魔拳のデイドリーマー

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第18章 異世界東方見聞録

第340話 遠足前日の小学生の気持ち

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 冒険者にとって『護衛依頼』というのは、『討伐依頼』や『採取依頼』と並んで、最も身近な依頼形態の1つであると言える。
 しかし同時に、その冒険者の『総合的な力量』そのものが、最も如実に反映される依頼区分でもある……って、誰かに前に聞いた。

 なぜなら、一口に『護衛』とだけ言っても、その中身は様々な要素を含んでおり、依頼を受ける冒険者は、そこで起こるあらゆる事態に対処した上で、依頼を遂行しなければならないからだ。

 襲ってくる魔物や盗賊を撃退、あるいは討伐して護衛対象を守るのはもちろんだが、それをきちんとこなすにも、ただ単に戦いの準備だけしていればいいわけじゃあない。

 クエストの期間にもよるが、長期間補給なしでも戦闘行為に支障が出ないように、あらかじめ可能な限り消耗品や食料その他、必要な物資を確保して包囲しておくことは基本として、だ。

 護衛対象のスケジュールを把握し、その日どこに行くか、どんな道をどんな手段で通るかをきちんと確認し……それに合った、最適な護衛プランを考えておく。

 また、護衛対象そのものについても、必要なら調べる必要があるだろう。
 例えば、護衛対象が子供であれば、その場その場で予測のつかない行動を取る恐れがあり、一瞬の油断で見失ってしまったり、敵対者にその瞬間を見極めて襲撃を受けたりして、取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねないからだ。そういう可能性は、極力減らしておくべきである。
 
 それに、『どこで』ないし『どこからどこまで』護衛するかっていう情報も重要だ。

 何もない普通の平地で護衛するのか、はたまた見通しの悪い山林の中を進むのか、足場の悪い山岳地帯を進むのか……そういうのを事前に調べ、より護衛しやすくなるように準備物をそろえたり、プランに反映させたりしておくのも、もちろん立派な『準備』である。

 要するに『護衛依頼』とは、ただ単に護衛対象を守るだけが仕事じゃない。
 結局はそこに集約されるとしても、そこに至るまでの全てのやるべきことをきちんとこなして、初めて『成功』という結果に結びつけることができるわけだ。

 だから、それを考えれば……不安になって当然なのである。

 下調べすべき、護衛する場所、ないし行き先に関する情報が……何一つない、何てのは。
 
 ゆえに、僕はこうして緊張してしまうのも……仕方のないことなんだ。うん、きっとそうだ。

「嘘つけ。あんたただ単にワクワクして眠れないだけでしょうが」

「……失敬な。ちゃんと緊張もしてるよ……半分くらい」

「もう半分は期待と高揚感ってわけですねわかります」

 ――とまあ、見事に我が嫁と秘書の2人には見抜かれてしまったわけだけども……。

 僕こと、ミナト・キャドリーユ。18歳。
 先日、オリビアちゃんに今回の依頼の『行き先』を聞かされて以来……遠足前日の夜の小学生よろしく、楽しみでろくに眠れない日々を過ごしております。


 ☆☆☆


 2週間前、オリビアちゃんから持ち込まれた話。
 もともとの依頼のキャンセルと、それに代わる新たな依頼の提示。そこで僕は……オリビアちゃんが提示した『行き先』を聞いて、とんでもない衝撃を受けた。

 極東の島国……『ヤマト皇国』。
 最近、新たにというか、ようやくその存在が確認された……長らく伝説とされてきた秘境の1つである。

 まあ、『秘境』なんて言ったら、そこに住んでる人に失礼かもしれないが――実際に人、ちゃんと住んでるらしいし――僕ら『アルマンド大陸』に暮らす民からすれば、今まで確認されなかった土地ってだけで、そう認識して、そんな風に呼んでしまうのも、ある程度仕方なくはあるだろう。

 実際、色々と尾ひれがついたりして、『黄金の国』なんて呼ばれてたわけだし。
 前情報を聞いた限りだと、別にそんなことはないようだけど。

 そんな場所の存在がとうとう確認され、オリビアちゃんの母国『フロギュリア連邦』は、そこに調査団を兼ねた『使節団』を派遣し、現地の行政府と何らかの形で国交の足がかりを作る。それが今回の渡航の目的である。

 それだけでも広い『アルマンド大陸』を飛び出し、地平線まで真っ青な大海原を超え……人が棲んでいる場所とはいえ、まさしく『未知』の領域への冒険なのだ。
 冒険者たるもの、コレにわくわくしないでどうする……ってもんだ。



 ……と言いつつ、僕がこのクエストにワクワクして、そして同時に緊張してもいるのは……それとはまた別な理由というか、視点もあってのことなんだけどね?

 言うまでもないだろう。僕の前世が、どんな国の人間だったかを考えれば。

 『黄金の国』という別名ないし認識。
 『極東の島国』というかなり特殊な立地条件。
 『ヤマト』という独特の語感。

 ……これで気づかなきゃモグリどころの話じゃないだろう。
 明らかにコレは……

(どう考えても……『日本』のことだよな。いや、それそのものなんじゃなくて、それと似たような設定の国、ってだけだとは思うけどさ……いや、それでも……うーん……)

 『黄金の国』ジパング。
 かつて、大航海時代だかの欧米諸国が、日本という国を指して言っていた呼び名だ。

 当時、日本では金――小判が貨幣として普通に流通しており、それらが欧米諸国との商取引の際にも使われたために、『日本には惜しげもなく国外に流して出してしまえるほどに黄金が有り余っている』と解釈されてしまい、そこからついた呼び名……だったとかそうでないとか。
 諸説あるらしいが、僕は何かでそう読んだ。

 また、日本という国は、ヨーロッパを世界の中心……というか、世界地図の真ん中に持ってきて見た場合、右の端っこに来る。
 すなわち、中心よりずっとずっと東、という位置に来るわけだ。ゆえに、『極東』と呼ばれた。

 そして何より……国名の語感。
 
 生まれてから……というか、冒険者としてネスティアの『ウォルカ』でデビューしてからずっと、僕の周囲にいた人達の名前は、ことごとく欧米系……横文字の名前だった。
 そういうもんだと思ってたから、何も違和感とかなかったし、不思議にも思わなかったけど。

 その中にあって、僕の『ミナト』っていう名前は、やや語感が違って聞こえるからだろう。『変わった名前だ』と言われたことも、一度や二度じゃない。

 まあ、欧米人から見た、日本、ないし東洋系の国の名前は大体そうだし、そもそも世界各地、国や地域が違えばそういう感じになるなんてのは当たり前のことだ。

 日本人から見ても、欧米は元より、中東に東南アジア、中国に朝鮮半島、ロシアに南米……どこの国を見ても、多少なり違和感があって、発音するにも難儀する名前が出てくるだろう。
 国が違い、文化が違い、宗教が違い、言語が違う。それだけの理由で。

 そんな僕が、この欧米ベースだと思っていた『異世界』で、むしろ『なじみがある』という感想を抱く名前となると……逆にというか、明らかに違和感を覚えるわけだ。
 だからこそ余計に、『日本』を想起することとなった。

(けど考えてみれば、そういう……欧米系じゃない名前の人が、今まで全くいなかったわけじゃないもんな。それこそ、この大陸でだって、語感に違和感がある名前の人は、何人かいた)

 例えば……『サンセスタ島』の一件の時に会った人達。
 チラノース帝国の冒険者として現れた、AAAの『ダモス・ジャロニコフ』と『シン・セイラン』の2人。片方はロシア系、もう片方は中国語系の名前だ。と、思う。

 たしか『~コフ』っていう名前って、ロシアに多かった気がするし。
 
 セイランさんの名前も、語感はもちろん……苗字と名前の順番も東洋方式だったし。

 あともう1つ。こちらはさらに顕著というか極端な例だけど……『ローザンパーク』に初めて行った時、イオ兄さんから案内役としてつけてもらった2人。ナズナさんとカスミさん。

 2人共、名前の語感が思いっきり日本風なのに加え、着ている服も和服っぽかったし、作れる料理も日本食(もどき)だった。

 そして何より、種族がな……ナズナさんは、顔の真ん中に単眼が特徴の『一つ目小僧』、カスミさんは首が伸び縮みする『ろくろ首』で、日本でも有名な『妖怪』だったんだよな……。

 あの時は、似たような特徴の亜人種なのかと思っちゃったけどね。
 ほら、フレデリカ姉さんも、額に第3の目あるけど、あれも『邪眼族』っていう亜人だし。

 しかしこうなると、ひょっとしたらあの二人……あるいはそのご先祖様あたりが、その『ヤマト皇国』の出身で……あの2人、本当に『妖怪』なのかもしれない、とも考えられる、のか……?

 その辺もぜひとも知りたいもんだな……果たして、『ヤマト皇国』、一体どんなもんが待っているのやら……。

 ちょうどいい。こないだ、師匠から『強くなりたければ『未知』を切り開け』ってアドバイス貰ったとこだ。
 こんな超特大の『刺激』、願ってもない。

 とはいえ、それ以前にこれはちゃんとした『依頼』であるわけなので、きちんとオリビアちゃんに求められている依頼内容をこなすのが大前提になるし、そこを疎かにするつもりは微塵もないけどね。

 冒頭で言ったように、『護衛依頼』をきちんと完遂するために、今まさにこうして、可能な限り情報を集めて、それを元に色々プランを立てたり、それも含めて必要な物資をリストアップしてるところだし。

 もともとここにエルクとナナがいるのは、その打ち合わせのためなのだ。
 ただ単に、来てみたら僕のにやけた顔が目に入って呆れられて、冒頭のアレにつながっただけで。

「さて、雑談や世間話の類はこのへんにして、仕事の話しよっか。エルク、ナナ、適当に座って」

「うん」

「はい」

 この部屋……僕の執務室には、ナナやエルクも一緒にここで事務仕事ができるように、彼女達ようのデスクが置かれている。そこにそれぞれ着席して、僕ら3人は仕事モードに入った。

 真面目な話、全く未知の領域に行くのは確かなんだから、きちんとできる準備を全て済ませてからじゃないと、出発することはできないしね。

 今までも、『花の谷』や『サンセスタ島』、『リアロストピア』に、フロギュリア各所の危険区域といった場所に赴くのには、きちんと準備した上で行っていた。行った先に何があるか、何が起こるかわからなかったから、必然『何が起きてもいいように』準備を整えて行った。

 空間歪曲系のアイテムをふんだんに使える……というか、その他もろもろのマジックアイテムを自作できる僕だから、普通の冒険者とは比べ物にならないくらいに物資や装備を充実させて挑むことができるとはいえ、流石にそういう場所へ行くのに、緊張は全くのゼロにはならない。

 というか、しちゃいけないだろう。いくら色々な準備をして行こうとも、どれだけ不測の事態をあらかじめ想定しようとも、それで予測しきれない事態があるからこそ怖いもんなんだから。

 だからせめて、入念に入念を重ね、本当の本当に可能な限り準備を整えるのだ。

 初心者だろうが熟練者だろうが、冒険者にとって基本中の基本であり、いくつになっても、どれだけ強くなろうとも、大切にしなきゃならない根っこの心構えである。

「それじゃ、確認ね。こないだ提出してもらった一覧表から、準備品に変更とかはない?」

「はい、特にありません。数量も元々余裕をもってこのくらいは、という感じで挙げたものですので、あの量を確保できれば問題ないはずです」

「確かに、あれだけあれば当分は大丈夫だ、っていう感じの量だったわよね。まあ、最終的に数か月単位での遠征にもなるわけだから、そのくらいしておいてちょうどいいんでしょうけど」

 ぺらっ、と資料をめくりながら、エルクの言う通りだな、と僕は思っていた。

 そこに書かれているのは、超が3、4個付くくらいに大量の『準備物』のリストだ。
 エルクが言った通り、数か月もの間続く遠征に行くわけだから、このくらいは用意しておかなければ安心できないのも確かだ。だから、不思議も不満も何もない。

 ない、けど……やっぱりこの数字には圧倒されるな。

 何せ数か月分だ、1週間や2週間かそこらの遠征とはまたけた違いになる。
 加えて今回赴くのは全くの未開の地(行ったことないという意味で)。いざって時に備え、完全に自力でその間の期間を生活できるような形にしておかなければならない。

 一番重要なのは、やっぱり食料だよな。

 長期保存が可能になるように加工した、乾物やら缶詰・瓶詰やら、あるいは冷凍したものやらをメインに構成されているんだが……量がね。数百個とか数千個なんてのは当たり前で、個数じゃなくて重量で表しているものは、キログラムを通り越してトン単位で表記されているものすらある。

 だが決して多すぎる量じゃない。

 コレはあくまで一例だけども……軍隊や自衛隊が、現場で活動する隊員に持たせる一日分の食料って言うのは、意外と多くてかさばる。

 いわゆる『レーション』みたいな携帯食料だけ食べてればいい、なんてことはなく――それこそ物資がなくて、正真正銘の極限状態とかだったらそれしかなくなるんだろうけど――栄養バランスを考え、適量食べて腹を膨れさせ、適正なカロリーを摂取できるように用意されるからだ。

 主食、主菜、副菜を一式として、十分に腹が膨れる量が缶詰なんかで用意され、国によっては汁物や、簡単なデザートまで同封されることもあるようだ。

 しかも、水を注いだり封を開けるだけで温められて、温かい出来立て同然の食事が食べられたりするのだ。

 戦時中の旧日本軍だって、飯盒を1人1つ持たせ、それを使った自炊を推奨していたらしい。1日1回の糧食配給の際には米を渡して、それを自分で炊いてできたてを食べるように、と。
 保存とかも考えてのことだったんだろうけど、意外に思う人も多いんじゃないかな?

 軍隊の仕事ってのは力仕事が多くなるから、どうしてもそういう栄養補給は重要ってことだな。加えて、肉体的にはもちろん、美味しい食事はメンタルにも影響あるし、常に良好なコンディションを保つにはそれくらいの配慮は当然しなきゃいけないわけだ。

 そして、そういう食事を3食分となれば、それ相応の量になる。重量もキロ単位だろう。
 それを持って歩くってのは中々に負担になる。
 補給物資を専門に運んだり扱ったりする『輜重隊』が必要になる理由がわかるってもんだ。

 さて、今軍隊や自衛隊、戦時中の日本軍やらを例に出したけど、当然僕らも遠征中は食事をするわけで……しかも僕らの場合、基本的にメニューこそ変えれども、クオリティは決して下げないように食材を持ち込む気で揃えてるからな。主に僕らのメンタル面の余裕のために。

 小麦粉(加工してパンや麺にする用)や米、ジャガイモといった炭水化物系に、長期保存できるよう加工した肉や魚、海藻類や豆類といったたんぱく質、無機質。
 ビタミンやカロチン系の栄養素を取るために野菜や果物。これらは特に保存が難しいから、缶詰や瓶詰はもちろん、ジュースにしてビンや缶に密封して入れたりして持ち込んだりもする。
 さらに、飲み物やら嗜好品、調味料・香辛料の類も忘れちゃいけない。

 飽きないように多くの種類を、足りなくならないように大量に。それこそ、僕ら『邪香猫』メンバーだけとはいえ、無補給でも数か月自給自足で生きていけるような量を。
 そりゃ、トン単位にもなろうってもんだ。

 さらに言えば、今食料についてだけでこんだけ語ったけど、当然持ってく物は食料だけじゃない。冒険者として活動する上で、そしてオリビアちゃん達の『護衛』として動く上で、必要なものは、同様に全て、過不足なく持っていかなければいけないのだ。

 ページをもう1つめくると、それが書いてある。次も、その次もだな。

 投げナイフや手裏剣といった消耗品の武器類、予備の武器、回復薬などの消耗品、消耗品じゃないけど壊れやすく、予備を用意しておくのが半ば前提な備品なんかも数多くそろえる必要がある。後は武器の手入れに使うものや、僕の場合自力で調整とか修理したりもするから、素材もだな。

 数か月連続ともなれば、衣類なんかも着回しで使うにも限界があるだろうし、予備のものを結構な量持っていくべきだ。戦闘で、あるいは探索や調査、作業の最中に、修復不可能なほどに壊れたり、洗ってももう着れないくらいに汚れたり、なんてこともあるだろうしな。

 その洗濯に使う洗剤や、僕らが体を洗うためのシャンプー、リンス、ボディソープなんかも必要になるだろう。あと、女性陣は化粧品とかも……これは個人個人の注文枠だからそんなに量はないけど、一度に用意する量としてはそれなりだからきちんとチェックしておかないとな。

 その他、日常生活+冒険者としての活動を数か月無補給で行えるだけの物品をそろえて持って行かなきゃいけないわけだ。
 加えて僕ら、生活のクオリティ落とす気ないからな。そりゃ、とてつもない量にもなるだろう。

 これらの必要物資だが、半分くらいは外注して手配している。ノエル姉さんの『マルラス商会』や、ジェリーラ姉さんの『アントワネット財閥』を頼った。

 超大口の注文だから、結構色々と手続きとか確認とかあって大変だったけど、それを済ませれば迅速に動いてくれる両者のおかげで、十分期日までに揃う見込みだ。

 そしてもう半分は……自作である。

 もうずいぶん前に話したきりだが、ここ……僕ら『邪香猫』の拠点である『キャッツコロニー』には、工場区画『ファクトリー』が存在する。機材から何から僕が作った、現代風を通り越して近未来レベルの工業機械類が稼働している、汎用性の高い生産レーンだ。

 ここで大概のものは作ることができるし、必要に応じて――例えば、ノエル姉さんやジェリーラ姉さんの依頼で――缶詰とか瓶詰の大量生産をここで行うこともある。抱えている生産ラインじゃ、大口の注文に追い付かない時とか、何度かヘルプで貸した。

 貸したって言っても、ここの従業品は全員僕が作ったメイドロボ(作業用タイプ)だから、品質とか数量の確認とかの時に見てもらったりした程度だけどね、関わったの。

 今回もここを使うわけだ。缶詰や瓶詰の超大量生産に、この生産レーンを使う。

 加えて言えば、材料もこちらで用意する。
 『ロストガーデン』をはじめとした、この付近で取れる食材を大量に用意して加工し、それを原料にして食料を作成するわけだ。

 肉、魚、野菜、果物、飲み物……ほぼほぼ何でもそろうからな、ここ。そういう風に作った。

 ここでもそろわないものは、それこそノエル姉さんたちに頼んで用意する。そして加工する。

 こないだから既にフル稼働で『ファクトリー』を動かしてるし、その材料の確保には、ビートとネールちゃんにも手伝ってもらえることになった。

 『お前ェら腕の見せ所だぜ!』って、めっちゃ張り切ってたな、ビート。相変わらず体育会系だというか……微妙に自画自賛になっちゃうけど、僕のために働けるのが心底嬉しいらしい。

 ネールちゃんも、体育会系とは無縁とはいえ、『私でお役に立てるのでしたら!』って、気合十分で手を貸してくれることになったっけ。

 そんでその時、あらためて2人共『ランク測定不能』なんだな、って思ったな……。

 ビートたちはこともなげに、1匹あたりが弱くてもAランク、強いものでAAAとかになる、ロストガーデンの恐竜や改造生物たちを、全種類、ダース単位であっという間に確保してくるし……

 ネールちゃんなんか、『ユグドラシルエンジェル』の力で、希少な植物まで含めた野菜や果物、薬草類や海藻類なんかまで、あっという間に成長させて大量に用意してくれたっけ。

 その他、『ドリンクマウンテン』や『貝柱』、その他、僕が面白半分で作った色々な『食べ物系スポット』で取れるものをすぐに集め、飲み物やら調味料まであっという間にそろった。

 加工する分の食材、その9割以上の仕入れがすぐに終わったよ。おかげで、迅速に『ファクトリー』での生産に取り掛かることができるようになった。

 食料の生産が終われば、今度は消耗品のうち、僕らが自前で用意するものの生産だ。
 ノエル姉さんやジェリーラ姉さんのところじゃ、いくら大商会とはいえ用意できない、しかし僕らには必要になるものも、少なくはないからね。

 代表例はポーションとか、戦闘用魔法薬の類だな。
 主に姉さんたちから『危なっかしくて扱えるかそんなもの』って突っぱねられた系統のやつ。

 後は同じように、マジックアイテムを含めた消耗品、準消耗品で、外注できない僕オリジナルのものがメインになるだろうな。
 
 あ、でも、僕が使う『手裏剣』だけは、今も素材だけ託してノエル姉さんに頼んで作ってもらってる。これはまあ、願掛けみたいなもんだからな、僕の。
 初めてオーダーメードで作ってもらった武器だから、ゲンを担いでる感じ。単なるこだわりだ。

 そんな感じで量も種類も半端なく多いけど、ここで妥協するようでは、冒険者として半人前以下だ。時間がかかるのは元より承知の上。エルクとナナと一緒に、きちんと1つ1つ全て確認した。

 気づけば随分と時間が経っていた。用意しておいた飲み物も、ピッチャーまで空になってるな……ターニャちゃん呼んで新しいの貰おう。

「準備物はこれで問題なさそうね。現物が揃い次第、所定の場所にまとめて、後でチェックしていきましょ」

「そうですね。あと大前提ですが……これだけの量を運ぶのに、軍艦一隻分の積載容量では到底足りないわけですけど……ミナトさん?」

「ご心配なく。その点も含め、僕の方も着々と準備は進んでるよ」

 そう言って僕は、デスクの上にあるパソコンをカタカタカタ、と操作する。
 すると、空間にホログラムで映像が映し出された。部屋のど真ん中、エルクとナナからよく見える位置に。

 そこに現れたのは、僕らの旗艦『オルトヘイム号』の立体映像だ。

 しかし、よく見ると微妙に細部が異なっていることに気づくと思う。

 かつて師匠の所での修行中、師匠とミシェル兄さんと協力して『幽霊船オルトヘイム号』を改造して作ったのが、今まで運用してきた『浮遊戦艦オルトヘイム号』だ。

 名前の通り飛べるのはもちろん、魔力式の大砲やミサイルの発射機構などの様々な兵装に加え、内部には最新式のコンピュータ型マジックアイテムに、それとシステムを連結させた無数のマジックアイテムが設置され、快適に暮らすことができる。

 常時展開しているバリアによって、そこらの魔物の攻撃はほぼ完璧に防いでしまえるので、警戒にすら値しない。

 そして最大の武器である『荷電粒子砲』は、直撃さえすればSランクの魔物すら一撃で蒸発させるほどの威力だ。

 これだけでもかつて『何ちゅうもんを作ったのよあんたは……』とエルクに戦慄しつつ呆れられ、他の皆からも(マッド枠除く)大体同じような評価をもらったものの……今回、僕はそれをさらに強化することにしたのである。

 空間歪曲をさらに強化して、収納スペースを増やすのはもちろんのこと……快適に暮らすために必要な施設をいくつも増設し、マジックアイテムの類のさらに色々と運び込んだ。

 もちろん、兵装類もがっつり強化してある。見た目はさほど変わらなくても、その戦闘性能は、以前のバージョンのオルトヘイム号から比較しても、一線を画すレベルだと言える出来だ。

 間取りだけはあんまり変えないように気を使ったけどね。迷わないように。

「工業区画に栽培プラント……これひょっとして、『ファクトリー』と『ビオトープ』の縮小版? あんた今度はこの船自体に生産機能まで持たせたのね」

「完全な自己完結機能は流石にないから、アーコロジーとまでは言えないけどね。事前に種やら何やら用意しておけば、艦内のプラントで食料を自作できるようにもなってるんだ。保存食だけじゃ味気なくなることがあるかもしれないし、現地で取れた食材とかも栽培できるでしょ?」

「遠征には頼もしい機能ですね。生活区画もさらに改良されているようですし……後で下見の機会を設けてもらってもいいですか? 事前に内部構造を把握しておいた方がよさそうですし」

「それはもちろん。ただ、まだちょっと改装中の区画があるから、あと少し時間貰うけどね。あと、相変わらずと言うか、立ち入り禁止の区画は健在だから、近づかないように」

「あんたの『ラボ』でしょ? わかってるわかってる」

 そゆこと。わかってればよろしい。

 あそこに入れるのは基本、僕と師匠、それにネリドラとリュドネラだけだからね。
 条件付きでとか一部区画までだけなら、ミシェル兄さんやメラ先生も、母さんとかも入れたことあるけど……本当にやばい区画は、僕と同類のマッド系人種だけだ。

 あと、専用のメイドロボ(助手タイプ)と……実体化してる状態のアドリアナ母さんくらいか。彼女はむしろ、『キャッツコロニー』のマザーコンピューターと繋がってさえいればどこでも行けるし、そもそも実体がない魂が本体だから、データ方面で手伝ってくれる形だけど。

「じゃ、準備物と設備に関する話はこのくらいでいいかな。最後にエルク、『ヤマト皇国』への遠征に連れてくメンバーについてだけど……」

「選定終わってるわよ。と言っても、あんたと相談して決めた面子とほぼほぼ変わりないけどね」

 『はいコレ』と言ってエルクが差し出してくれた1枚の紙を確認。
 なるほど……うん、いいんじゃないかな。

 この前相談した時も思ったけど、色々考えた上で選ばれたことがわかるメンバー表だ。



冒険者チーム『邪香猫』
ヤマト皇国遠征任務 選抜メンバー(案)
(オルトヘイム号乗員と同一とする)

リーダー  :ミナト・キャドリーユ
副リーダー :エルク・カークス
戦闘員   :シェリー・サクソン
情報担当  :ザリー・トランター
秘書官   :ナナ・シェリンクス
庶務    :ミュウ・ティック
オペレーター:クロエ・フランク
医務官   :ネリドラ・プエロトニコワ
医務官助手 :リュドネラ
厨房主任  :シェーン・コーファー
出向人員  :ギーナ・シュガーク
顧問    :オリビア・ウィレンスタット
顧問    :クローナ・C・J・ウェールズ
顧問    :ミシュゲイル・クルーガー
ギルド担当者:セレナ・バース
ペット   :アルバ



 なるほど、この15人と1羽ってわけだ。うん、いいんじゃないかな。バランスよく、互いの長所短所はもちろん、仕事のカバーもまんべんなくできる人員が揃ってると思う。

 しかし、師匠と、依頼人であるオリビアちゃんはいいとして……ギーナちゃんやミシェル兄さんも参加なんだな。久しぶりかも、クエスト絡みでこの2人と一緒に行くの。

 というか、この名前の横についてる……『役職』? みたいな記載は何だろ? 前、相談した時はまだなかったよね?

「コレ、そのままギルドと、オリビアのところに提出するメンバー表にしようと思って記入しといたの。役職は、『邪香猫』関係者としてのそれぞれの立ち位置よ。建前っぽいのもあるけどね」

「なるほどね。……僕やエルクのは、チーム登録の時にそう決めてたからいいとして……よく考えたもんだな。まあ、実際そういう業務任せてたから、きちんと言葉にしただけではあるけど」

 僕とエルクの『リーダー』『副リーダー』はいいとして、

 シェリーが『戦闘員』、ザリーが『情報担当』、ナナが『秘書官』か。
 どれも納得の役職名だけど……ミュウが『庶務』ってのは?

「あの子はホラ、いつも必要に応じてナナや私の手伝いしてくれたり、事務仕事とかやってもらったり色々してるじゃない。頭もいいし。加えて、『召喚術』を労働力に大抵の仕事はこなせるから、総合的に色々担当、的な意味でそうしといたの」

 なるほど、納得。

 ネリドラとリュドネラは『医務官』で、シェーンが『厨房主任』。
 セレナ義姉さんが、ギルドからのチーム自体の『担当者』ね。

 クロエの『オペレーター』は……まあ、若干わかりにくいかもしれないけど、船の操縦とシステム全般の管制官みたいなもんとして認識しといてもらおうか。
 あと、必要に応じて戦闘機も操縦するけど。

 あと、ネスティア王国から交流人員ってことで普段『キャッツコロニー』に滞在しているギーナちゃんが、今回の依頼にも『出向人員』として参加だ。ネスティアからの、ってことかな。

 部外者っていうか、他の国の正規の軍人連れてっていいのか、ってオリビアちゃんにはもちろん確認したけど、意外なほどあっさりOKが出た。

 聞けば、もともと今回の遠征で得た情報はある程度同盟国間で共有するつもりでしたから、むしろ都合がいいとのこと。問い合わせるまでもなく、情報窓口の1つになってくれるなら、って。

 本当に都合が悪いというか、フロギュリア内部だけでとどめておきたい事柄何かについては、きちんとギーナちゃんや、それこそ僕らの耳にも入らないように交渉とか処理するそうだ。だから、見聞きしたこと基本的に何でも報告してもらって大丈夫だって。

 大雑把というか、大物というか……さすがだなオリビアちゃん。

 そしてそのオリビアちゃんだけど、『顧問』なんだな。
 あと、師匠とミシェル兄さんもその位置づけのようだ。

 言いえて妙だな。確かに3人とも、正規メンバーじゃないけど、身内であると自信もって言えるし。
 色々アドバイス貰ったり、もののやり取りしたりしてるし、拠点の『ホーム』に部屋を持って普通に住んでるから……うん、こういう立ち位置が一番当てはまるだろう。

 で、最後にペットのアルバね。
 最近また成長して、単純な火力だけなら、僕と師匠に次ぐレベルのそれだからな。

 加えて、元々高かった危機察知能力にも磨きがかかっているし、エルク同様に伝家の宝刀『マジックサテライト』を使えるこいつの力は、未知の場所でこそ頼りになる。

 最近では、行った先の拠点とか、あるいは『オルトヘイム号』の船番とか任せることも多いもんな。こいつ睡眠ほぼ要らないから、夜通し警戒し続けてくれるし。

 移動砲台としても、超高性能の索敵センサーとしても、頼りにさせてもらっている。

 この15人と1羽で、目指すわけだ。極東の島国を。

 期間とか規模も合わせて、『邪香猫』旗揚げ以来最大の冒険になる予感が今からしている。
 ごまかさず言おう。楽しみでしゃーない。

 一体どんな場所で、どんな人達と出会って、どんな発見や、どんな戦いがあるんだろうな……!



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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

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【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

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 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

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