[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん

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第四章 土用波

7 少年から男に

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 こうしてソルブと少年奴隷はパンを受けとり、部屋を出ていった。窓ぎわのテーブルには、バスケットのパンと幾つかの果物が残された。
 ソルブには、これから部屋で本を読むか昼寝をするつもりだから、夕方までは用事を云いつけることはないよ、と伝えておいた。それから湯屋にも行って、通用口の外にあの男奴隷がいないのも確認した。念のために湯屋へ続く扉の内鍵も閉めておいた。
 これでしばらくは、エシフとこの部屋でふたりきりになれる。
 ノモクは寝台の横の小テーブルに食事を運び、窓のカーテンを開けた。曇ってはいるが、まだ雨は降ってはいない。灰いろに燻んだ空が外に広がっていた。
 ノモクが天蓋の遮光カーテンを開いてそれぞれ柱に結びつけると、内側のカーテンが霧のベールとなって、寝台に仰向けになって横たわるエシフをやわらかく包んだ。その光景は一点の絵画を、あるいは一体の彫像を鑑賞するようだった。さらにその寝姿は、いくさから帰還し、鎧を脱ぎ捨てて暫しの休息を取る英雄のようでもあり、磔刑に処されたあと縛めを解かれ、安らかに眠る殉教者のようでもあった。
 ノモクは、エシフをいつまでも眺めていたいと思った。また、その裸身の隅々に触れたいと思った。そして彼を自分だけのものにしたいと思った。
 ――だめだ! ぼくは、エシフを助けるんだ!
 ニナクの神が、ノモクに試練を与えつづける。
 ノモクは寝台のまえから離れ、扉のところへ行った。扉を開けて廊下の左右を見廻して誰もいないことを確認すると、ふたたび扉を閉め、閂を掛けた。そして扉近くの戸棚を開けた。
 ――ソルブが教えてくれた、あの方法を試してみよう……。
 うまくいけば、エシフに食事を与えることができ、またエシフが罰を受けることもない。ノモクは、戸棚からガラスの小瓶をみっつ取りだした。
「あっ……」
 目に映るままに取り出したガラスの小瓶のひとつは、ノモクが昨日砂浜で拾ったピンクの巻貝を入れておいたものだった。
 幸運を呼ぶ巻き貝――。
 苺ほどの大きさのその小瓶を軽く振ると、チリンチリン、と鈴を転がすような音が鳴った。ノモクは、その清らかな響きに、エシフを救えると確信した。

 準備は整った。
 寝台の飾り棚のうえには、拷問の手引き書、ガラスの小瓶、そして折りたたんだエシフの腰布トルーズが並んでいる。寝台の横の小テーブルにはパン、果物、そして砂糖菓子が置かれている。
 ノモクは、砂糖菓子の包みを手に取った。さっきソルブたちが部屋に食事を運んできたとき、拷問の手引き書はフットベンチに隠してあったが、これは長椅子のまえの小机に置きっぱなしにしていた。
 ソルブは一度この砂糖菓子を口にしているので、その効果も、術を解く方法も理解している。彼は、この包みをはっきりと見たはずなのに、何も云わずこの部屋を出ていった。けれども本当は、食事の世話をするあいだずっと、自分が気まぐれや戯れで罰を与えるのではないかと、ソルブは畏れていたのではないだろうか。
 ノモクは、エシフの横たわる寝台のまえにひざまずいた。そして目を閉じて両手を組み、こうべを垂れて、ニナクの神に祈りを捧げた。
『ニナクの神よ。奴隷に慈悲を与えることは、罪深いことなのでしょうか? あなたの御心に叛くことなのでしょうか? 
 エシフもソルブも、わたしに尽くしてくれます。彼らは従順です。そして勇敢です。特に、今この寝台に眠る男奴隷、エシフは、わたしがこれまでに王都の美術館で鑑賞したどの絵画よりも、どの彫像よりも、健康的な肉體を持っています。ご覧のとおり、彼は、若さの、光の、ちからの、男の、そして美の象徴ではないでしょうか。
 ニナクの神よ。もしわたしがあなたから信仰を試されているのであれば、もしわたしが彼の信仰する神によって惑わされているのであれば、どうぞわたしを正しい道へお導きください……』
 雨が降りはじめた。雨粒が背後の窓を叩く音がする。雨音は次第に大きくなった。
 ノモクは立上って、ふり返り、窓のカーテンを片方だけ開けた。寝台の周りが少しだけ明るくなる。ランプを準備していなかったのでまだ仄暗いけれども、これで充分だった。
 ふり返る。エシフが寝台に眠っている。衣服は何ひとつ身につけていない。産まれたままの姿だ。ノモクが彼から目を離せないのは、その裸身のなかで、若さを象徴し、光を象徴し、ちからを象徴し、男を象徴し、そして美を象徴する屹立したペニスのためだ。
 もう、神の試練でも悪魔の誘惑でも、同じことだ。
 ノモクは、つぎつぎと着ているものを脱いでいった。雨が窓を叩く音に混じって、湿り気を帯びた陰鬱な衣擦れの音が聞かれた。ノモクは、ひと呼吸して最後の一枚を床に落とした。
「エシフ……」
 ノモクは、素裸かで仰向けに横たわる美しい男奴隷を、もう一度天蓋の薄いベール越しに見た。そうしてからゆっくりと頭を下げて、自分の裸身へと目を移した。
 まだ盛りあがりきれない胸、薄っすらと筋の刻まれはじめた腹部、そしてまだ女をらぬ恥辱はじ。エシフによって異教徒のしるしが刻まれた恥辱。それは初夏の訪れを待ちながら項垂れている白百合の蕾のようだった。ノモクは思った。少年から男になれば、女を識るまえに男としての鍛錬を積めば、エシフと同じものを手に入れることができるのではないかと。
 今、比べるべきなのは、名もなき少年奴隷の裸身だ。自分と背格好も変わらず歳もほぼ同じように見えた、あの若い漁師のしなやかな裸身だ。昨夜、少年から男になったばかりの、彼のペニスだ。
 ノモクは股間に熱い疼きを感じた。見るとペニスが屹立していた。剥けあがった尖端がエシフの裸身をまえにして震えている。少年から男になるための通過儀礼に臨みながら怯えているのだ。その通過儀礼は――エシフを救うことだ。
 ノモクは、意を決して寝台のなかに潜りこんだ。そしてエシフの裸身をしかと見つめながら、彼を救う方法を考えはじめた。
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