[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん

文字の大きさ
上 下
10 / 93
第二章 海鳴り

1 瘡蓋(かさぶた)

しおりを挟む
 目を覚ますと見馴れないだいのうえにひとりで居た。窓の白いカーテンが朝の光を透かしている。裸かの胸から腹にかけて、波しぶきの跡があった。
 ノモクは徐々に昨夜の出来事を思い出し、目を閉じ、両手で顔を覆った。昨夜、エシフがこの部屋に三人の娘たちを『夜のデザート』として連れてきた。ノモクが純潔を護ることができたのは、その性体験への誘いを強く拒んだからだ。
 しかしあの男奴隷は、この部屋を去るときに、彼の裸身の残像を置いていった。エシフは、ほとんど全裸の美しい肉体を、惜しげもなくノモクの目前にさらした。腰布の前垂れの隙間から見え隠れするペニスも、気にするようすはなかった。それどころか、ノモクのペニスがチュニックのなかで屹立の兆しを見せたとき、「男は皆、こうなるのです」と云って、自分のペニスを、躊躇なくノモクに握らせた。異教徒のペニス――それはノモクの手のなかで好奇から憧憬に、さらに恐怖に、そして畏敬へと変わった。

 突然、開け放された窓から海風が這入ってきて、早朝の薄暗い部屋が潮の香でちみちた。昨夜の光景が瞼の裏でよりいっそう鮮明になる。ベッドのうえにエシフが現れた。
 ああ、そうだった。性体験の前に一人前の男になる準備が必要だった。そしてエシフの残像は、ノモクにそのための『手ほどき』をした。ノモクと同じ年頃の少年たちは、ごく自然に自慰を楽しんでいる。そうして自分のペニスに馴れ親しみ、その扱い方を覚え、それから性体験へと進むのだ。その第一歩を、エシフの残像が、ノモクの肉体を借りるという形で手伝った。と同時にノモクの全身に散らばる快楽の源泉を、ひとつひとつ掘りおこしていった。
 ノモクはここまでを思いかえして、ようやく目を開けた。これまで禁じていた自慰を、誘惑に負けてやってしまったと云う事実を、受け入れる決心をしたのだ。ベッドから出ると、乱れたシーツを整えた。カーテンを開けて、朝陽をたっぷりと部屋のなかに注ぎこませる。
 ふと外を見遣ると、少し離れた湯屋の焚き口のところに男奴隷の姿があった。彼は、壁を背に坐り、両脚をゆったりと伸ばして頭をこくりこくりと揺らしている。薪を両手に持ち、胸に抱えていたので、焔の番をしていて眠ってしまったらしかった。
 まずは湯屋で身を清めよう。昨夜の湯がまだ残っているだろうし、夜通し働いている彼を起こすのは可哀想だ。それがすんだら、朝のお祈りをして、自慰の懺悔をしよう。

 ノモクはランプひとつを手に、次の間にある湯屋に這入った。籠り切った湯気が、なまぬるく裸かの全身にまとわりついた。立っているだけで素肌が徐々に湿り気を帯びてゆく。胸から腹にかけて瘡蓋かさぶたのように張りついていた精液が、性的な匂いを漂わせながら、どろどろと流れ落ちはじめた。
 ノモクは慌てて浴槽から残り湯を柄杓に取り、穢れを洗い流した。それから長椅子の石鹸を直接素肌に擦りつけ、両手で胸から腹を何度も撫でた。湯を使う音を立てて外の男奴隷を起こさないように、姿勢を低くした。
 あっ……。
 ノモクは、昨夜、世話係のソルブがそうしたように、両脚を折って石の床に坐っていた。ランプひとつの暗がりのどこかに、ソルブがひそんでいるような錯覚が起こった。ノモクは立上がり、光を採ろうと長椅子のうえの位置にある開き窓に手を伸ばした。ちょうどそのしたに、さっきの眠っている男奴隷がいるはずだったので、ようすを窺うようにほんの少しだけ開けてみた。
 え……?
 男奴隷は、薪を枕に仰向けに寝転がっていた。しかも、腰布を解き、口元だけを残して顔に被せていた。それは朝陽を避けて本格的に休むためではなかった。自慰のためだった。彼は、ノモクが見下ろしているのも気づかずに、胸を、腰を、そして両脚を、大きく波のようにうねらせながら、ペニスを揉みしだいていた。
 生まれて初めて目にする他人の自慰に、ノモクはちょっとした好奇心を持った。それは自分の自慰が、正しいやり方であったのかを確信したくもあったからだった。やがて男奴隷の手の動きは激しくなり、口からは喘ぎ声や呻き声が洩れだした。そして彼が、全身を大きく反らせ、ああっ、と叫んだ瞬間、ノモクは我にかえって、窓を閉じた。なぜだかわからないが、これ以上、盗み見してはいけないと思ったのだ。
 ノモクは長椅子からそっと降り、布を湯に浸して全身を洗い、別の乾いた布で水気を拭いて部屋に戻った。途中で姿見に映る自分の裸身を見たとき、それに一瞬、エシフの裸身が重なったような気がして、かぶりを振った。今の自分はおかしい、どうかしている。
 懺悔が必要だった。ノモクは、清潔なチュニックを身にまとい、そのうえに純白のサープリスを着用した。屋敷のなかに礼拝室があるかどうか、使用人に訊こうと扉に手を伸ばしたとき、外から三度ノックされた。ちょうど好いタイミングだ。ノモクは、ノックの主を驚かさないようにゆっくりと扉を開けた。
「おはよう。何か用――」
「ノモク王子……」
 世話係のソルブが立っていた。
 ノモクは、昨夜の手ちがいについてソルブに訊きたかったが、口をつぐんでしまった。自分より背の高い彼の顔をそっと覗きこんだときに、まったく表情が読み取れなかったからだ。ソルブの顔は、喜怒哀楽のどのひとつにも当てはまらないようにも、またそれらすべてを一度に表現しているようにも見えた。
 ノモクは、つとめて笑顔を作った。
「おはよう、ソルブ。ええと、みっつだったよね?」
「はい。何なりとお申しつけください」
「この屋敷に礼拝室はあるかい?」
「ご案内いたします」
「ひとりでお祈りをしたいんだ。だから場所を教えて。これがひとつ目のお願いだよ」ノモクは『ひとつ目』を強調した。「そしてふたつ目。そのあいだに部屋の掃除を頼みたいんだけど」ソルブを部屋に招きいれた。
「仰せのとおりに。礼拝室は、この部屋を出て、廊下を左に真っ直ぐ行った突きあたりにございます」
「ありがとう。みっつ目のお願いは、戻ってきてからにするからね」
「かしこまりました。朝食は、お戻りになってからで宜しいでしょうか」
「この部屋でね。じゃあ、行ってくる」
「ノモク王子、少々お待ちを」ソルブは腰布を解くと、さっと折り畳んでノモクのサーブリスの袖に差しいれた。「腰布なしでこの部屋から出ることは出来ません。お戻りになるまで、ここにいるお約束の証明です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...