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第一章 「お江戸いけめん番付」の色男

壱 せせり掛け

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「和尚さまぁ、数珠でこのようなことをなされては、ばちがあたります」
 俗に、『イヤよイヤよも好きのうち』と云う。言葉とは裏腹に、鎮光ちんこうは、無骨な手が尻の谷間を割り開き、太い指が数珠を尻穴に埋めこんでゆくのを拒まない。それどころか四つん這いになって尻を高く突きあげ、もっともっと、とせがんでいる。願いどおりに最後の一粒が、ぬるん、と埋めこまれて、鎮光は恍惚の表情を浮かべた。
「罰より前に、尻の奥にあたってるじゃねえか。つぎはしょにしてやろうか?」
 五鈷杵とは密教で使われる法具のひとつである。梵語ではこれを「ヴァジュラ」と呼ぶ。持ち手の両端にそれぞれ五本にわかれた鉾がある。中央の一本を残りの四本が四方から鉤爪かぎづめのように包んでいるので、双頭の張り型の代わりになるのだ。
 ……知らんけど。
「ですから法具を使うのは……はあぁっ!」このとき、ひと繋ぎの数珠が一気に引き抜かれて、鎮光は、喘ぎ声を洩らした。「ひいぃっ……ふぅ……ぷ、『ぷれい』のあとでへぇ……ほ、ほぉ……法具を、洗うのは、わたしなのですから」
「法具の手入れなら芳恵ほうけい丹清たんしょうに任せればいい」和尚は、紅差指べにさしゆび(=薬指)と高高指たかたかゆび(=中指)に、赤紫色の塗り薬をたっぷりと掬いとった。「どれ、いんこうを塗ってやろう。痔の薬だ」
 ずぶり。
「はぁ! ひぃ! ふぅ! へぇ! ほぉおおおおおっ!」
 夜具の上で丸裸の鎮光を組み敷き、せせり掛け(=尻穴をほじること)をしているこの和尚は、熊のような大男であった。
 平安から鎌倉の世に活躍した仏師、運慶の彫った仁王像のような逞しい肉体の持ち主であることが、着衣の上からも見てとれる。肩幅は広く、胸囲も広い。たくしあげられた両袖の下には、丸太のような腕がある。
 脱いだら凄いのでは?
 その期待に応えるように、和尚は着衣の前をくつろげ、もろ肌脱ぎになった。
 胸毛も腹毛もない。腹も出ておらず、きりりと引締まっている。つい撫でまわしてみたくなるような、まことにすべらかな肌をしている。
「和尚さまぁ、お情けを……」
「うむ」
 鎮光にせがまれて、和尚は仁王立ちになった。しかしその顔つきは、荒々しい口調とはちがって、慈愛に満ち、穏やかである。太い眉も、大きな目も、ゆったりと垂れさがっている。鼻も唇もそれなりに大きいが、威圧感を与えるようなものではない。若しこの和尚が肥後の生まれであったならば、その親しみやすさから、地元の大スターになっていたであろう。
 鎮光と戯れるこの和尚――法名をいんけいと云う。
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