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俺が思い描く魔法とは
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俺は何も言わないクリスと馬車の上に座っていた。あきらは奴隷を開放し、戦士たちの拘束を解いている。元気はないが歩けそうなので、彼女たちを町へ放した。あきらはずっと安全なところまでついていくと言っていたが、丁寧に断られていた。それでも食い下がらなかったので、彼は国の外まではついていくことにした。
その様子を俺は膝に肘を置いて、見ていた。
感心する。怒っても、戦闘があっても彼はブレない。そんな彼が嫌いだった。
それから数十分がしてもあきらは帰ってこず、クリスは黙ったままだった。クリスは次第に肩が震え始め、鼻をすすり、しまいには泣き出してしまった。
「家族に会いたい」
そういえばクリスの願いは家族に会うことだったな。団長との戦闘で蚊帳の外であったが、団長が気絶している今、誰が何をしても問題はなさそうだった。
「いいよ、会ってきな」
「いいの?」
「あぁ」
「やった!!」
クリスは馬車を降りて屋敷の中へ入っていく。小走りに、嬉しそうに走る姿をみて「よかった」と俺は一人つぶやいた。
「あれ、あの女の子は?」
「あぁクリスのことか、家族に会いに行ったよ」
「そうか」
白の鎧がガシャンガシャンと音を立てる。あきらは馬車に上って俺の横に座った。その重みで少し馬車が揺れる。あきらは戦士たちを送ってきたようだ。
「少し話さないか?」
そういうあきらの顔は昔を思い出す。
「あぁ」
俺も言いたいことがあった。
「俺たちなんで喧嘩したか覚えているか?」
俺は言いたかったことはここにある。
「もちろんだ。わたるがいじめられていた女の子を殺したからだ」
「そうだ」
この話題は俺に、重くのしかかる。
「俺が、あの子を殺したからだ。あの時、いじめられたていた子を助けるため、女子のグループから助けるまではよかった。そこからだ」
「違う町の不良たちが集団で襲ってくるなんてな」
「そうだ。あの時、俺は弱かった。助けることができなかった。あの時の報復で、彼女の目の前でリンチされて、そのまま気絶した。気絶していなければ俺は……、あの子を助けることができた。あの時、あとちょっとだけ早く目覚めれば、あとちょっとだけ、強ければ……」
「あぁ、それは間違っていない。だがお前はあの時、間違えたんだ。わたるはあの時、一人で大人数に立ち向かったんだ。分かるか。その無謀さが」
「何が言いたい?あきらがいたからと言って何か変わったのか?」
「俺は彼女が自殺した時、目の前にいたんだ」
「え?」
「お前が気絶したあと、助けに行ったのは俺だ。俺が来た時には彼女はいなかった。お前が不良たちを引き留めたおかげだな。それでな。その場所から階段を上がる彼女が見えたんだ。俺は追いかけた」
「おい、ちょっと待ってくれ、どうしてあの時いたんだ?あの場所は誰にも言っていないのに」
「追いかけたんだ。ひっそりと。それでな、追いついたんだ。彼女に。ただ彼女はフェンスの向こう側。そこから考えられるのは一つだろ? 俺は当然説得したさ。ただ彼女は一言言った。ここに来てほしかったのはあなたじゃなかったって」
「……」
「俺は何も言えなかった。何もできなかった腹いせに俺は不良たちをぼこぼこにした。怒りに任せて、逃げて行ったやつもいたけどどうでもよかった。分かるか。あの子にとっては、あの時はいるべきだったのは俺じゃなかったのさ」
俺は何も言わなかった。言えなかった。こいつも苦しんでいたんだなと思った。俺の大嫌いだったヒーローは、俺の大好きだった人のためにこんなにも苦しんでいたんだ。
「どうして今まで言ってくれなかったんだ」
「俺は知っていたんだ。わたるが俺みたいになりたいことも、それで比べられて苦しんでいるのも、わたるの好きな子に俺の話されると嫌な顔をするところも」
「それは……」
嫉妬だった。人気者だったあきら。俺は彼女を取られる気がしていたのだ。
そしてもう一つある。俺はその時から罪悪感でだれとも話したくはなかった。誰ともだ。人と会うのが怖かった。第一、不良にぼこぼこにされた上に、人一人を自殺に追い込んだのだ。悪いうわさが経つのも仕方がなかった。こんな俺に人気者のあきらが話してはいけないとも思ったからだ。
「もう一つ言いたかったことがあるんだ」
「なに?」
「私じゃない誰かのために世界を救ってね」
「なにそれ?」
「言われたのさ、あの女の子に」
「それで……」
俺はあの時を思い出していた。あのとき、あきらが言ったこと「俺はお前を助けたい」、この言葉をどうしても受け入れることができなかった。俺は世間とのかかわりを絶ったのだ。
「俺はあの時、わたる以外を助けた。友達のいない男の子に友達をつくり、彼氏のいない女の子に彼氏を作り、勉強できない子には勉強を教え、人生に迷った人には道を教えた。俺はわたる以外を救うことができたのさ。だから余計に公開していた。わたるを救えないことに」
「そうか」
「俺は間違っていたのかもしれないな」
今、ようやくわかった気がする。あきらがどうしてあんなにも俺に構っていたのか。俺が好きだった女の子に二人の人生は大きく変わっていたのだ。少なくともあきらはうまくやっていたのだ。俺が憧れた道を。
本当は彼のことは嫌いなんかじゃない。むしろ好きな部類だ。そうだ。本当は好きなのだ。誰よりも友達だと思っている。
俺はあの時を思い出して笑った。ただ馬鹿笑いした。ただの勘違いは思ったよりも重かったようだ。彼女の死が俺にかけた呪いは、歩みを止めるには十分だった。
「あきらは彼女の死も背負っているんだな」
あきらも笑った。止まった時間を動かすように。彼は俺とは違い、彼女の死を背負っている。
俺は涙を流した。笑いながら。
あきらはそれを見て、肩をたたいた。なだめるように。
この世界で、腐った世界で、二人っきりで、笑って、人を救って、できることは何でもやろう。だから俺はこの世界に選ばれたのだ。
そして、俺たちは笑った、息が切れるまで。
「これからどうする?俺はこの世界を救うけど?」
「そうだな、俺はそれを応援するかな。俺にはあきらのようにはなれないし」
「そうか」
そこで思い出したことがあった。チュートリアルのことだ。
あなたの好きな魔法を思い描いてください。
俺は応援したい。彼の力の手伝いをした。おれは直接誰かを救うことはできないが、誰かの手助けはできる。
「俺が思い描く魔法は……」
すると、あきらはなんだかテンションが高くなる。体が軽くなり、魔法をたくさん打てる気がしてくる。腕をまわし、足をバタバタとして、その気が嘘ではないことを確認する。
「これって……」
「あぁ、俺は直接、人をたすけることはできないきがする。ただ応援はできる。マジック・チアー、状態異常『高揚』、テンションを上げて、すべての能力を向上させる。それが俺の魔法だ」
「そんなことができるのか?デバフと状態異常しかない世界でか?」
「なんかできたな」
「なんだそれ?」
あきらは吹き出してしまった。予想外の出来事に笑っているのだろう。俺もそれにつられて少し笑った。
俺は応援する。この世界で応援すること。世界で一つと言っても過言ではない。唯一のバフ。俺はリセットに目覚めたあきらとともにこの世界をよりより世界にする。
俺たちの物語は今から始まるのだ。足を引っ張り合った世界を救うために。
その様子を俺は膝に肘を置いて、見ていた。
感心する。怒っても、戦闘があっても彼はブレない。そんな彼が嫌いだった。
それから数十分がしてもあきらは帰ってこず、クリスは黙ったままだった。クリスは次第に肩が震え始め、鼻をすすり、しまいには泣き出してしまった。
「家族に会いたい」
そういえばクリスの願いは家族に会うことだったな。団長との戦闘で蚊帳の外であったが、団長が気絶している今、誰が何をしても問題はなさそうだった。
「いいよ、会ってきな」
「いいの?」
「あぁ」
「やった!!」
クリスは馬車を降りて屋敷の中へ入っていく。小走りに、嬉しそうに走る姿をみて「よかった」と俺は一人つぶやいた。
「あれ、あの女の子は?」
「あぁクリスのことか、家族に会いに行ったよ」
「そうか」
白の鎧がガシャンガシャンと音を立てる。あきらは馬車に上って俺の横に座った。その重みで少し馬車が揺れる。あきらは戦士たちを送ってきたようだ。
「少し話さないか?」
そういうあきらの顔は昔を思い出す。
「あぁ」
俺も言いたいことがあった。
「俺たちなんで喧嘩したか覚えているか?」
俺は言いたかったことはここにある。
「もちろんだ。わたるがいじめられていた女の子を殺したからだ」
「そうだ」
この話題は俺に、重くのしかかる。
「俺が、あの子を殺したからだ。あの時、いじめられたていた子を助けるため、女子のグループから助けるまではよかった。そこからだ」
「違う町の不良たちが集団で襲ってくるなんてな」
「そうだ。あの時、俺は弱かった。助けることができなかった。あの時の報復で、彼女の目の前でリンチされて、そのまま気絶した。気絶していなければ俺は……、あの子を助けることができた。あの時、あとちょっとだけ早く目覚めれば、あとちょっとだけ、強ければ……」
「あぁ、それは間違っていない。だがお前はあの時、間違えたんだ。わたるはあの時、一人で大人数に立ち向かったんだ。分かるか。その無謀さが」
「何が言いたい?あきらがいたからと言って何か変わったのか?」
「俺は彼女が自殺した時、目の前にいたんだ」
「え?」
「お前が気絶したあと、助けに行ったのは俺だ。俺が来た時には彼女はいなかった。お前が不良たちを引き留めたおかげだな。それでな。その場所から階段を上がる彼女が見えたんだ。俺は追いかけた」
「おい、ちょっと待ってくれ、どうしてあの時いたんだ?あの場所は誰にも言っていないのに」
「追いかけたんだ。ひっそりと。それでな、追いついたんだ。彼女に。ただ彼女はフェンスの向こう側。そこから考えられるのは一つだろ? 俺は当然説得したさ。ただ彼女は一言言った。ここに来てほしかったのはあなたじゃなかったって」
「……」
「俺は何も言えなかった。何もできなかった腹いせに俺は不良たちをぼこぼこにした。怒りに任せて、逃げて行ったやつもいたけどどうでもよかった。分かるか。あの子にとっては、あの時はいるべきだったのは俺じゃなかったのさ」
俺は何も言わなかった。言えなかった。こいつも苦しんでいたんだなと思った。俺の大嫌いだったヒーローは、俺の大好きだった人のためにこんなにも苦しんでいたんだ。
「どうして今まで言ってくれなかったんだ」
「俺は知っていたんだ。わたるが俺みたいになりたいことも、それで比べられて苦しんでいるのも、わたるの好きな子に俺の話されると嫌な顔をするところも」
「それは……」
嫉妬だった。人気者だったあきら。俺は彼女を取られる気がしていたのだ。
そしてもう一つある。俺はその時から罪悪感でだれとも話したくはなかった。誰ともだ。人と会うのが怖かった。第一、不良にぼこぼこにされた上に、人一人を自殺に追い込んだのだ。悪いうわさが経つのも仕方がなかった。こんな俺に人気者のあきらが話してはいけないとも思ったからだ。
「もう一つ言いたかったことがあるんだ」
「なに?」
「私じゃない誰かのために世界を救ってね」
「なにそれ?」
「言われたのさ、あの女の子に」
「それで……」
俺はあの時を思い出していた。あのとき、あきらが言ったこと「俺はお前を助けたい」、この言葉をどうしても受け入れることができなかった。俺は世間とのかかわりを絶ったのだ。
「俺はあの時、わたる以外を助けた。友達のいない男の子に友達をつくり、彼氏のいない女の子に彼氏を作り、勉強できない子には勉強を教え、人生に迷った人には道を教えた。俺はわたる以外を救うことができたのさ。だから余計に公開していた。わたるを救えないことに」
「そうか」
「俺は間違っていたのかもしれないな」
今、ようやくわかった気がする。あきらがどうしてあんなにも俺に構っていたのか。俺が好きだった女の子に二人の人生は大きく変わっていたのだ。少なくともあきらはうまくやっていたのだ。俺が憧れた道を。
本当は彼のことは嫌いなんかじゃない。むしろ好きな部類だ。そうだ。本当は好きなのだ。誰よりも友達だと思っている。
俺はあの時を思い出して笑った。ただ馬鹿笑いした。ただの勘違いは思ったよりも重かったようだ。彼女の死が俺にかけた呪いは、歩みを止めるには十分だった。
「あきらは彼女の死も背負っているんだな」
あきらも笑った。止まった時間を動かすように。彼は俺とは違い、彼女の死を背負っている。
俺は涙を流した。笑いながら。
あきらはそれを見て、肩をたたいた。なだめるように。
この世界で、腐った世界で、二人っきりで、笑って、人を救って、できることは何でもやろう。だから俺はこの世界に選ばれたのだ。
そして、俺たちは笑った、息が切れるまで。
「これからどうする?俺はこの世界を救うけど?」
「そうだな、俺はそれを応援するかな。俺にはあきらのようにはなれないし」
「そうか」
そこで思い出したことがあった。チュートリアルのことだ。
あなたの好きな魔法を思い描いてください。
俺は応援したい。彼の力の手伝いをした。おれは直接誰かを救うことはできないが、誰かの手助けはできる。
「俺が思い描く魔法は……」
すると、あきらはなんだかテンションが高くなる。体が軽くなり、魔法をたくさん打てる気がしてくる。腕をまわし、足をバタバタとして、その気が嘘ではないことを確認する。
「これって……」
「あぁ、俺は直接、人をたすけることはできないきがする。ただ応援はできる。マジック・チアー、状態異常『高揚』、テンションを上げて、すべての能力を向上させる。それが俺の魔法だ」
「そんなことができるのか?デバフと状態異常しかない世界でか?」
「なんかできたな」
「なんだそれ?」
あきらは吹き出してしまった。予想外の出来事に笑っているのだろう。俺もそれにつられて少し笑った。
俺は応援する。この世界で応援すること。世界で一つと言っても過言ではない。唯一のバフ。俺はリセットに目覚めたあきらとともにこの世界をよりより世界にする。
俺たちの物語は今から始まるのだ。足を引っ張り合った世界を救うために。
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