見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

文字の大きさ
上 下
35 / 68
1章 ローヌの決闘

35.ローヌの決闘②

しおりを挟む
「歌でも歌おうか。」

「冗談はやめてください。」

「これでも幼い頃は、将来は歌姫かと期待されていたのだぞ?」

「歌の上手さじゃなく、状況をよく考えてください。」

「ルカが歌うか?」

「歌いません。カラオケがないと…アカペラで歌ったこと無いし…。」

「カラオケとはなんだ?」

「いや、関係ない話です。」

「つまらん奴だな。タイユみたいだぞ?」

「タイユさんじゃないから困るんです。オレでは足手まといですから。」

「そんなことはないと思うがな。とにかく私は歌いたい気分だから歌うぞ。」

「ダメだ!って…」

 だが、ナイヤは歌い始めていた。

  ♪

 弱虫な彼が戦場にいった
 手柄を立てて帰ってくるといった
 
 虫も殺せやしないのに
 心配するのが女の仕事?

 洗濯カゴより軽い剣
 水瓶みずがめより軽い鎧

 私にもできる。私にもできる
 戦う乙女

 
 おバカな彼が冒険にいった
 財宝と持って帰ってくるといった

 金貨の数も数えられないのに
 ただ見守るのが女の仕事?
 
 薪割まきわりより楽な剣
 ドレスより楽な鎧
 
 私にもできる。私にもできる
 旅する乙女

  ♪

 軽快な歌だった。初めて聞く歌だったが、本人が言うだけあってその歌声にはかれるものがあった。
 オレは、警戒するのも忘れて、聞き入ってしまった。

「私の好きな吟遊ぎんゆう詩人の歌だ。」

 ナイヤが歌い終わると、オレは自然に拍手はくしゅしていた。
 熱唱したナイヤはオレのほうを見て、恥ずかしかったのか少しだけ頬を赤くしていた。
 
「本当は酒場で楽しく仲間と歌ってみたいのだが、タイユに止められてな。外で歌うのは初めてだ。」

「いやー、ホントに上手かったっす。」

 驚きの余韻よいんひたってオレがナイヤに見とれていると、ナイヤの表情が瞬時しゅんじに変わった。一瞬きびしい顔になり、そして、笑みをこぼした。

「さあ、お客が来られたようだぞ。」

 ナイヤはつぶやくように言うと、いていた剣をさやに戻し、その剣をさやごと腰から外して地面に置いた。

 マルサンヌとルサンヌの姉妹が近づいているのか?
 オレにはわからない気配を、ナイヤは感じ取っているらしい。だが、それならどうしてナイヤは剣を置いたんだ?
 
 目の端に見えた木の影が二つに別れた。目の錯覚さっかくに感じた。
 影は素早く移動し、あっという間にナイヤの横側からナイヤに飛びかかっていた。
 その影が人影だと思ったときは、遅かった。
 警告けいこくの声を出す間も無かった。ナイヤは動かない。武器も手にしてない。ローヌの槍がキラリと光を返すのが見えた。

 その時だった。ナイヤは急に身をかがめ、流れるように敵の槍の突きをかいくぐり、戦士のふところに入ると、相手の片腕をとって一本背負いのようにして敵の身体をちゅうに浮かしたかと思うと、その身体を地面に叩きつけたのだった。

「ウッ」と叩きつけられた戦士の声がした。戦士は、背中に手をやりながら起き上がろうとする。槍は手放してしまい、近くに落ちていた。
 ナイヤは戦士が離した槍を蹴り飛ばし、そのまま戦士の背中から馬乗りになった。相手の利き腕をひねりあげながら押し上げると、関節を固められた戦士は押しつぶされ動けなくなった。

 近づいてみると、やはりローヌの戦士はあの姉妹だった。顔に迷彩のペイントをしている。服装は森で出会ったときと同じように軽装。踊り場に登場した重装備の戦士とは、背格好せかっこうも別人に見える。

「悪いが…」

 ナイヤはこぶしで、女性戦士の後頭部をなぐった。気絶させるためだった。

「プライドの高い戦士は自死じしすることもある。殺さぬためだ。」

 オレの視線に気づくと、ナイヤは言った。
 ナイヤは、腰に巻いていたひもや髪留めのひもいて、ローヌの女戦士の身体と口をしばった。

「これで、あと一人だな。」

 流れるような作業にオレは何も言えず、呆然ぼうぜんながめるだけだった。
 本物の戦士はこんなにも手際がよいのか…。圧倒されるばかりだった。

「こいつは、マルサンヌか? それとも、ルサンヌ?」

 言われて、気絶した女戦士の顔を確認するが、どちらかはわからない。そもそもヘンファの村で会ったときも、どちらがどちらという紹介は受けてないことを思い出した。紹介されたところで、双子の姉妹のようにそっくりなので見分けはつかなかっただろうが…。

「すみません。わかりません。」

「そうか。それにしても、ルカの情報は的確だったな。
 小柄こがら不意打ふいうち、槍。どれもその通りだった。
 疑っていたわけではないぞ。感心しているのだ。」

 ナイヤはやはり笑顔だった。

「もしかして、歌はこのため?」

「もちろんそうだ。もしかして、シラフで歌い出すくるびとだと思ったのではないだろうな?」

「あー、それに近い気持ちになってました。」

無礼者ぶれいものめが。」

 と言いながら、ナイヤは笑っていた。

「す、すみません。
 でも、すごかったです。オレも疑っていたわけでは無いのですが、ナイヤさんは本当に強いですね。
 騎士団の副隊長だったってのは、やっぱり半端はんぱなくすごいことなんですね。」

「当たり前だ。と、言いたいところだが、それも怪我が回復したことと、お前の情報があったからだ。
 キノコの話を聞いていなければ、私はまちがいなく死んでいただろう。」

 ナイヤは立ち上がると、地面に置いていた剣を拾って腰に装着した。

「剣は油断させるためですか?」

「いや、私が敵を殺さぬためだ。くせで剣をきかねない。それに、敵が私の剣を使うかもしれない。どちらにせよ、殺せぬのだから必要ないと思ったのだ。」

「なるほど、勉強になります。」

「勉強? お前は装具士とやらを目指すのだろう? 決闘デュエルを学んでどうする。」

 ナイヤに見られ、オレは苦笑いしながら頭をいた。

「とはいえ、まだ一人いたな。
 もうひとりは、ルカが倒すしかないだろうな。」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...