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1章 ローヌの決闘
25.神のルール
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「いや、どう考えても無理でしょ!
シュブドーが宣戦布告するのは、魔王軍ではなくローヌ国なんですよ?
その姉妹二人が魔王軍の部下になっているなら、シュブドーは魔王軍に宣戦布告しなければなりません。
シュブドーにそんな予定はないです。」
「それなら問題ない。」
黒袋の男は断言した。
なぜ、自信満々に言える?そもそもこの男は何者なんだ? ローヌに精通しているところや、姉妹をそばに置いておけるところを見ると、ローヌの高官でさしずめ姉妹の父親か親族か? 正体を聞くつもりはないとは言ったものの、話が話だけに気になってきた。
「なぜ断言できるんです?」
「今、ローヌの王は魔王だからだ。」
「え? ってことは、ローヌはすでに魔王の手に落ちたってこと?」
「いや、シュブドーの王と戦うために、一ヶ月限定でローヌ王になっている。期間限定の王だ。」
「…」
なんだ…その『一日警察署長』みたいな制度は…。
「魔王は人間とはちがう。混沌を望むもの。
まず、相手国の有能なコール、つまり決闘戦士をすべて奪う。
コールをすべて奪ってしまえば、相手国は決闘による防衛戦をできなくなる。
魔王はその状況を狙っている。
魔王が本当にしたいのは、戦争だ。
神の作ったルールをあざ笑うかのように、多くの血が流れる残酷な戦争へと相手国を追い詰めていくのだ。
初めから相手国の占領などには興味がない。戦争という混沌が望みなのだ。」
「それでシュブドーでも騎士団を狙ったのか…
でも、なぜ、知っているんです?」
「ローヌの北には、あまり知られてはいない国とも呼べぬような領地がいくつかあった。
その領地で戦争が行われたのだ。残酷な戦いが行われ、多くの血が流れた。
逃げ延びた末裔もこのローヌにいる。
この地域は、もともと小さな領地が点在する場所だったのだが、魔王から戦争を回避するために結束した。
それがローヌの歴史なのだ。」
そうだったのか…。
シュブドーにいたのではわからない歴史がローヌや魔王の世界にはあるということか。
しかし、混沌が望みとは…確かに恐ろしい魔王だ。
うん?
だけど、マルサンヌとルサンヌの姉妹が手を抜いてくれれば、この決闘は楽勝なんじゃないか?
「さっきの二人が代表として戦うなら、わざと負けるよう説得すればいいのでは?
貴方のことを慕っているみたいだったし。」
黒袋の男はため息をついた。
「『コールはアルに従わなければならない』。
これは単なる言葉ではなく神との契約なのだ。
闘技場に立つことを拒むことも、戦いで手を抜くことも、コールにはできない。
人が抗うことのできない神との強い契約なのだ。。」
オレもそう思っていた。疑いもしなかった原理原則だ。
だが、地球の日本という世界で過ごし、人の権利や自由という言葉を知った。今でも、日本のほうが素晴らしいと感じる。
でも…。
地球の日本以外の世界では、戦争や紛争が絶えることはなかった。ニュースではあまり大きく報道されてなかったが、地球世界のどこかでは大勢の人が戦争によって死んでいた。
日本のような国のほうが稀だったのかもしれない。
この世界は『神のルール』に縛られている。この世界の神は、人に本当の自由を与えることはない。
だが、そのおかげで戦争せずに済む方法が確立されているとも言える。
どちらが良いなんかなんて簡単に出る答えじゃない。
「やっぱり無理ですか…。
まあでも、結局やることは変わってないわけだ。
シュブドーはローヌに宣戦布告する。そして、ローヌ国を占領する。」
「それで構わない。
マルサンヌとルサンヌの命を保障してくれるなら、ローヌ王は国をシュブドーに譲ると決意された。」
「殺さず倒すか…。
それも不敗のローヌの戦士をか…。難題も難題だな。
しかも、頼む相手がオレのような身分の低い下級兵士なんて…。無謀ですね。」
「かもしれぬ。君に頼める立場でもないのだが、他に頼めるものはいなかった。無理言ってすまない。」
黒袋の男は、また深々と頭を下げた。
「了解。やるだけやってみます。
この国好きだし、戦争だけは避けたい。
平和ボケな国に長くいたせいか、平和を望む気持ちだけはあるので。」
屋敷を出ると、民族衣装を身にまとった二人の女が待っていた。地球世界のスコットランドという国の衣装に似ている。
「話を聞いてくれたこと、礼を言う。」
「ああ」
「だが、我らはお前を殺すだろう。」
「あ、オレは出場しないと思うけど?」
「そうか。それならよかった」
「オレのこと心配してくれたのか?」
「ちがう。先に侘びておこうとおもっただけだ。我らは負けぬ。
それがお館様の望みでなくても、ローヌとお館様の名誉のためにも負けることはできぬ。
話はそれだけだ。」
そう言い残すと、姉妹は小屋に戻っていった。
ま、順当に行けば、シュブドーは勝てないだろうな。
だけど、ナイヤならなんとかできるかもしれない。
もともとオレはサポート役には多少の自信があった。日本でも、親方の手伝いをして何度も褒められたことがある。
シュブドー国の代表として、ナイヤとタイユが出場すれば勝機はある。
最後の確認はしてないが、闘技場の霧の謎は解けている。
あとは、あの姉妹を殺さずに倒す方法を考えるだけだ。ただ、オレにはこれについてもすでに目算があった。
マルサンヌとルサンヌが持っていた槍と同じ槍を持っていた人物に心当たりがある。彼に相談すれば、この難問も解決できそうな気がした。
むしろ一番の問題は、どうやってナイヤに連絡を取るか?ということと、ナイヤとタイユを出場させる方法を見つけることだった。現騎士団の猛者の皆様が出場してくれても構わないのだが、彼らがマルサンヌとルサンヌの命を保障しれくれるとは思えない。
こればかりは一人で考えてもしかたないので、ルジュマン隊長に相談しよう。
約束の日まであと3日。
それまでに、とりあえず槍を確保しておく。
そのために行く場所は、キエリの住むクルジの村である。
シュブドーが宣戦布告するのは、魔王軍ではなくローヌ国なんですよ?
その姉妹二人が魔王軍の部下になっているなら、シュブドーは魔王軍に宣戦布告しなければなりません。
シュブドーにそんな予定はないです。」
「それなら問題ない。」
黒袋の男は断言した。
なぜ、自信満々に言える?そもそもこの男は何者なんだ? ローヌに精通しているところや、姉妹をそばに置いておけるところを見ると、ローヌの高官でさしずめ姉妹の父親か親族か? 正体を聞くつもりはないとは言ったものの、話が話だけに気になってきた。
「なぜ断言できるんです?」
「今、ローヌの王は魔王だからだ。」
「え? ってことは、ローヌはすでに魔王の手に落ちたってこと?」
「いや、シュブドーの王と戦うために、一ヶ月限定でローヌ王になっている。期間限定の王だ。」
「…」
なんだ…その『一日警察署長』みたいな制度は…。
「魔王は人間とはちがう。混沌を望むもの。
まず、相手国の有能なコール、つまり決闘戦士をすべて奪う。
コールをすべて奪ってしまえば、相手国は決闘による防衛戦をできなくなる。
魔王はその状況を狙っている。
魔王が本当にしたいのは、戦争だ。
神の作ったルールをあざ笑うかのように、多くの血が流れる残酷な戦争へと相手国を追い詰めていくのだ。
初めから相手国の占領などには興味がない。戦争という混沌が望みなのだ。」
「それでシュブドーでも騎士団を狙ったのか…
でも、なぜ、知っているんです?」
「ローヌの北には、あまり知られてはいない国とも呼べぬような領地がいくつかあった。
その領地で戦争が行われたのだ。残酷な戦いが行われ、多くの血が流れた。
逃げ延びた末裔もこのローヌにいる。
この地域は、もともと小さな領地が点在する場所だったのだが、魔王から戦争を回避するために結束した。
それがローヌの歴史なのだ。」
そうだったのか…。
シュブドーにいたのではわからない歴史がローヌや魔王の世界にはあるということか。
しかし、混沌が望みとは…確かに恐ろしい魔王だ。
うん?
だけど、マルサンヌとルサンヌの姉妹が手を抜いてくれれば、この決闘は楽勝なんじゃないか?
「さっきの二人が代表として戦うなら、わざと負けるよう説得すればいいのでは?
貴方のことを慕っているみたいだったし。」
黒袋の男はため息をついた。
「『コールはアルに従わなければならない』。
これは単なる言葉ではなく神との契約なのだ。
闘技場に立つことを拒むことも、戦いで手を抜くことも、コールにはできない。
人が抗うことのできない神との強い契約なのだ。。」
オレもそう思っていた。疑いもしなかった原理原則だ。
だが、地球の日本という世界で過ごし、人の権利や自由という言葉を知った。今でも、日本のほうが素晴らしいと感じる。
でも…。
地球の日本以外の世界では、戦争や紛争が絶えることはなかった。ニュースではあまり大きく報道されてなかったが、地球世界のどこかでは大勢の人が戦争によって死んでいた。
日本のような国のほうが稀だったのかもしれない。
この世界は『神のルール』に縛られている。この世界の神は、人に本当の自由を与えることはない。
だが、そのおかげで戦争せずに済む方法が確立されているとも言える。
どちらが良いなんかなんて簡単に出る答えじゃない。
「やっぱり無理ですか…。
まあでも、結局やることは変わってないわけだ。
シュブドーはローヌに宣戦布告する。そして、ローヌ国を占領する。」
「それで構わない。
マルサンヌとルサンヌの命を保障してくれるなら、ローヌ王は国をシュブドーに譲ると決意された。」
「殺さず倒すか…。
それも不敗のローヌの戦士をか…。難題も難題だな。
しかも、頼む相手がオレのような身分の低い下級兵士なんて…。無謀ですね。」
「かもしれぬ。君に頼める立場でもないのだが、他に頼めるものはいなかった。無理言ってすまない。」
黒袋の男は、また深々と頭を下げた。
「了解。やるだけやってみます。
この国好きだし、戦争だけは避けたい。
平和ボケな国に長くいたせいか、平和を望む気持ちだけはあるので。」
屋敷を出ると、民族衣装を身にまとった二人の女が待っていた。地球世界のスコットランドという国の衣装に似ている。
「話を聞いてくれたこと、礼を言う。」
「ああ」
「だが、我らはお前を殺すだろう。」
「あ、オレは出場しないと思うけど?」
「そうか。それならよかった」
「オレのこと心配してくれたのか?」
「ちがう。先に侘びておこうとおもっただけだ。我らは負けぬ。
それがお館様の望みでなくても、ローヌとお館様の名誉のためにも負けることはできぬ。
話はそれだけだ。」
そう言い残すと、姉妹は小屋に戻っていった。
ま、順当に行けば、シュブドーは勝てないだろうな。
だけど、ナイヤならなんとかできるかもしれない。
もともとオレはサポート役には多少の自信があった。日本でも、親方の手伝いをして何度も褒められたことがある。
シュブドー国の代表として、ナイヤとタイユが出場すれば勝機はある。
最後の確認はしてないが、闘技場の霧の謎は解けている。
あとは、あの姉妹を殺さずに倒す方法を考えるだけだ。ただ、オレにはこれについてもすでに目算があった。
マルサンヌとルサンヌが持っていた槍と同じ槍を持っていた人物に心当たりがある。彼に相談すれば、この難問も解決できそうな気がした。
むしろ一番の問題は、どうやってナイヤに連絡を取るか?ということと、ナイヤとタイユを出場させる方法を見つけることだった。現騎士団の猛者の皆様が出場してくれても構わないのだが、彼らがマルサンヌとルサンヌの命を保障しれくれるとは思えない。
こればかりは一人で考えてもしかたないので、ルジュマン隊長に相談しよう。
約束の日まであと3日。
それまでに、とりあえず槍を確保しておく。
そのために行く場所は、キエリの住むクルジの村である。
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