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第六章 親分はボディガード
スキャンダルで大炎上?
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その夜、健悟は眠りにつけなかった。
それもそのはずで、柳川が健悟に抱き枕よろしくしがみついて寝息を立てているのだった。健悟の豊饒な胸毛が心地よいのか、時折、むにゃむにゃと云いながら頬ずりをしたり、鼻先を擦りつけてその匂いを、すうっ、と吸いんだりしている。右の胸に置かれた柳川の手も曲者だ。突然、その指先に健悟の胸毛を巻きつけたり、乳暈の周りでクルクルと円を描いたりしている。
これじゃあ、眠れねえだろうが……。
まさに生殺しの状態だ。健悟も相棒も悶々としている。かといって、柳川を叩き起こしてもう一戦、もう二戦へと持ちこむのはさすがに気が引けた。柳川はすでに体力を消耗しきっている。朝まで寝かせてやらなければならない。
やがて明け方になったころ、健悟は眠るのを諦めた。寝返りを打って柳川をそっと引きはがし、ベッドから降りた。そうしてから煙草を一本口に銜え、もう一本を左耳に挟むと、ジッポライターを片手にベランダへ出た。寝室のほうに向きなおって柵に背中を預け、煙草に火をつける。もう後戻りできねえぞ、と思いながら健悟は煙をたっぷりと吐き出した。
ガラスの向うでは柳川がすやすやと眠っている。ベッドのうえで両手両脚を無防備に投げ出したその若い青年の裸体は、今夜、健悟のものになったのだ。すると股間が疼いた。見なくてもわかる。相棒もその肉体の感覚を忘れられないのだ。
——おう、相棒。ご苦労だったな。
——俺はまだ満足してねえが。まあ、寝かせてやれ。
——ああ。
吸いおえた煙草をベランダの隅に置かれた小さなバケツに放りこんで、もう一本に火をつける。
柳川が研修に来ると聞いたとき、そしてその指導役を頼まれたとき、妙な対抗心が芽生えた。一度イベントに来たことのあるあの若造か。面白い。火消しの現場ってのを徹底的に教えこんで、ビビらせてやろう。あの自称広報部長のお紅茶レディはともかく、小雪までもが柳川のファンだと知った以上、ただでは帰してやるわけにはいかない。
健悟は煙草を大きく吸いこみ、煙をゆっくりと吐き出した。
後戻り?
健悟は思い直した。初めて出会ったとき、風呂でやらかしたじゃねえか。だとすれば、あの日からもう始まっていたんじゃないのか。
しかしすぐにその考えを否定した。いや、違う。あれは揶揄ってやっただけだ。部下たちにもしたように。まあ、ちょっと羽目を外しはしたが。
するとそこへ股間の相棒が、ぶるんっ、と嘶いた。
——そうかな?
——ああん? なんだよ、相棒。
——あそこまでやっておいて。
——あれはノーカウントだろ。最後までやってねえぞ。
風呂のガラス戸の向うで柳川は直立不動で健悟を待っていた。風呂なので当然素っ裸かだ。柳川は股間の相棒を健悟のまえに曝けだし、隠そうとしなかった。それを見て、なかなか見込みのあるやつだと健悟は思った。だからもっと恥ずかしがることをしてやろうと考えたのだった。
すべては柳川の覚悟と度胸を確かめるため。
初めのうち、柳川は健悟の圧倒的な肉体に明らかに慄いていた。
ところが柳川は逃げだすどころか、健悟の投げつける指令の数々を——それも四つん這いになって尻の穴を差しだすことまで——すっかりやり遂げてしまった。
煙草をその指に挟んだ手を鼻に近づけ、健悟は手の甲の匂いを嗅いだ。消防士の匂い——女にしか効き目がないと思っていたが、どうやら柳川もそのフェロモンにやられたようだ。その証拠に柳川はあの夜からすっかり健悟に懐いている。
そして今夜——うえの璃子から柳川を救うという名目で、ついに一線を越えようと覚悟を決めた。しかしいつの間にか情がわいていたのだ。うえの璃子のことなど、どうでもよくなっていた。ただ柳川を悦ばせてやるために、あらゆる体位を繰りだし、柳川の反応を見ながらたっぷりと尻を振りたてた。
いつの間にか二本目の煙草も吸いおえていた。
部屋に戻り、ベッドの端に腰を下ろす。上半身を柳川のほうに向け、乱れた髪を撫でてやろうと思ったちょうどそのとき、ヘッドボードのうえでスマホが振動した。小雪用ではなく、もうひとつのスマホだ。こんな時間になんだろうと訝りながら手に取ると、LINEのメッセージが届いていた。
卯月みちる——AV女優になったコンビニのバイトの女からだった。
>お兄さん、お久しぶり!
>愛理ちゃんから聞いたよ
愛理のやつ、どこでこいつと繋がっていたんだ?
ごつい親指でスクロールする。吹き出しがさらに続いていた。
>うえの璃子もこれで炎上間違いなし
>動画もあるけど容量が大きいから続きはリンク先をチェックしてね
送られた画像をタップする。
「いったい、どこでこれを……」
うえの璃子のセックス画像——確かにこれなら一発で炎上騒ぎになるに違いない。薄暗いベッドルームで男の腰を跨いで喘いでいる清純派女優の正面姿。騎乗位——それもAVのワンシーンと見紛うばかりのド派手な乱れっぷりだ。一方、相手の男の顔は見切れていて判別できない。しかし馴染みのホテルの部屋、見覚えのあるそのガタイ、そして心当たりのあるその剛毛……。
俺じゃねえか!
健悟は言葉を失った。
それもそのはずで、柳川が健悟に抱き枕よろしくしがみついて寝息を立てているのだった。健悟の豊饒な胸毛が心地よいのか、時折、むにゃむにゃと云いながら頬ずりをしたり、鼻先を擦りつけてその匂いを、すうっ、と吸いんだりしている。右の胸に置かれた柳川の手も曲者だ。突然、その指先に健悟の胸毛を巻きつけたり、乳暈の周りでクルクルと円を描いたりしている。
これじゃあ、眠れねえだろうが……。
まさに生殺しの状態だ。健悟も相棒も悶々としている。かといって、柳川を叩き起こしてもう一戦、もう二戦へと持ちこむのはさすがに気が引けた。柳川はすでに体力を消耗しきっている。朝まで寝かせてやらなければならない。
やがて明け方になったころ、健悟は眠るのを諦めた。寝返りを打って柳川をそっと引きはがし、ベッドから降りた。そうしてから煙草を一本口に銜え、もう一本を左耳に挟むと、ジッポライターを片手にベランダへ出た。寝室のほうに向きなおって柵に背中を預け、煙草に火をつける。もう後戻りできねえぞ、と思いながら健悟は煙をたっぷりと吐き出した。
ガラスの向うでは柳川がすやすやと眠っている。ベッドのうえで両手両脚を無防備に投げ出したその若い青年の裸体は、今夜、健悟のものになったのだ。すると股間が疼いた。見なくてもわかる。相棒もその肉体の感覚を忘れられないのだ。
——おう、相棒。ご苦労だったな。
——俺はまだ満足してねえが。まあ、寝かせてやれ。
——ああ。
吸いおえた煙草をベランダの隅に置かれた小さなバケツに放りこんで、もう一本に火をつける。
柳川が研修に来ると聞いたとき、そしてその指導役を頼まれたとき、妙な対抗心が芽生えた。一度イベントに来たことのあるあの若造か。面白い。火消しの現場ってのを徹底的に教えこんで、ビビらせてやろう。あの自称広報部長のお紅茶レディはともかく、小雪までもが柳川のファンだと知った以上、ただでは帰してやるわけにはいかない。
健悟は煙草を大きく吸いこみ、煙をゆっくりと吐き出した。
後戻り?
健悟は思い直した。初めて出会ったとき、風呂でやらかしたじゃねえか。だとすれば、あの日からもう始まっていたんじゃないのか。
しかしすぐにその考えを否定した。いや、違う。あれは揶揄ってやっただけだ。部下たちにもしたように。まあ、ちょっと羽目を外しはしたが。
するとそこへ股間の相棒が、ぶるんっ、と嘶いた。
——そうかな?
——ああん? なんだよ、相棒。
——あそこまでやっておいて。
——あれはノーカウントだろ。最後までやってねえぞ。
風呂のガラス戸の向うで柳川は直立不動で健悟を待っていた。風呂なので当然素っ裸かだ。柳川は股間の相棒を健悟のまえに曝けだし、隠そうとしなかった。それを見て、なかなか見込みのあるやつだと健悟は思った。だからもっと恥ずかしがることをしてやろうと考えたのだった。
すべては柳川の覚悟と度胸を確かめるため。
初めのうち、柳川は健悟の圧倒的な肉体に明らかに慄いていた。
ところが柳川は逃げだすどころか、健悟の投げつける指令の数々を——それも四つん這いになって尻の穴を差しだすことまで——すっかりやり遂げてしまった。
煙草をその指に挟んだ手を鼻に近づけ、健悟は手の甲の匂いを嗅いだ。消防士の匂い——女にしか効き目がないと思っていたが、どうやら柳川もそのフェロモンにやられたようだ。その証拠に柳川はあの夜からすっかり健悟に懐いている。
そして今夜——うえの璃子から柳川を救うという名目で、ついに一線を越えようと覚悟を決めた。しかしいつの間にか情がわいていたのだ。うえの璃子のことなど、どうでもよくなっていた。ただ柳川を悦ばせてやるために、あらゆる体位を繰りだし、柳川の反応を見ながらたっぷりと尻を振りたてた。
いつの間にか二本目の煙草も吸いおえていた。
部屋に戻り、ベッドの端に腰を下ろす。上半身を柳川のほうに向け、乱れた髪を撫でてやろうと思ったちょうどそのとき、ヘッドボードのうえでスマホが振動した。小雪用ではなく、もうひとつのスマホだ。こんな時間になんだろうと訝りながら手に取ると、LINEのメッセージが届いていた。
卯月みちる——AV女優になったコンビニのバイトの女からだった。
>お兄さん、お久しぶり!
>愛理ちゃんから聞いたよ
愛理のやつ、どこでこいつと繋がっていたんだ?
ごつい親指でスクロールする。吹き出しがさらに続いていた。
>うえの璃子もこれで炎上間違いなし
>動画もあるけど容量が大きいから続きはリンク先をチェックしてね
送られた画像をタップする。
「いったい、どこでこれを……」
うえの璃子のセックス画像——確かにこれなら一発で炎上騒ぎになるに違いない。薄暗いベッドルームで男の腰を跨いで喘いでいる清純派女優の正面姿。騎乗位——それもAVのワンシーンと見紛うばかりのド派手な乱れっぷりだ。一方、相手の男の顔は見切れていて判別できない。しかし馴染みのホテルの部屋、見覚えのあるそのガタイ、そして心当たりのあるその剛毛……。
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