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第五章 お紅茶は如何かしら?
腹が減っては戦はできぬ
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柳川が選んだのは——健悟の相棒だった。迷うようすはなかった。相棒を両手で包みこみ、その腹に泛ぶ縦筋を親指で揉みあげている。
「親分、触っても好いですか……」上目遣いで柳川が訊いた。
「もう触ってるだろ。この寝坊助」健悟はペットボトルのキャップを外した。「目覚ましに頭から水、ぶっかけてやろうか?」
柳川は返事をしなかった。口を半開きにして健悟の相棒を見つめながら、ひたすら手を動かしつづけている。
——お預け喰らった仔犬みてえだ……。
健悟は目を細めた。どうしようもなく愛着の湧く表情だ。ふと口許が緩む。
——俺が、よし、と云ったら喰らいつくんだろうな、こいつ。
それなら焦らしてやるまでだ。たっぷり時間をかけて柳川を夢中にさせよう。そうすれば、あの阿婆擦れ——うえの璃子——のことは忘れてしまうはずだ。
柳川の愛撫で健悟の相棒がさらに長く太くなった。硬さも増し、熱く燃え滾っている。健悟はペットボトルをヘッドボードの棚に置き、それからゆっくりと深呼吸をした。ああ、最高だ。呻き声が洩れる。そして周囲に漂う消防士の汗の匂い——焔に燻された浅黒い肌から発せられる、煤の匂いの混じった、あの雄のフェロモンが、よりいっそうまき散らされているのが自分でもわかる。
柳川の手の動きが健悟に快楽を送りこむ。
——なあ、相棒。どうする?
——迷ってんのか? おまえらしくもない。
——そりゃそうだろ。やりたいのは山々だが、相手は男だぞ。
——まあ、今のままでも十分だろうけどな。
新たな刺戟が加わった。健悟は、ああっ、とかすれ声を上げた。柳川が片手で相棒の根元を包んだまま、もう片方の手で相棒の尖端の膨らみを撫でている。鈴口から透明な液が滲みでた。柳川は、それを親指の腹で剥きだしの丸みに塗りひろげた。
「親分……」柳川は見るからに昂っている。「俺のも……その……親分のみたいになりますか?」
健悟は、うっ、と一度呻いてから応えた。「ああ、俺が教えるとおりにすればな……」
健悟は目を閉じて陶酔した。男の性感帯は、やはり同じ男が識りつくしている。女が男を愛撫するときのような戸惑いや駆け引きが一切ない。直接的な刺戟で快楽への一本道をひたすら突き進む。
——もう我慢できねえ。相棒、おまえはどうだ?
——スマホは大丈夫か?
——なんだよ、藪から棒に。
——そろそろメッセージが来るかもしれねえぜ、『俺の女』から。
スマホ! すっかり忘れていた。きっと朝食の画像がまた送られてくるだろう。小雪の作る家庭的な朝食——チェーン店の朝食よりもずっと美味いはずだ。
そのとき、ぐう、と健悟の腹が鳴った。その突然の轟音に驚いたのか、柳川が、あっ、と云って相棒から手を離した。健悟と柳川は、上と下から顔を見合わせて笑った。
健悟は、柳川の両脇に手を差しいれて引き起こしてやった。そうして柳川の背をヘッドボードに凭れかけさせると、自分も柳川の右隣りに移ってヘッドボードに背を預けた。
「腹が減っては戦はできぬ——」健悟は、しょうがない、といったニュアンスを込めて残念そうに云った。「朝メシでも喰わないか?」
柳川は名残惜しそうに頷いた。「ここで喰べるのはどうですか?」
「外国のホテルみたいだな」健悟は笑った。
「三島由紀夫の小説に出てくるんです」柳川は、健悟の顔を覗きこむようにした。「一度やってみたくって……」
面白そうだ、と健悟は考えて即座に快諾した。
それからふたりはテーブルクロスを準備するようにベッドのシーツを新しいのに取り替えた。さすがに皺くちゃで、どちらのものともわからない汗と精液をたっぷりと吸いこんだシーツの上で朝食を摂るのは躊躇われた。
柳川が、洗濯機を回す、と云って、引き剥がしたシーツを持って洗面所へ行った。健悟は、カーテンを開けて朝の光を、サッシ戸を引いて朝の空気を、寝室に招きいれた。
そうして健悟がキッチンに向かおうとしたとき、スマホが振動し、同時にLINEの着信音が鳴った。
小雪からだった。
健悟は今すぐチェックすべきか悩んだ。既読スルーすれば怪しまれるかもしれない。短いメッセージを二言三言やり取りするだけで了らせる自信がない。小雪の声が聞きたくなるのは、火を見るより明らかだ。健悟はスマホを握りしめたまま寝室を出た。
キッチンにはすでに柳川がいた。パンの焼ける匂いとコーヒーの匂いがする。柳川は、引き締まった尻を健悟に向けてトースターの前に立っていた。裸にエプロンどころか、素裸かそのものだ。健悟の相棒が素直に反応した。
健悟は音を立てないようにそっと近づいて食卓の上にスマホを置き、そして柳川の尻の谷間に屹立した相棒を挟んだ。「ホットドッグか?」
「あっ……親分——」柳川は全身を強張らせた。尻がきゅっと引き締まり、健悟の相棒を強く挟みこんだ。「ト、トーストです。バターを塗って……」
健悟のスマホが振動して通話を知らせる着信音が鳴った。健悟は柳川を解放してやり、スマホを手に取った。
「おう、小雪か? どうした」
健悟は裸かの尻のまま食卓の椅子に座りつつ、スピーカーをオンにして柳川にも聞かせてやることにした。柳川も椅子を引き寄せて健悟のすぐ左に陣を取った。
『親分さん、おはようございます。さっきLINEでメッセージ送ったんですけれど』
「悪い。今起きたところだ」
『朝食のお裾分けです。あとで見てくださいね』
「サンキュー。わかった」
『ところで今日はお休みでしたよね』
「ああ。それに柳川もそっちには行かないから、萬屋も大人しくしていると思うがな」
『そのことなんですけど、萬屋さんは今日お休みなんです。わたし、朝イチで休暇申請を代理で出すことになっていて——』
チン、とトースターの音が鳴った。健悟と柳川は、ほぼ同時にトースターに目をやった。
小雪もその音に気付いたようだった。『親分さんはパンなんですね。ちょっと意外』
「ちょうど米切らしちまってな」健悟は咄嗟に取り繕った。「それより萬屋が心配だな。休みを取ってお紅茶カレーでも作って明日持ってくるとか……」
『多分なんですけど——』小雪が心配そうな声で云った。『柳川さんの事務所の前で見張りをするんじゃないかって思うんです。だって、昨日、熱愛報道が出たでしょう?』
健悟と柳川は、ほぼ同時に顔を見あわせた——。
「親分、触っても好いですか……」上目遣いで柳川が訊いた。
「もう触ってるだろ。この寝坊助」健悟はペットボトルのキャップを外した。「目覚ましに頭から水、ぶっかけてやろうか?」
柳川は返事をしなかった。口を半開きにして健悟の相棒を見つめながら、ひたすら手を動かしつづけている。
——お預け喰らった仔犬みてえだ……。
健悟は目を細めた。どうしようもなく愛着の湧く表情だ。ふと口許が緩む。
——俺が、よし、と云ったら喰らいつくんだろうな、こいつ。
それなら焦らしてやるまでだ。たっぷり時間をかけて柳川を夢中にさせよう。そうすれば、あの阿婆擦れ——うえの璃子——のことは忘れてしまうはずだ。
柳川の愛撫で健悟の相棒がさらに長く太くなった。硬さも増し、熱く燃え滾っている。健悟はペットボトルをヘッドボードの棚に置き、それからゆっくりと深呼吸をした。ああ、最高だ。呻き声が洩れる。そして周囲に漂う消防士の汗の匂い——焔に燻された浅黒い肌から発せられる、煤の匂いの混じった、あの雄のフェロモンが、よりいっそうまき散らされているのが自分でもわかる。
柳川の手の動きが健悟に快楽を送りこむ。
——なあ、相棒。どうする?
——迷ってんのか? おまえらしくもない。
——そりゃそうだろ。やりたいのは山々だが、相手は男だぞ。
——まあ、今のままでも十分だろうけどな。
新たな刺戟が加わった。健悟は、ああっ、とかすれ声を上げた。柳川が片手で相棒の根元を包んだまま、もう片方の手で相棒の尖端の膨らみを撫でている。鈴口から透明な液が滲みでた。柳川は、それを親指の腹で剥きだしの丸みに塗りひろげた。
「親分……」柳川は見るからに昂っている。「俺のも……その……親分のみたいになりますか?」
健悟は、うっ、と一度呻いてから応えた。「ああ、俺が教えるとおりにすればな……」
健悟は目を閉じて陶酔した。男の性感帯は、やはり同じ男が識りつくしている。女が男を愛撫するときのような戸惑いや駆け引きが一切ない。直接的な刺戟で快楽への一本道をひたすら突き進む。
——もう我慢できねえ。相棒、おまえはどうだ?
——スマホは大丈夫か?
——なんだよ、藪から棒に。
——そろそろメッセージが来るかもしれねえぜ、『俺の女』から。
スマホ! すっかり忘れていた。きっと朝食の画像がまた送られてくるだろう。小雪の作る家庭的な朝食——チェーン店の朝食よりもずっと美味いはずだ。
そのとき、ぐう、と健悟の腹が鳴った。その突然の轟音に驚いたのか、柳川が、あっ、と云って相棒から手を離した。健悟と柳川は、上と下から顔を見合わせて笑った。
健悟は、柳川の両脇に手を差しいれて引き起こしてやった。そうして柳川の背をヘッドボードに凭れかけさせると、自分も柳川の右隣りに移ってヘッドボードに背を預けた。
「腹が減っては戦はできぬ——」健悟は、しょうがない、といったニュアンスを込めて残念そうに云った。「朝メシでも喰わないか?」
柳川は名残惜しそうに頷いた。「ここで喰べるのはどうですか?」
「外国のホテルみたいだな」健悟は笑った。
「三島由紀夫の小説に出てくるんです」柳川は、健悟の顔を覗きこむようにした。「一度やってみたくって……」
面白そうだ、と健悟は考えて即座に快諾した。
それからふたりはテーブルクロスを準備するようにベッドのシーツを新しいのに取り替えた。さすがに皺くちゃで、どちらのものともわからない汗と精液をたっぷりと吸いこんだシーツの上で朝食を摂るのは躊躇われた。
柳川が、洗濯機を回す、と云って、引き剥がしたシーツを持って洗面所へ行った。健悟は、カーテンを開けて朝の光を、サッシ戸を引いて朝の空気を、寝室に招きいれた。
そうして健悟がキッチンに向かおうとしたとき、スマホが振動し、同時にLINEの着信音が鳴った。
小雪からだった。
健悟は今すぐチェックすべきか悩んだ。既読スルーすれば怪しまれるかもしれない。短いメッセージを二言三言やり取りするだけで了らせる自信がない。小雪の声が聞きたくなるのは、火を見るより明らかだ。健悟はスマホを握りしめたまま寝室を出た。
キッチンにはすでに柳川がいた。パンの焼ける匂いとコーヒーの匂いがする。柳川は、引き締まった尻を健悟に向けてトースターの前に立っていた。裸にエプロンどころか、素裸かそのものだ。健悟の相棒が素直に反応した。
健悟は音を立てないようにそっと近づいて食卓の上にスマホを置き、そして柳川の尻の谷間に屹立した相棒を挟んだ。「ホットドッグか?」
「あっ……親分——」柳川は全身を強張らせた。尻がきゅっと引き締まり、健悟の相棒を強く挟みこんだ。「ト、トーストです。バターを塗って……」
健悟のスマホが振動して通話を知らせる着信音が鳴った。健悟は柳川を解放してやり、スマホを手に取った。
「おう、小雪か? どうした」
健悟は裸かの尻のまま食卓の椅子に座りつつ、スピーカーをオンにして柳川にも聞かせてやることにした。柳川も椅子を引き寄せて健悟のすぐ左に陣を取った。
『親分さん、おはようございます。さっきLINEでメッセージ送ったんですけれど』
「悪い。今起きたところだ」
『朝食のお裾分けです。あとで見てくださいね』
「サンキュー。わかった」
『ところで今日はお休みでしたよね』
「ああ。それに柳川もそっちには行かないから、萬屋も大人しくしていると思うがな」
『そのことなんですけど、萬屋さんは今日お休みなんです。わたし、朝イチで休暇申請を代理で出すことになっていて——』
チン、とトースターの音が鳴った。健悟と柳川は、ほぼ同時にトースターに目をやった。
小雪もその音に気付いたようだった。『親分さんはパンなんですね。ちょっと意外』
「ちょうど米切らしちまってな」健悟は咄嗟に取り繕った。「それより萬屋が心配だな。休みを取ってお紅茶カレーでも作って明日持ってくるとか……」
『多分なんですけど——』小雪が心配そうな声で云った。『柳川さんの事務所の前で見張りをするんじゃないかって思うんです。だって、昨日、熱愛報道が出たでしょう?』
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