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第一章 海軍の男
2 部屋割り
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宿舎の四階から男子風呂のある二階へ階段を降りながら、康太は考えた。
特待生用の男子寮は、他の学生たちとは別にある。部屋は三種類で、大部屋、ふたり部屋、そしてひとり部屋だ。ひとり部屋は寮長のものなので、新入生は大部屋かふたり部屋に割り当てられる。新入生だけの部屋は存在せず、必ず先輩と一緒になる。
自分はどの部屋に決まるのだろう。健司と一緒になれるとすれば大部屋しかない。となると同室になる先輩がどういうタイプなのかが重要だ。ふたり部屋は少し広いと聞いているが、やはり気の合う先輩が望ましい。一年間は部屋替えがないのだから、人の好い先輩と同室にならなければ地獄往きだ。
康太は、ふと思い出して、
「なあ、健司。自己紹介書だけど何て書いた?」
「部屋割りの参考にするとかなんとかってやつだろ? 紙に書いて提出っていつの時代だよ。マッチングアプリみたいなのでやればいいのに」健司は関心なげに云った。それから康太を勇気づけるように、
「おれと大部屋か、おまえがいつも云ってる――」
「今井先輩?」
「そう。その今井先輩とふたり部屋のどちらかだと思うぜ。可愛がってもらっているんだろ?」
「そんなにうまくいくかなあ……。今井先輩、ああ見えて人気あるんだよね。硬式野球部の特待生は、全部で五人いるし」
「じゃあ、ほかにも誰か候補を見つけておかないとな。今日が自己アピールの最後のチャンスなんだし」
二階に着いた。ふたりは男子風呂へと続く廊下を歩いた。しばらくして、こんどは健司が口火を切った。
「あーあ。女子がうらやましい。学生専用マンションみたいなのを大学が契約していて、みんな個室なんだってさ。おれだって、ひとり暮らしして、部屋に彼女呼んで朝まで寝技の練習とかしたいよ。道場みたいに畳部屋だったら、布団も枕も道着もいらないしさ」
康太は『寝技の練習』の件を冗談と受け取って、ははっ、と笑った。部屋割りひとつで悩んでいる自分を、幼馴染なりに気遣ってくれたのだろう。尤も、云い方はともかくとして。
またしばらく歩いた。突き当りを右に曲がった。さらに奥へ進んだ。
「さあ、着いたぞ」
と、健司が云った。康太が顔を上げると目の前に青い暖簾が見えた。いつの間にか男子風呂のまえまで来ていた。
「なあ、康太。今日が最後だから、ひとつ教えてやろうか?」暖簾を持ち上げ、ふり向きざまに健司が云った。「自己アピールのいちばんの方法は――」
康太は、意味ありげに焦らす健司のつぎの言葉を待った。
「――『裸かの附合い』さ。今日こそ頑張れよ」
特待生用の男子寮は、他の学生たちとは別にある。部屋は三種類で、大部屋、ふたり部屋、そしてひとり部屋だ。ひとり部屋は寮長のものなので、新入生は大部屋かふたり部屋に割り当てられる。新入生だけの部屋は存在せず、必ず先輩と一緒になる。
自分はどの部屋に決まるのだろう。健司と一緒になれるとすれば大部屋しかない。となると同室になる先輩がどういうタイプなのかが重要だ。ふたり部屋は少し広いと聞いているが、やはり気の合う先輩が望ましい。一年間は部屋替えがないのだから、人の好い先輩と同室にならなければ地獄往きだ。
康太は、ふと思い出して、
「なあ、健司。自己紹介書だけど何て書いた?」
「部屋割りの参考にするとかなんとかってやつだろ? 紙に書いて提出っていつの時代だよ。マッチングアプリみたいなのでやればいいのに」健司は関心なげに云った。それから康太を勇気づけるように、
「おれと大部屋か、おまえがいつも云ってる――」
「今井先輩?」
「そう。その今井先輩とふたり部屋のどちらかだと思うぜ。可愛がってもらっているんだろ?」
「そんなにうまくいくかなあ……。今井先輩、ああ見えて人気あるんだよね。硬式野球部の特待生は、全部で五人いるし」
「じゃあ、ほかにも誰か候補を見つけておかないとな。今日が自己アピールの最後のチャンスなんだし」
二階に着いた。ふたりは男子風呂へと続く廊下を歩いた。しばらくして、こんどは健司が口火を切った。
「あーあ。女子がうらやましい。学生専用マンションみたいなのを大学が契約していて、みんな個室なんだってさ。おれだって、ひとり暮らしして、部屋に彼女呼んで朝まで寝技の練習とかしたいよ。道場みたいに畳部屋だったら、布団も枕も道着もいらないしさ」
康太は『寝技の練習』の件を冗談と受け取って、ははっ、と笑った。部屋割りひとつで悩んでいる自分を、幼馴染なりに気遣ってくれたのだろう。尤も、云い方はともかくとして。
またしばらく歩いた。突き当りを右に曲がった。さらに奥へ進んだ。
「さあ、着いたぞ」
と、健司が云った。康太が顔を上げると目の前に青い暖簾が見えた。いつの間にか男子風呂のまえまで来ていた。
「なあ、康太。今日が最後だから、ひとつ教えてやろうか?」暖簾を持ち上げ、ふり向きざまに健司が云った。「自己アピールのいちばんの方法は――」
康太は、意味ありげに焦らす健司のつぎの言葉を待った。
「――『裸かの附合い』さ。今日こそ頑張れよ」
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