[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん

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第三章 海の習い

3 乳母アイラムの教えるとおりに

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 ノモクはエシフの背後に廻って湯を汲んだ桶を床に置き、消炎作用のある薬草の粉を入れた。素手でかき混ぜながら、ときおりエシフを見上げる。岩から切り出したような見事な裸身だ。今からこの肉体にこの手で触れるのだと思うと思わず身震いがした。
「ウジーク、イサーイ。ウジーク、イサーイ……」
 これから傷口を洗ってあげるのだ。淫らな考えを起こさないように、ノモクはおまじないを唱えつづけた。やがて湯にが生まれると、そこへ布を浸して絞った。
 ノモクは背中を拭く前に傷口を確認した。裂けた皮膚のささくれ立ったところが、焔に炙られて所々焦げついている。そのささくれに挟まれた赤黒い血の直線が痛々しい。ノモクは固まった血の筋にそっと指先を触れた。すると触れたところから鮮血が滲み出て、ペン先がインクを吸い込むように爪の先を真紅に染めた。ノモクは咄嗟に唇を近づけ、背中から滴り落ちようとする血潮を受け止めた。そのとき、鼻のなかに潮の香が広がり、口のなかに海水が注ぎこまれたような気になった。
「ウジーク、イサーイ……」
 ノモクは、おまじないをくり返しくり返し唱えて、やましい心を追い払おうとした。しかし彼のペニスは、エシフの腰布のなかで屹立していた。
 思えば芸術作品のような若々しくたくましい青年の裸身が目の前にあって、それを自由に出来るのだ。どれだけ眺めても、どれだけ触れても、誰からも咎められることはない。エシフは奴隷だ。ノモクのしたいようにしても、エシフは決して拒むことはない。エシフのすべてがノモクのものだからだ。
 ――ニナクの神よ! 私を惑わせないでください!
 ノモクは祈った。これは神から与えられた試練だ。エシフが異教徒なのも、彼が見事な肉体の持ち主なのも、すべてニナクの神の思し召しだ。この美しい異教徒を癒し、改宗させよと試しておられるのだ。
 ノモクは背中の傷を拭いはじめた。まずはうなじから両肩へ布をそっと押しあてた。筋肉質の肉体は、ほどよい弾力で布の手を押しかえした。そして肩胛骨――傷ついた翼の筋肉――を、いたわるようにそっと拭った。背骨に沿って腰まで拭い、それからわき腹も拭った。
 こうして上半身を拭い了えると、ノモクはいったん布を湯に浸して絞った。つぎは下半身だ。ノモクは跪いた。
 筋肉質で引き締まった尻だ。どっしりとしていて形も好い。なめらかな線を描いて腰とひと続きになっている。また両脚との境い目にもたるみひとつなく繋がっている。尻に目立った傷はなかったが、ノモクは彫像を磨くように何度も円を描きながら拭った。ノモクの手の動きに合わせて、両脚の合わせ目の向こうでエシフのペニスと睾丸が大きく揺れる。それはエシフが彫像ではなく、命ある存在であることを意味していた。
 ノモクは、両脚に布の手を降ろしていった。神殿の柱のように太く、そして頑丈だ。しかし肉体の一部であることを示すかのように、しかし健康的な青年の脚であることを示すかのように、雄々しい毛――エシフの美しさを損なわない絶妙な慎ましさがある――で覆われていた。いっそこのまま両脚のどちらかにしがみつきたいと思ったが、ノモクはおまじないを唱えることで、辛うじてその誘惑から逃れた。
 ――アイラム、ぼくに力を貸してね……。
 ノモクは乳母アイラムを思いながら立上がった。彼女が教えてくれたとおりに薬を塗らなければならない。両手で薬草を叮嚀に揉み込んで柔らかくし、薬油を加えてペースト状になるまで両の手のひらを擦り合わせて練りあげる。夏草の青々しい香りが立てば塗り薬の出来上がりだ。塗り薬を指先に少し取って舌先に乗せると苦い味がした。脳裏で乳母アイラムが、「さあ、坊っちゃま。あとはどうするかご存知ですよね」と微笑んだ。
 ノモクは紅をさすように唇に塗り薬を乗せた。そして傷のひとつひとつに、おまじないを唱えながら、口吻くちづけをしていった。
 ――アイラム、こうするんだよね……?
 エシフの背中、わき腹、尻、内腿、脹脛、およそ傷のあるところでノモクの唇が触れないところは、ひとつとしてなかった。
 ノモクは、エシフの盛りあがった肉のおのおのに口吻をしながら、これが済んだらつぎはエシフの胸、腹、そして……あの青白い焔に包まれ、ついには精を迸らせた異教徒のペニスを癒すのだと思い、身震いが止まらなかった。
 遠雷が轟いた。
 ノモクは我に返った。気づけば、エシフの左脚を両手で抱え、その内腿に唇を寄せていた。唇は両脚の合わせ目のすぐ近くまで達していた。エシフは微動だにしない。それだけが救いだった。
「ウジーク、イサーイ……」
 ノモクはエシフの脚から両手を離し、後退りしておまじないを唱えた。桶を片手に立上り、湯を入れ替えるために湯屋へと向う。湯屋へと続く扉を開けるとき、ノモクはふり返ってエシフの姿を見た。決して穢してはならない殉教者の姿がそこにあった。
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