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第17章 夢幻と創世の特異点
第332話 観光遺跡の秘密
しおりを挟むジャスニアからの『依頼』は、さくっと終わらせた。
おおまかな設計図まで向こうで用意してくれてるのなら、それに沿って作るだけである。
それに加えて、特殊効果も何もつける必要ないってんだから、そりゃできるのも早いってもんだ。
さらには、素材まで向こうで用意してくれてたしね。
まあ、白金とかダイヤモンドとか、何の変哲もない貴金属ばっかりだったから、これじゃホントに単なる飾りの道具しか作れないけど、ってルビスに言ったら『だからホントにその『単なる飾り』でいいんだ』って、念押しされるように言われた。
……こっちはこっちで不完全燃焼だな……。ホントに僕じゃなくても普通に務まるじゃないか。
それこそ片手間とかででも作れそうな気がしたけど、流石に報酬をもらってやる『仕事』をそんな不真面目にやるってのはね。僕も、技術屋としてのプライドってもんがあるし。
一応は全力で臨むことにして、きちんと時間かけて集中して作りました。
まあ、ものの25分くらいで終わったけど。テレビアニメ1話分くらいか……まあ、『虚数』まで使って形状の調整とかやったからな。そりゃ普通にやるより早く仕上がるわ。
夕食待ってる間に終わらせたってルビスに報告した時は、お付きのヴィットさん共々遠い目をしてたな。
その後きちんと現物を見せて、品質的に十分及第点である、って確認してもらったから、これを提出する分には何も問題はないはずだ。
それが、昨日のことである。
そして今、僕は……『おまけ』として依頼にくっつけて話を持ち込まれた、ジャスニアの国王様との『謁見』に臨んでいる。
ネスティアでやった時は、応接間みたいなところに通されて、簡単に世間話とかした程度だったんだけど……今回は、『玉座の間』に通されて行うものになった。
時には大人数で通ることを前提にしてだろう。人が数人横に並んでも楽に通れるような大きな扉を通り、赤じゅうたんが入り口からだーっと長く伸びている部屋だ。
うん、実にわかりやすい『玉座の間』である。
赤じゅうたんの両側にはその国の貴族らしき人達が並んでいて、扉から入ってきた僕らに向けられる視線は、まあ……微妙なものだ。
胡散臭いものを見るような目の人もいれば、値踏みするような感じの人もいる。見下すような感じの目の人もいるし……怖がってる人もいる。あと、自意識過剰でなければ、憧れるようなキラキラした感じの目で見てくれている人も何人か。
前評判をどう聞いているのかはしらないけど、まあ、他人の評価というか、受け取り方まで気にしてても仕方ないし、さっさとやることやってしまうことにした。
ちょっと落ち着かない、居心地もあまりよろしくない中を進み、赤じゅうたんを途中まで歩いて、あらかじめルビスとエルビスから聞いていた位置で止まる。
その先にある玉座。当然そこに座っているのは、この国の王様である。
長いくすんだ銀髪を、なでつけるように後ろに流し、顎と口元には同じ色の髭を伸ばしている。どちらもきちんと手入れされているんだろう、ふんわりとした感じの見た目に見える。
質素とは言えないが、下品にもならない程度に豪華さを盛り込んだ服装で……王様としてのテンプレとでも言うべきか、分厚いマントを装備。貴金属の腕輪やら指輪も装備しているが、これも器用なもので、下品にならないギリギリの飾り具合だ。専門のデザイナーか何かいるのかね?
ちょっと注意して見てみたが、魔力の気配を感じたから……いくつかはマジックアイテムのようだった。王様だし、護身用とかかもしれないな。
「遠路はるばるよく参られた、『災王』ミナト殿。余がこのジャスニア王国の国王である」
「お目にかかれて光栄です。このたび、『依頼』を受けて品物を作成させていただきました、冒険者のミナト・キャドリーユと申します」
そんな感じで、簡単で無難な感じのやり取りだけを行う。
ほぼ、あらかじめルビスから聞いていた通りのやり取りだけで済んだので、楽ではあった。
一応、勧誘みたいなのもされたけど、それも言葉だけというか、形だけだったみたいだ。失礼にならないようにだけ気を付けてきちんと断ったら、それ以上引っ張らずにそこで終わった。
周囲の貴族の人たちも何も言ってこなかった。ちょっと残念そうにしてたり、面白くなさそうにしてたり、ほっとしてたり、視線から読み取れる感情は様々だったけど。
……特に、ほっとしたっていう感じの人たちは何だったんだろうか。僕を文字通りの災いか何かと考えていらっしゃる?
失礼な……別に何もしないよ。……何もされなければ。
しかし、ジャスニアの王様……ネスティアに比べると没個性的というか、普通な感じの王様だったな。強者のオーラとか、只者じゃない存在感・威圧感みたいなのも特に感じなかったし……失礼かもしれないことを承知で言うが、『凡庸』とでもいった感じだろうか。
まあ、むしろネスティアの王様が普通じゃない感じなのはわかってるけどさ。
存在感とかは確かにあるが、あんな暴れん坊で時代劇な感じの王様(しかも戦闘能力はAAランク相当)がそこら中に居ても困るだろうし……。
それに、あの王様はあの王様で、若い頃はやんちゃしてたのは知ってるしね……婚約決まってた近衛の人に手をつけてルビスを生ませたんだっけ? 勢いですごいことするよなホント……。
まあ、それで後のことは知らんとか放り出したわけじゃなく、一応責任は取ろうとはした――多少強引にでも周囲を納得させて王族に迎える、という形で――らしいから、道義ってもんがわからないわけじゃないんだろう。ルビスの方から辞退したみたいだけど。
まあ、そもそもその騒動が原因でルビスのもともとの実家没落してるから、だからって評価できるポイントか、って聞かれてもアレなんだけどもね……。
こうして無事に、建前・本番共にきちんと終了、依頼は完遂したわけなんだが……これでさっさとこの国から帰るのもな……。
☆☆☆
『それなら、近場にいくつか見て回れる名所があるから、よければ私が案内するぞ?』
相談したルビスからそう言われて、お言葉に甘えることにした僕らは、現在、王都・エルジャスディアの中、あるいはその周辺にある観光名所みたいなところを、ルビスの案内で回っている。
せっかくジャスニアの、それも王都まで来たんだから、依頼終わってハイさよなら、じゃもったいないからね……どうせなら楽しんで帰ろうってもんだ。
さすが地元民、とでも言えばいいのか、ルビスはきちんと僕らが楽しめるようなスポットを見定めて案内してくれたので、今のところとても心地よく過ごせている。
この王都ならではの特産品とか、美味しい食べ物を扱っている店はもちろんとして、普通の観光名所でも、冒険者である僕らでも、見て聞いて触れて楽しめるようなところを選んでくれた。
その観光の途中でちょいちょい思ったんだけど……同じ『王都』でも、ジャスニアはネスティアとはまた違った発展の仕方をしてるな。
この国は、たしか前に聞いた話だと……もともとは3つの別々な国で、互いに小競り合いレベルとはいえ争いを続けていたのを、極大規模の魔物の群れの襲撃という危機に、なんとかっていう英雄のもとに一致団結してその危機を乗り越え、それ以降3つの国が1つになったって聞いている。
ついでに、その英雄が新しい国『ジャスニア』の初代国王であり、3つの国からお姫様が1人ずつ彼に嫁いだというハーレムエンドを迎えた、という話もあったはずだ。
で、そんな背景を持っているからか、微妙に異なる文化が王都の中に混在しているのが、不思議とわかるんだな、これが。
食文化もそうだし、鍛冶や細工物なんかのもの作り系もそうだ。さらには家のつくりや、武器防具なんかにすらそういう傾向が見られる。
さらには、それらのうちの2つ、あるいは3つが混じったものすら見られた。
食べ物に関しては割と美味しかったし……生活雑貨なんかは、それぞれのいいところをうまいこと取り込んだものになっていたっぽい。
異文化交流ってのは、何を生み出す結果になるかわからないもんなんだな。
あと特徴と言えば……『ブルーベル』の時も思ったけど、この国って暖かいな。
気温が高い。けど、湿度は低めっぽいので、日本の夏と違ってジトッとした感じがない。
砂漠系の気候帯なのかな……僕は割と好きかもしれないな、こういうの。
ただ……場所にもよるけど、夏にはかなり暑くなったりもするらしいので、そのへんは注意、かな。変な時期にここ来ないようにした方がいいか……いやでも、逆に興味あるかもな、どのくらい暑いのか。怖いもの見たさ的な……
そんな感じで観光を楽しんでたんだけど……その途中、
僕らが、ルビスの案内で立ち寄ったある遺跡で、その内部を見学していた時のことだ。
「ここは『エルドーラ遺跡』と呼ばれていてな。救国の英雄であり、建国の父、初代国王でもある勇者エルドーラの名を取ってつけられた場所なんだ。その時代から今の世に残っている数少ない建造物で……」
ああ、そうそう思いだした。『エルドーラ』っていうんだっけ、そのハーレム英雄の名前。
まあ、別に嫉妬する感情はないけどね。僕も……他人から見れば、そういう状況になってるし、それを堪能してもいるし……ってそんなことはどうでもいい。
せっかくルビスが説明してくれてるんだから、きちんと聞け僕。
とは言いつつ、説明自体もそんなに中身が濃いわけじゃなかったけどね。
要するにここは、建国の時代からある古い遺跡であるが、どうしてか劣化が非常に遅く、保存状態がとてもいい。そのため、当時の状態ほぼそのまま残っている。
それを利用して、当時のことを知るために徹底的に調査がされたらしい。既に。
しかし、特に何か目新しいことがわかったわけでもなかったそうな。
今はこうして、貴重な史跡として国が管理しているものの、許可があれば立ち入れる程度の場所である。外観を眺める程度ならそれすらいらないので、半ば観光名所扱いになっているそうだ。
僕らの場合は、ルビスがきちんと許可取っておいてくれたので(こんなこともあろうかと、って自慢気に言ってた)中に入って見学している。
「しかし、遺跡か……『アトランティス』の時のこと思いだすな」
「ああ……私がミナト達と初めてあった時のことか。そういえば、いきなりどこかもわからない遺跡に転移させられて、死ぬ目にあったのだったな」
そうそう、AAAランクの魔物ばっか出てくる地獄みたいなところに出たんだっけね。そうだ、今思えば確かにアレが僕らとルビスの出会いだったんだっけね。
ルビスはあの後すぐに離脱しちゃって、遺跡の探索は僕ら『邪香猫』と、母さんたち『女楼蜘蛛』だけでやったから、詳しいことは知らないだろうけど。
色々ヤバい案件だから、『アトランティス』のことも表沙汰にはしてないし。
それでも……ほんのわずかな時間だけとはいえ、未知の遺跡で冒険した(という形に結果的になった)経験は、ルビスの中には鮮烈な記憶として残ったようだった。
「私としては、ミナト達がその後に行ったという遺跡にも、今となっては興味があるんだが……やはりそこも危険だったのだろう?」
「まあ、そうだね。当然のようにAAAの魔物とか出てきたっけね。一般人が興味本位で勝手に行ったら、まず死ぬ」
もっとも、テラさんが管理してるエリアとかなら大丈夫かもだけど、そもそもあそこにやたらめったら人を入れるつもりもないしね。
テラさん、騒がしいのは嫌いじゃないとはいえ、そんな風にテーマパーク扱いされても困るだろうし、そもそも万人に対してウエルカムってわけでもなかったと思うから。
「遺跡と言えば……こないだ言ったシャラムスカでも、最後は遺跡探索になったんだったか?」
「あー……いやでも、あれは楽しさとは無縁だったから……」
一緒に来ている面々……エルク、ナナ、シェリー、ザリー、ミュウ、そして義姉さんが揃って『あー……』って感じの顔になる。
うん、あの国はろくな思い手ないもんな。当然と言えば当然の反応だ。
しいて言えば、『義賊・フーリー』ことソニア達と知り合えたことが収穫と言えばそうかもしれないけど……それを補ってあまりあるレベルの大事件だったし。
それに、『ダモクレス』絡みでも色々あって、気が休まる暇がなかったし……。
挙句の果てには、ウェスカーが僕の生き別れの兄だっていう衝撃の事実まで…………ん?
そんなことを考えながら歩いていた僕は、ふと、何かの気配を感じて立ち止まった。
何だ、今……壁の方に、何か……?
「? どうした、ミナト?」
「何かあったの?」
と、僕がいきなり立ち止まったのに気づいたルビスとエルクが声をかけてくる。
「いや、今何か変な感じがして……上手く言えないんだけどさ。見えたというか、感じたというか……」
しかしながら、改めて壁を見てみても、特に何も変哲はない……けど……
「……? ねえルビス、この遺跡って、何かトラップとか、魔法系のギミックでもあるの?」
「いや、私が知る限りはないはずだ。まあ、昔の探索当初は全くないわけではなかったようだが、そのあたりは今ではもう軒並み解除されているし……」
「そう……ザリーは? あんたから見て何か感じたり、見つけられたりしない?」
「急に言われてもね……ルビスちゃん、ちょっとこのへん、壁とか触ってもいいかな?」
「構わんが……壊さないようにだけ注意してくれよ?」
許可をもらった上で、こういうのが得意なザリーが、僕が気になった壁のあたりを調べていた。
隠密系の技能に秀でている、RPGでいうなら『シーフ』系に位置するザリーなら、遺跡とかに隠されたギミックとかなら、見つけるのや解除するのは得意分野ではあるけど……。
しばらく、叩いたりなでたり、じっと見つめたりしていたザリーだが、ふぅ、と息をついて、
「……特に何も見つからない、ね」
「……そっか……」
ザリーでも見つけられなかったようだ。
念のため、探知・解析系のマジックアイテムも使ってみたけど、やはりそれにも反応なし……僕の気のせいだったのかな?
そう思っていたら、後ろからこんな会話が聞こえて来た。
「でも、ミナト君の勘って何だかんだで当たるわよね。粗末には扱いたくないっていうか……」
「ルビスさん。この壁の向こうって何があるんですか?」
「この向こうか? この位置だと……特に何の変哲もない、割と大きめの広間みたいな部屋だな」
シェリーとミュウの質問に、ルビスがそう答えを返し……やはり気になったため、その『反対側』に行ってみたところ……
「……まあ、御覧の通り、何の変哲もない部屋の、何の変哲もない壁だ」
「みたいね……って、ミナト?」
ルビスとエルクがそんな風に言ってるそばで、僕はすたすたと壁際まで歩いて行って……
――ずどっ
壁に、手を差し込んだ。手刀の形にした手を、文字通り『刺す』ように。
「!? お、おいミナト!? さすがに壊すの……は?」
ぎょっとしたルビスが僕を慌てて止めようとして……その直後、彼女も異変に気づく。
ほぼ同時に、後ろで見ていたエルクも……そして一拍遅れて、皆も気づいたようだ。
僕の手が、壁に突き刺さっているのではなく……まるで、空間そのものに突き刺さって、切り開くかのようにしていると。
「え、ちょっとミナト……な、何だそれ? 何をしてるんだ?」
「……それって、あんたがたまに模擬戦とかで使ってる……」
「エルク、正解。……僕も、何でここでこれが使えるのかはわかんないんだけどね。というか……この遺跡、何か隠されてるのか、ひょっとして?」
そうとしか考えられないよな……実際。
なんでこんな所に……『虚数魔法』でアクセスできる『何か』が構築されて隠されてるんだ?
術式は微妙に違うから、『虚数魔法』そのものじゃない。
けど、似てる。だからこうして干渉できた。そして、これは……実際に『虚数』を使う僕みたいな奴じゃなきゃ、発見できなくても仕方ないだろう。
それに加えて……長い年月によるものか、ほころびができてたから、壁の裏側からでも違和感とか気配を感じ取って気づけたけど、構築そのものは相当ち密になされてるな。
(けど、一旦理解さえできれば……!)
僕は右手に続いて、左手も同じようにして、何もない空間に『差し込む』。
そしてそれを左右に、ぐぐーっ……と、つかんで広げるようにして開いていき……
「み、ミナト、それ……!?」
その裂け目の向こうに……壁じゃない、そして壁の裏側(さっきいた場所)でもない、全く別な空間が姿を見せた。
「……ここは……『虚数空間』? いや、もっと別な異空間か? いずれにせよ……」
軽い気持ちで来てみた観光地で、えらいもん見つけちゃったな……どうしよう?
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