[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

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第三章 貫通式

11 指の探検

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 康太は目が冴えてしまった。
 ——本当にあれで「貫通式」はおわったのかな……?
 康太は、大樹が勝利に「まだ足りないっすよ」と云ってコンドームを要求したこと、そして勝利が追加のコンドームを渡しながら、「気が向いたら確認してやる」と云ったことを思い出した。ヘッドボードの棚には、そのコンドームがふたつ並んで置かれている。
 康太は仰向けになった。ふと右を見遣る。大樹が康太に背中を向けて眠っていた。
 大樹は、「別々に寝たらどうか」と云っていた。しかし「一緒に寝てくれ」と康太のほうから大樹に半ば頼みこんだのだ。いつ勝利がチェックしに来るかわからないから、と。すると大樹は、「男ふたりには少し狭いかもしれないぞ」とだけ云って、康太の寝るスペースを快く空けてくれた。
 ふたりとも素裸かで、腰のあたりに薄いブランケットを掛けているだけだった。大樹はすっかり熟睡しているようだ。だから康太がその気になれば、大樹の裸體に触れることは難しいことではなかった。寝返りをったというていで、抱きついてみてはどうだろう。そうすれば大樹が目を覚まして、考えなおすかもしれない。
 ——森先輩、背中もすごいんだなあ……。
 康太は大樹の洋々たる背中に素直に見惚れた。大樹は水の競技なので、筋肉だけでなく水にくための脂肪が薄っすらと肌肉にのっている。その脂肪の膜が筋肉の膨らみに弾力を与えているようだった。
 康太は、右側を下にくるりと寝返りを搏ち、顔を大樹の後ろ姿に近づけた。
 ——あっ、ここも……。
 うなじのあたりにかげりがあった。薄明りのつくる陰影だと思っていたが、よく見るとそうではなかった。和毛にこげだった。それは少しずつ狭まりながら、うなじから背中の筋へと降りてゆく。胸や腹部のおびただしい毛ほどではないが、夜の暗がりのなかでも、その存在ははっきりと見てとれた。康太は指先でその毛の流れを辿ってみた。それは獣のたてがみのようで、背中の上半分まで続いていた。
 深い寝息を立てて、大樹が寝返りを搏った。康太は、さっと手を引いて、からだごと退いた。大樹は仰向けになった。そのとき、カーテンの隙間から忍びこむ月の光でさえ眩しい、と云わんばかりに左腕を目許に当てたので、その腋窩えきかにひそむ、あのたくましい繁みがあらわになった。規則的な寝息にあわせて、ぶ厚い胸板が上下し、そのたびにその表面をおおう豊饒ほうじょうの毛が、月の光に包まれて白くきらめいた。
 康太は、っと大樹を見つめているうちに、何故だかその裸かの肌に手で触れたくなった。右肘を支えにして身を起こし、左手を大樹に伸ばした。
 たくましい胸板は楯を二枚並べたようであり、それを装飾するものとては、左右のいちばんの盛りあがりにくっきりとレリーフされた鋭い目のような楕円の乳暈があるばかりである。その楯の全体には、細い毛が、外側は淡くまばらに、そして胸の谷間に進むにつれてその密度を増してゆき、谷の深さを強調するようにびっしりと生えている。康太は指の背で大樹の豊かな胸毛——康太もひこばえのようではあるが、同じく豊かな胸毛のきざしがある——にそっと触れた。針金のように見えたそれは、実際に触れてみると綿毛のようにやわらかかったので、康太はふしぎな思いで何度もその毛並みを撫でた。
 康太は大樹をちらりと見た。目を覚ますようすもなく、ぐっすりと眠っている。康太はさらに指を進めた。
 きりりと引き締まった大樹の腹は、その中央に王の字が刻まれ、その筋目の奥底に形の好い臍窩さいかを絞っていた。胸から続くさかんな毛におおわれて、肉體の野生味をよりいっそう醸しだしている。
 ここへ来て康太は、はっと息を飲んだ。ここから先はブランケットが掛かっている。そして、あの大きなものがブランケットの奥にある。康太は固く目を閉じて、ブランケットのなかに指をもぐらせた。
 指先が下腹部の水飛沫のように激しく波立つ毛に触れる——。
 康太は、
「あ」
 と小声を立て、さっと手を引いた。
 胸が早鐘を搏っていた。
 康太はそっとベッドから降りると、両手で股間を押さえ、音を立てないように気を遣いながら、ロフトの梯子まで急いだ。しばらく頭上のロフトを仰ぎ見、そして後ろをちょっとふり返ってから、梯子に手を掛けた。
 ロフトは乱れていなかった。ラグマットは中央にきちんと敷かれている。奥の段ボール箱も、壁のティッシュ箱も、そこに固定されているかのように置かれている。
 ——さっきここで森先輩が……。
 康太は、ラグマットの上に、仰向けで寝た。
 ——もし、ぼくがここに昇っていたら……。そしたら森先輩と並んで寝て……。そして一緒に……。
 思えば、この場所で大樹が自慰をしていたのだ。コンドームを着け、射精し、そしてまたコンドームを着け、そして……。大樹は、その行為を三度もくり返した——。
「痛っ!」
 康太は股間を両手でおさえた。見なくてもわかっている。包皮が突っかえているのだ。幼馴染の健司だって、その気になれば包皮を剥くことができる。康太は、風呂で見た光景を思い出した。武志のもの、勝利のもの、そして大樹のもの。男子寮の三大バズーカ砲は、そのどれもがその名に相応しく圧倒的だ。
『康太、グランドスラム達成だな』
 不意に勝利の言葉が脳裏に甦った。いや、そうじゃない。この手に触れたのは、武志のものと勝利のものだけだ。大樹のものは見るだけだった。しかしこのまま嘘をつきとおせる自信はない。いつかはきっとバレてしまうだろう。
 ——だからって森先輩に、触らせてくれ、ってお願いするのも変だよなあ。
 康太は深くため息を吐いた。
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