[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

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第四章 人の噂も七十五日

2 球磨き

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「シャワー浴びて帰るとするか」武志は、大股で自分のロッカーのところまで行くと、そこからバスタオルを取りだし、ロッカーの戸にさっと掛けた。「康太、おまえも附合つきあえ」
「あ、はい……」
 康太はその場でユニフォームを脱ぎはじめた。脱いだそばから、ひとつひとつベンチの上に置いてゆく。
「康太、何してんだ?」
「マイナス・ワンです。今井先輩より一枚多く先に脱がないと、と思って……」
「ああ、あれか」武志が笑った。「おまえ、それ今まで部でもやってたか?」
「あっ」
 最後の一枚——真っ白なトランクス——に掛けていた手が止まった。
 練習後の部のロッカールームでは先輩後輩の関係なく、脱衣も着衣もそれぞれのペースでやっている。だから上級生が下着一枚で彷徨うろうろしているからと、下級生たちがずっと素裸かでいるようなことはなかった。あの自宅生が武志のバズーカ砲を見て驚いたときも、彼はシャワーの順番待ちでユニフォームを着たままだった。
「あれは男子寮の規則ルールだ。部とは関係ない」武志は脱ぎながら云った。野球選手から次第にバッファローへと変身してゆく。「こういうとき、森のヤツならこう云うんだろうな。『可愛いな、おまえ』って。ついでに頭ポンポンもだ」そうして素裸かになると、康太のほうへ向き直った。
「すみません、今脱ぎます」康太は武志の前で一気に素裸かになった。それから両手を後ろで組んで脚を肩幅に展き、背筋をぴんと伸ばして、真っ直ぐに武志の目を見た。「お待たせしました」
 武志は康太の裸身をスキャンするように視線を素早く上下させた。「いい脱ぎっぷりだ。さすが——」
「リトル・ウルフ、ですか?」康太が答を先に云った。
 武志は一瞬目を丸くしたが、すぐに豪快に笑った。「おまえも云うようになったなあ」
「はじめに云いだしたのは、今井先輩じゃないですか」康太は照れ笑いと真顔を混ぜたような表情で云った。「森先輩がウルフで、ぼくがリトル・ウルフだって」
「今のその顔、森のヤツにそっくりだぞ」武志は感慨深げにこう云って、シャワールームへと歩きだした。「さ、行こうぜ。裸かの附合いだ」
 康太は武志のあとをいて、シャワールームに行った。そこはロッカールームとひと続きになっている。左右の壁にシャワーが五基ずつ取りつけられているだけで、仕切り板もカーテンもないオープンなスペースだ。
 康太はすぐ右隣りにいる武志を気にしながらシャワーを浴びた。武志は滝のように湯を流し、鼻歌を歌っている。康太は、その跳ねかえりの湯を受けながら、いつ声を掛けられられても好いようにと、湯の勢いを弱めに調整していた。
 武志はその無防備な裸身を、康太の前にすっかり曝していた。太い腕、太い脚、厚みのある上半身、典型的な野球尻、そして泣く子も黙るバスーカ砲。康太は、どうしても大樹のものと比べてしまう。プロでも通用する野球選手になるのであれば、武志のような肉體の持ち主にならなければならない。けれども自分の肉體はどうだろう。筋肉は同じようになれるかもしれないが、自分のこの毛深さは——大樹そのものだ。
 武志が湯を止め、シャンプーのボトルを手に取った。両手を揉みあわせて器用に泡立て、ガシガシと髪を洗いはじめた。気持ち好さそうに両手を荒々しく動かしている。まるで洗うというよりも引っ掻いているようだ。
 康太はシャワーを浴びながら、武志のようすを窺った。武志が髪の毛をざっと掻きあげた。すると腋窩の繁みが現れた。それは夥しいという表現からは程遠く、男の腋窩であることを証明するのに最低限必要な生え方をしていて、見ようによっては、窪みのかげりに溶けこんでいるかのようだった。分厚い胸板にも、胸から腹への一筋の筋肉の溝にも、武志がすでに少年ではなく青年であると伝える程度の体毛が生えている。
 康太はさらに視線を下ろした。そこだけは、さすがに武志に相応しい雄々しい繁みがあった。男の象徴を飾るのに相応しい房飾りのようだ。
 武志が両手を大胆に動かすたびに、武志のものが大きく揺れた。
「今井先輩……」康太は湯を止めて、ボディソープのボトルを手に取った。「あの——」
「なんだ、康太?」目を閉じて髪を洗いながら武志が訊いた。「遠慮せずに云ってみろ。ゴリ野さんの悪口か?」
 康太は深呼吸をして武志に云った。「ええと——」
「痛っ!」武志が吼えた。「康太、湯を出してくれ。シャンプーが目に這入った」
「あっ、はい」康太はすぐさま武志の前のコックに手を伸ばし、それを捻った。「これで大丈夫ですか?」
「サンキュー」武志は大きな両手で顔をぶるぶるっと洗い流した。そして湯を止めて、康太に向き直った。「で、なんだ?」
「あの……球磨き……します、か?」
「おう、頼む」武志は康太の手からボディソープのボトルを受けとると、臍の下に雄々しく生えるくさむらにソープ液をたっぷりと垂らした。「後ろから前から、どっちでも好いぞ」
 康太は武志の背後に回って両膝立ちになった。「それじゃあ、後ろから失礼します」
「康太、高さはこれで好いか?」武志が両脚を大開おおはだけにした。
「はい」
 康太は武志の叢に両手の指を立てて、シャカシャカと小気味好い音を立てはじめた。両脚の付け根の向う側から、武志のものがチラチラ覗かれた。それは康太の泡立ての手の動きに伴って、小刻みに揺れた。康太は手の位置を考えた。もう少し下で泡立てたほうが……。どのみちこれから玉磨きとバット磨きをするのだから、触れても問題ないのかもしれない。ようすを見ながら少しずつ下ろしていって……。
「オリエン合宿以来だな」武志は首を左右にぐるぐると回した。「あんときは、おまえビクビクしてたっけ」
「そうでしたね」康太は泡の手を止めた。「今となっては自分が恥ずかしいです」
「おい、康太。手が休んでるぞ。おれは八分立てが好みだ。覚えておけ」
「あっ、はい」康太はまた手をシャカシャカさせはじめた。指先は武志の根元に触れそうになっている。
「でもいったいどういう風の吹きまわしだ? 球磨きは合宿のときの伝統だって云ったよな」
「さっき助けてもらったので、そのお礼というか」
「助けた? おれが?」
「ええと……」康太は一瞬、躊躇ためらった。武志にその自覚がないはずはなかった。応えさせようとしているのだ。「……『貫通式』のことです。皆んなにあれこれ訊かれて……それで……」
 突然、武志が豪快に笑いだした。
 康太は吃驚びっくりして、両手を離した。
 床タイルの上に、両脚の付け根の向うにあるバズーカ砲の尖端から、まだ緩い泡がぽたぽたと落ちるのが見えた。
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