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第一章 花園乱華の自分語り
【2】憧れ
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退屈なホームルームが終わった。自由の身だ。ぬるいクラスメートたちの四分の三ほどが部活に所属しているけれど、私はBL文藝部の部長。部員はまだ私ひとりだけどそれでいい。私の真似をして先にデビューするドロボウ猫が入部するのなんてお断りだ。
ひとり同好会レベル?
違う、違う、違う。部として学校から認めてもらうまでソロ活動をしているだけ。BL作家として甘やかにデビューしたら、そのときに、部として申請すればいいだけのことだ。
部室は今のところないけど構わない。だって登下校のルートのすべてが私の部室だから。世の中には私のBL妄想のために存在している甘やかな男子たちが転がって、いる。だから歩いて三十分ほどの帰り道も、ひとりだけど寂しくなんかない。登下校はBLパラダイスだ。
校門を出て、正確に八〇一歩。ここで通学カバンからスマホを取りだす。校則違反だけど、これだけ離れれば風紀委員の先生にもバレない。この中にはBLのネタがたくさん詰まっている。登下校で見かけた甘やかな男子たちの画像だ。
「先輩!」
誰だよ、私の甘やかな時間を邪魔するのは。ふり向くと一年の、そう大して可愛くもないのに、近くの男子校の見る目のない男子たちの人気を集めている、平凡な顔のユカだ。自転車のベルを鳴らしながら近づいてくる。
ユカは漫研の部員で、イラストもそこそこ描ける。BLっぽいテイストが少し漂っているから彼女は腐女子に違いない。だから今のうちに親しくなっておいて、デビューしたときに、表紙とか挿絵を描かせてあげるために私から近づいたのだ。スカウトしてやったとも言うけど。
でも筆名はまだ教えていないし、作品のジャンルも教えていない。WEB小説にチャレンジしようと思っているとだけ伝えて、いる。それはあとで「ええっ! 先輩があの花園乱華先生だったんですか?」って言わせたいから。
ユカは私のすぐ横で自転車を停めて、
「先輩、まだ作品書かないんですか?」
「プロットを練っているんだ」
「早く書いてください。楽しみにしています」
言うだけ言って、ユカはまた自転車に跨ると去っていった。そして男子校のある右に曲がった。ちょっとばかり可愛いからって、わざわざ男子校の前を通るなんて憎たらしい。プロットにひとつ加えてやる。受けと攻めのあいだで小蝿みたいにウロチョロして、最後に泣きをみる当て馬キャラとして。
男子校のグラウンド、近所のコンビニ、パン屋さんを巡ってネタを仕入れて帰宅した。自室にこもってベッドに寝転がり、傍のおやつボックスからポテチを取り出して、小説投稿サイトをチェックする。
谷屋アガサ先生――憧れのBL作家だ。
繊細な心情表現と大胆なラブシーンが持ち味で、どの作品もワクワクしながら読んでいる。書籍化も次々と決まっていて、私のベッドの下には、これまで出版された本が隠されて、いる。親には見せられない。だけどそこがいい。
早くデビュー作を書いて谷屋先生の更新時間に合わせて私も更新すれば、更新リストでご一緒できるし、谷屋先生のファンの方々が私にも興味を持ってくれるかも知れない。ひょっとすると谷屋先生が「花園乱華先生ってどんな作家さんだろう」と興味を持って、私をフォローして下さるかも……。
谷屋先生の作品から気に入った表現を抜き出してスマホに打ちこむ。登場人物の名前とかプロットも、どんどん打ちこむ。ラブシーンは暗記できるまで何度も読み返す。
目を閉じて、印象的なシーンを頭の中でヘビーローテーションする。谷屋先生と同化する。谷屋先生のような作品が書けるような気がする……。
ドンドンドン!
ドアを叩く音で目が覚めた。誰だよ、谷屋先生と私の時間を邪魔するのは。
「姉ちゃん、晩飯!」
ひとつ下の弟だ。ムカつく。いつか作品に書いてやる。当然、悪役キャラとしてだ。
私は憧れの谷屋先生の作品に出てくる悪役キャラを思い返しながら、部屋のドアを開けた。
ひとり同好会レベル?
違う、違う、違う。部として学校から認めてもらうまでソロ活動をしているだけ。BL作家として甘やかにデビューしたら、そのときに、部として申請すればいいだけのことだ。
部室は今のところないけど構わない。だって登下校のルートのすべてが私の部室だから。世の中には私のBL妄想のために存在している甘やかな男子たちが転がって、いる。だから歩いて三十分ほどの帰り道も、ひとりだけど寂しくなんかない。登下校はBLパラダイスだ。
校門を出て、正確に八〇一歩。ここで通学カバンからスマホを取りだす。校則違反だけど、これだけ離れれば風紀委員の先生にもバレない。この中にはBLのネタがたくさん詰まっている。登下校で見かけた甘やかな男子たちの画像だ。
「先輩!」
誰だよ、私の甘やかな時間を邪魔するのは。ふり向くと一年の、そう大して可愛くもないのに、近くの男子校の見る目のない男子たちの人気を集めている、平凡な顔のユカだ。自転車のベルを鳴らしながら近づいてくる。
ユカは漫研の部員で、イラストもそこそこ描ける。BLっぽいテイストが少し漂っているから彼女は腐女子に違いない。だから今のうちに親しくなっておいて、デビューしたときに、表紙とか挿絵を描かせてあげるために私から近づいたのだ。スカウトしてやったとも言うけど。
でも筆名はまだ教えていないし、作品のジャンルも教えていない。WEB小説にチャレンジしようと思っているとだけ伝えて、いる。それはあとで「ええっ! 先輩があの花園乱華先生だったんですか?」って言わせたいから。
ユカは私のすぐ横で自転車を停めて、
「先輩、まだ作品書かないんですか?」
「プロットを練っているんだ」
「早く書いてください。楽しみにしています」
言うだけ言って、ユカはまた自転車に跨ると去っていった。そして男子校のある右に曲がった。ちょっとばかり可愛いからって、わざわざ男子校の前を通るなんて憎たらしい。プロットにひとつ加えてやる。受けと攻めのあいだで小蝿みたいにウロチョロして、最後に泣きをみる当て馬キャラとして。
男子校のグラウンド、近所のコンビニ、パン屋さんを巡ってネタを仕入れて帰宅した。自室にこもってベッドに寝転がり、傍のおやつボックスからポテチを取り出して、小説投稿サイトをチェックする。
谷屋アガサ先生――憧れのBL作家だ。
繊細な心情表現と大胆なラブシーンが持ち味で、どの作品もワクワクしながら読んでいる。書籍化も次々と決まっていて、私のベッドの下には、これまで出版された本が隠されて、いる。親には見せられない。だけどそこがいい。
早くデビュー作を書いて谷屋先生の更新時間に合わせて私も更新すれば、更新リストでご一緒できるし、谷屋先生のファンの方々が私にも興味を持ってくれるかも知れない。ひょっとすると谷屋先生が「花園乱華先生ってどんな作家さんだろう」と興味を持って、私をフォローして下さるかも……。
谷屋先生の作品から気に入った表現を抜き出してスマホに打ちこむ。登場人物の名前とかプロットも、どんどん打ちこむ。ラブシーンは暗記できるまで何度も読み返す。
目を閉じて、印象的なシーンを頭の中でヘビーローテーションする。谷屋先生と同化する。谷屋先生のような作品が書けるような気がする……。
ドンドンドン!
ドアを叩く音で目が覚めた。誰だよ、谷屋先生と私の時間を邪魔するのは。
「姉ちゃん、晩飯!」
ひとつ下の弟だ。ムカつく。いつか作品に書いてやる。当然、悪役キャラとしてだ。
私は憧れの谷屋先生の作品に出てくる悪役キャラを思い返しながら、部屋のドアを開けた。
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