[R-18] 火消しの火遊び:おっさん消防士はイケメン俳優に火をつける

山葉らわん

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第三章 親分の長い非番日 ※【地雷:男女恋愛】

モーニングコーヒーはコンビニの二階で

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 清掃、朝食、そして反対番との申し送りを了えて、退庁となった。八時半を少し回っていた。
 健悟と柳川は、更衣室でスーツに着替えはじめた。
「忍者みたいですね」柳川は、どんでん返しのロッカーを面白がった。
「二人一組で使うんぜ」こんなものも珍しいのかと健悟は思った。
 健悟は手早くスーツを身にまとった。上下黒のスーツに黒の革靴、素肌に着た白いシャツに黒のネクタイ。冠婚葬祭にも使えるこの一張羅を健悟は気に入っている。
「なんだかボディガードみたいですね、親分」ネクタイを締めながら柳川が笑った。
「おまえは――」健悟は紺のスーツを身にまとった柳川を見て云った。「就活生みたいだ」

 今日は土曜日だ。毎日勤務の職員は登庁しないので、萬屋が署に来ることはない。だが、念には念をいれて後門から出た。巨軀で柳川を隠すようにして待ちあわせの場所まで行くと、迎えの車が待っていた。
「朝まで面倒見ていただいて、ありがとうございます」三十代の男性マネージャーが健悟に頭をさげた。「うちの柳川、やっていけるでしょうか?」
「ゴシゴシ扱いても大丈夫だと思います」健悟は柳川を見てニヤリと笑った。
「立ち話はなんですから、乗ってください。近くまでお送りします」
 マネージャーがドアを開けた。そして健悟に向って、
「私も、『親分』とお呼びしたほうが好いでしょうか?」
 と云った。
 健悟は、車中でマネージャーに簡単な申し送りを行った。萬屋に関することだった。マネージャーは反対にこれまでどのような迷惑行為があったかを、つぶさに説明した。まったく頭が痛くなることばかりだった。
「でも親分がいれば、大丈夫ですよね」
 マネージャーは健悟に云った。

「この辺で大丈夫です。ありがとうございました」
 五分後、健悟は車を降りた。自宅マンションまではまだ少し歩くが、行きたいところがあったのだ。
 健悟は、疾り去る車を見えなくなるまで見送った。あの一連の出来事を柳川がマネージャーに云うことはないだろう。それは朝の屈託のない笑顔からも明らかだった。健悟は、目を閉じてため息を吐いた。すると突然、柳川との行為が鮮明に思い出された。勃起した相棒に目を見張る柳川、全身に指を這わせ、匂いを隈なく嗅いだ柳川、相棒を射精に導いたあの臀の感触、ベッドのうえでぴったりと密着させた裸かの肌と肌、そして朝の騎乗位の真似事……。
 ――おい、非番の日なんだから二度寝させてくれ。
 突然、相棒が不満をぶつけてきた。
 痛いほど勃起していた。これをスーツの皴だと思う人はいないだろう。
 ――おい、相棒。スーツ破って出てくるんじゃねえぞ。一張羅なんだからな。
 健悟は、鞄を地面におろした。ネクタイを軽く緩め、シャツのボタンを数個外して胸を楽にし、上着を肩にかけた。そして鞄を持ちなおすと深呼吸をひとつして、今来た道を引き返した。
 十分ほど歩くと、かつて新人のころ住んでいた待機宿舎が見えてきた。あの二階の隅っこの部屋だったな。初心に帰るため、健悟は退庁後、いつも此処を見に来る。健悟は道を挟んだ向こう側にあるコンビニに這入った。

 コンビニのなかは冷房がきいていて、生き返ったような気分になった。相棒の熱さましにも効果的だったらしい。大人しく二度寝してくれている。
 レジには二か月ほどまえから見かけるようになった男子大学生と思しき店員が立っていた。健悟とちょっとした会話のやり取りもする仲だ。
 健悟は、レジに直行した。
「いらっしゃいませ」
「ホットコーヒーひとつ。デカいやつで」
「イートインでしたよね」
 店員は、いつものように確認すると、カップをレジ台に置いた。そして周囲をさっと見まわして、
「六月に辞めた朝シフトの、AV女優になったんですよ」
「へえ、あんな大人しそうな娘が? 人違いじゃないのか?」
 健悟はさらっと受け流した。
「コンビニものでデビューしたから間違いないです。もったいないなあ」
 そのとき、来客を知らせるメロディーが鳴った。店員は何事もなかったかのように、いらっしゃいませ、と元気にあいさつをした。
 健悟は会計をすませ、コーヒー・マシンでカップにホットコーヒーを注ぎいれた。二階のイートイン・コーナーへあがる。あの店員の推理力も大したものだ。健悟は苦笑した。その六月に辞めた娘は、健悟の遊び相手のひとりで、ある日突然AV女優になると云ってアパートを引き払って雲隠れした。

 さてと……。
 窓際のカウンター席の左端に坐れば、あの部屋が見える。この一段をあがれば、もうすぐだ。健悟はすっと息を吸い込んで、初心に帰る準備をした。
 ――あの部屋からスタートしたんだよな……。
 イートイン・コーナーに這入ると、いつもの席に先客がいた。うしろ姿から女だとわかった。健悟はそっと近づいた。
 ……なんで此処に?
 女の正体は小雪だった。小雪は凝っと窓の外を見おろしている。目線の先は、あの待機宿舎だった。
 健悟はカウンターに自分のカップを置いた。それから囲いこむように小雪の隣りに腰をおろして、
「小雪、朝っぱらから何やってんだ?」
「え。親分さん?」
 小雪がふりむいた。カップに伸ばそうとした小さな白い手がとまった。
「おっと。コーヒー、こぼすなよ」
 健悟は、余裕の表情で片眉をあげた。
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