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第一章 夜を往く帆舟(ふね)
1 腰布(トルーズ)ひとつの奴隷たち
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奴隷たちは、男も女も、腰布ひとつを身につけていた。彼らが丸裸か同然なのは、主人に刃向かう武器を何処にも隠せないようにするのと、奴隷という立場を自覚させるためだ。これが支配する者の心得なのだろうと思いながら、ノモクは、ふた皿目のスープを口に運んだ。
皆んなどうして平気なのだろう?
上座の長テーブルにはノモクの他に三人いる。ノモクの左隣りは司祭ゼーゲン、右隣りはこの館の主人である騎士団長ローエ、その奥にいるのは、ひとつ年下で、いざとなったときにはノモクの身代わりとなる従騎士ギーフだ。彼らは、肉体を露わに晒した男女の奴隷のことなど何ひとつ気にしていないようすでスープを堪能している。
左右の壁側にセッティングされた長テーブルに着席している騎士たちも同様だった。それどころか、給仕係の女奴隷が近くを通ると腰布をめくり上げようとする者までいる始末だ。女奴隷はしかし、その破廉恥な行為と騎士たちの陰鬱な笑い声に顔色ひとつ変えず、与えられた仕事を黙々とつづけている。男奴隷たちも、決して止めようとはしない。この晩餐会の場には、騎士たちよりもはるかに屈強な体格を持っている男奴隷が、何人もいるのにもかかわらず……。
せっかく初夏の保養地に来たのに、これではちっとも心が安まらない。ノモクは居心地の悪さを感じはじめていた。
「王子、お気に召しましたかな?」ローエが云った。
「ふた皿目でこの美味しさなのですから、これからどんな料理が出てくるか楽しみです」ノモクは、料理だけを褒めて云った。「招いてくれて、ありがとう」
「ここオシヤクは、アラディーム国の東端にある片田舎だが、その分、王都にはないものが沢山ありましてな……」ローエは、自らの領地を誇らしげに語った。「今宵は、デザートもありますぞ」
「本当ですか?」
ノモクが目を輝かせると、ローエは目を細めて頷いた。
ノモクは先週、十八になった。しかし王宮では、ふだんよりお皿の数が一枚増えただけの、形ばかりの、パーティーとも呼べない、ささやかな夕食会が催されただけだった、ノモクはこのような冷遇を、国王を父に王妃を母に持つ身ではあるとは云え、王位継承権などあって無きに等しい、末っ子の第七王子として生まれてきた、自分の運命だと受けとめている。
ローエがオシヤクに自分を招いたのは、騎士団の仲間たちとともに誕生祝いをしようと気遣ってくれたのだとノモクは理解していた。しかし、こんなはずではなかった。美しい海岸を歩き、潮風と戯れ、美味しいものを食べ、街じゅうを見て回る。それだけでも充分だったのだ。
ノモクはローエの横顔を見た。騎士団長と呼ぶにふさわしい、威厳のある顔つきをしている。ノモクが幼少のころから可愛がってくれたのは彼だった。
「王子、騎士になる気はございませぬか?」
「ローエ、騎士になったら父と母がぼくを好きになってくれるかな?」
「もちろんですとも。王子が立派な騎士におなりになるよう、わたくしがお手伝いいたしましょう」
小姓からはじめて、ようやく十四のときに従騎士になれた。うまくいけばあと二年で騎士として認められ、今の境遇が少しはかわるチャンスが訪れる。ローエには感謝しているが、やはりこの晩餐会の雰囲気にはどうしても馴染めない。
それにしても、なんて美味しいスープだろう。
ノモクは料理に集中することにした。少なくとも美味しいものを食べるという願いは叶っている。王宮では出なかったデザートも待っている。
「王子、お気に召したのであれば、お代わりはいかがかな?」ローエが訊いた。
「それではほんの少しだけ」
「ご遠慮なさるな」
ローエが女奴隷を呼んだ。目の前の皿にスープが溢れんばかりに注がれた。
「デザートの前にお腹いっぱいになったら……」ノモクは、遠慮がちに云った。
「そのときは、お部屋まで届けさせましょう。最高のデザートですぞ。是非、味わっていただきたい」
ローエは女奴隷の腰布のなかに片手を入れた。別の奴隷が女奴隷からスープポットとレードルを引き取ると、ローエは腰布のなかの手を妖しく蠢かせた。ノモクは目を丸くした。ローエは、こんなこと大したことでもないと云うかのように女奴隷の腰を抱き、胸の尖りを口に含んだ。胸と腰布のなかを執拗に弄ばれながらも女奴隷は声を上げることも、抵抗することもなく、ただその行為を受けつづけている。
ローエは女奴隷を自分の腰の上に跨らせ、両手で乳房を揉みしだきながら左右の乳首を交互に吸いはじめた。女奴隷は、ローエの肩に両手を置き、裸かの肉体を妖艶にのけ反らせて腰を揺らした。
「ローエ様、それは野イチゴではございません。胸イチゴでございます」司祭ゼーゲンが恭しく云った。
「おお、そうだった」ローエは女奴隷を解放し、豪快に笑った。
立派な騎士になるには、このように色事も好まなければならないのだろうか。ノモクはますます気が重くなった。
皆んなどうして平気なのだろう?
上座の長テーブルにはノモクの他に三人いる。ノモクの左隣りは司祭ゼーゲン、右隣りはこの館の主人である騎士団長ローエ、その奥にいるのは、ひとつ年下で、いざとなったときにはノモクの身代わりとなる従騎士ギーフだ。彼らは、肉体を露わに晒した男女の奴隷のことなど何ひとつ気にしていないようすでスープを堪能している。
左右の壁側にセッティングされた長テーブルに着席している騎士たちも同様だった。それどころか、給仕係の女奴隷が近くを通ると腰布をめくり上げようとする者までいる始末だ。女奴隷はしかし、その破廉恥な行為と騎士たちの陰鬱な笑い声に顔色ひとつ変えず、与えられた仕事を黙々とつづけている。男奴隷たちも、決して止めようとはしない。この晩餐会の場には、騎士たちよりもはるかに屈強な体格を持っている男奴隷が、何人もいるのにもかかわらず……。
せっかく初夏の保養地に来たのに、これではちっとも心が安まらない。ノモクは居心地の悪さを感じはじめていた。
「王子、お気に召しましたかな?」ローエが云った。
「ふた皿目でこの美味しさなのですから、これからどんな料理が出てくるか楽しみです」ノモクは、料理だけを褒めて云った。「招いてくれて、ありがとう」
「ここオシヤクは、アラディーム国の東端にある片田舎だが、その分、王都にはないものが沢山ありましてな……」ローエは、自らの領地を誇らしげに語った。「今宵は、デザートもありますぞ」
「本当ですか?」
ノモクが目を輝かせると、ローエは目を細めて頷いた。
ノモクは先週、十八になった。しかし王宮では、ふだんよりお皿の数が一枚増えただけの、形ばかりの、パーティーとも呼べない、ささやかな夕食会が催されただけだった、ノモクはこのような冷遇を、国王を父に王妃を母に持つ身ではあるとは云え、王位継承権などあって無きに等しい、末っ子の第七王子として生まれてきた、自分の運命だと受けとめている。
ローエがオシヤクに自分を招いたのは、騎士団の仲間たちとともに誕生祝いをしようと気遣ってくれたのだとノモクは理解していた。しかし、こんなはずではなかった。美しい海岸を歩き、潮風と戯れ、美味しいものを食べ、街じゅうを見て回る。それだけでも充分だったのだ。
ノモクはローエの横顔を見た。騎士団長と呼ぶにふさわしい、威厳のある顔つきをしている。ノモクが幼少のころから可愛がってくれたのは彼だった。
「王子、騎士になる気はございませぬか?」
「ローエ、騎士になったら父と母がぼくを好きになってくれるかな?」
「もちろんですとも。王子が立派な騎士におなりになるよう、わたくしがお手伝いいたしましょう」
小姓からはじめて、ようやく十四のときに従騎士になれた。うまくいけばあと二年で騎士として認められ、今の境遇が少しはかわるチャンスが訪れる。ローエには感謝しているが、やはりこの晩餐会の雰囲気にはどうしても馴染めない。
それにしても、なんて美味しいスープだろう。
ノモクは料理に集中することにした。少なくとも美味しいものを食べるという願いは叶っている。王宮では出なかったデザートも待っている。
「王子、お気に召したのであれば、お代わりはいかがかな?」ローエが訊いた。
「それではほんの少しだけ」
「ご遠慮なさるな」
ローエが女奴隷を呼んだ。目の前の皿にスープが溢れんばかりに注がれた。
「デザートの前にお腹いっぱいになったら……」ノモクは、遠慮がちに云った。
「そのときは、お部屋まで届けさせましょう。最高のデザートですぞ。是非、味わっていただきたい」
ローエは女奴隷の腰布のなかに片手を入れた。別の奴隷が女奴隷からスープポットとレードルを引き取ると、ローエは腰布のなかの手を妖しく蠢かせた。ノモクは目を丸くした。ローエは、こんなこと大したことでもないと云うかのように女奴隷の腰を抱き、胸の尖りを口に含んだ。胸と腰布のなかを執拗に弄ばれながらも女奴隷は声を上げることも、抵抗することもなく、ただその行為を受けつづけている。
ローエは女奴隷を自分の腰の上に跨らせ、両手で乳房を揉みしだきながら左右の乳首を交互に吸いはじめた。女奴隷は、ローエの肩に両手を置き、裸かの肉体を妖艶にのけ反らせて腰を揺らした。
「ローエ様、それは野イチゴではございません。胸イチゴでございます」司祭ゼーゲンが恭しく云った。
「おお、そうだった」ローエは女奴隷を解放し、豪快に笑った。
立派な騎士になるには、このように色事も好まなければならないのだろうか。ノモクはますます気が重くなった。
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