[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん

文字の大きさ
上 下
57 / 93
第六章 ぼくの名は——イェロード

8 近道を急ぐ

しおりを挟む


 それから数日間、アイリスはダンヴァーズ公爵家で静かに過ごした。

 このダンヴァーズ公爵家はとても静かなお屋敷で、あまり来訪者も多くないし、雇っている使用人の数も少ない。

 レナルドの人となりに合わせているので、仕えている従者も物腰柔らかな人が多くトラブルだらけだった実家とは大違いだ。

 街道の事業の視察に行けば魔獣が出てくるし、領民のトラブルに対処するだけのお金もないので、家族のうちの誰かが魔法道具を持って現場に向かったりもして、家に戻って来ればナタリアが要望を訴え金策に頭を悩ませる。

 そんな日々は目まぐるしく過ぎて言っていたが、ダンヴァーズ公爵家の日々はゆっくりと時間が流れているようにすら感じる。

 なので与えられた仕事について知ることができたし、ベックフォード公爵家であった時代の古い蔵書をあさることも可能だった。

 そうして時間を過ごしていると例のボルジャー侯爵の来訪が決まった。

 レナルドにアイリスも商談に同席するかと問われて、アイリスはもちろんとばかりに頷いたのだった。



「それで、魔石採掘に関する投資の件はご検討いただけましたかな?」

 ボルジャー侯爵はたくさんの若くて美しい侍女をつれてやってきた。

 彼女たちは全員、小さな魔石のアクセサリーをつけていて、アイリスは少し驚いた。

 なんせ魔石というのは高価なものだ、それをこんな風に平民の侍女に着けさせるなんてよっぽど採掘場の調子がいいのだろう。

 それに本人も魔石で自身を着飾っている。

 しかし、魔石で着飾っていてもボルジャー侯爵自身はなんだかあまり高貴な人という印象は受けない。

 着飾るのに見合わない大きく出たお腹に、薄い事を隠すつもりがないのはアイリスだって構わないのだが、セットしているのかしていないのかよくわからないほどに乱れている髪。

 そんな様子の彼自身に、つけられている魔石は高価なものであるのになんだかその輝きが半減して見えた。

「ええ、返答まで時間を頂いたので」
「そうですか、そうですか。それは大変結構なことでございますな。わたくしとしても決して、上級貴族の作法もわからないぽっと出の公爵閣下にまさか即決を強要するような鬼畜でありません」
「……」
「きちんと考えた上で納得していただき、投資していただければお互いにウィンウィン。上級貴族同士、相互扶助的な関係が望ましいはずですしな!」

 ……これは……。

 ボルジャー侯爵は魔石のついたたくさんの指輪をぎらつかせながら手を前に差し出しレナルドとアイリスに語り掛けるように手を広げた。

「そうだね。自分も是非周辺貴族の方々とは協力関係を結びたいとは思っているよ。ボルジャー侯爵ともそれ以外とも」
「そうでございましょう! そうでしょうとも! なんせ我々は国の中枢をになっている大貴族、その一員としてダンヴァーズ公爵家も名を連ねたいはず。今回の投資はその足掛かりになるといっても過言でないですからな」

 ボルジャー侯爵はそういって笑い皺をさらに深くしてニコッ! と効果音がつきそうな笑みを浮かべる。

 ……たしかに王都からほど近く栄えているこの辺りの領地は産業も農業も盛んでとてもいい土地です。だからこそ昔から所有者があまり変わっていない。

 手放すことは惜しい土地だし、この土地があれば誰しも贅沢をすることができる。

 そして古い付き合いのある周辺貴族のつながりは強固。その中に入っていくために、ボルジャー侯爵が提案したような投資話に乗ってつながりを作りたいと思っていることを示す。

 そういう、投資というお金儲けだけではない価値を含んだ話だからこそ、この話は面倒くさい。

 投資には興味がないという言葉で、バッサリと切ることができない話なのだ。

「……まぁ、おおむねその通りだけど、実際に何か不都合があっては困るからいくつか確認させてほしい事項がある」
「ええ! ええ! 何なりとお申し付けください。公爵閣下、先ほど言った通り、あなた様のような方に、問答無用で協力しろなどというつもりはありませんからな! 教師のように丁寧に教えて差し上げます」
「そうだね。……では支払いから納期について、この部分だけど━━━━」

 レナルドはアイリスの隣でやっぱり人のよさそうな笑みを浮かべながらボルジャー侯爵が持参した書類のいくつかを確認していく。

 その様子をアイリスは静かに見つめていたが、アイリスは彼の意図を図りかねていた。

 そもそもの問題を彼がどうしたいのかアイリスは知らない。

 とりあえず同席したし、この件についてアイリスだって色々口出ししたい気持ちもあるが、レナルドに無理を言って仕事の話を聞かせてもらったのだ。

 だからこそ、この話に細かな指摘をして相手を論破することはアイリスのやるべきことではない。

 しかしかといってまったく口を出すべきではないかと聞かれたら、同席を許してくれた以上口出しできないというわけでもない。

 しかし、周りの貴族とは穏便にやっていきたいと思っているのは事実で、多少の損についてレナルドは了承済みだということも鑑みてアイリスは口出しするべき部分を見計らっていた。

 けれども、それにしてもボルジャー侯爵の態度が少々苛立たしい。

 話を持ち掛けてくる側であり、身分もレナルドの方が上だというのに、この上から目線の態度は何なのだろう。

 せめて投資とは言え金銭を出してもらうのならば相手を尊重するべきだろうとアイリスは思う。

 でも、レナルドがこういう事をどういう風に受け取る人なのかという点についてもアイリスはわからない。

 内心では怒っているのか、それともまったく気にしないのか、もしくは本当に自分は彼らより格下だと思っているのか、わからないからこそこの話し合いが終わったら聞いてみようと思ったのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...