[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

文字の大きさ
上 下
17 / 83
第二章 401号室

6 康太の宿題

しおりを挟む
 康太は、トランクの荷物をベッドの台の引き出しに整理しながら考えた。
 あの件をどう話そうか。昨日の大浴場で、勝利は自分で「ファルコン大野」だと云ったし、その勝利に「猪」と呼ばれて武志は「バッファロー」だと云いかえした。大樹は今でこそ「ウルフ」だが、その前は「ビースト」だったらしい。
 しかし康太が識っているのは、これで終わりではない。問題は、武志に教えられた「三大バズーカ砲」だ。あのコードネームがこの言葉に結びついているのだから、康太がどこまで識っているのか大樹が関心を持っていても、ふしぎではない。
 ――ひょっとして、ぼくが森先輩の裸かを見てドギマギしていたの、バレているのかな……?
 しかし同時にこうも思った。
 ――今井先輩は『普段から小さな布切れ一枚、腰に巻いているやつはちがう』って云っていたから、森先輩は気づいていないかも。それに体育会系なら裸かを気にしないのも当然だよな……。
 こんなときに限って考える時間を稼ごうにも荷物は少ない。引き出しを閉めたら、部屋を見て驚こうか。なるべく話題をそらすのが良さそうだ。

 康太はゆっくりと引き出しを押しこんだ。
「康太、どうだ。すごい部屋だろう?」
 不意に右斜め後ろから大樹の声がした。
 ふり向くと、ベッドの横に置かれた小さな勉強机の椅子に、背もたれを胸側にして大樹が跨っていた。
「そうですね」康太は平静を装って応えた。「さっきはすみませんでした。ぼく、すっかり興奮してベランダに飛び出しちゃって……」
「まあ、おまえの気持ちもわかる。高待遇だよな。テレビもミニキッチンもあるし、バス・トイレ別だ。おれも最初はそうだった」
 康太は頷き、それから勉強机の側面を指さした。
「そこの突っ張りラックで部屋がふたつに区切られているんですね。寝るところと――」
「――坐るところ……かな」
 大樹が椅子から立ったので、康太も立上った。
 の中央にこたつテーブルが置いてある。大樹がそこを通り過ぎざまに、
「トランクはドア這入ってすぐのクローゼットに入れてもいいし、ロフトに置いてもいいし、好きにしていいぞ」
 と云った。
 康太は少し考えて、
「クローゼットを使ってもいいですか?」
「遠慮するな。おれたちの部屋なんだから」
 大樹がクローゼットの戸を引いた。ガウンが一着、横に伸びるバーにぶら下がっているのが康太の目に留まった。
「康太も、野球道具とか部室のロッカーに預けきれないものがあったら、ここを使うといい」大樹は、立ったままの康太の手からトランクを引き取ってクローゼットに入れた。「おいおい、水球だからと云って、じゃないんだぞ。ガウンもあるし、キャップだってある。それでもおまえに比べれば少ないほうだけどな」
「あ、あの……」康太は口ごもった。
「どうせ、今井に何か吹きこまれたんだろう?」大樹は揶揄うような口調で云った。「あとでゆっくり聞かせてくれよな」
 康太は曖昧に頷いた。どうやら宿題を抱えることになってしまったらしい。

 それから大樹は、康太を洗面所に案内した。戸を開けると右に洗面台が、左にトラム式の洗濯機がある。正面にもうひとつ戸があり、その奥は内風呂だった。
「寮の決まりなんだけど、内風呂を使えるのは上級生だけなんだ。それと洗濯機もだ」
 大樹が申し訳なさそうに云った。
「ぼくは構いません。一階に風呂がありましたよね?」
「風呂の時間は聞いているか?」
「一、二年生は夜九時半まででしたよね?」
「もし時間を過ぎてしまったら、三、四年生と一緒なら見逃してくれる」
「そのときは――」
「――おれが一緒に行ってやるよ」
 即答だった。
 ……康太は想像した。上級生たちに混じって、大樹とふたりで風呂場にいる自分の姿を。大樹が前を隠さず堂々としている以上、自分がコソコソ隠すわけにはいかない。
 ――おっ、ウルフだ。
 ――リトル・ウルフもいるぞ。
 ――リトルのほうも、なかなかのじゃないか。
 ――そりゃそうさ。ウルフ・ブラザーズだからな。
 聞こえよがしのヒソヒソ声がする……。
 康太はかぶりを振った。
「おれと一緒じゃいやか?」大樹が心配そうな顔をして訊いた。
「あの、トイレも……?」康太は思わずこう云った。
「なんだ。そんなことか」大樹に笑顔が戻った。「トイレは二十四時間、この部屋のを使っていいぞ」
 そして大樹は康太の頭をポンポンと叩いて、
「可愛いな、おまえ」
 と云い、
「さあ。つぎはロフトだ」
 と康太の背中を押した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...