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第17章 夢幻と創世の特異点
第335話 アスラテスカと異空間の秘密
しおりを挟む――ガゴォン!!
轟音を立てて、さっきまでなら押し込まれたり、吹き飛ばされていたであろう威力の『アスラテスカ』の拳を、僕は難なく受け止める。
僕がいきなりパワーアップしたことに、仮面に覆われたその向こうで驚いているような気配が一瞬したものの、即座に拳を引いて、アスラテスカは反対方向からのフックで斬り込んでくる。
フックと言っても、常人が食らえば即爆散間違いなしの威力だが。
しかしその拳も、同様に僕が手でバシッと払うようにして防ぎ、お返しにこちらも拳を叩きつける。ガッツリ魔力の乗った、闇色の拳を。
さっきまでこいつに浴びせ、しかしこの堅牢な仮面や装甲に無効化されていたものとは一線を画すレベルの拳が、仮面の頬の部分にクリーンヒット。その威力に、アスラテスカはこらえきれず、思いっきりのけぞって体勢を崩した。
まあ、何も不思議はないけど。
さっきまでの通常形態と、この『アルティメットジョーカー』では、全てにおいて比較にならないくらいの差がある。ライダースーツ調の黒装束と装甲に、前髪が金髪に、瞳が緑色になった異色の形態に変身した僕は、完全にアスラテスカを圧倒する側になっていた。
もっとも、その『強すぎる』って点が問題になってる部分もあるから――あと個人的に『強化変身』は普段から使うもんじゃない的な考えも――普段は封印してるけどね。
実際、このモードが発する力は強すぎて、余波だけで周囲のザコモンスターとか消し飛ぶであろうレベルの戦いになるから。
(それ考えると、この『異空間』であんまりこの形態で暴れるのも考え物だよな。負荷がかかって空間が壊れたりしたらことだし、そもそも長引かせる理由ももうない。さっさと終わらせよう………………ところで、今の感触……こいつもしかして……?)
殴った時に、ふとあることに気づいたりもしたんだが、まずはそれはおいといて。
のけぞったところから復活する寸前のアスラテスカに、今度は僕は腹に膝蹴りを叩き込む。
さっきの僕と同じように、体を強制的に『く』の字に曲げさせられるアスラテスカ。
そこからさらに、もう片方の足回し蹴りを決めて宙に浮かせると、ほんのわずか、無防備になったその顔面に……引き絞って魔力を込めて、渾身のストレートパンチを叩き込む。
ドガァン!! と、人サイズのものを拳で殴った音だとは思えないほどの轟音が響き、さっきと同じように、アスラテスカは壁まで吹っ飛んでめり込んだ。
しかしその壁も崩れ、床に墜落する。
今度はすぐに体勢を立て直すこともできないようだ。脳震盪か、はたまた単純なダメージか……
しかし、動けないなら動けないでやりようはあったようだ。
体勢を低くし、力を溜めるような動きをすると……仮面の口の部分に、発光と共に魔力が収束していくのが見えた。
(アレってまさか……ブレス系の攻撃か? なるほど、近距離戦一辺倒、ってわけでもなかったのね)
そんなことを思いながら、僕は……
『Walpurgis!』
念じると同時に、『アルティメットジョーカー』の固有武装の1つである光のマント『ワルプルギス』を呼び出し……次の瞬間、目もくらむような光と共に、アスラテスカの仮面の口元から、ブレス……に見えなくもない、魔力砲撃と思しき破壊光線が放たれた。
が、即座に展開した『ワルプルギス』を僕は前方にバッと翻させ、それを高速回転させて障壁代わりにし、破壊光線を全て防ぎきる。
だがそれがやむと同時に、アスラテスカの次の手が迫っていた。
「ミナト! 危ない、そっち行った!」
「!」
エルクの声を聴いて――まあその前に気づいてたけど――振り返った僕の目に飛び込んできたのは、さっきまでエルク達と戦っていたはずの『ツィロケトリ』4体。
それぞれの武器を構え、ある者は刃を振り下ろし、またある者は弓矢や魔法で一斉攻撃をかけてくるものの……僕が魔力を乗せて放った回し蹴り、その風圧と言うか衝撃波だけでまとめて散らされ、吹き飛んで壁に叩きつけられた。
「ふーむ……ま、AとかAAならこんなもんか……おっと」
と、その瞬間を隙と見て殴りかかってきたアスラテスカは、ひらりと拳をかわし、同時にその腕を両手でつかみ……一本背負いの要領で投げ飛ばして床にたたきつける。
勢いよく投げられ、その衝撃で床からバウンドして跳ね返って空中に放り出されたアスラテスカを、今度は僕はオーバーヘッドキックで蹴り飛ばして、また別な面の壁に叩きつけた。
すると、さっき吹っ飛ばした4体の『ツィロケトリ』が、ほぼ瀕死に見えるが、どうにか持ち直して武器を構えているのが目の端に移った。
「あー、特に危なくもなさそうではあるけど、一応気を付けてミナト。そいつら、倒しても倒しても復活するから……『召喚獣』みたいなんだけど、再召喚のスパンが異様に短いの」
「情報ありがと、エルク。なるほどね、そりゃ厄介だ」
召喚獣の再生特性を利用した疑似的な不死身の兵隊、しかも短いスパンで何度も呼び出せるから、消耗戦の形で戦わせられるってわけか。
どうやらアスラテスカの取り巻きとして、自分達だけでも、あるいはアスラテスカとも連携して戦うだけの能力をもってるようだし……ただの手下として指図してもよし、共闘するには実力差があっても、その不死性を生かして特攻前提の鉄砲玉や盾として使えるわけか。
ま、厄介なのはわかった。
けど……その程度ならいくらでも対処のしようはある。
飛びかかってくるものと、その場で弓と杖を構えるもの、両方の『ツィロケトリ』を、光の帯に変えて伸ばした『ワルプルギス』で縛り上げて拘束し、壁に叩きつける。
そして、もう片方の手に、
『Uroboros!』
2つ並んだ砲口を持つ、バズーカとロケットランチャーを組み合わせたような大型の射撃武器を呼び出し、その照準を『ツィロケトリ』達に向け――発射。
しかし、飛んでいくのは弾丸ではなく……
――シュゴォォオ――――ッ
火炎放射器のような勢いで噴き出される、強烈な冷気が吹き付ける。
無論、ただの冷気じゃなくて魔力を含んでいる上、ちょいと特殊な成分の魔法薬も一緒に吹き付けさせているんだがね……『ウロボロス』は、光弾や破壊光線だけじゃなく、事前に準備しとけば色々なものを発射できるので。
超低温の暴風にさらされた4体のツィロケトリは、そのままひとたまりもなく氷漬けになった。
しかし、氷漬けになった――だけでなく、魔法薬の効果で休眠&封印状態になっている――ことで、『死んだ』わけではないので、『再召喚』という形で復活することもない。
死んだら復活するなら、殺さないで無力化すればいいんだよ。不死身を相手にする時の常套手段だ。フィクションでは比較的おなじみのパターンと言える。
「もっともまあ……こいつ倒せばどっちみち無力化できそうだし、別に普通に消し飛ばしてもよかったかもだけど。復活するまでにこいつ倒せるだろうから」
振り返ったその先で、こちら目掛けて突っ込んでくるアスラテスカを見ながら、そんなことを思う。腕に込められている魔力は、今日一番の密度で……どうやら、正真正銘本気の一撃と見た。
僕はそれを、同じように魔力を腕に込めて、拳を握りしめ……それを正拳突きで突き出して、真正面から迎え撃つ……………………と、見せかけて。
――キュイン!
『虚数跳躍』で姿を一瞬消して空振りさせ、そのすぐ斜め上に現れて……サッカーボールキックでアスラテスカの顔面(仮面)に蹴りを叩き込み、何度目かになる放物線を描かせる。
そして、地面に墜落するより先に……
『Georgius!』
汎用近接変形武装『ゲオルギウス』を呼び出す。槍モードに変形させたそれを、投げ槍の要領で投擲し……空中でアスラテスカを貫いて壁まで飛び、叩きつけ、そのまま壁に縫い留めた。
さて、ここでこいつにトドメを指すのは、もう簡単だけど……その前にやることがある。
串刺し状態のアスラテスカに歩み寄り、僕はその体に向けて、右の手刀を突き出した。
しかし、その手刀はアスラテスカの体を貫くのではなく……ピシッ、と音を立てて『空間』に突き刺さった。アスラテスカの体からわずか数ミリのところで、この部屋の入り口を開いた時と同じ『異空間』の層を捕らえて、そこに突き刺さったのだ。
「……!? ミナト、それ……?」
「やっぱり……『アルティメット』になってから殴った時の感触で、もしかしたらと思ってたんだよね。どうやらこの部屋、財宝とかそういうの何もないわけじゃなかったみたいだ」
いくら調べてみても、一本道で分岐も何もなし、壁にも床にも天井にも、トラップもギミックも何もなく、見た目通りのタダの部屋と通路。
唯一の仕掛けは、最深部に来たところで出現した『アスラテスカ』と『ツィロケトリ』のみ。それも、侵入者を殺すためだけのものだと思ってたけど、どうやら違ったらしい。
嬉しいことに(?)、きちんとテンプレ通りに『財宝』が隠されていた。
「宝箱も隠し扉もどこにもない、見つからないはずだよ。こいつが……『アスラテスカ』自身が宝の隠し場所だったってわけ……だっ!」
言いながら、僕は突っ込んでいた手を、異空間から引っ張り戻す。
今度は、ここへの入り口を作った時みたいに広げることはできず……単なる隠し金庫か何かみたいに、中身を取り出すことしかできないようで。
しかし、きちんとその『中身』を捕らえ……僕は、それを掴んで取り出した。
(……本? 古文書か何かか?)
取り出したのは……重厚なカバーで装丁された、1冊の本だった。
表紙にタイトルらしきものとか、色々な模様なんかが書いてあるものの……読めない。知ってる文字じゃないな、形にすら見覚えがないから、文字なのかすらわからない。
けど、こんな奴を『隠し場所』にしてしまってあるくらいのものだ、多分けっこうな宝物だろうし……後できちんと調べてみよう。
ひとまずそれを『帯』にしまい……さて、じゃあ後は……『隠し場所』兼ボスの始末だな。
その直後、驚いたことに、『ゲオルギウス』を変形させて作った銀色の槍を自力で引っこ抜いて、アスラテスカは自由になり、僕に襲い掛かってきたが、体を貫通する大傷の影響は決して小さくはなく……技のキレも全くなかった。
連続して繰り出された拳も蹴りも、難なく受け止めたり、打ち払ったり、撃ち落としたりできる。
その大傷も、時間さえあれば自然回復で治癒してしまいそうに見えた。こいつどうも、ただの生命体じゃないっぽいな……精霊種? いや、アンデッドや魔法生物にも近いような気もする。
ま、その辺の解析は、血液や素材のサンプルを後で分析するとして……
繰り出してきた拳をよけつつ、クロスカウンターの要領で顔面を打ち据え、殴り飛ばす。
だがそこから即座に体勢を立て直しつつ……アスラテスカは、またしても突っ込んでくる。
しかし、今度は……殴りかかってくる感じじゃない。
勢いを……というより、助走をつけてスピードに乗り、
拳ではなく、右足にその膨大な魔力を集中させ、一点に凄まじい破壊力を持たせた矢じりのようにして……ここまで目にして僕は、こいつが何をやろうとしているのか理解した。
そして……それに気づいた瞬間、僕の特撮脳は、即座にいらん反応を示していた。
なぜそうしたかと聞かれれば、真っ向から勝負したかったから、としか。
例によって僕の特撮脳である。こういう場面、よくあるし、盛り上がるんだよ。
同じように走り出し、同じように足に魔力を溜め……右足の周りにブラックホールができたかのような凄まじい魔力の発光を伴った状態になる。
胸の『縮退炉』まで使って、さっきまでと比較してなお凄まじいと言える魔力が収束している。
そして次の瞬間、僕と『アスラテスカ』斜め上に跳躍した。
互いに、矢じりたるその足を空中で敵に向けて、繰り出したのは……そう、飛び蹴りである。
同じ技で(あくまで動き的に、だけど)真っ向からぶつかり合って雌雄を決する。そんな場面を望んだ僕の思い通りに、その瞬間は訪れた。
「アルティメット……ダークネスキック!」
アスラテスカの飛び蹴りと、僕の『アルティメットダークネスキック』が空中で正面から激突し…………一瞬の拮抗。
そして次の瞬間、
足が砕け、関節が爆発し、その向こうにある肉体にも膨大なダメージが通って砕け散る。
飛び蹴り同士、正面からの切り札、ないしトドメの一撃勝負で敗北したアスラテスカは……はじかれる様に後ろの方向に吹き飛んで墜落し……その瞬間、爆発四散した。
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