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1章 ローヌの決闘
35.ローヌの決闘②
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「歌でも歌おうか。」
「冗談はやめてください。」
「これでも幼い頃は、将来は歌姫かと期待されていたのだぞ?」
「歌の上手さじゃなく、状況をよく考えてください。」
「ルカが歌うか?」
「歌いません。カラオケがないと…アカペラで歌ったこと無いし…。」
「カラオケとはなんだ?」
「いや、関係ない話です。」
「つまらん奴だな。タイユみたいだぞ?」
「タイユさんじゃないから困るんです。オレでは足手まといですから。」
「そんなことはないと思うがな。とにかく私は歌いたい気分だから歌うぞ。」
「ダメだ!って…」
だが、ナイヤは歌い始めていた。
♪
弱虫な彼が戦場にいった
手柄を立てて帰ってくるといった
虫も殺せやしないのに
心配するのが女の仕事?
洗濯カゴより軽い剣
水瓶より軽い鎧
私にもできる。私にもできる
戦う乙女
おバカな彼が冒険にいった
財宝と持って帰ってくるといった
金貨の数も数えられないのに
ただ見守るのが女の仕事?
薪割りより楽な剣
ドレスより楽な鎧
私にもできる。私にもできる
旅する乙女
♪
軽快な歌だった。初めて聞く歌だったが、本人が言うだけあってその歌声には惹かれるものがあった。
オレは、警戒するのも忘れて、聞き入ってしまった。
「私の好きな吟遊詩人の歌だ。」
ナイヤが歌い終わると、オレは自然に拍手していた。
熱唱したナイヤはオレのほうを見て、恥ずかしかったのか少しだけ頬を赤くしていた。
「本当は酒場で楽しく仲間と歌ってみたいのだが、タイユに止められてな。外で歌うのは初めてだ。」
「いやー、ホントに上手かったっす。」
驚きの余韻に浸ってオレがナイヤに見とれていると、ナイヤの表情が瞬時に変わった。一瞬厳しい顔になり、そして、笑みをこぼした。
「さあ、お客が来られたようだぞ。」
ナイヤはつぶやくように言うと、抜いていた剣を鞘に戻し、その剣を鞘ごと腰から外して地面に置いた。
マルサンヌとルサンヌの姉妹が近づいているのか?
オレにはわからない気配を、ナイヤは感じ取っているらしい。だが、それならどうしてナイヤは剣を置いたんだ?
目の端に見えた木の影が二つに別れた。目の錯覚に感じた。
影は素早く移動し、あっという間にナイヤの横側からナイヤに飛びかかっていた。
その影が人影だと思ったときは、遅かった。
警告の声を出す間も無かった。ナイヤは動かない。武器も手にしてない。ローヌの槍がキラリと光を返すのが見えた。
その時だった。ナイヤは急に身を屈め、流れるように敵の槍の突きをかいくぐり、戦士の懐に入ると、相手の片腕をとって一本背負いのようにして敵の身体を宙に浮かしたかと思うと、その身体を地面に叩きつけたのだった。
「ウッ」と叩きつけられた戦士の声がした。戦士は、背中に手をやりながら起き上がろうとする。槍は手放してしまい、近くに落ちていた。
ナイヤは戦士が離した槍を蹴り飛ばし、そのまま戦士の背中から馬乗りになった。相手の利き腕を捻りあげながら押し上げると、関節を固められた戦士は押しつぶされ動けなくなった。
近づいてみると、やはりローヌの戦士はあの姉妹だった。顔に迷彩のペイントをしている。服装は森で出会ったときと同じように軽装。踊り場に登場した重装備の戦士とは、背格好も別人に見える。
「悪いが…」
ナイヤは拳で、女性戦士の後頭部を殴った。気絶させるためだった。
「プライドの高い戦士は自死することもある。殺さぬためだ。」
オレの視線に気づくと、ナイヤは言った。
ナイヤは、腰に巻いていた紐や髪留めの紐を解いて、ローヌの女戦士の身体と口を縛った。
「これで、あと一人だな。」
流れるような作業にオレは何も言えず、呆然と眺めるだけだった。
本物の戦士はこんなにも手際がよいのか…。圧倒されるばかりだった。
「こいつは、マルサンヌか? それとも、ルサンヌ?」
言われて、気絶した女戦士の顔を確認するが、どちらかはわからない。そもそもヘンファの村で会ったときも、どちらがどちらという紹介は受けてないことを思い出した。紹介されたところで、双子の姉妹のようにそっくりなので見分けはつかなかっただろうが…。
「すみません。わかりません。」
「そうか。それにしても、ルカの情報は的確だったな。
小柄、不意打ち、槍。どれもその通りだった。
疑っていたわけではないぞ。感心しているのだ。」
ナイヤはやはり笑顔だった。
「もしかして、歌はこのため?」
「もちろんそうだ。もしかして、シラフで歌い出す狂い人だと思ったのではないだろうな?」
「あー、それに近い気持ちになってました。」
「無礼者めが。」
と言いながら、ナイヤは笑っていた。
「す、すみません。
でも、すごかったです。オレも疑っていたわけでは無いのですが、ナイヤさんは本当に強いですね。
騎士団の副隊長だったってのは、やっぱり半端なくすごいことなんですね。」
「当たり前だ。と、言いたいところだが、それも怪我が回復したことと、お前の情報があったからだ。
キノコの話を聞いていなければ、私はまちがいなく死んでいただろう。」
ナイヤは立ち上がると、地面に置いていた剣を拾って腰に装着した。
「剣は油断させるためですか?」
「いや、私が敵を殺さぬためだ。癖で剣を抜きかねない。それに、敵が私の剣を使うかもしれない。どちらにせよ、殺せぬのだから必要ないと思ったのだ。」
「なるほど、勉強になります。」
「勉強? お前は装具士とやらを目指すのだろう? 決闘を学んでどうする。」
ナイヤに見られ、オレは苦笑いしながら頭を掻いた。
「とはいえ、まだ一人いたな。
もうひとりは、ルカが倒すしかないだろうな。」
「冗談はやめてください。」
「これでも幼い頃は、将来は歌姫かと期待されていたのだぞ?」
「歌の上手さじゃなく、状況をよく考えてください。」
「ルカが歌うか?」
「歌いません。カラオケがないと…アカペラで歌ったこと無いし…。」
「カラオケとはなんだ?」
「いや、関係ない話です。」
「つまらん奴だな。タイユみたいだぞ?」
「タイユさんじゃないから困るんです。オレでは足手まといですから。」
「そんなことはないと思うがな。とにかく私は歌いたい気分だから歌うぞ。」
「ダメだ!って…」
だが、ナイヤは歌い始めていた。
♪
弱虫な彼が戦場にいった
手柄を立てて帰ってくるといった
虫も殺せやしないのに
心配するのが女の仕事?
洗濯カゴより軽い剣
水瓶より軽い鎧
私にもできる。私にもできる
戦う乙女
おバカな彼が冒険にいった
財宝と持って帰ってくるといった
金貨の数も数えられないのに
ただ見守るのが女の仕事?
薪割りより楽な剣
ドレスより楽な鎧
私にもできる。私にもできる
旅する乙女
♪
軽快な歌だった。初めて聞く歌だったが、本人が言うだけあってその歌声には惹かれるものがあった。
オレは、警戒するのも忘れて、聞き入ってしまった。
「私の好きな吟遊詩人の歌だ。」
ナイヤが歌い終わると、オレは自然に拍手していた。
熱唱したナイヤはオレのほうを見て、恥ずかしかったのか少しだけ頬を赤くしていた。
「本当は酒場で楽しく仲間と歌ってみたいのだが、タイユに止められてな。外で歌うのは初めてだ。」
「いやー、ホントに上手かったっす。」
驚きの余韻に浸ってオレがナイヤに見とれていると、ナイヤの表情が瞬時に変わった。一瞬厳しい顔になり、そして、笑みをこぼした。
「さあ、お客が来られたようだぞ。」
ナイヤはつぶやくように言うと、抜いていた剣を鞘に戻し、その剣を鞘ごと腰から外して地面に置いた。
マルサンヌとルサンヌの姉妹が近づいているのか?
オレにはわからない気配を、ナイヤは感じ取っているらしい。だが、それならどうしてナイヤは剣を置いたんだ?
目の端に見えた木の影が二つに別れた。目の錯覚に感じた。
影は素早く移動し、あっという間にナイヤの横側からナイヤに飛びかかっていた。
その影が人影だと思ったときは、遅かった。
警告の声を出す間も無かった。ナイヤは動かない。武器も手にしてない。ローヌの槍がキラリと光を返すのが見えた。
その時だった。ナイヤは急に身を屈め、流れるように敵の槍の突きをかいくぐり、戦士の懐に入ると、相手の片腕をとって一本背負いのようにして敵の身体を宙に浮かしたかと思うと、その身体を地面に叩きつけたのだった。
「ウッ」と叩きつけられた戦士の声がした。戦士は、背中に手をやりながら起き上がろうとする。槍は手放してしまい、近くに落ちていた。
ナイヤは戦士が離した槍を蹴り飛ばし、そのまま戦士の背中から馬乗りになった。相手の利き腕を捻りあげながら押し上げると、関節を固められた戦士は押しつぶされ動けなくなった。
近づいてみると、やはりローヌの戦士はあの姉妹だった。顔に迷彩のペイントをしている。服装は森で出会ったときと同じように軽装。踊り場に登場した重装備の戦士とは、背格好も別人に見える。
「悪いが…」
ナイヤは拳で、女性戦士の後頭部を殴った。気絶させるためだった。
「プライドの高い戦士は自死することもある。殺さぬためだ。」
オレの視線に気づくと、ナイヤは言った。
ナイヤは、腰に巻いていた紐や髪留めの紐を解いて、ローヌの女戦士の身体と口を縛った。
「これで、あと一人だな。」
流れるような作業にオレは何も言えず、呆然と眺めるだけだった。
本物の戦士はこんなにも手際がよいのか…。圧倒されるばかりだった。
「こいつは、マルサンヌか? それとも、ルサンヌ?」
言われて、気絶した女戦士の顔を確認するが、どちらかはわからない。そもそもヘンファの村で会ったときも、どちらがどちらという紹介は受けてないことを思い出した。紹介されたところで、双子の姉妹のようにそっくりなので見分けはつかなかっただろうが…。
「すみません。わかりません。」
「そうか。それにしても、ルカの情報は的確だったな。
小柄、不意打ち、槍。どれもその通りだった。
疑っていたわけではないぞ。感心しているのだ。」
ナイヤはやはり笑顔だった。
「もしかして、歌はこのため?」
「もちろんそうだ。もしかして、シラフで歌い出す狂い人だと思ったのではないだろうな?」
「あー、それに近い気持ちになってました。」
「無礼者めが。」
と言いながら、ナイヤは笑っていた。
「す、すみません。
でも、すごかったです。オレも疑っていたわけでは無いのですが、ナイヤさんは本当に強いですね。
騎士団の副隊長だったってのは、やっぱり半端なくすごいことなんですね。」
「当たり前だ。と、言いたいところだが、それも怪我が回復したことと、お前の情報があったからだ。
キノコの話を聞いていなければ、私はまちがいなく死んでいただろう。」
ナイヤは立ち上がると、地面に置いていた剣を拾って腰に装着した。
「剣は油断させるためですか?」
「いや、私が敵を殺さぬためだ。癖で剣を抜きかねない。それに、敵が私の剣を使うかもしれない。どちらにせよ、殺せぬのだから必要ないと思ったのだ。」
「なるほど、勉強になります。」
「勉強? お前は装具士とやらを目指すのだろう? 決闘を学んでどうする。」
ナイヤに見られ、オレは苦笑いしながら頭を掻いた。
「とはいえ、まだ一人いたな。
もうひとりは、ルカが倒すしかないだろうな。」
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