[R-18] 火消しの火遊び:おっさん消防士はイケメン俳優に火をつける

山葉らわん

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第六章 親分はボディガード

お盛んなボディガード

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 水上のワード文書に河合がアドバイスを加えて修正を施し、小柳組長に提出する丙午報告書が完成した。
「河合、おまえなかなかやるな」健悟はすっかり感心した。「言葉の選び方にセンスがある」
「へへっ。それほどでも」河合は鼻高々だ。
 水上もそこへ加わった。「さすが河合の兄貴っす!」
「おう、兄弟。男ってのはな、言葉のセンスが大事だ。女を口説くときにも使えるからな」河合はニヤリと笑うと水上の股間をむんずと掴んだ。「ここばっかり使ってんじゃねえぞ」
「うわっ! 兄貴、勘弁してください」水上は前屈みになって河合の手に自分の両手を重ねた。
 河合は獲物を手放そうとしない。「てめえ、待機宿舎に女連れ込んでるそうじゃねえか、ああん?」
「親分、内緒にするって約束じゃないですか!」水上は健悟に訴えた。
「俺は誰にも云ってねえぞ」健悟はパソコンの画面に向かったままこう応え、小柳組長に指定されたアドレスにメールを送付した。「これでよし、と。さあ、おめえら戯れあってないでとっとと帰れ」
 河合が声をひそめた。「兄弟、てめえの声がでけえんだよ。朝まで筒抜けだって若い連中が云ってたぞ」
 水上が顔を引き攣らせた。
「河合、その辺にしておいてやれ」健悟はパソコンの電源を落とした。「水上は、惚れた女の声が外に洩れないようにしてるんだろうよ。男気があるじゃねえか」
 河合は、くくっと笑って水上を自由にした。「親分があの部屋を使っていたころは——」
「——河合、そこまでだ」健悟は椅子に腰掛けたまま脚を組んで胸の前で腕を組んだ。
「親分、毎回別の女の声がしてたってマジっすか?」そこへ水上が真顔で訊いた。「待機宿舎の伝説になっているんすよ」
「ああん?」
「兄弟、耳を貸せ」
 と云って河合が水上に何やら耳打ちした。いったい何を吹きこんでいるのか、水上の目が丸くなってゆく。好奇心旺盛なふたりの子分は退庁するようすもない。
「ああ、そうだ。伝説は全部本当だということにしておけ」ぶっきらぼうに健悟は云った。「さあ、帰った帰った」
「なあ、兄弟。わかってるよな?」
 と云って河合が口の前に人差し指を立てた。
 顔を紅潮させて水上が頷く。「も、もちろんっす。小雪の姐さんには内緒しないとヤバいっす」
「おめえら……」健悟はついに吼えた。「十秒以内にここを出てゆけ!」
 子分たちはワイワイと騒ぎながら待機室を出ていった。
 健悟は非常口へ行って四階まで階段を昇った。扉をそっと開けて四階のようすをうかがう。素早く資料室へ這入り、その隙間から小雪がデスクにいることを確認してドアを閉めた。
 健悟はそのまま部屋の奥まで進み、窓を背にすると、スマホを取りだして小雪にLINEを打ちはじめた。
 
 >いms資料室。小雪シャツを頼む。

 『今』と打ったつもりがうまくいかない。けれども健悟はそのままLINEを送った。
 さあ、どうやって小雪を迎えよう。このまま窓を背に脚を寛がせて、おう、と云いながら鉤にした人差し指を、クイクイッ、とさせるのはどうだ? いや、真っ昼間っから夜の誘いみたいだ。それなら片手をポケットに突っ込んで、ブラインド越しに外を眺めているってのはどうだ? これじゃあまるで昭和の刑事ドラマだ。仁王立ちで堂々と迎えるのはどうだ? ダメに決まっている。小雪を怖がらせてしまう。
 健悟が、ああでもない、こうでもない、と考えているとドアが、コンコンコン、と軽やかにノックされた。
「山」ドアの向うから小雪の声がした。
 なんだ? ああ、合言葉か。順番が逆だが、まあ別にそこはいいだろう。
「山」もう一度、小雪が云った。
 健悟はドアまで歩を進め、
「川」
 と応えてドアを開けてやった。小雪は、はっとした表情で健悟を見上げたが、健悟が目配せをして促すと、辷りこむようにして部屋に這入ってきた。健悟は後ろ手で音を立てないよう静かに鍵を掛けた。
「親分さん、お早うございます。宿直勤務お疲れさまでした」
 小雪は紙コップをふたつ乗せたお盆を両手に持っていた。そして右肘に紙バッグを下げている。そのなかに健悟のシャツがあるのだろう。
「おう、小雪。コーヒーか?」
 小雪は長テーブルにお盆を置いて、
「ええ、シャツの受け渡しだけではなんですし、お時間がよければ」
「モーニング・コーヒーなら、ありがたくいただかないとな」健悟は進みでて小雪のために椅子を引いてやった。「まあ、坐れや。レディ・ファーストだ」
「あっ……」
 突然、小雪がふらついて両手で健悟の左腕にしがみついた。
「どうした? 小雪、寝不足か?」
「え、その……」その白い頬が段々と紅潮してゆく。「あの……親分さん……わたし……」
「とりあえず坐れ」
「ちょっとだけ……こうしていてもいいですか?」
 小雪は椅子に腰を下ろす代わりに健悟にしなだれかかってきた。健悟の胸に頬を埋め、か細い両手を健悟の背中に回す。健悟はただ立ち尽くすしかない。

 ——よう、色男! 朝っぱらからお盛んだな。
 ——おい、相棒。てめえ! おい! やめろ!
 ——健悟、フェロモンだだ洩れだぞ。朝、シャワー浴びればよかったのにな。

 抱きついている小雪のお腹のあたりで相棒がギンギンになっている。制服越しでもおそらく小雪にはバレているだろう。小雪は、頬ずりをしながら健悟の匂いを嗅いでいる。
「親分さん、消防士っていい匂いなんですね……」
 その言葉は嬉しいが、今はそのときではない。
「……なんだかホッとするんです……」
 柳川も似たようなことを云っていたのを健悟は思い出す。
 柳川? そうだ。柳川の声を聞かせてやれば小雪が目を覚ますかもしれない。
 いつの間にか小雪の右手が活動服の上衣のファスナーをつまんでいた。ジジジ、と音を立てながらファスナーが下される。寝汗をたっぷりと吸いこんだTシャツの甘ったるい匂いが、むわりと資料室じゅうにまき散らされる。
「親分さん……」
「こ、小雪。しっかりしろ……」
 小雪が指の背で健悟の胸板を撫でおろす。ゾクゾクした。健悟は呻き声を上げそうになるのをなんとか堪えた。
「くっ……」
 だがすぐに陥落した。相棒がズボンのなかで、ブルルッ、といなないたのだった。あろうことか、下のファスナーもよろしく、と勝手に小雪を誘っている。
 健悟はズボンのカーゴポケットからスマホを取りだして、柳川の番号を押した。ワンコール、ツーコール、スリーコール……。
「親分、お早うございます! ちょうどシャワー浴びていたところっす。俺のセクシーショット見ます?」
 ファイブコール目で柳川が出た。
「おう、柳川。朝っぱらからすまねえが、ちょっと小雪に声を聞かせてやってくれ」
「職権濫用っすよ、親分」柳川が快活に笑った。「まあでも、ファンサービスですからね」
「今代わるから、おめえは腰にタオルでも巻いておけ」
 健悟はスマホを長テーブルに置くと、小雪を抱きかかえながら椅子に坐らせた。軀から小雪を引き剥がす。スマホを握らせ、目の前で両手を叩いた。ビクッと全身を震わせて、小雪が正気に戻った。
「あっ……親分さん……これは……?」手のなかのスマホを見つめて小雪が訊いた。
 健悟は平静を装って応えた。「寝不足だったみたいだな。柳川からモーニング・コールが来てるぞ」
「えっ? わたしに?」不思議そうな顔つきで小雪はスマホを耳に当てた。「もしもし?」
「モーニング・コーヒーのお礼だ。ゆっくり話せ」
 健悟は窓辺へ行き、ブラインドを上げると窓を開けて換気をした。背中の向うでは、若い男女が小声で何やら話している。もちろん、干渉するつもりはない。
 股間の相棒は、まだズボンの中央で見事なテントを張っている。

 ——おい、相棒。みっともねえだろ。
 ——若いふたりに嫉妬してんじゃねえの?
 ——なんでだよ。

 相棒がズボンのなかで限界を迎えている。健悟は窓の外を向いたままズボンのファスナーを少し下ろすと、そのまま指を突っ込んで楽なポジションにしてやった。これでひとまずセーフだ。

 ——おい、健悟。答えろよ。嫉妬してんだろ?
 ——芸能人とそのファンのささやかな交流だろ? 誰が嫉妬するかよ、ボケ。
 ——どっちに嫉妬している? 柳川か、それとも小雪か?

 しかし健悟には、即座に返す言葉がなかった。
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