[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

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第六章 破戒

2 ロフトにひとり

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 つぎからつぎへとミッションが下されて、康太は戸惑うばかりだった。それも今回、武志から云い渡されたミッションは、若い健康な男子には酷でしかないもので、ますます康太を悩ませた。大樹に相談すれば何かいい案があるのではとも思ったが、いくら同室の、親密な、そして特別な関係とは云え、おいそれと打ち明けることははばかれたのだった。
 その日、武志を含めた上級生たちが部室を去ったあと、康太はさっそく同期の部員たちに取り囲まれた。
「康太、『取り調べ』って何ンだったんだ?」
「ひょっとして、おまえ彼女が出来たのか?」
「みゆきちゃんだったら許さねえぞ」
 彼らは矢継ぎ早に問いただしたが、康太はどこかで奇妙な安堵感を覚えていた。貫通式をしていない、という負い目に彼らは気づいていなかった。むしろ、あの男子寮四大バズーカ砲の頂点に立つ大樹と貫通式をしたという点で、康太に一目も二目もおいているような節があった。
「リトル・ウルフだもんな、康太は」
「康太もいずれ女子寮完全制覇するんだろうな」
「正直に云えよ。今まで何人とやった?」
 まさに針の筵だ。安心している場合ではなかったのだ。友人たちの質問がひと通りすむと、康太はようやく云った。
「いや。そうじゃなくて……。今のままじゃ、新人戦のレギュラー入りは無理だって……」
 すると仲間たちが鋭く反応した。誰もが六月に行われる新人戦のレギュラー入りを狙っているライバル同士だった。口々にこう云った。
「康太でさえ無理なのか!」
「今井先輩、康太には甘いと思ってたけど……違うんだな」
「でもこう考えようぜ。ここにいる全員にチャンスがあるって」
 無邪気に盛りあがるライバルたちを眺めながら、康太は、来週になったらみんなそうは云ってられないだろうな、と思った。恐らくここにいる何人かは確実に脱落するだろう。血気盛んな年頃の男子には、それこそ苦行のようなミッションだったからだ。
 重い足取りで男子寮に戻ると、康太は階段をいつもの三倍速で駈けあがって部屋に戻った。
「森先輩……?」
 部屋のなかに進むと、奥のベッドで大樹が大の字になっていた。ファスナーの下ろされたトレーニングウエアの上着の下には、真っ白なノースリーブのシャツを着ているのが見える。上着が少しはだけているせいで、腰の位置までスリットが入っているそのシャツからは大樹の肌が露わになっていた。
 ——一日じゅう水のなかだったんだな。それに今日は筋トレもするって云ってたし。
 大樹は泥のように眠っていた。シャツに泛ぶ筋肉の胸が微かに上下している以外に動きはなく、そのため康太の目には、まるで大理石の彫刻が眠っているように思えた。
 ——ぼくも少し休みたいけど、邪魔しちゃ悪いな……。
 溜め息をついて、ふと康太は背後のロフトに目を向けた。
 ——あそこで休もう……。
 康太はロフトに昇った。
 ロフトのちょうど中心には、オフホワイトの大きなラグマットが敷かれている。康太はそこに腰を落ちつけた。そこから周囲を見回すと、奥の壁には大樹と康太の段ボール箱——その多くは実家から送られてきた荷物ですぐには必要のないものだった——がきちんと並べられている。左の壁際には、男ふたりの部屋には似合わないおしゃれな竹製の丸い編みかごが置いてあり、そのなかに脱臭効果があるという備長炭が三本寝転がっている。
 康太は手を伸ばしてそのなかからいちばん丸くて太い一本を取り出し、ラグマットの上にゴロリと寝転がると、スマホを見るときのようにそれを顔の上に掲げてしげしげと眺めた。
 ——森先輩……いつもここで……。
 ここに昇る目的は決まっている。「アレをするとき」だ。口での貫通式を始めてからも、大樹が深夜にベッドを脱け出してこっそりとロフトに昇り、そしてまたベッドに戻ってくることが何度もあった。
 ——ぼくの口だけじゃ足りないのかな?
 つぎの瞬間、妄想スイッチがオンになった。
 ——森先輩の、こんな感じだったっけ……。
 康太は備長炭を股間にあてて、こする真似をしてみた。
 貫通式の夜、大樹はここでこんなふうにしていたのだろう。右手で根元を抑え、左手を上下に動かしてみる。康太は想いかえした。あのとき、大樹はこの場所で、掠れた声を出しながら、コンドーム三個分の……。
 ——でも、これとは比べ物にならない。
 それもそのはずで、手のなかの備長炭には、灼けるような熱さも血液が脈を打つ感触もない。色だって違う。冷たくて無口で真っ黒な棒切れに過ぎない。康太が識っている大樹のものは、隆々としていて、たくましく、エネルギッシュで、生命力に溢れている。
 康太は妄想を止めて、備長炭を編みかごにそっと戻した。……
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