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第三章 海の習い
4 慰撫(いぶ)【絡み:エシフxノモク】
しおりを挟む惚れ惚れとする光景だ。湯屋から戻ったノモクは、エシフの正面に跪き、異教徒のペニスをあらためて眺めた。先ほどの拷問で焔に焼かれたためか、それともほかに理由があるのか。エシフのそこは、裸身のなかで一番黒々とし、そして艶めいていた。
――遠雷が鳴る。
「ウジーク、イサーイ……」
ノモクは、目の前の誘惑的なエシフのペニスに心を奪われないよう、おまじないを唱えた。忘れてはいけない。火傷をしていないか確認して、薬を塗ってあげるんだ。ノモクは自分に云いきかせた。エシフの腰布のなかで屹立していたノモクのペニスは、おまじないを唱えているうちに鎮まった。
鞭の痕はなかったので、薬油だけで充分のようだった。ノモクは片方の手のひらに薬油を受け、両手に塗りひろげた。そして先ず陰嚢を両手で包んだ。親指の腹に太い管の感触がある。ゆっくりその管を辿ってゆくと、弾力のある塊に触れた。エシフの睾丸だ。ゆで卵のような大きさで、ずっしりとした重さがある。指先で左右の睾丸の感触を確かめたあと、片方の手で後ろから陰嚢を支え、もう片方の手で前から陰嚢を包みこんで薬油を丹念に塗りこめた。
――閉ざされた窓の外で雨の音がする。
「ウジーク、イサーイ……」
前に廻した手を動かすたびに、手の甲に接したエシフのペニスが前後左右に揺れる。
このまま続けても大丈夫だろうか。ノモクは顔を上げた。エシフは魔方陣と砂糖菓子の力で動けずにいるようだった。顔は天を仰いでいるので、その表情を読みとることが出来ない。たくましく突きだした咽喉仏が見えるだけだった。
「ああ、エシフ。君はなんて……」
ノモクは口ごもった。その先を「美しい」のひと言で云い片付けることが出来なかったのだ。陰嚢を慰撫する手を止めて、ノモクは目の前に差しだされたエシフの裸身を見つめなおした。
両の手首は高く交叉され、天井の梁へと続く縄で縛られている。ふたつの腕と胴体が、深く彫り刻まれた腋窩のところで、継ぎ目なく、なだらかにつながっている。黒々とした腋窩のしげみは、この奴隷の、快活さ、瑞々しさ、精悍さを語るに相応しい房飾りだ。熟練の職人によって計画され、一本一本叮嚀に植えつけられた工芸品のようだった。
ノモクはさらに目線を下ろした。惨たらしくひび割れた胴体は、しかし修復が不可能ではないように思われた。楯を横にふたつ並べたようなたくましく盛りあがった胸には、そこだけくすみを施したような暗い樺いろをした乳暈が、左右にひとつずつレリーフされている。胸の谷間から真っ直ぐに刻まれた溝を下りてゆくと、腹の旺な毛の中央に臍窩がある。その深い凹みは、長い時間をかけて波が岩壁を削った自然の営みの跡のようだった。そして次第に毛が深く濃く集まってゆき、みっつ目の房飾りへとつながる。太く黒い毛は雄々しく叢立ち、真夏の海風が颯爽と運んでくる強い潮の香が、ノモクの鼻を清々しく、つんと突いた。
エシフのすべてが目の前にある。エシフのすべてが手のなかにある。けれどもノモクは、エシフの裸身がおどろくほど高いところにあるように感じた。
――雷鳴が轟く。窓の外の雨音が鞭のように鳴り響く。室内ではあるけれども、目の前に据えられた荘厳な憂いをたたえたこの彫像に、振動が伝わってはいけない。ノモクは、おまじないを唱えて外部の音を遮ろうとした。
「ウジーク、イサーイ、ウジーク、イサーイ……」
ノモクは顔を下ろした。彫像のなかで最も力強く明瞭に彫り刻まれた部分がある。そこは、ノモクの慰撫を待っていた。
ノモクはもう一度両手に薬油を塗りひろげ、エシフのペニスを両手で包んだ。根元から先端に向かって薬油をなじませてゆく。
――さあ、坊っちゃま。あとはどうするかご存知ですよね……。
乳母アイラムの声が蘇る。
それは出来ない。ノモクはかぶりを振った。その代わり薬油を塗りこめることに集中した。
ノモクは両手を筒形にし、エシフのペニスを根元から先端まで、交互に撫ではじめた。
エシフは縛られたままで少しも動かなかったし、抵抗もしなかった。ただノモクの慰撫を受けている。ノモクは、エシフのペニスに力を入れて撫でさすった。
ペニスはノモクの手のなかで、おとなしくしている。ノモクは手のひらにエシフの体温と血の脈動を感じた。
「エシフ。ぼくは、君を辱めようとしているんじゃないんだよ……」
ノモクは、おまじないの合間にエシフのペニスに向かってこう語りかけた。今朝方、ソルブのペニスをこすったときとは異うのだ。屹立させてもいけないし、射精に導いてもいけない。
「さっきはごめんね、エシフ……」
焔に包まれたエシフのペニスが思い出された。ノモクが異教徒の聖典の切れ端を燃えさかるペニスの先端に近づけたとき、エシフは白い迸りを放つことで焔から聖典を護ろうとしたのだった。あの天に向かって縦に書かれた聖典がエシフの信仰する宗教のものかはわからないが、あのときエシフは、人前で精を放つ辱めと引き換えに、すべての奴隷を護ろうとしていた。
ノモクは、エシフのペニスを撫でた。懺悔の意味を込めて、夢中になって、祈るように撫でた。
エシフの腰布のなかでノモクのペニスがどんどん硬くなってくる。エシフの代わりにノモクのペニスが屹立しはじめたのだった。それはノモクにとって寧ろ好都合だった。これは慰撫だ。辱めは、エシフの代わりに自分が引き受ければすむことだ。ペニスは、はち切れそうだった。痛いほど屹立していた。ノモクは、エシフのペニスを撫でつづけた。
「あ」
ノモクの手のなかで、エシフのペニスが硬く、太く、ふくらみはじめた。ノモクは、その昂ぶりを自分のペニスに移動させようと撫でつづけた。けれどもエシフのペニスはだんだんと反りあがってくる。剥きだしの異教徒の徴がパラソルのように丸く広がる。エシフのペニスの腹に、根元から先端に向かって太く盛りあがった筋が泛びあがる。
すでに性的な刺激はノモクのペニスの容量を超えて溢れだし、エシフへと流れこんでいた。エシフのペニスは、ノモクの手のなかで剣の握りよりも硬く太くなった。太い青いろの血管がペニスの背に張り巡らされ、赤黒い亀頭は、くっきりとした括れを持った。
――なんて巨きいんだろう……。
ノモクは、エシフのペニスから両手を離した。立上がって腰布を捲りあげ、屹立した自分のペニスと見比べた。長さも、太さも、見栄えも雲泥の差だった。
雨音が強くなった。
ノモクは我に返った。布を桶の湯に浸して絞り、首と胴体に刻まれた傷口を叮嚀に拭った。薬草と薬油を揉みこんで塗り薬を拵えた。乳母アイラムの教えを破って、指先で傷口のひと筋ひと筋にそれを塗った。
――さあ、坊っちゃま。あとはどうするかご存知ですよね……。
乳母アイラムの声が聞こえた。
ノモクは、彼女の声に逆らえなかった。
首筋、腋窩の近く、胸、乳暈……。塗り薬に沿って、ノモクの唇が忠実になぞっていった。口吻のたびにノモクは自分の唇を、穏やかな海を往く帆船のようにやさしく揺らした。
左胸から右の腰へ唇を運び了ったとき、臍窩に接する異教徒の徴が目に這入った。ノモクは意を決してエシフのペニスと対峙した。両手でエシフの腰をそっと押さえ、目を閉じる。
――アイラム、こうするんだよね……。
ノモクは、そそり立ったエシフのペニスの根元から、先端に向かってゆっくりと唇を押しあてていった。この口吻は、エシフに対する懺悔でもあったので、ノモクは屹立したペニスの隅々に唇を運んだ。
ペニスの先端までノモクの唇が昇りつめたとき、頂きの切れ込みから、透明な露が溢れでた。ノモクは、咄嗟にそれを啜った。甘苦い味が口のなかに広がる。と同時に全身に官能的な痺れが起こった。
「エシフ、これで最後にするから……」
ノモクは、エシフのペニスに向ってそっと呟いた。異教徒の徴をすっぽりと口に含む。そして舌をぐるりと右に三度廻した。
「奴隷ごっこがお望みですか?」
突然の声に、ノモクはエシフのペニスから口を離した。顔をあげる。エシフが見おろしていた。
「王子、とてもよくお似合いですよ」
エシフの視線はノモクの腰に注がれていた。ノモクは狼狽えた。砂糖菓子の効果が切れたのだろうか。エシフは、交叉させた両の手首を巧みに動かして縛めを解いた。
「あなたを悦ばせることが出来て光栄です」
エシフは片手でノモクの後頭部を押さえ、もう片方の手でペニスをつかんでノモクの口元に近づけた。
「今からあなたは、わたしの奴隷です……」
エシフのペニスが、ノモクの口のなかにゆっくりと這入っていった。
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