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第五章 ワン・モア・チャンス
19 たーたーたー
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――森先輩にどう云えばいいんだろう……?
康太は浴室で頭からシャワーを浴びながら考えていた。武志から下されたミッションをどう遂行すべきか。どうせすることならば、早ければ早いほうがいい。しかも今、大樹と一緒に浴室にいる。この絶好のタイミングを逃すのは惜しい。
――この前みたいに一緒にシャカシャカして、そこから自然に……。
康太は目を開けた。前の鏡が湯気で曇っている。それを手で拭おうとしたとき、
「すいぶんと念入りだな。康太」
と背中のほうから声がした。康太のすぐ後ろで大樹が立っていたのだった。
「あっ……」康太は我に返った。「適温です」
すると大樹が、
「じゃあ、こんどは背中だ。回れー」
と云って、康太の両肩に両手を置いた。「右!」
「うわあっ!」
「おっと!」
康太がよろけそうになったところを、大樹が支えた。太い左腕が康太の背中にまわり、大きな右手が康太の腕を引っぱった。それはほんの一瞬の出来事だった。
「康太、何考えごとしてたんだ?」
大樹が笑みを泛べながら云った。
「あ、いや、その……」康太はまごついた。ふたりとも素裸かだ。しかも向かいあわせで、距離がとても近い。康太は目を数回パチクリさせて、「今日、何度目のお風呂なんだろうって……」と云い、はにかんだ笑みを見せた。
大樹は、あはは、と笑いかえすと、康太をまっすぐに立たせ、
「また今井のヤツに何か吹きこまれたんじゃないのか?」
と云って、大きな手のひらで康太の頭をポンポンと叩いた。「背中はいいや。おれがシャワー浴びるあいだに湯槽の温度チェックを頼むぞ」
「はい」
康太は快活に応えて湯槽に移った。後輩なので蛇口のあるほうに腰を下ろす。入浴剤で白く濁った湯が、ザアザアと音を立てて湯槽の縁から流れだした。湯の温度はこちらも適温だった。康太は湯を両手で掬って顔をブルルっ、と拭った。
――森先輩、早くシャワーすませてくれないかなあ……。
康太のすぐそばで、大樹が気持ちよさそうに頭からシャワーを浴びている。髪を両手で梳いて湯を通し、両手を動かして腕や胸に湯を流し、それから両腕を高く上げて両手を壁につくと、顔を下げてしばらくのあいだ、凝っと湯に打たれていた。
――目のやり場に困っちゃうなあ……。
康太は湯槽の縁に両腕を掛けていた。平静を装っているものの、坐り位置のせいで大樹のバズーカ砲がどうしても視界に這入ってしまう。かといって、あからさまに目を逸らすのも気が引ける。体育会系の男同士、それもルームメイト同士なのだから、大事な武器をオープンにしても気にしないのが普通のことだ。康太は、見慣れている、見慣れている、いつも見慣れているから大丈夫、と心のなかで唱えた。
しかし、
――あっ!
湯の下で康太のバズーカ砲が反応の兆しを見せはじめた。ぼくのだって、と云いたげにムクムクと起きあがろうとしている。幸いなことに湯は白く濁っていてその兆候は隠されているけれども、康太は気が気ではなかった。
――今井先輩が「特別ミッション」だなんて云うから……。
康太は湯を両手に掬って、また顔を拭った。
「康太、湯加減はどうだ?」大樹がこう云って、くるりと背中を向けた。
康太は大樹の背中が見えることに安心して、
「あっ……こっちも適温です」
「そうか、じゃあ這入るとするか」
大樹がまた康太に正面を向けた。太く逞しい脚を高く上げて湯槽を跨ぐ。両脚のあいだのバズーカ砲が宙に泛んだ。まるでそこだけが切り抜かれたようで、康太の視線はどうしてもそこに注がれてしまう。
――森先輩……。お願いだから早く這入ってよ。
康太のバズーカ砲が大樹と背比べをしたそうに伸びあがってゆく。股間に手をやりたいが、そうすると大樹に何を云われるか分からない。康太は焦りはじめた。
「ほんとだ。いい湯加減だな」
と云いながら大樹が爪先から踵まで湯に浸し、かき混ぜた。それに合わせて康太の目の前でバズーカ砲が振り子のようにゆらゆらと大きく揺れる。
康太が両脚を開いて腰を後ろにずらすと、大樹がもう片方の脚も湯のなかに落としいれて腰をゆっくりと降ろしはじめた。湯槽の縁から白い湯がザアザアと溢れ、その波に乗って洗い場の洗面器が壁に当たり、コン、と音を立てた。大樹の巨躯が湯に沈んでゆく。
――もう少し、もう少しだ!
いつにもまして時間が長く感じられた。やがて康太の目の前でバズーカ砲が湯の下に潜りこんだころ、
「今日は左脚だ」
と大樹が云った。
康太は、はい、と応えて左脚を湯から上げると、足の裏を壁につけた。大樹も腰を落ち着かせると同じようにした。湯の下ではふたりの両脚が交叉している。
――いつものこと! いつものこと! いつものこと!
康太は両手に湯を掬って顔をバシャバシャと拭った。
すると大樹も同じように音を大きく立てて湯で顔を拭うと、
「康太、あのデカ猪に何云われたんだ?」
と云って、康太の左脚をつかんだ。イタズラをしかけるような口調で、「教えろよ。さもないと足つぼ攻撃だぞ」
「ええと、その……」図星だった。「今井先輩から特別ミッションをもらっちゃって」
大樹が興味深そうな表情を泛べた。「で、どんなミッションだ?」
ここまで来たら正直に云うしかない。あとは伝え方だ。
「たーたーたー……」康太は云い淀んだ。云わなければと思うけれども大樹を前にすると言葉が出ない。「たーたーたー……」
「球磨きだな?」
大樹が直球ど真ん中を康太に投げつけた。
康太は思わず首を縦に三度振った。
康太は浴室で頭からシャワーを浴びながら考えていた。武志から下されたミッションをどう遂行すべきか。どうせすることならば、早ければ早いほうがいい。しかも今、大樹と一緒に浴室にいる。この絶好のタイミングを逃すのは惜しい。
――この前みたいに一緒にシャカシャカして、そこから自然に……。
康太は目を開けた。前の鏡が湯気で曇っている。それを手で拭おうとしたとき、
「すいぶんと念入りだな。康太」
と背中のほうから声がした。康太のすぐ後ろで大樹が立っていたのだった。
「あっ……」康太は我に返った。「適温です」
すると大樹が、
「じゃあ、こんどは背中だ。回れー」
と云って、康太の両肩に両手を置いた。「右!」
「うわあっ!」
「おっと!」
康太がよろけそうになったところを、大樹が支えた。太い左腕が康太の背中にまわり、大きな右手が康太の腕を引っぱった。それはほんの一瞬の出来事だった。
「康太、何考えごとしてたんだ?」
大樹が笑みを泛べながら云った。
「あ、いや、その……」康太はまごついた。ふたりとも素裸かだ。しかも向かいあわせで、距離がとても近い。康太は目を数回パチクリさせて、「今日、何度目のお風呂なんだろうって……」と云い、はにかんだ笑みを見せた。
大樹は、あはは、と笑いかえすと、康太をまっすぐに立たせ、
「また今井のヤツに何か吹きこまれたんじゃないのか?」
と云って、大きな手のひらで康太の頭をポンポンと叩いた。「背中はいいや。おれがシャワー浴びるあいだに湯槽の温度チェックを頼むぞ」
「はい」
康太は快活に応えて湯槽に移った。後輩なので蛇口のあるほうに腰を下ろす。入浴剤で白く濁った湯が、ザアザアと音を立てて湯槽の縁から流れだした。湯の温度はこちらも適温だった。康太は湯を両手で掬って顔をブルルっ、と拭った。
――森先輩、早くシャワーすませてくれないかなあ……。
康太のすぐそばで、大樹が気持ちよさそうに頭からシャワーを浴びている。髪を両手で梳いて湯を通し、両手を動かして腕や胸に湯を流し、それから両腕を高く上げて両手を壁につくと、顔を下げてしばらくのあいだ、凝っと湯に打たれていた。
――目のやり場に困っちゃうなあ……。
康太は湯槽の縁に両腕を掛けていた。平静を装っているものの、坐り位置のせいで大樹のバズーカ砲がどうしても視界に這入ってしまう。かといって、あからさまに目を逸らすのも気が引ける。体育会系の男同士、それもルームメイト同士なのだから、大事な武器をオープンにしても気にしないのが普通のことだ。康太は、見慣れている、見慣れている、いつも見慣れているから大丈夫、と心のなかで唱えた。
しかし、
――あっ!
湯の下で康太のバズーカ砲が反応の兆しを見せはじめた。ぼくのだって、と云いたげにムクムクと起きあがろうとしている。幸いなことに湯は白く濁っていてその兆候は隠されているけれども、康太は気が気ではなかった。
――今井先輩が「特別ミッション」だなんて云うから……。
康太は湯を両手に掬って、また顔を拭った。
「康太、湯加減はどうだ?」大樹がこう云って、くるりと背中を向けた。
康太は大樹の背中が見えることに安心して、
「あっ……こっちも適温です」
「そうか、じゃあ這入るとするか」
大樹がまた康太に正面を向けた。太く逞しい脚を高く上げて湯槽を跨ぐ。両脚のあいだのバズーカ砲が宙に泛んだ。まるでそこだけが切り抜かれたようで、康太の視線はどうしてもそこに注がれてしまう。
――森先輩……。お願いだから早く這入ってよ。
康太のバズーカ砲が大樹と背比べをしたそうに伸びあがってゆく。股間に手をやりたいが、そうすると大樹に何を云われるか分からない。康太は焦りはじめた。
「ほんとだ。いい湯加減だな」
と云いながら大樹が爪先から踵まで湯に浸し、かき混ぜた。それに合わせて康太の目の前でバズーカ砲が振り子のようにゆらゆらと大きく揺れる。
康太が両脚を開いて腰を後ろにずらすと、大樹がもう片方の脚も湯のなかに落としいれて腰をゆっくりと降ろしはじめた。湯槽の縁から白い湯がザアザアと溢れ、その波に乗って洗い場の洗面器が壁に当たり、コン、と音を立てた。大樹の巨躯が湯に沈んでゆく。
――もう少し、もう少しだ!
いつにもまして時間が長く感じられた。やがて康太の目の前でバズーカ砲が湯の下に潜りこんだころ、
「今日は左脚だ」
と大樹が云った。
康太は、はい、と応えて左脚を湯から上げると、足の裏を壁につけた。大樹も腰を落ち着かせると同じようにした。湯の下ではふたりの両脚が交叉している。
――いつものこと! いつものこと! いつものこと!
康太は両手に湯を掬って顔をバシャバシャと拭った。
すると大樹も同じように音を大きく立てて湯で顔を拭うと、
「康太、あのデカ猪に何云われたんだ?」
と云って、康太の左脚をつかんだ。イタズラをしかけるような口調で、「教えろよ。さもないと足つぼ攻撃だぞ」
「ええと、その……」図星だった。「今井先輩から特別ミッションをもらっちゃって」
大樹が興味深そうな表情を泛べた。「で、どんなミッションだ?」
ここまで来たら正直に云うしかない。あとは伝え方だ。
「たーたーたー……」康太は云い淀んだ。云わなければと思うけれども大樹を前にすると言葉が出ない。「たーたーたー……」
「球磨きだな?」
大樹が直球ど真ん中を康太に投げつけた。
康太は思わず首を縦に三度振った。
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