 何せ、現時点では漁師の人たちから聞き出した情報しかなくて、現地の行政システムがどんな形になっているのかさえろくにわかっていないのだ。その辺を把握しながら、最適な対応を現場の判断で取っていく必要がある。

 それに一番向いている人材だってことでドナルドさんが登用されたらしい。信頼厚いな。

 そしてその限られた情報って言うのが……また少なくてね。
 どうやらその漁師さんは、こっちでいう一般の平民階級の人だったようで、あんまりそういう制度とかに詳しくはなかったのだ。

 『よく見かけるお役人様ならともかく、偉いお上やお貴族様のやっていることなんてのはとても……』と、恐縮そうに話していたとのこと。

 加えて、どうやらその国を支配しているのは『みかど』や『天皇』と呼ばれている人だそうで――名前は知らないらしいが――その下に、軍事機関であろう『武士』や、さっき言った『貴族』や『お役人』がいて、色々と政治を回しているようだ。
 階級はどれが偉くてどれがそうでないとか、そのへんはやっぱりわからないそう。

 貴族はともかく、『お上』に『お役人様』、『武士』そして『天皇』『帝』か……やっぱりというか、何か時代劇の日本の気配がしてきたな。ここまでくると、単に偶然名前が一緒だっただけか、っていう可能性も逆に低くなってくると思う。

 そしてその漁師たちは、単なる平民だったので、稼ぎの中から税を納めて日々を過ごしているだけ、っていう感じだったらしい。

 そして、こっちの大陸と同じで、きちんと(と言っていいのか)魔物や亜人もいるようだ。

 もっとも、彼らは『あやかし』とか『物の怪もののけ』、そして『妖怪』という呼び方をしているようだが。それこそ、両者ひっくるめて。明確に区分されず、混同されている可能性があり……単に意思疎通できるかできないかで区分するくらいしかしていないようだ。

 ただ、こっちの大陸と同じように、『妖怪』全部と敵対しているとか、討伐対象にしているとかじゃなく、多少なり話が通じて交流できるような相手であれば、むやみに敵対せず、一緒に暮らしたり、交易という甲地で、相互に商売したり、ということもしているそうである。人の住む町に普通に暮らしたり、そこで働いたりしている『妖怪』もいるそうだ。

 それらの話を1つ1つ聞いて……いまいちピンとこない、あるいは『まあ普通に亜人とかみたいなもんか』程度の認識しかできないからだろう、エルク達のリアクションは薄い。

 しかし、僕は表に出さないようにしているだけで、聞けば聞くほど『何それすっげー見たい!』とはしゃぎたくなってくる気持ちを抑えるのに必死なんですがね……和製ファンタジーだ、やばい今から猛烈に楽しみ。

 さて、話を戻して……そういう国で、いけるところまで友好的な関係を築くために色々やって、同時進行でその国のものを何でもいいからたくさん持ち帰る。資料として。

 その為の換金用の貴金属その他をきちんと用意して、平和的に商取引で様々な現地のものを手に入れる。素材、貴金属、武具、薬品、食材……文化がわかるものや書籍なんかもできれば。
 それらを持ち帰って、今後の付き合いのために詳しく国の文化その他を分析する資料とする。

 そういう即物的な物品はもちろん、使節団が見聞きした全ての情報は有益な土産であり、資料になるだろう。帰ってからもしばらく、聞き取りとか報告で時間取られるかも、だそうだ。

 そして最後に、来た時と同じように海を渡って帰る、と。
 航路が確定されてるから、来た時よりはハイペースで、スムーズに帰れるだろう。多分。

「現状、提示できる情報はこのような所です。その他、詳細な情報等については資料の方に全て記載しておりますので、時間がある時にでもご参照ください。また、質問はこの会議の場ではもちろん、随時受け付けますので遠慮なく提示してください。何かありますか?」

 仕事モードのままのドナルドさんに対し、はい、と何人かが手を上げる。

 なお、僕は手は上げてない。
 間違っても冗談で『バナナはおやつに入りますか』なんて聞くような場面じゃないし……現状、質問とかもすぐには思い浮かばないからな。

「はい、ではナナさん」

「今回の遠征、我々の船以外……他の軍艦の乗員の人達の食料や消耗品については、基本的に自分達で用意して、運搬もそちらで行うんですよね? ただ案として、『収納』系統のマジックアイテムを保有する我々の船に、一部運搬の負担を、別に手数料を支払って依頼する、というものがあったように記憶していますが、それについてはどうなりましたか?」

 ああ、そういえばそんなのもあったな。

 ナナの言う通り、僕らの船『オルトヘイム号』には、空間歪曲で作り出した超大型の貯蔵庫があり、そこに大量の食糧その他物資を備蓄しておけるようになっている。
 そしてそのスペース、僕らの分の数か月分のそれを積み込んでも、まだまだ空きがあるんだよね。

 そこに、フロギュリアの方で用意した物資を積み込んだらどうか、っていう話があった。

 フロギュリアの船には、当然そんな気の利いた保存機能はないので、実際にその船に積み込める分しか持っていくことはできない。

 『収納』系のマジックアイテムもないことはないだろうけど、それも限りがあるから。

 そしてそこに人員も載せるわけだから、結構スペースを圧迫される。

 以前『サンセスタ島』に行った時とはわけが違う、超がつくほどの長期間を過ごすことになる。途中の補給に不安がある以上、食料も消耗品も、その他日用雑貨や嗜好品も、必要量自前で用意して持っていく必要があるわけだけども……さすがに数か月無補給でやれるような量を積み込んで持っていくってのは無理だ。
 普通は補給部隊なんかを用意して対応するわけだが、片道船で数週間って距離でそんなことできるわけもない。

 ゆえに、自前でそういったものを用意できる僕らに頼んで、船の保管スペースを間借りさせてもらい、食料その他物資を十分に積み込みたい、という案がでていたのだ。
 
 なお、この手の『収納系』マジックアイテムは、人の手で作れないことはないんだが、その規模はごく小さな範囲にとどまる上、空間系魔法の術式をめちゃくちゃ精密に組み込んで作成する必要があるため、非常に値が張る。

 収納可能な量を考えると、とてもコスト的に見合わないし、そもそもただでさえ絶対数が少なく、多く作れるものでもないようなそれを、必要数そろえるなんてことは不可能であるため、軍隊では一部の特殊部隊とかエリート部隊くらいしかそういうのは備品でも持たされていないようだ。

 まして、僕が作ってるような超大容量の収納アイテムや、あちこちにしれっと使ってる空間拡張だのなんだのって技術は、彼らからすれば遥か雲の上の技であり、とても自分達が再現できるような者ではない、ということだ。自画自賛失礼。

 なお、僕や師匠はそういうアイテムをいくらでも作れるとはいえ、現状、本当に信頼できる人にしか、贈与も貸与も販売もしていない。

 具体的には身内だけ。転売も禁止している。
 むやみやたらに広げていいもんじゃないだろう、って、僕と師匠の見解が一致してるので。

 オリビアちゃんとレジーナには例外的に贈与あるいは貸与しているが、彼女達の依頼で大規模に販売する、とかいうこともしていない。

 フロギュリアとしては、5隻の軍艦のうち2隻を、そういった物資を多く積み込めるような構造の、いわゆる『補給艦』にして、輜重隊扱いにして対応するようだけど、それでも不安はある。

 なので、ギリギリまで議論したらしいんだけど、背に腹はなんとやらってことで、どうやら僕らに依頼することに決めたようだ。

「保管・運搬を依頼する食料は、現在順次この町に運ばれて来ているので、明日あたりから引き渡しを始めたいと思っていました。よろしければこの後、そのあたりの条件を詰めるための打ち合わせの時間をいただけますでしょうか」

「了解。じゃあ、細かい話はそこで、ってことで」

「はい。では、他にいらっしゃいますか?」

 ナナが納得してイスに深く座りなおしたのと入れ違いで、今度はエルクが『はい』と手を上げた。

「この遠征ですが、内容や規模を考えると、随分早く出発するというか、準備期間がかなり短めで、急いでいるような印象を受けるのですが、何か理由が?」

「ええ。簡単に言えば時期的な問題です。遠征にかかる期間と、帰ってくるタイミング。その時々の海や港の状態などを考慮した上で決定した目安になります」

 さっき言った通り、この遠征は

1.2週間~1ヶ月かけて航海
2.現地で数週間~数か月かけて外交
3.また航海して帰還

 の3つのステージに分かれている。

 これら3段階、全体としては大よそ4か月~8か月程度の日程を見込んでいる。
 やたら幅が広いのは、しつこいようだが、政務1つとっても何をするかわからないからである。

 今現在、季節は秋。これから寒くなる季節だ。
 寒くなると、フロギュリア連邦において、会場には流氷が漂い、吹き荒れるスコールは視界ゼロの猛吹雪にその姿を変える。そして、ほとんどの港は凍ってしまう。

 例外的に凍らない『不凍港』なども存在するものの――グラシールもその1つだ――できるなら冬の間に船を出すとかつけるとか、しない方がいいのだ。

 氷以外にも、冬の間だけ姿を見せる強力な魔物とかもいるし、凍ってる海なんてのは、泳ぐことも飛ぶこともできない人間にとって戦いづらいことこの上ない。落ちたらほぼ死ぬし。

 それを考えると、今から4~8か月という期間であれば、早く見ても丁度冬が終わったくらいの時期に帰ってくることになるので、その意味で都合がいいのだ。

 逆に、さっきちらっと触れた『遠征失敗』でとんぼ返りしてくる場合でも……失敗と判定する約1か月半以内であれば、ギリギリ本格的な冬になる前に帰って来れる、という見込みらしい。

 どっちにしてもちょうどいい期間ってわけだな。

 その他、色々と細かいことを逃さず、主にエルクとナナが、時々オリビアちゃんやザリーも混ざって1つ1つ確認していく。うちの事務方メンバーは、こういう場面で細かい疑問にも残らず気づいて、あらかじめ確認しつくしてくれるから頼りがいがある。
 
 それらの質問を終えて、最後に再度何かないか確認してから、その打ち合わせは終わった。



 そしてその数日後。

 打ち合わせで確認した『フロギュリアの物資の積み込み』も無事終わった。

 当然だが、僕らの分とは比べ物にならないすごい量だった。まさか拡張した倉庫が9割方埋まるとは……大型・超大型の魔物を討伐してそのまま持ち帰ることすら想定して作った場所なのに。

 さらにその後、出発に向けての壮行式みたいなイベントが行われた。

 一応、チームを代表して僕らも出席したんだが、こっちは何と言うか、単なる形式的なイベントだったため、開始10分くらいで飽きてしまってその後はぼーっとしてた。
 バレで横の嫁に小突かれたけど。

 ただ、その式典でちょっと気になった点が1つ。

 事前にネリドラとかに聞いた話だと、こういう式典には、来賓としてフロギュリアのお偉いさんが出席して激励の挨拶とかをするのが通例らしいんだが、今回の式典にはそういった立場の人はほとんど見なかった。

 元貴族組曰く、新たな国家への航路を切り開く今回のような一大事業であれば、それこそ女王様が出張ってきてもおかしくないくらいだ、ってことだったんだけど……実際には来たのは、中央の閣僚?クラスが1~2名程度。女王様どころか、公爵や候爵クラスの高級貴族も来ていない。

 唯一来ていた『候爵』クラスは、この『グラシール』を領地として治めている貴族の人だけだった。お膝元での一大イベントだから、その人が来ることに不思議はないけど……いやむしろ来なかったらそっちの方がよっぽど不自然だよな。

 軍艦が動くくらいのイベントだし、自分の娘が参加するんだから、オリビアちゃんちのお父さん……軍部の高官であるウィレンスタット公爵だって動くと思ってたのに、本人どころか関係者の1人もいないし。

 当初予定していた、国境付近のなんとか基地への物品・人員輸送のクエストのキャンセルといい――こっちはまだ今回の遠征のせいと言えなくもないが――ひょっとして、何か中央の方でトラブルでも起こってんのかな? その対応に追われて、女王様や高級貴族が軒並み動けない、とか?

 ……考えすぎか。



 そして、無事式典も終わり……その数時間後。

 港に集まった大勢の民衆たちに見送られ、僕らは『ヤマト皇国』へ向けて、いよいよ出航した。



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