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2章 カタハサルの決闘
14.護衛の旅
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「すみません。ちょっと驚きました。でも、もう大丈夫です。」
「な、なぜ、自分を叩いたのですか?」
ヘビの王女は、目を大きく開いて言った。
「ああ…、自分の中にいる嫌な奴が顔を出したからです。
姫様がいうように、オレも姫様も同じ人だと思います。ちょっと親が違っただけです。」
オレは謝罪の意味も込めて、頭を下げた。
「フフフ。」
王女は笑った。
「おもしろい奴隷ですね。私の顔に慣れるまで、この船室に閉じ込めておこうと思いましたが、その必要はなさそうですね。」
「すみません。まだ慣れてはいません。でも、わかったので平気です。
それでなのですが……早速、質問してもいいですか?」
「ええ。かまいません。」
「どうして素顔を見せたのですか? その……、オレみたいなものに…。」
「だから言ったではありませんか。私とって貴方が最初の奴隷だと。
貴方には…この呼び方も変えるべきですね。ルカと呼びます。
ルカには、私の護衛の他に、相談相手や秘密の任務を行っていただきます。」
「はあ…。でも、顔は秘密のままでもよいような?」
「私に永久に顔を隠しておけというのですか? 私だって、素肌を晒してリラックスしたいときもあります。一日中、マスクをつけているなんて息苦しくて地獄です。」
「な、なるほど、気が付かずに、すみません。」
「それに、ルカが私の顔を覚えていてくれれば安心です。
私の声の真似をして貴方を騙そうとするものが現れるかも知れません。」
「なるほど…確かに。」
オレが素直に納得するのを見て、王女は目を細めて微笑んだ。
不思議なことに王女の顔を見ても違和感を感じなかった。ヘビっぽい顔なのに、美しく高貴な女性の笑みに見えた。
この姫さんは、トカゲ族の中でも美人に入るのかもしれない。なんとなくそう思った。
「私の顔に何かついてますか?」
「い、いえ。もう一つだけ。
アルの人、王や王族の方は、皆覆面や布のマスクをされているのでしょうか?」
「そうですね。すべてのアルがそうしているかは分かりませんが、だいたいはそうだと思います。理由はたくさんあります。
一番は、人目を避けることによって命を狙われないようにするためです。アルは常に暗殺の危機にされているのです。
あと、もともと日の光に強くないということもあります。長時間、強い日の光を浴びると皮膚が火傷してしまうのです。」
「へー。」
思わずノートに書き留めておきたくなった。関節や筋肉の構造はどうなっているのだろう? 竜から進化したと言ってたな? じゃあ、トカゲや恐竜の骨格標本が参考になるだろうか? ヘビの手足は退化しているから参考にならないとして。
この世界にそういう参考文献はあるのだろうか?何を調べれば、わかるだろう? いつかアル用の義足や装具を作ることもあるかもしれない。
考ええば考えるほど興味深い。
「慣れてほしいとは言いましたが、その、あまりにもジロジロ見られるのはさすがに抵抗があります…。」
ヘビの王女が恥じらった。
「す、すみません。職業病です。」
「……許しますが、…他に何か質問はありますか?」
「あ、えっと…」
頭に浮かんでくるのは生体的な質問ばかりだった。思考のスイッチが入ってしまって、護衛やカタサハルの内状に関する質問が出てこない。
「いえ、また思いついたら質問します。」
「そうですか。
では、私は奥の寝室で休みます。そこにあるベットはルカのものです。こちらの部屋でお休みなさい。」
「え? もしかして、同部屋ですか?」
オレが驚いて聞き返すと、
「もちろんです。護衛ですから。」
「な、なるほど…。」
オレの反応を待たずに王女は、奥の部屋に入っていった。壁と扉で仕切られているとはいえ、同じ船長室。寝室に鍵は掛からない。
いきなり王族の身辺警護をすることになるとは……。
ちょっと待て、オレの骨折はまだ治ってないのに、こんな奴が警護してもよいのだろうか?
◇
カタサハルの商船は、天候にも恵まれ3日の航海で港町ラタンジュに到着した。
ラタンジュは、かつてのサロスと同じように海運業に長けた海辺の国であり、南方諸国では珍しい中立都市だった。
カタサハルの王女は、ここで小さな商船を借りてサロスの奴隷オークションに赴いたのだった。
オレは、四六時中ずっと王女の側で護衛をさせられていた。日本なら労働基準法違反まちがいない。まさに過重強制労働である。
ただ、そのおかげで、王女の身が危険にさらされていることがよくわかった。
王女の遠征に同行している者たちの中に明らかに怪しい動きをするものを見つけた。
直接手を出してくることはなかったが、王女に近づこうと何度も船室への侵入を試みたりしていたのだ。オレに、明らかに邪魔だと文句を言って脅してる者までいた。
船の中で騒動を起こさなかったということは、彼らの目的は情報収集だけだったのかもしれない。
ラタンジュの小さな宿屋一軒を貸し切りにして、王女の一行は陸地での休息を取った。この宿屋には数日滞在することになっている。
ここからは、もっと険しい陸路の旅になる。
慣れない海上生活の疲れを癒すことと、陸路の旅に備えて準備をする時間が必要だった。
「先に休みますか?」
大きめの部屋に入ると、王女はヒシャーブを解きながら言った。
護衛がオレだけなので、オレが休んでいる時は王女が起きていた。部屋には鍵をかけ、危険を感じたらオレを起こすことになっている。この危険なローテーションを解消するには、少なくともあと二人は護衛が欲しいところだ。
自分も疲れているだろうに、大したお姫様だ。と彼女の白い横顔を見ながら、オレは先に少し眠ることにした。
目が覚めたときには、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ルカ、起きましたか?」
「はい。姫様もお休みください。」
「いえ、先に相談しておきたいことがあります。」
オレが頷くと、王女は机に広げられた地図を示した。
「ここからはカタサハルまではまだ距離があります。最短でも一週間かかります。
考えられるルートは3つ。
まず、南ルート。私がこのラタンジュに来るまでに使った道です。道は広く、馬車も使えますが、距離は長く到着まで2周間かかりました。以前は、安全な道だったのですが、この数週間で状況は変わっています。
次に東ルート。南ルートではザーザ砂漠を迂回するルートになっているのですが、東ルートではこの砂漠を横断します。
砂漠を越えることができるものは英雄になれる、と言われてます。これから私が行うことを考えれば、横断したい気持ちもありますが、ただ危険なルートと言われてます。ルカは砂漠を知ってますか?」
「本などで知識はありますが…、実際に砂漠を横断したことはありません。」
日本で学んだ基本的な知識だった。
「知識はあるのですね! ならば東ルートの可能性もありますね。険しい道ですが横断できれば、1周間で祖国に帰れます。しかも、刺客や待ち伏せの可能性も低いはずです。」
希望が湧いたのか、王女の声は弾んだ。、
「本だけの知識では危険だと思います…。」
オレは拙い知識をひけらかしたことを申し訳なく思った。
王女は、小さなため息をフーとついた。
「3つ目のルートは北のルートです。南の街道ぞいの国々は今、争いを続けていますが、北の国々はまだまだ和平を望む国が多いと聞きます。砂漠や山岳地帯を通るので、3週間以上かかると思いますが、一番安全かもしれません。」
「な、なぜ、自分を叩いたのですか?」
ヘビの王女は、目を大きく開いて言った。
「ああ…、自分の中にいる嫌な奴が顔を出したからです。
姫様がいうように、オレも姫様も同じ人だと思います。ちょっと親が違っただけです。」
オレは謝罪の意味も込めて、頭を下げた。
「フフフ。」
王女は笑った。
「おもしろい奴隷ですね。私の顔に慣れるまで、この船室に閉じ込めておこうと思いましたが、その必要はなさそうですね。」
「すみません。まだ慣れてはいません。でも、わかったので平気です。
それでなのですが……早速、質問してもいいですか?」
「ええ。かまいません。」
「どうして素顔を見せたのですか? その……、オレみたいなものに…。」
「だから言ったではありませんか。私とって貴方が最初の奴隷だと。
貴方には…この呼び方も変えるべきですね。ルカと呼びます。
ルカには、私の護衛の他に、相談相手や秘密の任務を行っていただきます。」
「はあ…。でも、顔は秘密のままでもよいような?」
「私に永久に顔を隠しておけというのですか? 私だって、素肌を晒してリラックスしたいときもあります。一日中、マスクをつけているなんて息苦しくて地獄です。」
「な、なるほど、気が付かずに、すみません。」
「それに、ルカが私の顔を覚えていてくれれば安心です。
私の声の真似をして貴方を騙そうとするものが現れるかも知れません。」
「なるほど…確かに。」
オレが素直に納得するのを見て、王女は目を細めて微笑んだ。
不思議なことに王女の顔を見ても違和感を感じなかった。ヘビっぽい顔なのに、美しく高貴な女性の笑みに見えた。
この姫さんは、トカゲ族の中でも美人に入るのかもしれない。なんとなくそう思った。
「私の顔に何かついてますか?」
「い、いえ。もう一つだけ。
アルの人、王や王族の方は、皆覆面や布のマスクをされているのでしょうか?」
「そうですね。すべてのアルがそうしているかは分かりませんが、だいたいはそうだと思います。理由はたくさんあります。
一番は、人目を避けることによって命を狙われないようにするためです。アルは常に暗殺の危機にされているのです。
あと、もともと日の光に強くないということもあります。長時間、強い日の光を浴びると皮膚が火傷してしまうのです。」
「へー。」
思わずノートに書き留めておきたくなった。関節や筋肉の構造はどうなっているのだろう? 竜から進化したと言ってたな? じゃあ、トカゲや恐竜の骨格標本が参考になるだろうか? ヘビの手足は退化しているから参考にならないとして。
この世界にそういう参考文献はあるのだろうか?何を調べれば、わかるだろう? いつかアル用の義足や装具を作ることもあるかもしれない。
考ええば考えるほど興味深い。
「慣れてほしいとは言いましたが、その、あまりにもジロジロ見られるのはさすがに抵抗があります…。」
ヘビの王女が恥じらった。
「す、すみません。職業病です。」
「……許しますが、…他に何か質問はありますか?」
「あ、えっと…」
頭に浮かんでくるのは生体的な質問ばかりだった。思考のスイッチが入ってしまって、護衛やカタサハルの内状に関する質問が出てこない。
「いえ、また思いついたら質問します。」
「そうですか。
では、私は奥の寝室で休みます。そこにあるベットはルカのものです。こちらの部屋でお休みなさい。」
「え? もしかして、同部屋ですか?」
オレが驚いて聞き返すと、
「もちろんです。護衛ですから。」
「な、なるほど…。」
オレの反応を待たずに王女は、奥の部屋に入っていった。壁と扉で仕切られているとはいえ、同じ船長室。寝室に鍵は掛からない。
いきなり王族の身辺警護をすることになるとは……。
ちょっと待て、オレの骨折はまだ治ってないのに、こんな奴が警護してもよいのだろうか?
◇
カタサハルの商船は、天候にも恵まれ3日の航海で港町ラタンジュに到着した。
ラタンジュは、かつてのサロスと同じように海運業に長けた海辺の国であり、南方諸国では珍しい中立都市だった。
カタサハルの王女は、ここで小さな商船を借りてサロスの奴隷オークションに赴いたのだった。
オレは、四六時中ずっと王女の側で護衛をさせられていた。日本なら労働基準法違反まちがいない。まさに過重強制労働である。
ただ、そのおかげで、王女の身が危険にさらされていることがよくわかった。
王女の遠征に同行している者たちの中に明らかに怪しい動きをするものを見つけた。
直接手を出してくることはなかったが、王女に近づこうと何度も船室への侵入を試みたりしていたのだ。オレに、明らかに邪魔だと文句を言って脅してる者までいた。
船の中で騒動を起こさなかったということは、彼らの目的は情報収集だけだったのかもしれない。
ラタンジュの小さな宿屋一軒を貸し切りにして、王女の一行は陸地での休息を取った。この宿屋には数日滞在することになっている。
ここからは、もっと険しい陸路の旅になる。
慣れない海上生活の疲れを癒すことと、陸路の旅に備えて準備をする時間が必要だった。
「先に休みますか?」
大きめの部屋に入ると、王女はヒシャーブを解きながら言った。
護衛がオレだけなので、オレが休んでいる時は王女が起きていた。部屋には鍵をかけ、危険を感じたらオレを起こすことになっている。この危険なローテーションを解消するには、少なくともあと二人は護衛が欲しいところだ。
自分も疲れているだろうに、大したお姫様だ。と彼女の白い横顔を見ながら、オレは先に少し眠ることにした。
目が覚めたときには、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ルカ、起きましたか?」
「はい。姫様もお休みください。」
「いえ、先に相談しておきたいことがあります。」
オレが頷くと、王女は机に広げられた地図を示した。
「ここからはカタサハルまではまだ距離があります。最短でも一週間かかります。
考えられるルートは3つ。
まず、南ルート。私がこのラタンジュに来るまでに使った道です。道は広く、馬車も使えますが、距離は長く到着まで2周間かかりました。以前は、安全な道だったのですが、この数週間で状況は変わっています。
次に東ルート。南ルートではザーザ砂漠を迂回するルートになっているのですが、東ルートではこの砂漠を横断します。
砂漠を越えることができるものは英雄になれる、と言われてます。これから私が行うことを考えれば、横断したい気持ちもありますが、ただ危険なルートと言われてます。ルカは砂漠を知ってますか?」
「本などで知識はありますが…、実際に砂漠を横断したことはありません。」
日本で学んだ基本的な知識だった。
「知識はあるのですね! ならば東ルートの可能性もありますね。険しい道ですが横断できれば、1周間で祖国に帰れます。しかも、刺客や待ち伏せの可能性も低いはずです。」
希望が湧いたのか、王女の声は弾んだ。、
「本だけの知識では危険だと思います…。」
オレは拙い知識をひけらかしたことを申し訳なく思った。
王女は、小さなため息をフーとついた。
「3つ目のルートは北のルートです。南の街道ぞいの国々は今、争いを続けていますが、北の国々はまだまだ和平を望む国が多いと聞きます。砂漠や山岳地帯を通るので、3週間以上かかると思いますが、一番安全かもしれません。」
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