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第五章 寝台の神話

2 教えられなくても……【絡み:エシフxノモク】

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 それは予告なく起こった。突然、ノモクの全身に震えが疾った。尻のなかを満たしていたエシフのペニスが、いきなり、ずるりと引きぬかれたのだ。あっという間の出来事だったので、ノモクは頭がついていけなかった。埋めこまれたエシフのペニスを何とかしようと身を捩らせたとき、それが尻のなかでと大きくなったような気がした。覚えているのは、そこまでだ。声を上げるのも忘れていた。
 ノモクを見下ろして、エシフが微笑んだ。「好い表情ですよ、王子」低くて太い官能的な声だ。「王都には、あなたのような甘いお菓子がたくさんあるのでしょうね」美貌の男奴隷は、舌先を唇の端から端までサッと疾らせた。
「エシフ……。何を云っているんだい?」ノモクは言葉の意味がわからず、目をぱちくりとさせた。「それと……ぼく、どうなるの?」
「わたしが、あなたの希みを叶えてさしあげます」エシフは指の背でノモクの咽喉仏を撫でた。「立派な騎士になりたいのですよね? でもそのためには、まず男になる必要があるのです」
 ますます意味がわからない。今、起ころうとしているのは、男同士の肉の交わりだ。しかもエシフは、彼の長大なペニスでノモクに快楽を与えようとしている。
 エシフの指先が、ノモクのまだ盛りあがりきれていない胸のうえを辷る。
「男になる? それって娼館で娼婦と交わること?」ノモクは、胸を這う指先を目で追いながら訊いた。「ぼくは、そんな穢れたことはしないよ。それとも自慰のこと?」
 エシフが指先でノモクの左の乳首を摘みあげた。ノモクは、うめき声を上げ、両手でシーツをギュッと掴んだ。
「自慰のやり方は習いましたか?」
 エシフは片方の手指で乳首を弄りつつ、もう一方の手でペニスを握った。
「騎士団の人たちから、男は精を洩らすようになるって聞いたよ。でも……」
「教えてもらわなかったのですね」
「だって自慰は、穢れた行為だから……」
 エシフはこれを聞いて、乳首とペニスから手を離した。両肘をノモクの側面につき、ノモクの両脇にたくましい両腕を差しこんで覆いかぶさる。ノモクのペニスに、エシフのペニスが重なった。
「王子、あなたはがお好きでしたね」エシフが誘いかけるように腰を揺すりはじめた。「ご自分の手でやらなければ自慰ではない、とお考えですか?」
 ペニス同士がこすれあう。
 ノモクは、さっき目にしたばかりのソルブと若い男奴隷の舞いを思い出した。屹立したペニスとペニスが、剣合わせをするかのように激しくぶつかりあい、馴染みあい、こすれあっていた。そして最後には、どちらのものと判別できないほど夥しい量の精がほとばしった。
「あ」
 ノモクは気づいた。浜辺でエシフがソルブのうえに覆いかぶさっていた。周囲を漁師たちが取りかこんでいたので何をしているのかわからなかったが、想像のなかでソルブと自分を置き換えた。そして初めてエシフと肌をあわせたときに、それを実行していた。
 今もそうだ。
「王子、どうぞご遠慮なく」
 エシフが腰の動きをぴたりと止めた。エシフのたくましい脚が、ノモクの脚を大きくひらいている。ノモクは、心を落ちつかせようと、目を閉じて深呼吸をした。
 潮の香がノモクの鼻孔をち、彼を支配した。命を吹きこまれた彫像のような肉體を持つ屈強な男が、危険を顧みず海に臨むときの、決意、勇敢さ、そして死の恐怖との闘いといったものが、ノモクのうちに悲劇的な、英雄的な、そして神話的なものへの憧れを目覚めさせた。また、同時に宗教的な意味をも呼び覚ました。殉教者の運命、そして彼への賛美と祝福……。
 これら凡てが、ノモクの頭のなかで一瞬にして体系立てられ、構築され、彼の目蓋の裏にエシフの見事な裸身を現前した。ノモクは両腕をエシフの太い頸に、両脚をエシフのたくましい脚に巻きつけた。そうありたいもの、手に入れたいものを、しかと抱きしめたいと思ったのだ。
 ノモクのペニスが、エシフを欲しがって戦慄わなないていた。ノモクはそっと腰を泛せて揺すり、ペニスとペニスを擦りあわせた。
「そうです。それで好いのですよ、王子」エシフが耳許で囁いた。「少しだけお手伝いをしてさしあげましょう」
 エシフは片方の手をノモクの腰に差しいれ、尻の谷間にもぐり込ませた。人差し指と薬指でそこを展き、中指の腹をまだ疼きの残る肛門に添えた。それ以上は何もしない。ただ支えるだけだったが、ノモクはそのお陰で動きやすくなった。ノモクが腰を揺らすたびに、エシフの中指は少しずつ尻のなかへ埋もれていった。
「王子、は誰に教わったのですか?」
 ノモクは何も応えず、ただ腰を揺らしつづけた。エシフの中指がさらに深く埋まる。
「あなたは、教えられなくても快楽を得る方法をご存知なのですね」
「ち……。ち、がう……」ノモクは、いやいやをするように顔を左右に振った。「エシフ!」
 エシフが肛門から中指を一度引きぬき、すぐさま薬指を添えてもう一度挿入した。
「お望みであれば、指を増やしましょうか?」尻を指でしっかりと固定してノモクを起こしあげ、くるりと向きを変えた。「枕があるほうが楽でしょう」
 エシフは、指を尻の孔に挿入したままノモクをゆっくりと寝かせた。
 尻のなかでエシフの指が蠢く。ノモクは性的な快感をいっそう得て、腰の動きを早めた。ペニスが摩擦でひりひりとした熱を持った。特にエシフの手によって剥きあげられた尖端の丸みは、その無防備さにまだ慣れていないせいか、腫れあがり、じんじんと疼いた。
 突然、エシフが指を引きぬいた。
「あっ……」ノモクは動きを止めた。
 エシフがくすりと笑った。「それでは、お望みのとおりに」
 ノモクは、ごくりと唾を飲みこんだ。

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