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第四章 週明けからドタバタと
小雪の手料理
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若い隊員たちもテレビのまえにぞろぞろと集まった。
「親分、どうです? このコ」この日、健悟と一緒に登庁した隊員が訊く。
「俺にはガキすぎる」
すると二年目の隊員が、
「親分には、清純派女優は似合わないっすよ」
と話を合わせ、ついで、このなかでいちばん附合いの長い隊員が、
「片肌脱いで壺振ってるような姐さんじゃないと」
とトドメを刺した。
「おまえら、俺を何だと思ってるんだ?」
若い隊員たちが笑った。
スタジオでは出演者たちが騒いでいる。芸能レポーターが紙芝居をめくりながら解説し、司会者が彼に茶々をいれる。そして司会者から話を振られたゲストたちが無責任な井戸端会議をくり広げている。
健悟は、渋い顔をしたままテレビを眺めた。
下帯のなかで相棒が反応した。
――健悟、あの女だ。間違いない。
あれはラブホテルのSMルームだった。まんねりなセックスに飽き飽きしてたころだったので、健悟は、女が提案したSMごっこに乗った。ベッドの柱に両手両脚をロープで縛られてやった。ちょっと動けば簡単にほどけそうな束縛だったので、しばらく女の好きにさせておいて、雰囲気が盛りあがったところでロープから抜けだして形勢逆転と運ぶつもりだった。女は、指と舌を使って健悟を刺激した。健悟が勃起すると、うえから跨って腰を振った。
「大事なオーディションがあるんだ。お兄さん、協力して」
「半か、丁か、掛けてみないか?」
「どういう意味?」
「受かるか受からないか、ってこと」
「お兄さんと寝て、受からなかったオーディションなんてなかったよ」
「そりゃどうも」
――三年前の出来事が鮮明に蘇ってきた。
立ち飲み屋で声を掛けてきた女だった。意気投合し、ラブホテルに直行した。一夜限りの遊びのつもりだったが、後日、また同じ立ち飲み屋で再会した。女は駆け出しの女優で、あの一夜のあと運が向いてきたのだと云った。こうして健悟の遊び相手になったのだった。
SMごっこの夜は、限界まで勃起と射精をくり返させられるという責め苦を受けた。女に主導権を握られ貪りつくされたのは、健悟にとって黒歴史だ。その後、女は大手の芸能事務所に移籍がきまり、健悟との関係は目出度く終了した。
健悟は身震いした。柳川には、到底、相応しくない相手だ。
そこへ、
「好きだよ」
突然、背後で柳川の声がした。健悟たちはふり返った。萬屋の傍らに小雪と白洲がいる。小雪は何かを手にして、萬屋の耳に近づけている。
「起きて」また柳川の声がした。
萬屋が右手を持ちあげ、指先をぴくぴくと痙攣させた。腐れかけた倒木の枝が風に震えているようだ。あと少しでぽきんと折れてしまうだろう。
「柳川健人さんの声を編集したMDなんです」
小雪が健悟たちに云った。
「おはよう」柳川の出たドラマのセリフらしかった。「な、な……ぶつっ、ちゃ、ん!」
セリフを切り貼りしたのだろう。涙ぐましい努力のあとがそこにあった。
「な、な……ぶつっ、ちゃ、ん!」
萬屋が反応した。「け、ん、と、くぅん……」
「な、な……ぶつっ、ちゃ、ん!」
ゾンビのように萬屋が蘇生した。横坐りをして、
「あら、わたしったら。どうしたのかしら?」
態とらしいヤツだと思いながら、健悟が云った。「テレビ観て、ぶっ倒れたみたいだな」
「そうだったわ! ちょっとそこ、どきなさいよ。広報部長としてテレビをチェックするんだから。邪魔したらセクハラで訴えるわよ!」
「あの……」小雪が割って這入った。
「はあ? 若いだけの役立たずの小娘の分際で、広報部長である、このわたしに意見しようって云うの? 半万年早いのよ!」
「続報は、ないみてえだぜ」健悟はテレビから離れて仁王立ちになり、野太い声で云った。「CM明けはグルメコーナーだそうだ」
「嗚呼っ! 嗚呼っ!」
「さあ、うえに戻りましょう」介護するように白洲が云った。「会議室をとってあります。先週のドラマ、観るんでしたよね?」
萬屋は白洲に支えられて食堂を出ていった。
小雪が健悟たちに頭を下げた。
「親分さん、皆さん。お騒がせして、すみませんでした」
「小雪が謝る必要はねえよ」
健悟が云うと、若い隊員たちも、そうだそうだ、と頷いた。
「お詫びと云ってはなんですが、カレー風味のつけうどんは如何ですか?」小雪は厨房を見遣った。「さっき片付けていたときに、香辛料で使えそうなのを見つけたんです。親分さん?」
若い隊員たちの目が健悟に注がれた。小雪の手料理を食べられるのだ。断らないでくれ、と訴えている。
健悟としても断る理由はない。
「小雪、頼んで好いかな?」
小雪が、はい、と可憐な花のような笑みを咲かせた。「それでは、親分さん。手伝ってくださいますか?」
「ん? 俺が寸胴鍋、かき回すのか?」
「味見です。隊員の皆さんが食べるお昼のメニューに相応しいか、親分さんにチェックしてもらわないと。あっ、重いものも持っていただけると助かります」
若い隊員たちが、うらやましそうに健悟を見た。
健悟は、小雪に跟いて厨房に這入るとき、
――腰抜けどもが。俺は小雪とLINE交換したし、部屋にも上がりこんだんだぜ。
と心のなかで笑った。
「親分、どうです? このコ」この日、健悟と一緒に登庁した隊員が訊く。
「俺にはガキすぎる」
すると二年目の隊員が、
「親分には、清純派女優は似合わないっすよ」
と話を合わせ、ついで、このなかでいちばん附合いの長い隊員が、
「片肌脱いで壺振ってるような姐さんじゃないと」
とトドメを刺した。
「おまえら、俺を何だと思ってるんだ?」
若い隊員たちが笑った。
スタジオでは出演者たちが騒いでいる。芸能レポーターが紙芝居をめくりながら解説し、司会者が彼に茶々をいれる。そして司会者から話を振られたゲストたちが無責任な井戸端会議をくり広げている。
健悟は、渋い顔をしたままテレビを眺めた。
下帯のなかで相棒が反応した。
――健悟、あの女だ。間違いない。
あれはラブホテルのSMルームだった。まんねりなセックスに飽き飽きしてたころだったので、健悟は、女が提案したSMごっこに乗った。ベッドの柱に両手両脚をロープで縛られてやった。ちょっと動けば簡単にほどけそうな束縛だったので、しばらく女の好きにさせておいて、雰囲気が盛りあがったところでロープから抜けだして形勢逆転と運ぶつもりだった。女は、指と舌を使って健悟を刺激した。健悟が勃起すると、うえから跨って腰を振った。
「大事なオーディションがあるんだ。お兄さん、協力して」
「半か、丁か、掛けてみないか?」
「どういう意味?」
「受かるか受からないか、ってこと」
「お兄さんと寝て、受からなかったオーディションなんてなかったよ」
「そりゃどうも」
――三年前の出来事が鮮明に蘇ってきた。
立ち飲み屋で声を掛けてきた女だった。意気投合し、ラブホテルに直行した。一夜限りの遊びのつもりだったが、後日、また同じ立ち飲み屋で再会した。女は駆け出しの女優で、あの一夜のあと運が向いてきたのだと云った。こうして健悟の遊び相手になったのだった。
SMごっこの夜は、限界まで勃起と射精をくり返させられるという責め苦を受けた。女に主導権を握られ貪りつくされたのは、健悟にとって黒歴史だ。その後、女は大手の芸能事務所に移籍がきまり、健悟との関係は目出度く終了した。
健悟は身震いした。柳川には、到底、相応しくない相手だ。
そこへ、
「好きだよ」
突然、背後で柳川の声がした。健悟たちはふり返った。萬屋の傍らに小雪と白洲がいる。小雪は何かを手にして、萬屋の耳に近づけている。
「起きて」また柳川の声がした。
萬屋が右手を持ちあげ、指先をぴくぴくと痙攣させた。腐れかけた倒木の枝が風に震えているようだ。あと少しでぽきんと折れてしまうだろう。
「柳川健人さんの声を編集したMDなんです」
小雪が健悟たちに云った。
「おはよう」柳川の出たドラマのセリフらしかった。「な、な……ぶつっ、ちゃ、ん!」
セリフを切り貼りしたのだろう。涙ぐましい努力のあとがそこにあった。
「な、な……ぶつっ、ちゃ、ん!」
萬屋が反応した。「け、ん、と、くぅん……」
「な、な……ぶつっ、ちゃ、ん!」
ゾンビのように萬屋が蘇生した。横坐りをして、
「あら、わたしったら。どうしたのかしら?」
態とらしいヤツだと思いながら、健悟が云った。「テレビ観て、ぶっ倒れたみたいだな」
「そうだったわ! ちょっとそこ、どきなさいよ。広報部長としてテレビをチェックするんだから。邪魔したらセクハラで訴えるわよ!」
「あの……」小雪が割って這入った。
「はあ? 若いだけの役立たずの小娘の分際で、広報部長である、このわたしに意見しようって云うの? 半万年早いのよ!」
「続報は、ないみてえだぜ」健悟はテレビから離れて仁王立ちになり、野太い声で云った。「CM明けはグルメコーナーだそうだ」
「嗚呼っ! 嗚呼っ!」
「さあ、うえに戻りましょう」介護するように白洲が云った。「会議室をとってあります。先週のドラマ、観るんでしたよね?」
萬屋は白洲に支えられて食堂を出ていった。
小雪が健悟たちに頭を下げた。
「親分さん、皆さん。お騒がせして、すみませんでした」
「小雪が謝る必要はねえよ」
健悟が云うと、若い隊員たちも、そうだそうだ、と頷いた。
「お詫びと云ってはなんですが、カレー風味のつけうどんは如何ですか?」小雪は厨房を見遣った。「さっき片付けていたときに、香辛料で使えそうなのを見つけたんです。親分さん?」
若い隊員たちの目が健悟に注がれた。小雪の手料理を食べられるのだ。断らないでくれ、と訴えている。
健悟としても断る理由はない。
「小雪、頼んで好いかな?」
小雪が、はい、と可憐な花のような笑みを咲かせた。「それでは、親分さん。手伝ってくださいますか?」
「ん? 俺が寸胴鍋、かき回すのか?」
「味見です。隊員の皆さんが食べるお昼のメニューに相応しいか、親分さんにチェックしてもらわないと。あっ、重いものも持っていただけると助かります」
若い隊員たちが、うらやましそうに健悟を見た。
健悟は、小雪に跟いて厨房に這入るとき、
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