[R-18] 火消しの火遊び:おっさん消防士はイケメン俳優に火をつける

山葉らわん

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第一章 食堂にて

つけうどん、水、そして風呂

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「お待たせしました」
 つけうどんが来た。熱々のつけ汁は具沢山で食べ応えがある。ラー油がぐるりと掛られていてピリ辛なのも食慾をそそる。食慾を満たせば、この有り余る性慾を少しは抑えられるかもしれない。健悟は大急ぎで割り箸を割った。うどんを数本摘まんで、つけ汁に浸し、泳がせるようにかき混ぜる。それから具の豚肉やシメジや白菜と一緒にして、一気に掻っこむ。
 ――うっ、うぐっ……。
 健悟は激しくむせた。コップの水を飲もうにも、カレーを食べているときに飲み干してしまっていた。河合が立上がって「こっちに水をくれ」と叫んだ。
「大丈夫ですか? あとピッチャーもここに」
 食事当番が飛んできて、空のコップに水をぎ、ピッチャーを置いていった。
「ああ、死ぬかと思ったぜ」
 生き返った健悟は話題を変えようと思った。性慾を忘れられるかもしれない。丁度、云いたいこともあった。
「萬屋が柳川のファンみたいなんだが、あいつ一体何考えてんだ? 『三階の食堂で私が手料理をふるまいます』だと」
「去年の丁度この時期でしたっけ。お手製カレーで食中毒起こして、病院に運ばれたんすよね、あのメガネ」
「それだよそれ。しかも週末に自宅で二日間煮込んだってやつだ」
 それから健悟は、つけうどんを喰べ喰べ、今日の小事件について語りはじめた。三羽のスズメに昼食を邪魔されたこと、柳川が人気者らしいこと、萬屋の熱狂ぶり……。河合も、つけうどんを啜りながら、頷いたり、合いの手を入れたりした。ふたりは、つけうどんをすっかり平らげた。親分と子分による作戦会議めいたものが始まった。
「問題は萬屋だ。柳川のファンなのは個人の自由だが、ちょっとストーカーっぽかったぞ。柳川のやつは気に喰わないが、一般市民に何かあったら大事おおごとだ」
 河合はしばらく考えて、
「ひょっとしてイラストとか同人誌とか云ってなかったっすか?」
「署内のあちこちに柳川の似顔絵ポスターを貼りたいとか、柳川のイラストを描いた防災小冊子みたいなのを作って、見学者の人たちに配布しようなんて云ってたな」
 健悟はこう云って、こんどは左手で顎をさすりながら、
「表紙のサンプルまで見せてきたんだが、まあ趣味の悪い絵だったぞ」
 と、つけ足した。
 すると、河合は何か心当たりがあるような面持ちで、
「実は、うちのカミさんと小雪ちゃんがですね……」
 と云って、一旦区切った。話の順序を整理しているようだった。
 小雪と云えば、あのチーパッパだ。柳川のファンなのは心外だが、いちばんまともそうだ。健悟は続きを知りたくなった。
「あの予防課の小娘がどうした」
 健悟は思わず身を乗り出した。
「親分、どうしたんすか、突然」
「い、いや。何でもない」健悟は平静を装って坐りなおした。
「小雪ちゃんには手を出さないでくださいよ。若い連中の志気が下がるんで」河合はきっぱりと云った。
「それより萬屋の件だ。焦らさずにさっさと全部吐け。一般市民の命がかかってるんだぞ」
「実はですね――」
 健悟は河合の話を興味深く聞いた。

「風呂のようす、見にいってきます」
 と声がした。健悟が声のした方に目を転じると、食堂から出ていく者がひとりあった。作戦会議を一時中断して、食後のコーヒーを飲んでいるときだった。
 すいぶん長居していたらしい。いつの間にか食堂がにぎやかになっていた。健悟はため息をいた。
 食事直後の入浴は余り勧められない。しかし消防の世界では、食事と入浴は職位が上の者からとなっている。今ここにいる職員で云えば、健悟がいちばん風呂だ。ぐずぐずしていれば、若い職員たちが深夜に入浴をしなければならないし、そうなれば仮眠にも影響を及ぼしてしまう。
 健悟は観念して、まだ燻っている重い腰を上げようとした。すかさず河合が引き止めた。健悟が坐りなおすと、河合は腕時計を外して、そっと健悟に手渡した。健悟は人の増えた食堂内をぐるりと見渡して、
儀式セレモニーは延期じゃねえのか? もう帰ったみたいだが……」
「小火だったからって、ぼやっとしないでくださいよ。つけうどんを持ってきたのも、水を注いだのも、風呂のようすを見にいったのも、柳川じゃないっすか。彼にはさっきからずっと新入りの仕事をやらせていたんですが、ほんとに気づかなかったんすか?」
 健悟は、やりやがったな、という表情で河合を睨みつけた。コップの水をぶっかけてやろうにも、すでに飲み干してしまっている。ピッチャーはいつの間にか隣りのテーブルに渡っている。さりとて、つけ汁をぶちまけるわけにはいかない。
 河合が、親分のお好きにどうぞ、という表情で微笑んだ。「食器は俺が片付けておくんで、さっさと風呂に行ってください。柳川には、あいさつ代わりに親分の背中を流すように命じておきました。時間は三十分きっかりです。延長は個室が空いていればご案内します」
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