見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

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1章 ローヌの決闘

31.ローヌの王都へ

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 ローヌの住民は、捕まえたシュブドーの兵士を処刑するべきという見解で一致していた。
 処刑の仕方は、直接手を掛ける方法もあるが、ローヌで最もよく取られていた方法はローヌの森の奥に置き去りにすることだった。ローヌの森は、よそ者が入ると道に迷ったり霧の罠に掛かって野垂のたれ死ぬか、魔獣や獣に食い殺されることになる。まれに助かるものもいたが、その場合は『ローヌの神が許した』ということで、ローヌの民も許すことになっていた。

 だがオレは、追放にもその場で殺すことも反対した。
 今から起きるシュブドーとローヌの紛争に水を差したくなかったということと、シュブドーの追手の目的がオレならば、今後もローヌの村々が被害を被る可能性があったからだった。

 この状況を打開するには、オレが死ぬか、シュブドーがいだいている反逆の疑いを晴らすしかない。

「あの兵士の処分は、オレに任せてくれないか?」

「お前はまだ人は殺したことがないだろう? 俺に任せろ。」

 トーチだけが、オレに任せるのを嫌がった。彼と彼の父は、オレのことを本当の家族のように思ってくれている。だから、すごく心配してくれるしお節介を焼いてくれる。日本にいた時と同じような人の温かみを感じて、オレの心は暖かくなる。
 でも、だからこそ、これはオレがやらなければならない仕事だった。

「ありがとうトーチ。でも、この兵士は、オレをさがしにきたんだ。キエリが危ない目にあったのも、オレのせいなんだよ。だから、このケリはオレに付けさせてくれないか?」

 そう言ってもトーチはなかなか首を縦に振らなかったが、最後には同意してくれた。

 豚用の納屋なやに閉じ込められていたシュブドーの兵士は、気絶から目を覚ましていた。
 身体を締め付ける縄と、声を出せないように口に付けられたさるぐつわを外そうと、必死にもがいていたが、オレとトーチの姿を見つけると恐怖の表情に変わった。

「立て。」

 兵士は、おびえた表情のままオレたちをにらみつけ、大きく首を振った。

「立て!」

 トーチは持っていた槍を兵士に突きつけた。すると、兵士は首を何度も振りながら立ち上がった。

「行くぞ。」

 オレは、兵士の縄を引っ張って、歩くように急かした。
 兵士は、よたよたを従った。

「じゃあ、行ってくる。」

「ああ、気をつけるんだぞ。ルカ。」

 トーチは厳しい顔で、豚小屋を出ていくオレを見送った。

 オレはそのまま兵士をともない、ベスネの村を出て。街道を進んだ。しばらく進むと、霧で視界が悪くなる。ローヌ暮らしにれたオレが霧に迷うことはなくなったが、このシュブドーの兵士には、すでに道も方角もわからなくなっていることだろう。

 オレは兵士の口のさるぐつわを外した。

「なぜ、オレをさがしていた?」

 ナイフを突きつけると、兵士は不機嫌そうに話しはじめた。強がっているが、身体は震えていた。

「上からの命令だ。反逆罪のお前を捕まえろとのことだ。」

「ルジュマン隊長から話しを聞いてないのか? オレは任務を遂行すいこうしていただけだ。」

「ルジュマンは職務放棄の疑いで、逮捕となった。お前との関係がわかれば、反逆罪に切り替わる予定だ。」

「ルジュマン隊長が逮捕?」

 これは大変なことになった。ルジュマンが逮捕されたら、ローヌ王の願いが果たせなくなる。それだけじゃない。シュブドーは負けるし、シュブドーの出場戦士も死ぬ。魔王の勢いが増し、ローヌは戦場になる可能性が高くなる。
 どれも看過かんかできない問題だ。なんとかしてシュブドーの王に伝えないと。

「俺は上に命令されてお前をさがしに来ただけだ。助けてくれ、殺さないでくれ。」

 オレが難しい顔をしていたので、兵士は恐怖を感じたようだ。顔が引きつっていた。

「お前の上官は今どこにいる?」

「今頃は…、ローヌの王都に入ったはずだ、明日、決闘デュエルが行われる。」

「明日なのか?!」

 ルジュマンと最後に会ってからもう数日が立つ。うまく行っていれば報告に来てくれるはずだった。
 失敗したのか!? 今から、追って間に合うのか?
 
「死にたくなければオレに付いて来てくれ。オレから離れたらお前は死ぬことになるかもしれない。ローヌの森には毒の漂う場所があるんだ。」

 そう言いながら、オレは兵士を拘束こうそくしていた縄を切った。
 兵士がオレの忠告ちゅうこくに従ってくれるか自信はなかったが、構っていられない。オレはローヌに向かって走った。
 後ろを振り返ると、兵士が懸命に走ってついてきていた。

「くそう!」

 兵士のために、毒が発生しない場所を選んで走らなければならない。スピードも落とさなければならない。ローヌ王都までは、ここからだとまだ距離がある。
 間に合えばいいが…。


 オレは急ぎたかったが、シュブドーの兵士の体力が続かなかった。
 彼のためにオレは休憩時間を作り、バックパックに詰めていた食料も彼に分け与えた。
 彼から取り上げていた長剣はすでに彼の腰に収まっているが、その剣をオレに向けることはなかった。
 時折ときおり野営をすると、彼はローヌの霧と森におびえながらも疲れて眠りにつき。目を覚ますと、母親を探すような目でオレを見つけ#安堵__あんど__の表情を浮かべた。。
 
 この森が怖いなんて、不思議な感覚だった。
 そんな怖い思いをしてまで、オレをさがしにきたのか。上官からの逮捕命令を守るためだけに。

「ルカさんは、怖くないんですか?」

 半日近く一緒に行動していると、次第に打ち解けてきた。彼とってオレは命綱いのちづなのようなもので、反目はんもくする意味を失っていた。
 
「覚えてない。とにかく必死だったから。人が傷つくのは嫌なんだ。」

「……」

「だから、人を傷つける戦士にもなりたくなかった。結局、なってしまったけど。」

「俺の仲間と大違いです。みんな誰かを傷つけることを考えています。この森もみんな怖がっていて、一番下っ端の俺が行くことになったんです。」

「そっか…。もうすぐローヌ王都だから、もう少し頑張ってくれ。」

 オレは再び、巨大な闘技場を見上げる場所に立った。
 ローヌの姉妹に出会った場所。
 シュブドーとローヌという二つの国のために、ローヌにあるもう一つの施設、迎賓館げいひんかんに向かった。
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