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2章 カタハサルの決闘
5.タイユの陰謀
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「ルカさんを売っちゃうんですか!?」
「しっ! 声が大きい。」
タイユは騎士団本部の会議室に、密かに秘書官のロゼを呼んだ。
騎士団本部ならこの機密情報が外部に漏れることはないと思うが、それでも用心に越したことはない。
「すいません。驚き桃の木でして…。」
「この情報を知っているのは上層部だけだ。漏らしたことがわかれば、私もお前も厳罰を免れないんだぞ!」
騎士団本部の広い会議室の中で、タイユが小声で叱った。
「すみません…」
ロゼは背中を丸めて、しおれた花のようにしょんぼりした。
「でも、このことは早くナイヤ様にお伝えするべきでは?」
すぐにしゃきっとして、ロゼは言った。
タイユは口をへの字に曲げた。
「バカなことを言うな。そんなことをしたら怒って何をしでかすかわからない。
いいか?
お前を呼んで、危険を犯してまで情報を与えるのは、ナイヤ様が取り乱すことがないようにするためなのだぞ?」
ロゼは小首を傾げた。
「すみません。ちょっと意味がわかりません。
私、さっきまで、もしかしてタイユさんにプロポーズされるかと思ってドキドキしていたものでして…。」
「誰がお前などにプロポーズするか!」
「えーー。騎士団の殿方の皆様にも、私、結構人気なんですよ?
タイユさんの目が曇っているんじゃないですか?
あ、そっか、ナイヤさん一色なんだ!」
「キサマ、殺してやろうか!」
「そんなことより早く話し進めないと! 大事な話しなんですよね?」
タイユの首筋は真っ赤になっていた。この女は飄々としていて掴みどころがない。どこかルカに似ているところもあるので嫌いだ。この女もルカに影響されたのだろうか?
「私の計画はこうだ。
ルカはローヌ戦での怪我が酷く、静養のため故郷の島に戻った。」
「うーん。なんか、ルカさんのキャラじゃないなー。
それに故郷の島ってセロスですよね。すぐ帰って来れそうだし、ナイヤさんだと行ってみる!とか言い出しかねませんよ?」
タイユは唸った。
「では、決闘隊にいるのが嫌で王様に頼んで自由にさせてもらい旅に出た。とかどうだ?」
「すぐに嘘だとバレそうです。王様は、簡単にはルカさんを手放さないでしょうし、ルカさんも旅立つ前に一度は王都に戻ってこられると思います。そもそも旅っていう設定が、ルカさんっぽくないです。」
「じゃあ、ローヌで静かに暮らしたいので、ほっといてくれという感じで王様に無礼なことを言って追放された。は?」
「もう、めちゃくちゃですね。ルカさんはそこまで無法者じゃないですよ。相手によって、節度を守ることができます。
それに、そもそもローヌはガラ家の領土になったのですから、ナイヤさんは駆けつけることができます。そんな場所でルカさんが行方不明になったなら大騒ぎですよ? 大捜索が始まりそうです。」
「じゃあ、どうしろというのだ! お前は、秘書官だろうが!否定ばかりするな!」
タイユが顔を赤くしながら怒ると、ロゼは不思議そうな顔をしてタイユを見つめた。
「タイユさんって顔はイケてるし家柄もいいのに、短気で頭もよくないのですね。」
「な、なんだと?!」
「もったいないですね。そんなんじゃ、私のハートを射止めることはできませんよ。」
「キサマ…!」
タイユの様子に構うことなく、ロゼは腕を組んで考え始めた。
「うーん。そうですね…。
ローヌを尋ねてきた昔の顔なじみにあって、怪我で身体が不自由になった人がいるので助けてほしいと言われて、行方知れずになってしまった。
とかどうでしょう?」
「……王様はどうするのだ?」
「王様は怒ったけど、ルカさんに逃げられたとは言えないので、自分から手放したことにして、密かに行方を追っている最中…。とかかな?」
「……なるほど、手放したという事実をあえて隠さないのか。」
タイユは唸るしかなかった。偉そうに言うだけのことはあると思った。
やはり、ロゼに相談して正解だったと思った。
実は、ロゼに話す前に、タイユは同僚のミラスに相談していた。
ところが、ミラスはこともあろうかタイユの提案を拒んだのである。仲間だから、この話しは黙っておくが、もうルカを貶めるような策には関わりたくないというのだ。
ルカを貶めようなどと思ってない。これはナイヤ様のためだ!と説得しても、ミラスは耳を貸さなかった。。
「でも、そっかー、ルカさんいなくなっちゃんですね。寂しいですね。」
「……」
タイユは胸の奥がむかむかした。今回の件に関して、自分は何も悪いことはしていない。この話も、ナイヤを落ち着かせ、守るためだ。
それなのにルカがいなくなると思うと、自分までもが不安も感じるのだ。
あの者は、幾度となくナイヤのために役立ってきた。疫病神に見えるが、実際は幸運の塊のような存在だった。偶然のも奇跡と言えなくもない。だが、今回のことで、ナイヤの運命が変わることになるなら、自分は大きな間違いを犯しているのかもしれない。
「それで?」
ふと顔を上げると、ロゼがにっこり微笑んでいた。
「なんだ?」
「これって、タイユさんの陰謀ですよね?」
「な、なにを! そんないかがわしいものではっ。」
「大丈夫ですよ。私こう見えても、陰謀は嫌いじゃないんです。
ただ、私に協力をお求めなら、必要なものがありますよね?」
「必要なもの?」
「あら、いやですわ。見返りですよ。見返り。」
「……」
◇
「しっ! 声が大きい。」
タイユは騎士団本部の会議室に、密かに秘書官のロゼを呼んだ。
騎士団本部ならこの機密情報が外部に漏れることはないと思うが、それでも用心に越したことはない。
「すいません。驚き桃の木でして…。」
「この情報を知っているのは上層部だけだ。漏らしたことがわかれば、私もお前も厳罰を免れないんだぞ!」
騎士団本部の広い会議室の中で、タイユが小声で叱った。
「すみません…」
ロゼは背中を丸めて、しおれた花のようにしょんぼりした。
「でも、このことは早くナイヤ様にお伝えするべきでは?」
すぐにしゃきっとして、ロゼは言った。
タイユは口をへの字に曲げた。
「バカなことを言うな。そんなことをしたら怒って何をしでかすかわからない。
いいか?
お前を呼んで、危険を犯してまで情報を与えるのは、ナイヤ様が取り乱すことがないようにするためなのだぞ?」
ロゼは小首を傾げた。
「すみません。ちょっと意味がわかりません。
私、さっきまで、もしかしてタイユさんにプロポーズされるかと思ってドキドキしていたものでして…。」
「誰がお前などにプロポーズするか!」
「えーー。騎士団の殿方の皆様にも、私、結構人気なんですよ?
タイユさんの目が曇っているんじゃないですか?
あ、そっか、ナイヤさん一色なんだ!」
「キサマ、殺してやろうか!」
「そんなことより早く話し進めないと! 大事な話しなんですよね?」
タイユの首筋は真っ赤になっていた。この女は飄々としていて掴みどころがない。どこかルカに似ているところもあるので嫌いだ。この女もルカに影響されたのだろうか?
「私の計画はこうだ。
ルカはローヌ戦での怪我が酷く、静養のため故郷の島に戻った。」
「うーん。なんか、ルカさんのキャラじゃないなー。
それに故郷の島ってセロスですよね。すぐ帰って来れそうだし、ナイヤさんだと行ってみる!とか言い出しかねませんよ?」
タイユは唸った。
「では、決闘隊にいるのが嫌で王様に頼んで自由にさせてもらい旅に出た。とかどうだ?」
「すぐに嘘だとバレそうです。王様は、簡単にはルカさんを手放さないでしょうし、ルカさんも旅立つ前に一度は王都に戻ってこられると思います。そもそも旅っていう設定が、ルカさんっぽくないです。」
「じゃあ、ローヌで静かに暮らしたいので、ほっといてくれという感じで王様に無礼なことを言って追放された。は?」
「もう、めちゃくちゃですね。ルカさんはそこまで無法者じゃないですよ。相手によって、節度を守ることができます。
それに、そもそもローヌはガラ家の領土になったのですから、ナイヤさんは駆けつけることができます。そんな場所でルカさんが行方不明になったなら大騒ぎですよ? 大捜索が始まりそうです。」
「じゃあ、どうしろというのだ! お前は、秘書官だろうが!否定ばかりするな!」
タイユが顔を赤くしながら怒ると、ロゼは不思議そうな顔をしてタイユを見つめた。
「タイユさんって顔はイケてるし家柄もいいのに、短気で頭もよくないのですね。」
「な、なんだと?!」
「もったいないですね。そんなんじゃ、私のハートを射止めることはできませんよ。」
「キサマ…!」
タイユの様子に構うことなく、ロゼは腕を組んで考え始めた。
「うーん。そうですね…。
ローヌを尋ねてきた昔の顔なじみにあって、怪我で身体が不自由になった人がいるので助けてほしいと言われて、行方知れずになってしまった。
とかどうでしょう?」
「……王様はどうするのだ?」
「王様は怒ったけど、ルカさんに逃げられたとは言えないので、自分から手放したことにして、密かに行方を追っている最中…。とかかな?」
「……なるほど、手放したという事実をあえて隠さないのか。」
タイユは唸るしかなかった。偉そうに言うだけのことはあると思った。
やはり、ロゼに相談して正解だったと思った。
実は、ロゼに話す前に、タイユは同僚のミラスに相談していた。
ところが、ミラスはこともあろうかタイユの提案を拒んだのである。仲間だから、この話しは黙っておくが、もうルカを貶めるような策には関わりたくないというのだ。
ルカを貶めようなどと思ってない。これはナイヤ様のためだ!と説得しても、ミラスは耳を貸さなかった。。
「でも、そっかー、ルカさんいなくなっちゃんですね。寂しいですね。」
「……」
タイユは胸の奥がむかむかした。今回の件に関して、自分は何も悪いことはしていない。この話も、ナイヤを落ち着かせ、守るためだ。
それなのにルカがいなくなると思うと、自分までもが不安も感じるのだ。
あの者は、幾度となくナイヤのために役立ってきた。疫病神に見えるが、実際は幸運の塊のような存在だった。偶然のも奇跡と言えなくもない。だが、今回のことで、ナイヤの運命が変わることになるなら、自分は大きな間違いを犯しているのかもしれない。
「それで?」
ふと顔を上げると、ロゼがにっこり微笑んでいた。
「なんだ?」
「これって、タイユさんの陰謀ですよね?」
「な、なにを! そんないかがわしいものではっ。」
「大丈夫ですよ。私こう見えても、陰謀は嫌いじゃないんです。
ただ、私に協力をお求めなら、必要なものがありますよね?」
「必要なもの?」
「あら、いやですわ。見返りですよ。見返り。」
「……」
◇
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