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第八章 寝台の画
4 逆さまの画【絡み:シュード(=エシフ)xイェロード(=ノモク)】
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イェロードはぐったりとなったまま、仰向けになったシュードの上に跨るようにしておおいかぶさった。シュードの分厚い胸に頬を埋めた瞬間、イェロードは潮の香をたっぷりと吸い込んだ。安らぎを与える心地よい匂いだった。
シュードがイェロードの髪の毛に指を差しいれて、
「どうした? 俺を画を描いてくれるのかと期待していたのだが……」
と云いながら頭を撫でた。
「シュード、少しだけこのままで……」イェロードが云った。「どこからどう描こうか迷っているんだ」
「ここから描くのかと思っていたが——」
下になったシュードが腰を揺らした。ペニス同士が擦れあう。
イェロードはうめき声を上げた。思わずシュードにしがみつく。そして歯の隙間から息を吸ったり吐いたりしながら、腰の奥に押し寄せつつある、静かな波を堪えようとした。
シュードが腰の動きを止めた。「イェロード、顔を起こして寝台の画を観るがいい」
イェロードはその言葉に従った。思わず、はっ、と息を飲む。額縁のなかには、一糸まとわぬ素裸かの男がふたりいた。成熟した雄々しい青年の上にまだ幼さの名残のある少年がしがみついていて、ゆらゆらと腰を揺らしている。その少年は、覚えたての快楽を貪りつくそうとするような、淫らな顔をしていた。
——これが……ぼくの、顔……?
シュードが余裕たっぷりの表情で云った。「可愛い顔をしている。俺が欲しくてたまらないのだな」
イェロードはもう一度、シュードの胸に顔を埋めた。両目を硬く閉じて、潮の香に意識を集中させる。そしてシュードの胸に手を添えて、彼の鼓動を感じ取ろうとした。
シュードの鼓動がイェロードの手のひらに響く。規則的で乱れることのない穏やかな鼓動だ。イェロードはその鼓動に耳を傾けながら、シュードと自分の鼓動をひとつに合わせようとした。淫らな考えが、するりするりと紐の結び目が解けるように肌と肌の隙間から流れてゆく。互いの鼓動は次第に共鳴し、まるで素裸かの肉體と肉體が、ひとつの存在になろうとして溶けこんでゆくように感じられた。
——これなら、きっと素晴らしい画になっているはずだ……。
イェロードは寝台の画を想像しながら、喜びと幸せで胸がいっぱいになった。
シュード——海から来たそのたくましい若者は、海の神を思わせる屈強な肉體と精神を持っていた。海から上がった彼は、まだ女を識らぬひとりの素裸かの少年——イェロード——を、彼の掛布の代わりにおおいかぶらせて、束の間の休息をとっているのだった。耳をすませば、その画から、ふたりのひとつに合わさった鼓動が、さざ波のように聞こえてくるようだ。
それは美術館の一番奥の部屋で、厳かに展示されている宗教画に相応しいものだ。画の下には若く健やかな娘たちが集まり、その美しい裸身に頬を赤らめながら、祈りを捧げている。
——海の神に選ばれし少年よ。わたしの代わりに、ほどけない抱擁を!
——海の神に選ばれし少年よ。わたしの代わりに、やわらかな愛撫を!
——海の神に選ばれし少年よ。わたしの代わりに、あたたかな口吻を!
その娘たちは、まだ男を識らない。だからこそ、わが身をイェロードのそれに置きかえて、男女の交わりを想像するしかないのだった。そしてそれは理にかなっていた。男女の交わりを想像するにはまだ早い彼女たちにとって、男同士の交わり——雄々しい者が幼き者を抱くこと——は、崇高な肉體の結びつきであって、美しく清らかなものなのだから。
そしてその娘たちの側には、若々しい男たちが控えていた。彼らはそれぞれに意中の娘がそのなかにあった。男たちは、シュードとイェロードの画を観ながら、祈りを捧げている。
——海の神に選ばれし少年よ。女が俺の抱擁でどうなるのかを示してくれ給え!
——海の神に選ばれし少年よ。女が俺の愛撫でどうなるのかを示してくれ給え!
——海の神に選ばれし少年よ。女が俺の口吻でどうなるのかを示してくれ給え!
男たちは皆が皆、童貞というわけではない。そのなかには経験者も幾人かいる。ある者は娼館で女を識り、またある者は年上の経験豊かな女——そのなかには人妻もいるだろう——に誘われて、ひとそれぞれにその純潔を失っている。しかし娘たちの前では、その経験をひけらかすようなことはしない。一方、まだ女を識らぬ男たちは、まだ見ぬ女の裸身よりも、見慣れた男の裸身を通して交わりのあらましを学ぶ。男がそのときにどうなるのかを経験者に示してもらうのだ。
シュードとイェロードの画は、経験者の男にとっても、童貞の男にとっても、崇高な肉體の交わりを描いたものとして展示されている。もしイェロードが娘として描かれていたならば、それは処女を失う場面をあからさまに描いた淫らな画となっていただろう。
男たちはそれぞれに意中の娘に声を掛ける。「美しい画ですね」
「ええ、いつまでも眺めていたいですわ」娘たちがそれぞれの相手に微笑みかえす。
こうして男と娘が出会い、愛を育んでゆく。
イェロードは、寝台の画に何とも云えぬ恍惚感を覚えた。
しかしこの夢のような微睡は、長くは続かなかった——イェロードは、怖ろしいことに気づいた。その画は、上下が逆さまになっていた!
そのときだった。
シュードの腕が動いた。
「こんなところに砂糖菓子が転がっていたとは。イェロード、おまえに埋めてやろう」
イェロードは目を開けてシュードを見た。シュードは右手に白い砂糖菓子をつまんでいた。その手を目で追う間もなく、シュードの手はイェロードの尻の谷間を破りひらきながら、その奥へともぐりこんだ。
「シュ、シュード……ああっ!」
肛門に砂糖菓子が添えられるのがわかった。
シュードが、ふん、と鼻を鳴らす。
イェロードは尻にちからを入れ、肛門を絞ろうとした。すっかり緩んでいたそこは、しかし砂糖菓子とシュードの指を迎え入れる準備がすでにできていた。
「あ、あ、あっ……あああっ——!」
イェロードの肛門は意に反し、やわらかくその門を開いた。
「イェロード、最後のひと粒だ。じっくりと味わうがいい」
シュードは幼子をあやすようにこう云って、その太い指でイェロードの尻の奥へ砂糖菓子を埋め込んでいった。
シュードがイェロードの髪の毛に指を差しいれて、
「どうした? 俺を画を描いてくれるのかと期待していたのだが……」
と云いながら頭を撫でた。
「シュード、少しだけこのままで……」イェロードが云った。「どこからどう描こうか迷っているんだ」
「ここから描くのかと思っていたが——」
下になったシュードが腰を揺らした。ペニス同士が擦れあう。
イェロードはうめき声を上げた。思わずシュードにしがみつく。そして歯の隙間から息を吸ったり吐いたりしながら、腰の奥に押し寄せつつある、静かな波を堪えようとした。
シュードが腰の動きを止めた。「イェロード、顔を起こして寝台の画を観るがいい」
イェロードはその言葉に従った。思わず、はっ、と息を飲む。額縁のなかには、一糸まとわぬ素裸かの男がふたりいた。成熟した雄々しい青年の上にまだ幼さの名残のある少年がしがみついていて、ゆらゆらと腰を揺らしている。その少年は、覚えたての快楽を貪りつくそうとするような、淫らな顔をしていた。
——これが……ぼくの、顔……?
シュードが余裕たっぷりの表情で云った。「可愛い顔をしている。俺が欲しくてたまらないのだな」
イェロードはもう一度、シュードの胸に顔を埋めた。両目を硬く閉じて、潮の香に意識を集中させる。そしてシュードの胸に手を添えて、彼の鼓動を感じ取ろうとした。
シュードの鼓動がイェロードの手のひらに響く。規則的で乱れることのない穏やかな鼓動だ。イェロードはその鼓動に耳を傾けながら、シュードと自分の鼓動をひとつに合わせようとした。淫らな考えが、するりするりと紐の結び目が解けるように肌と肌の隙間から流れてゆく。互いの鼓動は次第に共鳴し、まるで素裸かの肉體と肉體が、ひとつの存在になろうとして溶けこんでゆくように感じられた。
——これなら、きっと素晴らしい画になっているはずだ……。
イェロードは寝台の画を想像しながら、喜びと幸せで胸がいっぱいになった。
シュード——海から来たそのたくましい若者は、海の神を思わせる屈強な肉體と精神を持っていた。海から上がった彼は、まだ女を識らぬひとりの素裸かの少年——イェロード——を、彼の掛布の代わりにおおいかぶらせて、束の間の休息をとっているのだった。耳をすませば、その画から、ふたりのひとつに合わさった鼓動が、さざ波のように聞こえてくるようだ。
それは美術館の一番奥の部屋で、厳かに展示されている宗教画に相応しいものだ。画の下には若く健やかな娘たちが集まり、その美しい裸身に頬を赤らめながら、祈りを捧げている。
——海の神に選ばれし少年よ。わたしの代わりに、ほどけない抱擁を!
——海の神に選ばれし少年よ。わたしの代わりに、やわらかな愛撫を!
——海の神に選ばれし少年よ。わたしの代わりに、あたたかな口吻を!
その娘たちは、まだ男を識らない。だからこそ、わが身をイェロードのそれに置きかえて、男女の交わりを想像するしかないのだった。そしてそれは理にかなっていた。男女の交わりを想像するにはまだ早い彼女たちにとって、男同士の交わり——雄々しい者が幼き者を抱くこと——は、崇高な肉體の結びつきであって、美しく清らかなものなのだから。
そしてその娘たちの側には、若々しい男たちが控えていた。彼らはそれぞれに意中の娘がそのなかにあった。男たちは、シュードとイェロードの画を観ながら、祈りを捧げている。
——海の神に選ばれし少年よ。女が俺の抱擁でどうなるのかを示してくれ給え!
——海の神に選ばれし少年よ。女が俺の愛撫でどうなるのかを示してくれ給え!
——海の神に選ばれし少年よ。女が俺の口吻でどうなるのかを示してくれ給え!
男たちは皆が皆、童貞というわけではない。そのなかには経験者も幾人かいる。ある者は娼館で女を識り、またある者は年上の経験豊かな女——そのなかには人妻もいるだろう——に誘われて、ひとそれぞれにその純潔を失っている。しかし娘たちの前では、その経験をひけらかすようなことはしない。一方、まだ女を識らぬ男たちは、まだ見ぬ女の裸身よりも、見慣れた男の裸身を通して交わりのあらましを学ぶ。男がそのときにどうなるのかを経験者に示してもらうのだ。
シュードとイェロードの画は、経験者の男にとっても、童貞の男にとっても、崇高な肉體の交わりを描いたものとして展示されている。もしイェロードが娘として描かれていたならば、それは処女を失う場面をあからさまに描いた淫らな画となっていただろう。
男たちはそれぞれに意中の娘に声を掛ける。「美しい画ですね」
「ええ、いつまでも眺めていたいですわ」娘たちがそれぞれの相手に微笑みかえす。
こうして男と娘が出会い、愛を育んでゆく。
イェロードは、寝台の画に何とも云えぬ恍惚感を覚えた。
しかしこの夢のような微睡は、長くは続かなかった——イェロードは、怖ろしいことに気づいた。その画は、上下が逆さまになっていた!
そのときだった。
シュードの腕が動いた。
「こんなところに砂糖菓子が転がっていたとは。イェロード、おまえに埋めてやろう」
イェロードは目を開けてシュードを見た。シュードは右手に白い砂糖菓子をつまんでいた。その手を目で追う間もなく、シュードの手はイェロードの尻の谷間を破りひらきながら、その奥へともぐりこんだ。
「シュ、シュード……ああっ!」
肛門に砂糖菓子が添えられるのがわかった。
シュードが、ふん、と鼻を鳴らす。
イェロードは尻にちからを入れ、肛門を絞ろうとした。すっかり緩んでいたそこは、しかし砂糖菓子とシュードの指を迎え入れる準備がすでにできていた。
「あ、あ、あっ……あああっ——!」
イェロードの肛門は意に反し、やわらかくその門を開いた。
「イェロード、最後のひと粒だ。じっくりと味わうがいい」
シュードは幼子をあやすようにこう云って、その太い指でイェロードの尻の奥へ砂糖菓子を埋め込んでいった。
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