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第六章 破戒
1 特別なミッション
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その日を境にして、康太の夜は変わった。夜の点呼が終わると、康太は真っ先に着ているものを脱いで、大樹との「貫通式」に備えた。
康太が風呂の準備をしているあいだ、大樹も全裸になってベランダで煙草を吸っている。ひとりで一服しているときは、風呂の準備が出来次第、さっとベランダに駈けていって、大樹が煙草を吸いおわるまでのあいだ、互いに世間話をしながら待ち、それから大樹と風呂に入った。
隣り部屋の武志と蹴破り板越しに顔を突きあわせて談笑しているときもある。先輩ふたりによるマフィアの取引のような後ろ姿が目に入ると、「貫通式の報告をしているのかな」と康太は気になって仕方なかった。そんなとき、康太は頃合いを見計らってそこへ合流し、武志に見送られながら大樹とベランダを後にするのだった。
「なあ、康太。今日もか?」大樹は洗い場で康太に背中を流してもらいながら、必ずこう訊いた。そして念を押すように毎回こう付加える。「おれからは手を出さないからな」
「お願いします」と康太は答えると、ボディソープをたっぷりと両手に取り、後ろから手をまわして大樹の豊かな繁みでシャカシャカをした。「球磨きとバット磨きもします」
「わかった」
風呂椅子に腰かけた大樹はこう短く云うと、両脚を大開けにして康太の両手を迎えいれるのだった。
その後の流れはほとんど変わらない。
「康太、いいか。おれからは手を出さないからな」
シャワーで泡を洗い流した大樹が、たくましく屹立したものを康太に差しだして云う。
康太はこくりと頷いて、
「あの……ここでしてもいいですか?」
「わかった」
風呂でする夜もあれば、ベッドでする夜もある。いつの頃からか、どこでするのかは康太が決めることになっていた。どちらの場合でも、電気を消し、暗がりのなかでその行為は行われた。しかし大樹が「ほんとうの貫通式」に康太を誘うことはなかった。……
「おう、康太。おまえ、何ンか変わったな」
武志にこう云われたのは、口での貫通式を始めて二週間が過ぎようとしていたころだった。練習が終わって、部員たちがぞろぞろと部室に引き上げているときだった。いつもなら先を歩いているはずの武志が、胸の前で両腕を組んで待ち受けていたのを見て、康太はとっさに返事が出来なかった。武志は、康太の頭をその太い腕で抱えて締め上げた。
「おれの目は誤魔化せんぞ。何ンがあったとや?」
「今井先輩! ギブ、ギブ!」
巻き込まれては一大事だと、新入部員たちがいっせいにその場を立ち去った。ふたりきりになると武志はようやくヘッドロックを外し、その代わりにこんどは肩を組んできた。そして部室に向って親し気に歩きながら、
「彼女でも出来たとやろ。相手は誰や? チアリーディング部のみゆきちゃんやったら——」とここで武志は片眉をぐいっと上げて顔を近づけてきた。「貴様、生きて帰れると思うなよ」
康太はあたりに誰もいないのを確認して云った。「そ、そんな滅相もない。紳士協定結んでいるじゃないですか!」
「ほんとのことば云わんと、どげんなるかわかっとるやろうな」
なおも康太は引きまわすようにずんずんと歩きながら、武志が云った。いつしか部室の入口は、もうほとんど目の前だった。森先輩ともうすぐ貫通式をするかもしれません、と喉元まで出掛かった言葉を、康太はぐっと飲みこんだ。
武志は肩を組んだまま康太をロッカー室に連れ込むと、タオル一枚を腰に巻いてシャワーの順番を待っている新入部員たちに「これから康太の尋問だ」と云っ放った。と同時に康太に脱ぐように命じ、自分もさっさと素っ裸かになると、また康太をヘッドロックしてシャワー室へとしょっ引いていった。
シャワーブースにはふたりで入った。ほかに上級生が数名シャワーを浴びていた。部員同士または先輩と後輩同士がひとつのシャワーブースを一緒に使うのは、それほど珍しいことではなかったので、誰も気にする者はいなかった。
頭から豪快にシャワーの湯をひとしきりかぶって、武志が聞えよがしに云った。
「康太、球磨きだ。泡の準備しろ」
「はい!」
康太はボディソープのボトルからソープ液を手のひらに受けると、武志の背後から手をまわし、その野性的な・ジャングルの密林に指を立ててシャカシャカをしはじめた。
「おっ。期待の大型新人が何ンかやらかしたのか?」
「今井。康太は、大事に育てないといけないんだからな。あんまり無茶すんな」
「康太。今井の云うことをちゃんときくんだぞ」
上級生たちは、からかうように口々にこう云った。そしてひとりまたひとりと、入れ替わり立ち代わりで上級生たちがシャワーを浴びる。そのあいだじゅう、康太はシャカシャカを続けた。
——云ったほういいのかな……。云わないほうがいいのかな……。
武志は何も云わない。康太のシャカシャカを受けながら、自分でも胸や腕に泡を塗りひろげて洗っている。むしろ康太が話しかけるのを期待しているようだった。
「今井、十五分だけだぞ」と最後の上級生がシャワー室を出る前に声を掛けた。「新入部員たちをあんまり待たせたら悪いからな」
武志がようやく口を開いた。「おう、康太。球磨きしながらおれの話ば聞け」
「はい」康太はシャカシャカを止めて球磨きを始めた。「何ンでしょうか?」
「入部してきたころと変わって自信がついてきたようだな。それはそれでよかけど、レギュラーになろうと思ったら、ひと剥けんとな」
貫通式のことではなかったので、康太は一瞬ほっとしたが、すぐに考えを切りかえた。新人として期待されているのは常日頃感じていたし、だからこその全額免除の特待生だったのだ。「はい」と云って、康太は指先でそっと球を転がすように洗いつづけた。
「それに6月の新人戦もそろそろだ」武志は心地よさそうに首をぐるりと反時計回りにひと巡りさせた。「おう、バットも頼むぞ」
「はい」
康太は指示に従った。両手で握りしめ、グリップを確認してから始めた。
武志がこんどは時計回りに首をひと巡りさせて、
「そこでだ。我が硬式野球部に伝わるミッションがある。新人の連中には来週から始めてもらうが、おまえは特別に今日からだ。ただし、来週、部長が正式に発表するまで、このミッションのことは黙ってろよ」
その内容に康太は愕いて両手を辷らせてしまった。……
康太が風呂の準備をしているあいだ、大樹も全裸になってベランダで煙草を吸っている。ひとりで一服しているときは、風呂の準備が出来次第、さっとベランダに駈けていって、大樹が煙草を吸いおわるまでのあいだ、互いに世間話をしながら待ち、それから大樹と風呂に入った。
隣り部屋の武志と蹴破り板越しに顔を突きあわせて談笑しているときもある。先輩ふたりによるマフィアの取引のような後ろ姿が目に入ると、「貫通式の報告をしているのかな」と康太は気になって仕方なかった。そんなとき、康太は頃合いを見計らってそこへ合流し、武志に見送られながら大樹とベランダを後にするのだった。
「なあ、康太。今日もか?」大樹は洗い場で康太に背中を流してもらいながら、必ずこう訊いた。そして念を押すように毎回こう付加える。「おれからは手を出さないからな」
「お願いします」と康太は答えると、ボディソープをたっぷりと両手に取り、後ろから手をまわして大樹の豊かな繁みでシャカシャカをした。「球磨きとバット磨きもします」
「わかった」
風呂椅子に腰かけた大樹はこう短く云うと、両脚を大開けにして康太の両手を迎えいれるのだった。
その後の流れはほとんど変わらない。
「康太、いいか。おれからは手を出さないからな」
シャワーで泡を洗い流した大樹が、たくましく屹立したものを康太に差しだして云う。
康太はこくりと頷いて、
「あの……ここでしてもいいですか?」
「わかった」
風呂でする夜もあれば、ベッドでする夜もある。いつの頃からか、どこでするのかは康太が決めることになっていた。どちらの場合でも、電気を消し、暗がりのなかでその行為は行われた。しかし大樹が「ほんとうの貫通式」に康太を誘うことはなかった。……
「おう、康太。おまえ、何ンか変わったな」
武志にこう云われたのは、口での貫通式を始めて二週間が過ぎようとしていたころだった。練習が終わって、部員たちがぞろぞろと部室に引き上げているときだった。いつもなら先を歩いているはずの武志が、胸の前で両腕を組んで待ち受けていたのを見て、康太はとっさに返事が出来なかった。武志は、康太の頭をその太い腕で抱えて締め上げた。
「おれの目は誤魔化せんぞ。何ンがあったとや?」
「今井先輩! ギブ、ギブ!」
巻き込まれては一大事だと、新入部員たちがいっせいにその場を立ち去った。ふたりきりになると武志はようやくヘッドロックを外し、その代わりにこんどは肩を組んできた。そして部室に向って親し気に歩きながら、
「彼女でも出来たとやろ。相手は誰や? チアリーディング部のみゆきちゃんやったら——」とここで武志は片眉をぐいっと上げて顔を近づけてきた。「貴様、生きて帰れると思うなよ」
康太はあたりに誰もいないのを確認して云った。「そ、そんな滅相もない。紳士協定結んでいるじゃないですか!」
「ほんとのことば云わんと、どげんなるかわかっとるやろうな」
なおも康太は引きまわすようにずんずんと歩きながら、武志が云った。いつしか部室の入口は、もうほとんど目の前だった。森先輩ともうすぐ貫通式をするかもしれません、と喉元まで出掛かった言葉を、康太はぐっと飲みこんだ。
武志は肩を組んだまま康太をロッカー室に連れ込むと、タオル一枚を腰に巻いてシャワーの順番を待っている新入部員たちに「これから康太の尋問だ」と云っ放った。と同時に康太に脱ぐように命じ、自分もさっさと素っ裸かになると、また康太をヘッドロックしてシャワー室へとしょっ引いていった。
シャワーブースにはふたりで入った。ほかに上級生が数名シャワーを浴びていた。部員同士または先輩と後輩同士がひとつのシャワーブースを一緒に使うのは、それほど珍しいことではなかったので、誰も気にする者はいなかった。
頭から豪快にシャワーの湯をひとしきりかぶって、武志が聞えよがしに云った。
「康太、球磨きだ。泡の準備しろ」
「はい!」
康太はボディソープのボトルからソープ液を手のひらに受けると、武志の背後から手をまわし、その野性的な・ジャングルの密林に指を立ててシャカシャカをしはじめた。
「おっ。期待の大型新人が何ンかやらかしたのか?」
「今井。康太は、大事に育てないといけないんだからな。あんまり無茶すんな」
「康太。今井の云うことをちゃんときくんだぞ」
上級生たちは、からかうように口々にこう云った。そしてひとりまたひとりと、入れ替わり立ち代わりで上級生たちがシャワーを浴びる。そのあいだじゅう、康太はシャカシャカを続けた。
——云ったほういいのかな……。云わないほうがいいのかな……。
武志は何も云わない。康太のシャカシャカを受けながら、自分でも胸や腕に泡を塗りひろげて洗っている。むしろ康太が話しかけるのを期待しているようだった。
「今井、十五分だけだぞ」と最後の上級生がシャワー室を出る前に声を掛けた。「新入部員たちをあんまり待たせたら悪いからな」
武志がようやく口を開いた。「おう、康太。球磨きしながらおれの話ば聞け」
「はい」康太はシャカシャカを止めて球磨きを始めた。「何ンでしょうか?」
「入部してきたころと変わって自信がついてきたようだな。それはそれでよかけど、レギュラーになろうと思ったら、ひと剥けんとな」
貫通式のことではなかったので、康太は一瞬ほっとしたが、すぐに考えを切りかえた。新人として期待されているのは常日頃感じていたし、だからこその全額免除の特待生だったのだ。「はい」と云って、康太は指先でそっと球を転がすように洗いつづけた。
「それに6月の新人戦もそろそろだ」武志は心地よさそうに首をぐるりと反時計回りにひと巡りさせた。「おう、バットも頼むぞ」
「はい」
康太は指示に従った。両手で握りしめ、グリップを確認してから始めた。
武志がこんどは時計回りに首をひと巡りさせて、
「そこでだ。我が硬式野球部に伝わるミッションがある。新人の連中には来週から始めてもらうが、おまえは特別に今日からだ。ただし、来週、部長が正式に発表するまで、このミッションのことは黙ってろよ」
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