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第三章 親分の長い非番日 ※【地雷:男女恋愛】

天秤秤り

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 今、シャワーを浴びているのは、行きつけの風俗店の新人だ。より正確に云えば、彼女は明日から店に出るので、まだ風俗嬢ではない。トリマーの専門学校に通っていて、夏休みの短期バイトでひとまず体験入店をすることになっていると、ミユキは云っていた。
 非番の日、健悟は地元から離れた風俗街をうろついている。ひと区画をぐるりと、回転寿司のように二、三度廻ると、訳知りの風俗店のスタッフが表に出てきて目配せをするので、健悟はそのまま入店する。そういった風俗店がいくつかある。
 彼らは健悟を必要としていた。それは健悟にまつわるまことしやかな伝説――健悟とプレイをした風俗嬢は、その後、指名が増える――のためだった。
 健悟にとってもこれは悪い噂話ではない。たいていの場合、追加料金なしでオプションを付けてもらえるし、風俗嬢の持ち出しで無料で遊ぶこともできた。極たまに同じ店の風俗嬢のあいだで健悟の取り合いとなり、個室を梯子することもあった。
 なかには、今日のようにラブホテルを利用することもある。これは店長も黙認していた。店での本番行為は御法度だが、風俗嬢がプライベートをどう過ごそうと自由だという訳だ。実際、出勤日にはなり得なかった。健悟の相手をすると、そのあと一切仕事にならなかったからだ。
 
 シャワーの音が消え、いつの間にかドライヤーの音に変わっていた。
「さあ、おまえら。出動だ」健悟は、灰皿の精液にホープの尖端を近づけた。「火消しの子種らしく、しっかり消火しろよ」
 ジュッと湿った音がした。
 健悟は、ふんっ、と鼻を鳴らし、ベッドに寝転がった。
 天井にもベッドの形に合わせて鏡が張ってある。
 健悟は左手を首のうしろに回した。右手で勃起している相棒を起こしては手を離す。こうして相棒を毛深い腹にベチベチと打ち付けながら、鏡に映る自分と対峙した。
 ――なあ、相棒……。やっぱ、女ってイイよなあ。
 ――正直になれよ。やってる最中、柳川のケツのことを考えてただろ。
 ――男のケツなら河合で十分だ。体育会系のノリでサクッとやれて後腐れもない。
 ――その河合とは最近、とんとご無沙汰だよな。
 ――おい、相棒。何が云いたい?
 ――だから柳川のケツを掘ろうとしたんじゃねえか。出動司令さえ鳴らなかったら、あのままズブリだったぞ。
 相棒が容赦なく痛いところを突いた。
「くそっ」
 健悟は、低くうなってうつ伏せになった。
 すると、目のうらに、四つん這いになった河合の尻の穴と、四つん這いになった柳川の尻の穴が、交互に泛んできた。
 健悟は、まだ経験していない柳川の具合と慣れ親しんだ河合の具合とを天秤秤りにかけながら、初めて男を識った日のことを思い出した。

 ――きっかけは、五年まえの合コンだった。相手は保育士の若い女たちだった。そのなかにひとり、稚い顔立ちをした大人しそうな若い女がいた。
 健悟と河合は彼女に狙いを定め、猛アタックした。どちらかが勝つはずだった。しかしその女は、ふたりとも気に入ってしまったのだ。
 結局、お開きのあと、三人でラブホテルに直行した。健悟も河合も、互いにセックスを見せ合うことに抵抗はなかった。むしろ3Pには興味があったし、秘密を共有することで先輩と後輩の絆がより深まると思っていたのだ。
 シャワーを浴びたのは、女が先だったか、河合が先だったかは覚えてはいないが、今思えば準備の都合上、河合があとだったのだろう。ともあれ健悟は、いちばん最後にシャワーを浴びて、しばらくふたりのセックスを鑑賞してから合流しようと考えていた。
 健悟は、バスタオルで水気を拭う間ももどかしく、バスローブをさっと羽織ってバスルームを出た。
「親分、すみません。ユミちゃん帰っちまいました!」
 河合が素っ裸のままベッドルームの床にひざまずいて土下座した。
「おい、何があったんだ?」
「すみません!」
 河合は理由を話さなかった。健悟がベッドのほうを見ると、バイブレーターが数本転がっていた。
「なんだ? こんなもん使わなくても出来るだろ」
「実は――」
 河合は観念して口を割った。風俗店でアナル性感に目覚めたというのだ。そこで保育士の女に頼んでみたところ、気持ち悪がって帰ってしまったということだった。
「大丈夫だよ、って、おれ自分で挿れてみせようとしたんスけど、そのあいだに服着て逃げてしまって……」
「何やってんだよ、てめえ」健悟はすっかり呆れかえってしまった。「おれの相棒、どうしてくれるんだ?」バスローブをはだけて仁王立ちになり、出動態勢となった相棒を河合に見せつけた。
 顔を上げた河合は、健悟の勃起を見ておののき、そして慌てた。
「今からサクッと外に出て、サクッとナンパしてきます!」
「いや、その必要はない」
「親分?」
「ケツ貸せ。今から掘ってやる」
 十分後に男ふたりで快楽をった。それからというもの、河合は尻を差し出すようになり、健悟もそれに応じた。愛だの恋だの、そんなものは彼らのあいだにはなかった。ただあり余った性慾を解放し、快楽を追求しているだけだった。しかも仕事の相性だけでなく肉體の相性のほうも抜群だったらしく、最初の火遊びから二月経つか経たぬかに、河合は健悟に貫かれながら射精するまでになった。
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