[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん

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第二章 海鳴り

1 瘡蓋(かさぶた)

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 目を覚ますと見馴れないだいのうえにひとりで居た。窓の白いカーテンが朝の光を透かしている。裸かの胸から腹にかけて、波しぶきの跡があった。
 ノモクは徐々に昨夜の出来事を思い出し、目を閉じ、両手で顔を覆った。昨夜、エシフがこの部屋に三人の娘たちを『夜のデザート』として連れてきた。ノモクが純潔を護ることができたのは、その性体験への誘いを強く拒んだからだ。
 しかしあの男奴隷は、この部屋を去るときに、彼の裸身の残像を置いていった。エシフは、ほとんど全裸の美しい肉体を、惜しげもなくノモクの目前にさらした。腰布の前垂れの隙間から見え隠れするペニスも、気にするようすはなかった。それどころか、ノモクのペニスがチュニックのなかで屹立の兆しを見せたとき、「男は皆、こうなるのです」と云って、自分のペニスを、躊躇なくノモクに握らせた。異教徒のペニス――それはノモクの手のなかで好奇から憧憬に、さらに恐怖に、そして畏敬へと変わった。

 突然、開け放された窓から海風が這入ってきて、早朝の薄暗い部屋が潮の香でちみちた。昨夜の光景が瞼の裏でよりいっそう鮮明になる。ベッドのうえにエシフが現れた。
 ああ、そうだった。性体験の前に一人前の男になる準備が必要だった。そしてエシフの残像は、ノモクにそのための『手ほどき』をした。ノモクと同じ年頃の少年たちは、ごく自然に自慰を楽しんでいる。そうして自分のペニスに馴れ親しみ、その扱い方を覚え、それから性体験へと進むのだ。その第一歩を、エシフの残像が、ノモクの肉体を借りるという形で手伝った。と同時にノモクの全身に散らばる快楽の源泉を、ひとつひとつ掘りおこしていった。
 ノモクはここまでを思いかえして、ようやく目を開けた。これまで禁じていた自慰を、誘惑に負けてやってしまったと云う事実を、受け入れる決心をしたのだ。ベッドから出ると、乱れたシーツを整えた。カーテンを開けて、朝陽をたっぷりと部屋のなかに注ぎこませる。
 ふと外を見遣ると、少し離れた湯屋の焚き口のところに男奴隷の姿があった。彼は、壁を背に坐り、両脚をゆったりと伸ばして頭をこくりこくりと揺らしている。薪を両手に持ち、胸に抱えていたので、焔の番をしていて眠ってしまったらしかった。
 まずは湯屋で身を清めよう。昨夜の湯がまだ残っているだろうし、夜通し働いている彼を起こすのは可哀想だ。それがすんだら、朝のお祈りをして、自慰の懺悔をしよう。

 ノモクはランプひとつを手に、次の間にある湯屋に這入った。籠り切った湯気が、なまぬるく裸かの全身にまとわりついた。立っているだけで素肌が徐々に湿り気を帯びてゆく。胸から腹にかけて瘡蓋かさぶたのように張りついていた精液が、性的な匂いを漂わせながら、どろどろと流れ落ちはじめた。
 ノモクは慌てて浴槽から残り湯を柄杓に取り、穢れを洗い流した。それから長椅子の石鹸を直接素肌に擦りつけ、両手で胸から腹を何度も撫でた。湯を使う音を立てて外の男奴隷を起こさないように、姿勢を低くした。
 あっ……。
 ノモクは、昨夜、世話係のソルブがそうしたように、両脚を折って石の床に坐っていた。ランプひとつの暗がりのどこかに、ソルブがひそんでいるような錯覚が起こった。ノモクは立上がり、光を採ろうと長椅子のうえの位置にある開き窓に手を伸ばした。ちょうどそのしたに、さっきの眠っている男奴隷がいるはずだったので、ようすを窺うようにほんの少しだけ開けてみた。
 え……?
 男奴隷は、薪を枕に仰向けに寝転がっていた。しかも、腰布を解き、口元だけを残して顔に被せていた。それは朝陽を避けて本格的に休むためではなかった。自慰のためだった。彼は、ノモクが見下ろしているのも気づかずに、胸を、腰を、そして両脚を、大きく波のようにうねらせながら、ペニスを揉みしだいていた。
 生まれて初めて目にする他人の自慰に、ノモクはちょっとした好奇心を持った。それは自分の自慰が、正しいやり方であったのかを確信したくもあったからだった。やがて男奴隷の手の動きは激しくなり、口からは喘ぎ声や呻き声が洩れだした。そして彼が、全身を大きく反らせ、ああっ、と叫んだ瞬間、ノモクは我にかえって、窓を閉じた。なぜだかわからないが、これ以上、盗み見してはいけないと思ったのだ。
 ノモクは長椅子からそっと降り、布を湯に浸して全身を洗い、別の乾いた布で水気を拭いて部屋に戻った。途中で姿見に映る自分の裸身を見たとき、それに一瞬、エシフの裸身が重なったような気がして、かぶりを振った。今の自分はおかしい、どうかしている。
 懺悔が必要だった。ノモクは、清潔なチュニックを身にまとい、そのうえに純白のサープリスを着用した。屋敷のなかに礼拝室があるかどうか、使用人に訊こうと扉に手を伸ばしたとき、外から三度ノックされた。ちょうど好いタイミングだ。ノモクは、ノックの主を驚かさないようにゆっくりと扉を開けた。
「おはよう。何か用――」
「ノモク王子……」
 世話係のソルブが立っていた。
 ノモクは、昨夜の手ちがいについてソルブに訊きたかったが、口をつぐんでしまった。自分より背の高い彼の顔をそっと覗きこんだときに、まったく表情が読み取れなかったからだ。ソルブの顔は、喜怒哀楽のどのひとつにも当てはまらないようにも、またそれらすべてを一度に表現しているようにも見えた。
 ノモクは、つとめて笑顔を作った。
「おはよう、ソルブ。ええと、みっつだったよね?」
「はい。何なりとお申しつけください」
「この屋敷に礼拝室はあるかい?」
「ご案内いたします」
「ひとりでお祈りをしたいんだ。だから場所を教えて。これがひとつ目のお願いだよ」ノモクは『ひとつ目』を強調した。「そしてふたつ目。そのあいだに部屋の掃除を頼みたいんだけど」ソルブを部屋に招きいれた。
「仰せのとおりに。礼拝室は、この部屋を出て、廊下を左に真っ直ぐ行った突きあたりにございます」
「ありがとう。みっつ目のお願いは、戻ってきてからにするからね」
「かしこまりました。朝食は、お戻りになってからで宜しいでしょうか」
「この部屋でね。じゃあ、行ってくる」
「ノモク王子、少々お待ちを」ソルブは腰布を解くと、さっと折り畳んでノモクのサーブリスの袖に差しいれた。「腰布なしでこの部屋から出ることは出来ません。お戻りになるまで、ここにいるお約束の証明です」
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