魔拳のデイドリーマー

osho

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第16章 摩天楼の聖女

第312話 本気と一撃

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時間制限あり、フィールド強度限界ありのサバイバル。

幸いなのは、味方あるいは『敵じゃない』立場の連中の人数が多い点だな……もっとも、それを補って余りあるレベルの不安要素がってほら言ってるそばから!

「轟風衝波!」

「ブルーファイアー!」

「もうちょっと気ィ使って戦え―――!!!」

向こうで、戟から発生させた衝撃波と、蒼い炎を収束させた閃光をぶつけ合わせていた。

ここまで衝撃波というか余波が届くんですけど……今ので足場の寿命1分か2分は縮んだよね。

ってそんなこと考えてる暇もなかった!
僕らの正面から走って突撃してくるリュウベエ。その手に持っている刀が……また、いやな魔力というかオーラ的なものを纏っている。

「――しっ!」

逆袈裟に振りぬいたその刃の軌跡に沿って、赤黒い衝撃波みたいなものが扇状に放たれ、周囲にその余波をまき散らしながらこっちにってだからあんたら何でそんな周囲にも余波でダメージ行くような技ばっかり使うの!? よりによってこの局面で!

あーもぉ、わかっちゃいたけどこりゃ予想以上に時間ないな! 3分も持たないだろ絶対!

『Walpurgis! Georgius! Uroboros! Operation……Ultimate!!』

「アルティメットジョーカー!!」

左腕に出現させた『エンドカウンター』を操作し、3つの特殊なCPUMが封印された魔法陣を……目の前に呼び出し、直後、僕の方が地面を蹴ってそれに突撃。通過。
次の瞬間、一瞬だけ漆黒の魔力の渦を纏い……それが晴れると、僕の姿は、最強形態『アルティメットジョーカー』のそれに変わっていた。

加減なしの本気モードになった僕は、音速を軽く超える速さで動きつつも、風属性の『精霊魔法』と『虚数属性』の応用で、周囲への衝撃波なんかの被害をほぼ0にして移動。

「――っ!?」

超加速し、さらに『虚数』で空間を飛ばして突如眼前に現れた僕に対し、リュウベエは驚きながらも即座に反応してみせた。
急に止まるのは無理だと考えたのだろう、少しだけ進路をずらして左によけ、すれ違いざまに刀で斬りつけるように動く。

が、それよりも早く、軌道をずらした先に割り込んだ僕の拳が、刀をよけつつ繰り出され、その顎に吸い込まれるようにヒット。打ち上げる軌道で、その体を真上に殴り飛ばした。

……バトル漫画とかなら、ここから時間いっぱい使ったサバイバルバトルが展開される盛り上がりどころなんだろうけど……繰り返すが、時間も余裕ももうない。
なので、KYだろうが何だろうが、速攻終わらせるように動きます。

両手両足に黄金色と黒紫色のオーラを纏わせ、身体能力をブーストし……ふっ飛んだリュウベエを追う形で、僕自身も上に跳躍。

それをリュウベエは、空中に居ながらも迎撃せんと剣を構え……ようとして、しかしその瞬間、動きが一瞬だけこわばり、止まる。

僕はそれが、視界の端に見えたウェスカーが『金縛り』をかけたせいだ、と即座に見抜いた。
『サンセスタ島』では僕もお世話になったというか、地味にてこずらされたというか。

その一瞬で十分。僕は空中で動けないリュウベエに追いつき……しかしその瞬間、金縛りから抜け出たリュウベエの大太刀が、すさまじい速さで振りぬかれる。

「うぉ!?」

「! ほう、いい反応だ……飛び込んでくる所に合わせたのだがな」

笑いながら、感心したように言うリュウベエ。

そのまま空中で体勢を立て直し……ついでに、追撃で飛んでくるウェスカーの光弾を全部切り払って、悠々と着地した。その間、笑顔を浮かべたままだ。

こんの戦闘狂が……楽しそうにしやがって。

けど実際、あと一瞬飛び退るのが遅かったら、肩口からざっくり行っていたかもしれない……油断してたつもりはないが、単に力量を図り損ねた、か?

ヤバいぐらいに素早い太刀だったな……まるで居合か何かみたいに。
その後にウェスカーの光弾を切った時は、早いけど十分目で追える程度だった。至近距離で繰り出されてもかわせるだろうと思う。

(けど……本気だと早いってことか? 何にしても、うかつに接近戦仕掛けるわけにはいかなくなったな…………と言いたいところだけどそんな時間もないんだよなあ!)

こうしてる間にも時間は刻々と過ぎていく……それはそのまま、崩落へのカウントダウンだ。
しかも、戦えば戦うほど、その制限時間そのものが縮んでいくっていう……これもうどうすれば……なんて僕がため息をつきそうになった…………その時だった。



―――ザシュッ!!!



目の前で、刀を構えなおすところだったリュウベエが、一瞬にして……八つ裂きになった。



「「……!?」」

そしてその一瞬後……そこから少し離れたところに着地するエレノアさんの姿があった。
彼女の手は、いつか見た猫の手モードになっていて……鋭い爪が血に濡れていた。

……え、今の……もしかして。
瞬殺? てか、一撃? ……気づかれることすらなく?

地面に転がっている、リュウベエの……ちょっと心臓の弱い人には見せられない状態になっている死体。その顔には、苦痛や無念なんかは愚か、驚きすら浮かんでいない。
僕を見て浮かべていた、獰猛そうな笑みそのままだ。

つまり……エレノアさんの襲撃にも、自分が死んだことにも気づかずに、一瞬にしてこの世を去った……ということに……。

それに今の速さ……僕の動体視力でも、見えなくはなかったけど、到底反応できる速さじゃなかったし……。しかも、『アルティメットジョーカー』で強化されてる状態でそれってことは、通常状態の僕じゃ、『全く』見えなかっただろう。

おまけに、今、気配も殺気も、物音も……何もなかった。
地面を蹴る音も、高速移動で空を切る音も、着地音すらなかった。
立てたのはせいぜい、斬った瞬間の攻撃音くらいだ。

音速以上の速さで動きつつ、一切物音を立てず、殺気を完璧に隠して、ドレーク兄さんクラスの敵を相手にして……一撃で決める?

…………こ、怖…………

テーガンさんとは別ベクトルでとんでもないよこの人。まるで暗殺者だ。

というか……今更ながら、僕は『女楼蜘蛛』っていう、世界の頂点に立つ人たちを、推し量れていなかったというか……わかってなかったんだな、全然。

思えば、今まで彼女達の実力を目にしてきたのは、訓練やら模擬戦の場だけだ。
あとは、さっきのテーガンさんのうっかりでもたらされた大破壊くらいか。

それに対して、今のエレノアさんは……恐らくは、初めて僕が目にした、『臨戦態勢』だ。

『アトランティス』やら、模擬戦やらでは、言うまでもないが彼女たちが本気を出すような状況じゃ全然なかったし……全然集中してなくても、何なら油断してたって問題なかった。

けど今回は、ちょっと冗談抜きに真剣に対処しなきゃいけない事態だってことで、エレノアさんはきちんと臨戦態勢に入った上で、リュウベエを攻撃した。

その結果がコレか……

(わかっちゃいたけど……いや、わかってなかったな。これが……世界の頂点か)

全然わかってなかった。甘く見てた。過小評価してた。

同じSSランクなんて言われてるけど。
前よりは距離は縮まったんじゃないか、なんて思ってたけど。

何だかんだで僕も強くなったし……勝てないまでも、ちょっとくらい食らいつけるんじゃないか……なんて、ちらっと考えたこともあったんだけど……何をバカな。思い上がりも甚だしい。

(まだ全然遠いな……背中も見えないくらいだ)

未だに、油断なく身構えて周囲をうかがっているエレノアさんを見て、そんな風に思う。

……っと、感傷に浸ってる暇ないんだった!
この続きは反省会の時にでもやるとして、次! 『蒼炎』の方なんとかしないと……



――ずずぅぅん……! ぐらぐらぐら……



……え、何ですか今の破滅的な音と、この足元から伝わってくる地響き的な……ちょっとコレもしかして……

『ちっ……タイムリミットか』

「まだ1分経ってませんよねぇ!?」

どんだけ負担かかる戦い方してたんだよ、ドレーク兄さんとアザーは!? いや、そりゃあの2人だって、女楼蜘蛛ほどじゃないとはいえ十分規格外クラスだし!? 余波だけでもバカにならないレベルだってのは知ってたけど、それにしたって……

「……すまん、ちょいと力が入りすぎたかもしれん」

……そんな、申し訳なさそうな声が聞こえた先に目をやると、今まさに大矛を振りぬいた姿勢のテーガンさんが……。

え、何? 言われた通り、周囲の『アバドン』を切り捨てて回ってたけど、ちょうどよく重なってて3匹同時に切り捨てられそうな状態になってた奴がいたんで、ちょっと力入れて振りぬいたら、思いのほかでかい衝撃波が出て? そのまま地盤に?

………………

全然わかってなかった。甘く見てた。過大評価してた。

(わかっちゃいたけど……いや、わかってなかったな。これでも……世界の頂点か)

ダメな方向に予想を裏切られましたハイ。
なんでこう、この人たちは行動の結果の浮き沈みが激しいかなってあああああ揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる! どうしようマジでこれダメな奴……

「ミナト!」

「……っ!? ブルース兄さん、どうし……」

視線を向けるよりも早く、異変に気付く。
ブルース兄さんの魔力が……かつてない程に高まっている。

ただ高まってるだけじゃない。この感じは、ギーナちゃんと同じ……ってことは……!

「お前、何かこう……一気に大量に水とか出す方法ねーか!? あと、非戦闘員含めて、何か強力な結界か何かで守ってやれ! 冷気耐性最優先で……聞こえたな兄貴! そっちにも行くだろうから備えろよ!」

「……! 了解!」

その言葉で、ブルース兄さんが何を狙っているのか察した僕は、すぐさま、『帯』の収納の中から『CPUM』のカードの1枚を取り出す。
そこに、『縮退炉』から引き出した魔力を限界まで注ぎ込み……発動。

『Pisces!!』

出現した『ピスケス』……『うお座』の人工モンスターは、通常の状態で、クジラを思わせる体の内外を大量の水で覆われているわけだが……今回、めっちゃ大量に魔力を注ぎ込んだおかげで、その水がすごい量になってる。

その水が、出現した瞬間にどばーッとあふれ出し、さらに頭頂部から鯨の潮吹きみたく吹き出し、さらには口からもだばーっと流れ出し……そんな感じで、あたり一面を水没……とまではいかないが、水浸し状態にした。

そして、次の瞬間。



「全員、全力で防げよ! 『アイスエイジ』!!」



ブルース兄さんを中心に、暴風のような魔力が放たれ……同時に、周囲の気温が急激に下がり、さらにそれが暴風に乗って四方八方に拡散していく。
真冬の猛吹雪すら鼻で笑えるくらいの大寒波が、『奈落』の底を局所的に席巻した。

刺すような『痛み』すら感じる風。
水滴か氷か、どっちかわからないが、吹き付けた端から凍り付く暴力的な寒風。

轟々と吹きすさぶ風の音で耳は潰され、一面真っ白な吹雪のせいで視界も効かない。

……断言できるが、こんなもん、一般人が一瞬でもその身をさらしたら、その瞬間凍死だ。

たっぷり十数秒も、そんな状態が続いた後……僕等がいた『奈落の底』は、その光景を様変わりさせていた。

「……っ……すげ……!」

あたり一面、霜が降りたような感じになっていて……今しがた、僕が『ピスケス』でまき散らした水分が、根こそぎ凍り付いてしまっていた。

そして、その氷が――魔力を含んでるので普通の氷よりはるかに頑丈――この地盤を支える役割を果たし、崩落を防いでいた。こうするために、ブルース兄さんは僕に『大量の水』をどうにか用意させようとしてたわけだ。支える部分、全部濡らす必要があるから。

その中心にいるブルース兄さんは……これまでとは全く違った姿を見せていた。

一言で言うと、全身が氷になっている。
白っぽくて半透明の、水晶みたいな物質で全身が形作られているような……そんな見た目だ。

加えて、腕とか肩の一部に、氷でできたみたいな装甲? がついてる。
さらには、髪の毛がすごくボリューム増してる。普段の毛の先に、氷の繊維が増して伸びたみたいな……吹きすさぶ風にうねってたなびく様子は、まるで鬣だ。

亜人希少種『エクシア』の特徴。本気を出す際、全身を何らかの――個人個人が適応した物質に変化させ、戦闘能力や魔法行使規模を爆発的に上昇させる。
すなわち……本気モードってことだ。

(こんだけの範囲を一瞬で……いや、よく見ると氷の強度にだいぶ魔力というかリソース割いてんな? ってことは、その分を回せば、下手すればもっと広範囲を凍らせられるわけか……さすがは兄弟ナンバー3、とんでもないな)

恐らくこの技は本来、冷気を広範囲にばらまく無差別の広域殲滅魔法だ。
そのまま凍死させる、あるいは氷漬けにして砕いて殺す、みたいな感じのものだろう……氷自体の強度も、そこまで高いものではない、と思う。

けど今回は、地盤を支えるために、破壊力とか温度、範囲を犠牲に……代わりに、本来は必要ない、氷自体の強度を支えたってわけか。
咄嗟にそんな風に術式を変えて、なお成功させるとは……繊細さも一級品か。

「ふぃー……よし、何とかなったか。おい、死んでる奴いねえだろうな? いや、敵はそのまま死んでてもらって構わねーけど。こんな風に」

言いながら、手近にいた……氷漬けになった『アバドン』を、杖の先でガン、とついて粉砕しつつ言うブルース兄さん。

えーっと、実際……ある程度以上の実力者は自力で抵抗に成功してるな。
それ以下の、ソニアとソフィーについては、渡しておいた防御用のアイテムに加え、アルバと義姉さんの結界で保護している。ついでなので、ナナとかも一緒に。

それでも結構、抑えきれずに冷気がいったっぽい。
そのせいで、指輪の防御機構が働いた『邪香猫』メンバーとは違って……ソニアとソフィーは、ダメージ0とは行かなかったようだ。

……まあ、死ぬよりはましだと考えて、このくらいは許容してもらおう。

さて……今の大技含め、幸か不幸か、この1分少々でだいぶ敵が減ってくれた。
制限時間も取っ払えたし……後の問題は、残った敵の対処だけ、だな。



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