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第一章 夜を往く帆舟(ふね)
4 一隻の帆舟 ※【地雷:男女絡み】
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エシフと女の性技が、ゆるやかにはじまった。
エシフは女の腰をしっかりと両手で支えている。女はエシフの肩から手をはなして、両脚をエシフの腰にまわし、妖しげに両腕を動かし、腋窩の影を見せつけながら、のけ反るようにして後ろに倒れた。エシフの性毛と女の性毛がひと続きになっている。いつからか、ふたりは繋がっていたのだった。
女の肩が海の面に浸されると、エシフは繋げた腰を大きく揺らせた。女は両腕を頭の上にあげて手首を交叉させ、その裸身を浜辺に打ちあげられた人魚のように蠢かせた。燭台の灯りが、絡みあうふたりを艶めかしく照らしている。
女の豊かな乳房の頂きには、水面に滴を落とした瞬間のように乳暈のぼかしが広がり、その滴の跳ね返りが表面に飛び上がろうとしていた。
エシフはゆっくりと腰を下ろし、両膝立ちになった。女の腰を片腕で支えながら、腰を緩やかに揺らし、もう片方の手を女の乳房へと差しのべていった。乳暈のまわりで指を巧みに動かす。すると泛びあがれずにいた水滴は、次第に面にせりあがり、やがてエシフの指先に操られて、丸い真珠へと姿をかえた。
エシフの指づかいによって、もう片方の乳房からも真珠が誕生した。騎士たちの溜め息が、そこかしこから、洩れる。エシフが上体を屈めて左右の真珠を交互に口に含むと、女の唇から官能的な歌が流れはじめた。
エシフが上体を起こす。白い布を手繰りよせ、両手でさっと扇いで、はためかせた。うえからすっぽりと被るようにして、女に重なる。海嘯のしたで、漁師と人魚が睦みあいをはじめた。それは穏やかな動きではなかった。逆流する波から逃れようとする激しい動きだった。エシフは、女のうえで藻掻き、海鳴りのような呻き声をあげた。その声は天井と壁に共鳴し、荘厳な倍音を轟かせた。
ゼーゲンが詠唱をとめた。
女の声がそれを引きついで、エシフの声と美しいハーモニーを紡ぎはじめた。
エシフの腰の動きに、海嘯は、勢いを失いつつあった。重なりあうエシフと女の腰の一部を覆い隠すだけになった。エシフは女の上にすっぽりと覆いかぶさり、緩やかに腰を数度揺らすと、すばやく身を翻して女を自分の上に乗せあげた。
「おおっ!」
騎士たちの嘆声が女の媚態に向けられた。
女は、エシフの腰に跨るようにして、上体を艶めかしく揺らした。長い髪を悩まし気に搔きあげ、丸みのある双肩を、あるいは豊かな乳房を手で撫でさすり、腰をくねらせた。官能的に蠢く女のしたで、エシフは、凝っと彼女を支えつづけた。
ノモクは女の裸体ではなく、エシフの裸体のその隅々に目を疾らせていた。エシフの肉体の動きは、荒々しいときも穏やかなときも、そのしなやかさを失ってはいなかった。そしてエシフの声に耳を奪われた。ノモクにはまだそのような経験はないが、娼館帰りの先輩騎士たちが自慢気に語って聞かせる娼婦との行為――それは彼らの武勇伝から想像する男女の営みにすぎないが――で発せられる、快楽の、慾情の、堕落の声ではなかった。それよりもっと崇高な、生命の、精神の、清廉の声だった。
「もっとよく御覧になれるようにいたしましょう」
ゼーゲンがノモクに囁いた。エシフの裸体に心を奪われていたノモクは、何も考えず頷いた。ゼーゲンは席を立つと、燭台を手に海原のなかへ這入った。そして燭台を高く掲げた。三本の蝋燭の焔が、星になった。
エシフと女は、一隻の帆舟だった。女が風を受ける帆のように、たわみ、揺れ、煽られようとも、エシフはびくともしない。強靭な帆柱で女をしっかりと繋ぎとめ、あやしなだめるように帆舟全体を揺らしていた。
帆舟が、三つ星に導かれるようにして、ノモクの前にゆったりと近づいてくる。波を乗りこえ、大きく跳ねた。ノモクは裸かの甲板に目を落とした。胸の中央から帆柱の土台へと、筋肉の溝が真っ直ぐに伸びている。深く筋の刻まれた腹から先の暗がりで、毛氈のような性毛と綿毛のような性毛とが、複雑に縺れあっていた。
ノモクはふと周囲を見まわした。暗黒の夜だった。目の前のすべてが海だった。帆舟をはさむように大きな船が泛んでいる。松明を灯して船乗りたちが、帆船を見ている。ひそやかな息遣い、荒々しい息遣いが、方々から聞こえる。船乗りたちの何人かが、船の陰で、しきりに手を動かしている。うめき声があがる。声のすぐ側の松明の灯りが消える。やがて左右の松明の灯りがすべて消えた。
「王子、お楽しみはこれからでございます」
ゼーゲンが、ゆったりとした口調で云った。
エシフは女の腰をしっかりと両手で支えている。女はエシフの肩から手をはなして、両脚をエシフの腰にまわし、妖しげに両腕を動かし、腋窩の影を見せつけながら、のけ反るようにして後ろに倒れた。エシフの性毛と女の性毛がひと続きになっている。いつからか、ふたりは繋がっていたのだった。
女の肩が海の面に浸されると、エシフは繋げた腰を大きく揺らせた。女は両腕を頭の上にあげて手首を交叉させ、その裸身を浜辺に打ちあげられた人魚のように蠢かせた。燭台の灯りが、絡みあうふたりを艶めかしく照らしている。
女の豊かな乳房の頂きには、水面に滴を落とした瞬間のように乳暈のぼかしが広がり、その滴の跳ね返りが表面に飛び上がろうとしていた。
エシフはゆっくりと腰を下ろし、両膝立ちになった。女の腰を片腕で支えながら、腰を緩やかに揺らし、もう片方の手を女の乳房へと差しのべていった。乳暈のまわりで指を巧みに動かす。すると泛びあがれずにいた水滴は、次第に面にせりあがり、やがてエシフの指先に操られて、丸い真珠へと姿をかえた。
エシフの指づかいによって、もう片方の乳房からも真珠が誕生した。騎士たちの溜め息が、そこかしこから、洩れる。エシフが上体を屈めて左右の真珠を交互に口に含むと、女の唇から官能的な歌が流れはじめた。
エシフが上体を起こす。白い布を手繰りよせ、両手でさっと扇いで、はためかせた。うえからすっぽりと被るようにして、女に重なる。海嘯のしたで、漁師と人魚が睦みあいをはじめた。それは穏やかな動きではなかった。逆流する波から逃れようとする激しい動きだった。エシフは、女のうえで藻掻き、海鳴りのような呻き声をあげた。その声は天井と壁に共鳴し、荘厳な倍音を轟かせた。
ゼーゲンが詠唱をとめた。
女の声がそれを引きついで、エシフの声と美しいハーモニーを紡ぎはじめた。
エシフの腰の動きに、海嘯は、勢いを失いつつあった。重なりあうエシフと女の腰の一部を覆い隠すだけになった。エシフは女の上にすっぽりと覆いかぶさり、緩やかに腰を数度揺らすと、すばやく身を翻して女を自分の上に乗せあげた。
「おおっ!」
騎士たちの嘆声が女の媚態に向けられた。
女は、エシフの腰に跨るようにして、上体を艶めかしく揺らした。長い髪を悩まし気に搔きあげ、丸みのある双肩を、あるいは豊かな乳房を手で撫でさすり、腰をくねらせた。官能的に蠢く女のしたで、エシフは、凝っと彼女を支えつづけた。
ノモクは女の裸体ではなく、エシフの裸体のその隅々に目を疾らせていた。エシフの肉体の動きは、荒々しいときも穏やかなときも、そのしなやかさを失ってはいなかった。そしてエシフの声に耳を奪われた。ノモクにはまだそのような経験はないが、娼館帰りの先輩騎士たちが自慢気に語って聞かせる娼婦との行為――それは彼らの武勇伝から想像する男女の営みにすぎないが――で発せられる、快楽の、慾情の、堕落の声ではなかった。それよりもっと崇高な、生命の、精神の、清廉の声だった。
「もっとよく御覧になれるようにいたしましょう」
ゼーゲンがノモクに囁いた。エシフの裸体に心を奪われていたノモクは、何も考えず頷いた。ゼーゲンは席を立つと、燭台を手に海原のなかへ這入った。そして燭台を高く掲げた。三本の蝋燭の焔が、星になった。
エシフと女は、一隻の帆舟だった。女が風を受ける帆のように、たわみ、揺れ、煽られようとも、エシフはびくともしない。強靭な帆柱で女をしっかりと繋ぎとめ、あやしなだめるように帆舟全体を揺らしていた。
帆舟が、三つ星に導かれるようにして、ノモクの前にゆったりと近づいてくる。波を乗りこえ、大きく跳ねた。ノモクは裸かの甲板に目を落とした。胸の中央から帆柱の土台へと、筋肉の溝が真っ直ぐに伸びている。深く筋の刻まれた腹から先の暗がりで、毛氈のような性毛と綿毛のような性毛とが、複雑に縺れあっていた。
ノモクはふと周囲を見まわした。暗黒の夜だった。目の前のすべてが海だった。帆舟をはさむように大きな船が泛んでいる。松明を灯して船乗りたちが、帆船を見ている。ひそやかな息遣い、荒々しい息遣いが、方々から聞こえる。船乗りたちの何人かが、船の陰で、しきりに手を動かしている。うめき声があがる。声のすぐ側の松明の灯りが消える。やがて左右の松明の灯りがすべて消えた。
「王子、お楽しみはこれからでございます」
ゼーゲンが、ゆったりとした口調で云った。
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