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第三章 貫通式
11 指の探検
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康太は目が冴えてしまった。
——本当にあれで「貫通式」は了ったのかな……?
康太は、大樹が勝利に「まだ足りないっすよ」と云ってコンドームを要求したこと、そして勝利が追加のコンドームを渡しながら、「気が向いたら確認してやる」と云ったことを思い出した。ヘッドボードの棚には、そのコンドームがふたつ並んで置かれている。
康太は仰向けになった。ふと右を見遣る。大樹が康太に背中を向けて眠っていた。
大樹は、「別々に寝たらどうか」と云っていた。しかし「一緒に寝てくれ」と康太のほうから大樹に半ば頼みこんだのだ。いつ勝利がチェックしに来るかわからないから、と。すると大樹は、「男ふたりには少し狭いかもしれないぞ」とだけ云って、康太の寝るスペースを快く空けてくれた。
ふたりとも素裸かで、腰のあたりに薄いブランケットを掛けているだけだった。大樹はすっかり熟睡しているようだ。だから康太がその気になれば、大樹の裸體に触れることは難しいことではなかった。寝返りを搏ったという態で、抱きついてみてはどうだろう。そうすれば大樹が目を覚まして、考えなおすかもしれない。
——森先輩、背中もすごいんだなあ……。
康太は大樹の洋々たる背中に素直に見惚れた。大樹は水の競技なので、筋肉だけでなく水に泛くための脂肪が薄っすらと肌肉にのっている。その脂肪の膜が筋肉の膨らみに弾力を与えているようだった。
康太は、右側を下にくるりと寝返りを搏ち、顔を大樹の後ろ姿に近づけた。
——あっ、ここも……。
うなじのあたりに翳りがあった。薄明りのつくる陰影だと思っていたが、よく見るとそうではなかった。和毛だった。それは少しずつ狭まりながら、うなじから背中の筋へと降りてゆく。胸や腹部の夥しい毛ほどではないが、夜の暗がりのなかでも、その存在ははっきりと見てとれた。康太は指先でその毛の流れを辿ってみた。それは獣の鬣のようで、背中の上半分まで続いていた。
深い寝息を立てて、大樹が寝返りを搏った。康太は、さっと手を引いて、からだごと退いた。大樹は仰向けになった。そのとき、カーテンの隙間から忍びこむ月の光でさえ眩しい、と云わんばかりに左腕を目許に当てたので、その腋窩にひそむ、あのたくましい繁みが顕わになった。規則的な寝息にあわせて、ぶ厚い胸板が上下し、そのたびにその表面をおおう豊饒の毛が、月の光に包まれて白く煌めいた。
康太は、凝っと大樹を見つめているうちに、何故だかその裸かの肌に手で触れたくなった。右肘を支えにして身を起こし、左手を大樹に伸ばした。
たくましい胸板は楯を二枚並べたようであり、それを装飾するものとては、左右のいちばんの盛りあがりにくっきりとレリーフされた鋭い目のような楕円の乳暈があるばかりである。その楯の全体には、細い毛が、外側は淡くまばらに、そして胸の谷間に進むにつれてその密度を増してゆき、谷の深さを強調するようにびっしりと生えている。康太は指の背で大樹の豊かな胸毛——康太も蘖のようではあるが、同じく豊かな胸毛の兆しがある——にそっと触れた。針金のように見えたそれは、実際に触れてみると綿毛のようにやわらかかったので、康太はふしぎな思いで何度もその毛並みを撫でた。
康太は大樹をちらりと見た。目を覚ますようすもなく、ぐっすりと眠っている。康太はさらに指を進めた。
きりりと引き締まった大樹の腹は、その中央に王の字が刻まれ、その筋目の奥底に形の好い臍窩を絞っていた。胸から続く旺んな毛におおわれて、肉體の野生味をよりいっそう醸しだしている。
ここへ来て康太は、はっと息を飲んだ。ここから先はブランケットが掛かっている。そして、あの大きなものがブランケットの奥にある。康太は固く目を閉じて、ブランケットのなかに指をもぐらせた。
指先が下腹部の水飛沫のように激しく波立つ毛に触れる——。
康太は、
「あ」
と小声を立て、さっと手を引いた。
胸が早鐘を搏っていた。
康太はそっとベッドから降りると、両手で股間を押さえ、音を立てないように気を遣いながら、ロフトの梯子まで急いだ。しばらく頭上のロフトを仰ぎ見、そして後ろをちょっとふり返ってから、梯子に手を掛けた。
ロフトは乱れていなかった。ラグマットは中央にきちんと敷かれている。奥の段ボール箱も、壁のティッシュ箱も、そこに固定されているかのように置かれている。
——さっきここで森先輩が……。
康太は、ラグマットの上に、仰向けで寝た。
——もし、ぼくがここに昇っていたら……。そしたら森先輩と並んで寝て……。そして一緒に……。
思えば、この場所で大樹が自慰をしていたのだ。コンドームを着け、射精し、そしてまたコンドームを着け、そして……。大樹は、その行為を三度もくり返した——。
「痛っ!」
康太は股間を両手でおさえた。見なくてもわかっている。包皮が突っかえているのだ。幼馴染の健司だって、その気になれば包皮を剥くことができる。康太は、風呂で見た光景を思い出した。武志のもの、勝利のもの、そして大樹のもの。男子寮の三大バズーカ砲は、そのどれもがその名に相応しく圧倒的だ。
『康太、グランドスラム達成だな』
不意に勝利の言葉が脳裏に甦った。いや、そうじゃない。この手に触れたのは、武志のものと勝利のものだけだ。大樹のものは見るだけだった。しかしこのまま嘘をつきとおせる自信はない。いつかはきっとバレてしまうだろう。
——だからって森先輩に、触らせてくれ、ってお願いするのも変だよなあ。
康太は深くため息を吐いた。
——本当にあれで「貫通式」は了ったのかな……?
康太は、大樹が勝利に「まだ足りないっすよ」と云ってコンドームを要求したこと、そして勝利が追加のコンドームを渡しながら、「気が向いたら確認してやる」と云ったことを思い出した。ヘッドボードの棚には、そのコンドームがふたつ並んで置かれている。
康太は仰向けになった。ふと右を見遣る。大樹が康太に背中を向けて眠っていた。
大樹は、「別々に寝たらどうか」と云っていた。しかし「一緒に寝てくれ」と康太のほうから大樹に半ば頼みこんだのだ。いつ勝利がチェックしに来るかわからないから、と。すると大樹は、「男ふたりには少し狭いかもしれないぞ」とだけ云って、康太の寝るスペースを快く空けてくれた。
ふたりとも素裸かで、腰のあたりに薄いブランケットを掛けているだけだった。大樹はすっかり熟睡しているようだ。だから康太がその気になれば、大樹の裸體に触れることは難しいことではなかった。寝返りを搏ったという態で、抱きついてみてはどうだろう。そうすれば大樹が目を覚まして、考えなおすかもしれない。
——森先輩、背中もすごいんだなあ……。
康太は大樹の洋々たる背中に素直に見惚れた。大樹は水の競技なので、筋肉だけでなく水に泛くための脂肪が薄っすらと肌肉にのっている。その脂肪の膜が筋肉の膨らみに弾力を与えているようだった。
康太は、右側を下にくるりと寝返りを搏ち、顔を大樹の後ろ姿に近づけた。
——あっ、ここも……。
うなじのあたりに翳りがあった。薄明りのつくる陰影だと思っていたが、よく見るとそうではなかった。和毛だった。それは少しずつ狭まりながら、うなじから背中の筋へと降りてゆく。胸や腹部の夥しい毛ほどではないが、夜の暗がりのなかでも、その存在ははっきりと見てとれた。康太は指先でその毛の流れを辿ってみた。それは獣の鬣のようで、背中の上半分まで続いていた。
深い寝息を立てて、大樹が寝返りを搏った。康太は、さっと手を引いて、からだごと退いた。大樹は仰向けになった。そのとき、カーテンの隙間から忍びこむ月の光でさえ眩しい、と云わんばかりに左腕を目許に当てたので、その腋窩にひそむ、あのたくましい繁みが顕わになった。規則的な寝息にあわせて、ぶ厚い胸板が上下し、そのたびにその表面をおおう豊饒の毛が、月の光に包まれて白く煌めいた。
康太は、凝っと大樹を見つめているうちに、何故だかその裸かの肌に手で触れたくなった。右肘を支えにして身を起こし、左手を大樹に伸ばした。
たくましい胸板は楯を二枚並べたようであり、それを装飾するものとては、左右のいちばんの盛りあがりにくっきりとレリーフされた鋭い目のような楕円の乳暈があるばかりである。その楯の全体には、細い毛が、外側は淡くまばらに、そして胸の谷間に進むにつれてその密度を増してゆき、谷の深さを強調するようにびっしりと生えている。康太は指の背で大樹の豊かな胸毛——康太も蘖のようではあるが、同じく豊かな胸毛の兆しがある——にそっと触れた。針金のように見えたそれは、実際に触れてみると綿毛のようにやわらかかったので、康太はふしぎな思いで何度もその毛並みを撫でた。
康太は大樹をちらりと見た。目を覚ますようすもなく、ぐっすりと眠っている。康太はさらに指を進めた。
きりりと引き締まった大樹の腹は、その中央に王の字が刻まれ、その筋目の奥底に形の好い臍窩を絞っていた。胸から続く旺んな毛におおわれて、肉體の野生味をよりいっそう醸しだしている。
ここへ来て康太は、はっと息を飲んだ。ここから先はブランケットが掛かっている。そして、あの大きなものがブランケットの奥にある。康太は固く目を閉じて、ブランケットのなかに指をもぐらせた。
指先が下腹部の水飛沫のように激しく波立つ毛に触れる——。
康太は、
「あ」
と小声を立て、さっと手を引いた。
胸が早鐘を搏っていた。
康太はそっとベッドから降りると、両手で股間を押さえ、音を立てないように気を遣いながら、ロフトの梯子まで急いだ。しばらく頭上のロフトを仰ぎ見、そして後ろをちょっとふり返ってから、梯子に手を掛けた。
ロフトは乱れていなかった。ラグマットは中央にきちんと敷かれている。奥の段ボール箱も、壁のティッシュ箱も、そこに固定されているかのように置かれている。
——さっきここで森先輩が……。
康太は、ラグマットの上に、仰向けで寝た。
——もし、ぼくがここに昇っていたら……。そしたら森先輩と並んで寝て……。そして一緒に……。
思えば、この場所で大樹が自慰をしていたのだ。コンドームを着け、射精し、そしてまたコンドームを着け、そして……。大樹は、その行為を三度もくり返した——。
「痛っ!」
康太は股間を両手でおさえた。見なくてもわかっている。包皮が突っかえているのだ。幼馴染の健司だって、その気になれば包皮を剥くことができる。康太は、風呂で見た光景を思い出した。武志のもの、勝利のもの、そして大樹のもの。男子寮の三大バズーカ砲は、そのどれもがその名に相応しく圧倒的だ。
『康太、グランドスラム達成だな』
不意に勝利の言葉が脳裏に甦った。いや、そうじゃない。この手に触れたのは、武志のものと勝利のものだけだ。大樹のものは見るだけだった。しかしこのまま嘘をつきとおせる自信はない。いつかはきっとバレてしまうだろう。
——だからって森先輩に、触らせてくれ、ってお願いするのも変だよなあ。
康太は深くため息を吐いた。
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