[R-18] 火消しの火遊び:おっさん消防士はイケメン俳優に火をつける

山葉らわん

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第三章 親分の長い非番日 ※【地雷:男女恋愛】

親分、小雪の素描(デッサン)モデルになる(下編3/3)

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 一服してくる、と云って健悟は喫煙コーナーに這入った。壁に背をついて、左耳のラッキーストライクに手を伸ばす。一本だけか……。しげしげと見つめる煙草の向うに、硝子戸越しの小雪がいる。パテーション代わりにと、席を立つときに建ておいてやった革鞄の頂きから、愛らしい丸顔を月のようにぽっかりと泛べ、こちらを見ていた。
 健悟は苦笑した。
 シャツの胸ポケットからラッキーストライクを取りだしたとき、小雪の手が伸びてきてボックスごと取りあげられてしまったのだ。彼女は、無邪気にそこから一本抜きだして、健悟の左耳に挟んだ。目にも止まらぬ早業だった。

「おのれ、くノ一小雪」健悟は大袈裟にお道化てみせた。
「父が愛煙家なんです。だからこうやって一本だけ渡してあげるの」小雪は、ほんの少し砕けた言葉づかいでこう云って、ボックスを両手に閉じこめた。
「耳は、もうひとつあるんだが」健悟は右の頬を小雪のまえに差しだした。「左耳が重くて、おっとっと、見てのとおりバランスが取れねえんだ。だからこっちにも」ウインクして、もう一本ねだった。
「もう。親分さんったら」
 小雪は、ボックスからもう一本取りだした。けれども健悟の耳に挟むことはせず、吸い口を逆さにしてボックスに戻した。
「おまじないです」
 呆気に取られた健悟に、小雪はさらに云った。
「休憩は三分です。親分さん、一本で足りるでしょう?」

 健悟はジッポーを取りだそうとズボンのポケットに手を突っこんだ。ジッポーに触れるより先に相棒の存在を感じた。ズボンのなかで窮屈そうにしている。この状態じゃ、小雪も目の遣り場に困っただろうな……。健悟はジッポーを取りだして、耳の煙草に手を伸ばした。
 相棒が訴えた。
 ――位置を直せ。今すぐにだ。
 ――ここでか? さすがの俺でも、そこまではしないぞ。
 ――小雪からは見えない。早くしろ。
 喫煙コーナーの硝子戸は、その中央部分に曇り加工が施されている。シャワーブースの扉さながら、外から見えるのは、胸からうえと膝からしただけだ。
 健悟は、ジッポーをシャツの胸ポケットに落としいれ、回れ右をして壁のほうを向いていきり勃つ相棒を楽にしてやった。それからもう一度回れ右をして壁に背をつけ、お気に入りの男くさいポーズで点火し、煙をじっくりと肺に溜めてから、目を閉じて顎を突きあげ、美味そうに煙を一気に吐きだした。
 これだよ、これ……。
 健悟は、しばらく余韻を楽しんでから目を開けた。そのまま視線を小雪に向けると、彼女はさっと俯いた。素描の続きをしているようだった。
 それならと健悟は、煙草一本分のショウを小雪に見せることにした。悩ましげに煙草を吸い、物憂げに煙を吐き、狭い喫煙コーナーのなかを大股で彷徨うろつき、両腕のストレッチをする。ときどき小雪のほうを見て目が合うと、もうちょっと待ってろ、と余裕綽々の表情を見せた。どうだ。柳川より好い男だろ? 指先に煙草の焔が触れるまでのあいだ、健悟は思う存分セックスアピールをし、上機嫌で席に戻った。
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