[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん

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第二章 海鳴り

8 巻貝と香水

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 砂浜には大きな松の木が一本あった。長さがまちまちの布のようなものがその枝に掛けられて、海風に揺れていた。砂浜には小舟が幾隻か並んでいる。海を見遣ると、男たちの泳ぎすすむ先に小さな岩礁が見えた。男たちはおそらく仕事を了えて、戯れに泳ぎの競争をしているらしかった。
 エシフはきっと先頭にいるのだろう。彼は、あの不死身の魚であるグーフラトを晩餐会の人数分も獲ってきた。であれば漁師のなかでも一番泳ぎが達者であるはずだ。ノモクは、男たちの群れのなかで岩礁に最も近い男の頭に目を転じた。やがてその男が岩礁にたどり着き、よじ登ろうと両手をその縁に掛けた。
 ノモクは胸のかくしから、オペラグラスを取りだした。黒い壁に開けられた丸い大きな覗き穴のなかで、男の洋々とした背中、盛りあがった肩、そして岩礁をつかむたくましい腕が、活き活きと蠢いていた。
「あ」
 覗き穴のなかで、裸かの尻が下から上へとすばしこく登った。それはノモクがオペラグラスを覗く顔を下に傾けたのと同時だった。
 ノモクは思わずオペラグラスを目から外し、肉眼で遠くの岩礁を見つめた。素裸かの男が岩礁をよじ登っていた。やがて彼はその頂きに立った。エシフだ! ノモクは目を見張った。エシフは、ある方向に向けて祈りを捧げるように両腕を天にもたげた。男の後ろ姿の向こうには、あの「死の舟」があった。
 ノモクは、ふたたびオペラグラスで岩礁を見た。しかしエシフはその場にはいなかった。ノモクは肉眼に切り替えて岩礁の周辺を見た。別の男が岩礁にたどり着いたところだった。その男も同じように頂きまでよじ登り、「死の舟」に祈るような仕草をし、そして海に飛びこんだ。
 どうやらあの岩礁が折り返しらしい。岩礁の周辺を見渡すと砂浜に向かって泳ぎすすむふたりの男の姿があった。ノモクはオペラグラスを掛けた。
 エシフは砂浜まであと少しのところで泳ぐのをやめて、海のなかに立った。胸から上が海のおもてに出た。
 エシフはときおり後ろをふり返って、まだ遠くを泳ぐ仲間たちに声をかけながら、悠々と海からあがろうとしていた。裸かの腰が海のおもてに泛びあがったとき、エシフはそこで立止まって、両手で髪の毛を撫でつけ、頭を振った。
 ノモクはエシフの動きのをひとつひとつを見逃すまいと、オペラグラスを覗きこんだ。
 さかんな毛におおわれた臍が覗き穴の中央を過ぎた。たくましいエシフの性毛と、腰から太腿の付け根へと斜めに疾る深い溝があらわれた。波がその先にあるものを見せようか見せまいかと悩ましげに揺らいでいる。
 ノモクはあと一歩、エシフが進むのを待った。
 あっ!
 覗き穴からエシフの姿が消えた。ノモクは慌てて周囲を探した。覗き穴にソルブが現れた。肉眼で見ると、ふたりの男奴隷が、取っ組みあいを始めていた。ノモクは、オペラグラスを胸のかくしに静かに落とした。
 エシフとソルブは、その裸身をぶつけあいながら浅瀬まで進み、そこで倒れこんだ。しばらくのあいだエシフが上になり、その下でソルブがもがいていたが、ついにソルブの動きが停まった。力比べはエシフの勝利に了った。
 さすがエシフだ! ノモクは清々しい気分になった。騎士たちが川辺で素裸かになって水を掛けあったり相手を沈めあったりするのと同じことを、奴隷たちは海のなかでしているのである。騎士も奴隷も、裸かになってしまえば同じ男なのだ、とノモクは気づいた。たとえ彼らが異教徒のしるしを持っているとしても、だ。

 エシフはソルブを抑えこんだまま、凝っとしていた。が一筋の強い海風が吹き、松の枝葉を揺らしたのを合図に、エシフがさっきまでの力比べとはちがう、より激しい動きを始めた。それは巨大な魚と格闘しているかのように見えた。そこへまた海風が吹いた。ノモクは、こんどは潮の香に混じったエシフの匂いを吸いこんだような気がした。その瞬間、エシフに愛撫され、射精に導かれた、あの寝台の夢が甦った。
 泳ぎ了えた残りの仲間たちが、ひとりひとりエシフとソルブをとり囲むように集まって跪いた。湯屋で見たあの脚を折る坐りかただった。男たちの裸かの天蓋に遮られているため、浅瀬の寝台で何が起きているのかはノモクにはわからない。
 ぼくも、あの奴隷たちのなかに……。
 こう思ったつぎの瞬間、ノモクは想像の世界でソルブに成り代わった。肉の天蓋に遮られているからこそ、その想像は豊かに際限なくふくらんだ。

 力比べが寝台の上で再開された。ノモクが裸かのエシフに飛びかかり、取っ組みあいが始まった。しばらく争っていたが、エシフがノモクをいとも簡単に組み伏せた。エシフはそれまで手加減をしていたのだった。ノモクが観念して力を脱くと、エシフがノモクの上に重く沈みこんだ。裸かの肌が隅々までぴたりと重なりあう。こんどは、異教徒のペニスがノモクの無垢なペニスを力比べに誘った……。
 だめだ! 自慰は穢れた行為だ! 悪習なんだ!
 すでにノモクのペニスは屹立していた。だが、このまま精を洩らして修道服を汚してしまうと大変な事になる。ノモクは奴隷たちの戯れを見るのをやめ、股間を押さえながら来た道を戻った。
 修道士と一緒に出てきた洞窟の少し手前に、身を隠すのに充分な岩穴があった。ノモクは迷わず這入った。急いで修道服の裾をたくしあげ、戦慄いているペニスを握りしめた。ニナクの神よ、お赦しください……。目を閉じて手を動かした。
 ――汚濁が岩肌をゆっくりと垂れ落ちていった。
 
 あと始末を了え、ノモクは砂浜で貝殻を拾った。
「殿下、ただいま戻りました」
 修道士が洞窟から出てきた。
「どうだった?」
「ギーフ様たちはまだ戻っていませんでした」
「そうなんだ……。あっ、そうだ。きれいな貝殻を見つけたんだ」
 ノモクは修道士に淡いピンク色の巻貝を見せた。
「殿下、おめでとうございます」修道士が目を丸くした。「これは、幸運を呼ぶ貝です」
 ノモクは悦び勇んで噴水広場に戻った。
 噴水はノモクを祝福するように高く上がっていた。
 それからどれほど待っただろう。噴水が止まったときになって、ようやくギーフが戻ってきた。ナコシュだけでなくもうひとり顔馴染みの騎士が一緒にいた。
「ギーフ、ずいぶん遅かったね。ひょっとして一軒一軒見て廻ったの?」ノモクはあきれた口調で云った。
「ナコシュたちが案内してくれたんだ」興奮冷めやらぬようすだった。
「ねえ、ギーフ。ふたりとも非番の日なんだよ」
「いえ、殿下」ナコシュが進みでた。「ギーフは身代わりですからな。殿下と同じように護衛するのが我々の役目でもあります」
「王子だって修道士を連れ回してたんじゃないの?」
 ナコシュの言葉に力を得て、ギーフが云った。それ見たことかと云いたげな表情だ。
「ところで香水でも買った?」ノモクは話題をかえた。「なんだかそんな匂いがするけど」
「もっと好いものさ」
 ギーフが云うと、騎士たちが笑った。
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