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第二章 海鳴り
10 祈りの文字は天へと舞いあがる(2/2)※【地雷:拷問】
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重苦しい音とともに、背後の扉が開いた。ノモクがふり返ると、黒いマントに身を包んだローエがそこに立っていた。彼は堂々とした脚取りで這入ってきながら、
「王子ではないですか! なぜこちらに?」
「殿下に、拷問のようすをお見せしようかと」
ゼーゲンの答えにローエは満足げに笑った。
「ならば最高のショウをご覧いただかなければ。うむ、腕がなりますな」
拷問台の前に進むと、ローエはまるで儀式でも行うかのように、エシフの周りを左に廻りはじめた。どこから鞭を打つのか吟味しているようでもあり、いつ始まるかわかない鞭打ちの恐怖を与えているようでもあった。
不気味な時間が流れる。エシフはこうべを垂れたまま微動だにしなかった。ノモクは息をのんだ。
「ローエ様が、『女奴隷と交わる前に、男奴隷を拷問にかけたい』と仰いましてね」ゼーゲンが淡々と云った。「ちょうど昨晩、殿下を満足させられなかった男奴隷がおりましたゆえ、これから罰を与えるのでございます」
その声は、悪魔的な響きをもって、ノモクの耳に届いた。
「司祭様。あれはぼくが断ったんです。娘も手ほどきも要らないって」ノモクは恐る恐る云った。
「あの奴隷は、夜のデザートの美味しさを、殿下にきちんと伝えなかったのでしょう」ゼーゲンは、ぴしゃりと返した。
「でも勇敢な漁師でもあります。エシフが獲ってきた不死身の魚に、ぼくは満足しました。それで充分ではないのですか?」
「殿下、よくお聞きください」
ゼーゲンは、ノモクに騎士団の習わしを説いてきかせた。アラディーム国の従騎士は、叙任の儀式の前に少年から経験者になることが求められる。経験者の条件は女を識ること、または奴隷の扱い方を覚えることだ。しかし、王都にある娼館に王家の一員であるノモクを連れてゆくことは憚れる。そこでローエは、このオシヤクでノモクを経験者にしようとしたのだった。
「殿下はお優しゅうございます。奴隷の扱い方を覚えるのは難しいかと考えて、女を識っていただこうと思っておりました」
「奴隷の扱い方って、みっつの命令のことですよね? それなら世話係のソルブにしました」
「その奴隷に罰をお与えになりましたか?」
ノモクは口ごもった。ソルブに男としての辱めを与えたことを、今ここで話すべきではないような気がした。「彼は忠実な奴隷で、過ちをひとつも犯しませんでした」
「たとえそうだとしても、奴隷を甘やかしては成りません」ゼーゲンは、ノモクの顔を覗きこんだ。「常に主人に従うように、あえて罰を与えることも大事なのです」
検分を了えたローエがエシフの真正面に立った。修道士ふたりが近寄ると、ローエはさっと黒マントを脱いだ。筋骨隆々とした体軀が露わになる。素裸かだった。尻と両脚の毛深さが、ローエの猛々しさを象徴している。修道士のひとりが黒マントを受けとり、もうひとりが鞭を差しだした。彼らが下がると、ローエは鞭で床を数度試し打ちをした。
ノモクは鞭の音に思わず目を瞑った。
「ほう」ゼーゲンが感嘆の声を洩らした。「殿下もご覧ください。ローエ様は、ああやって御自身の体軀を見せつけて、奴隷を威嚇しているのです。ああ、なんたること! 鎧を脱いでも、立派な体軀をしているではありませんか。いや、ローエ様は、肉の鎧を身にまとっているのです!」
ローエが怒号を浴びせながら、エシフを鞭で打ちはじめた。剣を揮い馴れたたくましい腕は、鞭を打ちつけるときも、いささかもその剛力を失うことがなかった。ローエは剣よりも軽いはずの鞭を、まるでずしりと重量感のある武器のように扱った。エシフは、声を上げることも身を捩らせることもしなかった。顔をやや上向きにし、鞭を受けながら、救いがその先にあるかのように安らかな目で宙を見据えていた。静と動の対立が、ふたりのあいだにあった。
真正面で鞭を打ち据えていたローエがエシフの背後に廻った。ノモクの目の前に、エシフの裸身が曝された。盾を二枚横に並べたような分厚い胸と引き締まった腹が、白煙のスカラプリオの下で静かに息づいている。そこへ鞭が激しく何度もふり下ろされた。エシフが低く呻き声をあげた。能くは聞きとれないが、その悲痛をたたえた声の合間に異教徒の言葉が呟かれた。それは海鳴りのように響いた。
「いくら邪教の神の名を叫ぼうと、助けは来ないぞ!」
ローエが声を荒げた。鞭がしなる音、肉体を打つ音、そしてエシフの声が一連の調べとなって拷問部屋を充す。ローエはその悲劇的な音楽をまとめあげる指揮者のように鞭を打ちつづけた。
エシフ……! ノモクは、王都の美術館で目にした彫像を思い出した。神に背き天罰を受ける若者、臣下の裏切りにあった異国の王、他郷で非業の死を遂げる聖人。数多の彫像のなかでノモクが心を惹かれるのは、こうした悲劇的な主題を持った作品だった。それは、ノモクが恵まれない境遇にある自分との共通点をそれらの彫像のなかに見いだそうとしていたからだった。ノモクは、生まれながらの不運を、寓話的に、宗教的に、芸術的に昇華させようとしてきた。今、ノモクの目の前で拷問を受けるエシフの裸身は、殉教を主題にした彫像そのものだった。彼の裸身には、甘美な異教の雰囲気があった。
ローエが、エシフの周囲を廻りはじめた。剣の舞いのように勇壮な身振りで鞭を打つ。全身から汗が噴きだして、全身の毛と云う毛を湿らせていた。手入れの行き届かない裏庭の雑草が夏の雨上がりに漂わせる、咽かえるような匂いが充満した。
「異教徒めが! これが神から祝福をうけた肉体だ!」
ローエは、皮の鎧に包まれたペニスを勃起させていた。
ゼーゲンが徐に立上った。
「殿下、これからですよ」
ゼーゲンは、拷問台の前に立つと、手にした異教徒の聖典を開き、そこから紙を数枚引きちぎって、拷問を手伝う修道士のひとりに手渡した。別の修道士が香炉のふたを開けた。焔の舌先がチロチロと覗かれた。
「異教徒の聖典を、これから燃やすのです」ノモクの隣りの修道士が説明した。
「それって、エシフの宗教の聖典なの?」ノモクは訊いた。
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。奴隷たちが信仰する宗教は、それぞれですからね」
「でも紙は貴重だよね? 煮て溶かして紙を作り直せば好いのに……」
「そうはいきません。一度でも異教徒の文字が書かれた紙は、穢れているのですから」
聖典の切れ端を受けとった修道士が、それを香炉のなかに入れた。たちまち火柱が立った。
「あ」
ノモクは声を上げた。
青白い焔の舌が異教徒のペニスを舐めはじめたかと思うと、一瞬にして全身に広がった。エシフが全身を震わせた。
「火傷しちゃうよ!」ノモクは思わず立上った。
「殿下、心配はご無用」エシフの傍らで眺めていたローエが笑った。「しばらくのあいだ息ができないだけだ」
両手両脚の先まで広がった青白い焔が、消えはじめるかのような揺らめきを見せた。ノモクは胸を撫でおろした。しかしそうではなかった。焔は進む先をかえただけだった。異教徒のペニスを焼き尽くそうと、全身に散らばった焔が、その一点に集まりだしたのだ。
青白い焔がエシフのペニスを包んだ。エシフは呻き声を上げながら身を捩らせた。終にエシフが体軀を弓形にしたとき、異教徒のペニスがそそりたった。
ゼーゲンがノモクを手招いた。修道士に連れられてノモクが横に立つと、ゼーゲンは異教徒の聖典をノモクの目の前で開いた。
「ご覧ください。縦書きの文字です。天に向かって文字を書くなど、神に対する冒涜ではありませんか!」ゼーゲンは聖典から一枚引きちぎると、ノモクに手渡した。「奴隷の扱い方を覚えたいのですよね。殿下、これを燃やすのです」
傍らの修道士がノモクの手を取って、聖典の切れ端を燃え盛る異教徒の徴へ近づけるのを手伝った。ノモクの手は震えていた。そこには見慣れた文字が書かれていた。
聖典の切れ端に焔が点いた――。
「ノクナードよ!」
エシフが大声を上げた。ノモクは、その言葉にはっとした。聞き覚えのある異教徒の神の名だったのだ。
つぎの瞬間、耳をつんざくようなエシフの叫び声が地下牢に響き渡った。鋭い音がなり、切れ端が弾かれ、ノモクの指先を離れた。聖典の切れ端は、白濁した飛沫とともに、天に舞いあがった。
「殿下、お先に失礼しますぞ」
ローエが高笑いをしながら黒マントを翻し、地下牢を出ていった。
エシフを助けなくては……。ノモクの思いをよそに、修道士たちがエシフの縛りを解きはじめた。いそがなければ、さらなる罰が与えられるのかもしれなかった。
「司祭様、お願いがあります」ノモクは云った。
ゼーゲンが険しい表情で見つめかえした。「殿下、何でございましょう」
ノモクは一度、エシフを見遣って、
「この奴隷をぼくも拷問にかけてみたいのです。これから彼を部屋に運んでいただけますか?」
ゼーゲンの顔が少しほころんだ。
ノモクは続けた。
「ローエみたいに強い騎士になりたいんです。ですから、先ずちゃんとした奴隷の扱い方を覚えることから始めるのはどうかなって……」
「おお、殿下! 何と頼もしいお言葉!」ゼーゲンはノモクを強く抱きしめて、左の頬に祝福の口吻をした。「それでは、さっそく準備させましょう。お部屋でお待ちください」
ノモクは拷問部屋を出る前に、拷問台をちらりとふり返った。ちから尽きてうずくまるエシフが、ノモクの顔を凝っと見つめていた。
「王子ではないですか! なぜこちらに?」
「殿下に、拷問のようすをお見せしようかと」
ゼーゲンの答えにローエは満足げに笑った。
「ならば最高のショウをご覧いただかなければ。うむ、腕がなりますな」
拷問台の前に進むと、ローエはまるで儀式でも行うかのように、エシフの周りを左に廻りはじめた。どこから鞭を打つのか吟味しているようでもあり、いつ始まるかわかない鞭打ちの恐怖を与えているようでもあった。
不気味な時間が流れる。エシフはこうべを垂れたまま微動だにしなかった。ノモクは息をのんだ。
「ローエ様が、『女奴隷と交わる前に、男奴隷を拷問にかけたい』と仰いましてね」ゼーゲンが淡々と云った。「ちょうど昨晩、殿下を満足させられなかった男奴隷がおりましたゆえ、これから罰を与えるのでございます」
その声は、悪魔的な響きをもって、ノモクの耳に届いた。
「司祭様。あれはぼくが断ったんです。娘も手ほどきも要らないって」ノモクは恐る恐る云った。
「あの奴隷は、夜のデザートの美味しさを、殿下にきちんと伝えなかったのでしょう」ゼーゲンは、ぴしゃりと返した。
「でも勇敢な漁師でもあります。エシフが獲ってきた不死身の魚に、ぼくは満足しました。それで充分ではないのですか?」
「殿下、よくお聞きください」
ゼーゲンは、ノモクに騎士団の習わしを説いてきかせた。アラディーム国の従騎士は、叙任の儀式の前に少年から経験者になることが求められる。経験者の条件は女を識ること、または奴隷の扱い方を覚えることだ。しかし、王都にある娼館に王家の一員であるノモクを連れてゆくことは憚れる。そこでローエは、このオシヤクでノモクを経験者にしようとしたのだった。
「殿下はお優しゅうございます。奴隷の扱い方を覚えるのは難しいかと考えて、女を識っていただこうと思っておりました」
「奴隷の扱い方って、みっつの命令のことですよね? それなら世話係のソルブにしました」
「その奴隷に罰をお与えになりましたか?」
ノモクは口ごもった。ソルブに男としての辱めを与えたことを、今ここで話すべきではないような気がした。「彼は忠実な奴隷で、過ちをひとつも犯しませんでした」
「たとえそうだとしても、奴隷を甘やかしては成りません」ゼーゲンは、ノモクの顔を覗きこんだ。「常に主人に従うように、あえて罰を与えることも大事なのです」
検分を了えたローエがエシフの真正面に立った。修道士ふたりが近寄ると、ローエはさっと黒マントを脱いだ。筋骨隆々とした体軀が露わになる。素裸かだった。尻と両脚の毛深さが、ローエの猛々しさを象徴している。修道士のひとりが黒マントを受けとり、もうひとりが鞭を差しだした。彼らが下がると、ローエは鞭で床を数度試し打ちをした。
ノモクは鞭の音に思わず目を瞑った。
「ほう」ゼーゲンが感嘆の声を洩らした。「殿下もご覧ください。ローエ様は、ああやって御自身の体軀を見せつけて、奴隷を威嚇しているのです。ああ、なんたること! 鎧を脱いでも、立派な体軀をしているではありませんか。いや、ローエ様は、肉の鎧を身にまとっているのです!」
ローエが怒号を浴びせながら、エシフを鞭で打ちはじめた。剣を揮い馴れたたくましい腕は、鞭を打ちつけるときも、いささかもその剛力を失うことがなかった。ローエは剣よりも軽いはずの鞭を、まるでずしりと重量感のある武器のように扱った。エシフは、声を上げることも身を捩らせることもしなかった。顔をやや上向きにし、鞭を受けながら、救いがその先にあるかのように安らかな目で宙を見据えていた。静と動の対立が、ふたりのあいだにあった。
真正面で鞭を打ち据えていたローエがエシフの背後に廻った。ノモクの目の前に、エシフの裸身が曝された。盾を二枚横に並べたような分厚い胸と引き締まった腹が、白煙のスカラプリオの下で静かに息づいている。そこへ鞭が激しく何度もふり下ろされた。エシフが低く呻き声をあげた。能くは聞きとれないが、その悲痛をたたえた声の合間に異教徒の言葉が呟かれた。それは海鳴りのように響いた。
「いくら邪教の神の名を叫ぼうと、助けは来ないぞ!」
ローエが声を荒げた。鞭がしなる音、肉体を打つ音、そしてエシフの声が一連の調べとなって拷問部屋を充す。ローエはその悲劇的な音楽をまとめあげる指揮者のように鞭を打ちつづけた。
エシフ……! ノモクは、王都の美術館で目にした彫像を思い出した。神に背き天罰を受ける若者、臣下の裏切りにあった異国の王、他郷で非業の死を遂げる聖人。数多の彫像のなかでノモクが心を惹かれるのは、こうした悲劇的な主題を持った作品だった。それは、ノモクが恵まれない境遇にある自分との共通点をそれらの彫像のなかに見いだそうとしていたからだった。ノモクは、生まれながらの不運を、寓話的に、宗教的に、芸術的に昇華させようとしてきた。今、ノモクの目の前で拷問を受けるエシフの裸身は、殉教を主題にした彫像そのものだった。彼の裸身には、甘美な異教の雰囲気があった。
ローエが、エシフの周囲を廻りはじめた。剣の舞いのように勇壮な身振りで鞭を打つ。全身から汗が噴きだして、全身の毛と云う毛を湿らせていた。手入れの行き届かない裏庭の雑草が夏の雨上がりに漂わせる、咽かえるような匂いが充満した。
「異教徒めが! これが神から祝福をうけた肉体だ!」
ローエは、皮の鎧に包まれたペニスを勃起させていた。
ゼーゲンが徐に立上った。
「殿下、これからですよ」
ゼーゲンは、拷問台の前に立つと、手にした異教徒の聖典を開き、そこから紙を数枚引きちぎって、拷問を手伝う修道士のひとりに手渡した。別の修道士が香炉のふたを開けた。焔の舌先がチロチロと覗かれた。
「異教徒の聖典を、これから燃やすのです」ノモクの隣りの修道士が説明した。
「それって、エシフの宗教の聖典なの?」ノモクは訊いた。
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。奴隷たちが信仰する宗教は、それぞれですからね」
「でも紙は貴重だよね? 煮て溶かして紙を作り直せば好いのに……」
「そうはいきません。一度でも異教徒の文字が書かれた紙は、穢れているのですから」
聖典の切れ端を受けとった修道士が、それを香炉のなかに入れた。たちまち火柱が立った。
「あ」
ノモクは声を上げた。
青白い焔の舌が異教徒のペニスを舐めはじめたかと思うと、一瞬にして全身に広がった。エシフが全身を震わせた。
「火傷しちゃうよ!」ノモクは思わず立上った。
「殿下、心配はご無用」エシフの傍らで眺めていたローエが笑った。「しばらくのあいだ息ができないだけだ」
両手両脚の先まで広がった青白い焔が、消えはじめるかのような揺らめきを見せた。ノモクは胸を撫でおろした。しかしそうではなかった。焔は進む先をかえただけだった。異教徒のペニスを焼き尽くそうと、全身に散らばった焔が、その一点に集まりだしたのだ。
青白い焔がエシフのペニスを包んだ。エシフは呻き声を上げながら身を捩らせた。終にエシフが体軀を弓形にしたとき、異教徒のペニスがそそりたった。
ゼーゲンがノモクを手招いた。修道士に連れられてノモクが横に立つと、ゼーゲンは異教徒の聖典をノモクの目の前で開いた。
「ご覧ください。縦書きの文字です。天に向かって文字を書くなど、神に対する冒涜ではありませんか!」ゼーゲンは聖典から一枚引きちぎると、ノモクに手渡した。「奴隷の扱い方を覚えたいのですよね。殿下、これを燃やすのです」
傍らの修道士がノモクの手を取って、聖典の切れ端を燃え盛る異教徒の徴へ近づけるのを手伝った。ノモクの手は震えていた。そこには見慣れた文字が書かれていた。
聖典の切れ端に焔が点いた――。
「ノクナードよ!」
エシフが大声を上げた。ノモクは、その言葉にはっとした。聞き覚えのある異教徒の神の名だったのだ。
つぎの瞬間、耳をつんざくようなエシフの叫び声が地下牢に響き渡った。鋭い音がなり、切れ端が弾かれ、ノモクの指先を離れた。聖典の切れ端は、白濁した飛沫とともに、天に舞いあがった。
「殿下、お先に失礼しますぞ」
ローエが高笑いをしながら黒マントを翻し、地下牢を出ていった。
エシフを助けなくては……。ノモクの思いをよそに、修道士たちがエシフの縛りを解きはじめた。いそがなければ、さらなる罰が与えられるのかもしれなかった。
「司祭様、お願いがあります」ノモクは云った。
ゼーゲンが険しい表情で見つめかえした。「殿下、何でございましょう」
ノモクは一度、エシフを見遣って、
「この奴隷をぼくも拷問にかけてみたいのです。これから彼を部屋に運んでいただけますか?」
ゼーゲンの顔が少しほころんだ。
ノモクは続けた。
「ローエみたいに強い騎士になりたいんです。ですから、先ずちゃんとした奴隷の扱い方を覚えることから始めるのはどうかなって……」
「おお、殿下! 何と頼もしいお言葉!」ゼーゲンはノモクを強く抱きしめて、左の頬に祝福の口吻をした。「それでは、さっそく準備させましょう。お部屋でお待ちください」
ノモクは拷問部屋を出る前に、拷問台をちらりとふり返った。ちから尽きてうずくまるエシフが、ノモクの顔を凝っと見つめていた。
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