見習い義肢装具士ルカの決闘(デュエル)

ノバト

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1章 ローヌの決闘

11.二人の模擬戦

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「キサマを叩きつぶす!」

 元騎士は、意外な得物えものを装備していた。
 ハンマー型と呼ばれる木製の武器である。その中でも二人の騎士が持っているものは、かなり大型のものだった。筋力に自信がないと振り上げることも難しいだろう。

 どういうつもりだ?

 木製の武器なので模擬戦でも使用にはなっている。
 だが、木剣を使用するナイヤのことを想定してするならば、モーションに大きなロスが生じるハンマー型は圧倒的に不利だった。しかも、大型になればなるほど一撃の威力は増すだろうが、動きは緩慢かんまんになる。
 どのように考えても、不可解ふかかいな選択なのである。

 ただ…今の相手はオレである。
 今回はあえて盾しか装備しておらず、盾の上からでも衝撃派を繰り出せるハンマーとは相性が悪かった。

 そんなオレのあせりを知ったか知らずか、
 元騎士はハンマーを振り上げ、オレの大盾の上から叩きつけてきた。
 
 盾とハンマーが強烈な打音を奏でた。防ぐことはできても、ものすごい衝撃がオレの身体をつらぬく。腕がしびれて盾を落としそうになった。

「よく耐えたな。ソロ戦では木剣でも吹き飛ばされていたのに、少しは成長したようだな」

「そうでなくっちゃ、倒しがいがないってものだ。いたぶってやる!」
 
 もうひとりの元騎士もスライドさせるように横回転させてハンマーを打ち付けてくる。
 
 オレはラージシールドを地面に突き立てて衝撃にそなえた。脚を踏ん張る。

「ぐわーー」
 
 強い衝撃が襲って来たが、今度は見事に弾き返すことができた。
 悲鳴を上げた相手戦士は、反動を受けてハンマーを取り落してしまった。
 あまりの衝撃だったので、指に力が入らず持ち直すこともできていない。

「よくもやってくれたな!」

 それにしても、なぜ今回の二人は、こんなにも好戦的なのだろう?
 元騎士団のメンバーは戦闘には自信を持っている。下位のオレなんかには本気でぶつかってくることなど今まで一度もなかった。

 とはいえ、もうすぐだ。
 ナイヤが来れば、形勢は逆転し勝利することができるだろう。疾走しっそうの禁止をしていても、彼女なら剣技けんぎだけで十分だ。

 オレが相手をひきつけ、ナイヤが後ろから不意ふいを付く。

 それこそが、ナイヤの脚の負担を減らし、そして、模擬戦にも負けないという策だった。多少強引な説得だったかもしれないが、ナイヤの同意を得ることができた。

 オレが周囲にナイヤの気配がないか見渡していると、二人の戦士は笑った。

「ナイヤ様は、お前を助けに来られることはない。」

「なに? どういうことだ?!」

 ナイヤになにかあったのか!? 思わず叫んでいた。




 模擬戦開始のドラと同時に ナイヤは作戦通り回避優先と索敵さくてき行動をとっていた。得意の疾走と強襲攻撃を封じることになるとは、ナイヤには思いもよらないことだった。

不意ふい打ちなどできぬ!」

「そんなかっこ悪いことを言うから、魔王軍に負けたりして、もっとかっこ悪いことになるんですよ」

 朝、ルカに説教されたことについては正直、今でも腹が立っていた。
 なぜ、私が身分も経験も順位も低いものにそのようなことを言われる筋合すじあいがある?
 だが、不思議なことに反論できなかった。

ひざ故障こしょうを作ったのは、戦い方の幅を広げようとしなかったナイヤ様が原因。貴方あなたかたくなな性格が、魔獣戦での負けをまねいたのです。」

 確かにそうかもしれないと思わせる説得力がルカにはあった。

「模擬戦は、相手によって戦い方を変える練習だと鬼教官も言ってました。
 ナイヤ様ほど優秀な騎士が、できないわけないですよね?」

 まったく腹立はらだたしい奴だ。

 そんなことを思い出していると、遠くに、全身甲冑かっちゅうまとった戦士が見えた。
 
 大胆だいたんだな、一人で私を待っていたのか?
 この模擬戦の対戦相手コルーとリングなら、今までなら二人がかりでいどんでくるはずなのだが…。
 罠か?

 戦士は、ナイヤの姿を視認しにんすると、慌てたように逃走しはじめた。

 逃げるのか?
 
 降格したとはいえコルーとリングは生粋きっすいの騎士である。騎士は背中を見せることはない。特に決闘隊を見下していた二人なので、戦術の幅を広げるとも思えなかった。騎士の気持ちはナイヤにもよく分かる。

 闘技場の端の壁まで来ると甲冑の戦士はようやく振り返った。
 そしてかぶとを脱いだ。
 その戦士は、コルーでもリングでもなかった。
 ミラスという、やはり元騎士だった。

「ガラ様もうしわけありません。」

 ミラスは、片膝をついてひざまず臣下しんかの作法で頭をせた。
 立てたほうのひざの上に利き腕である右手を乗せるのは、武器を手に持ってないーー「攻撃の意思なし」を現し、
 利き腕ではないほうの手を背中に隠すのは、盾で自分を守らないーー「無抵抗」を意味している。

 ルカのことが気にかかったが、臣下しんかの姿勢をとられては、一方的に攻撃するわけにもいかない。

「説明してもらおうか。なぜお前がここにいる。お前の番ではないはずだ。」

 言い終わる前に、周囲から複数の戦士が近づいてくるのがわかった。皆、仲間の元騎士たちだった。
 ナイヤが抵抗する可能性を考慮こうりょしたのであろう。全員がラージシールドを装備していた。
 
「模擬前は中止になりました。今日は副隊長にお願いして、お休みにしていただいたのです。」

「なに?」

「今日は我々の願いを聞いていただきたくて、このような無礼をしております。なにとぞお許しください。」

 ミラスは頭を下げたまま答えた。

「ルカには伝えたのか?」

「タイユ殿が向かっております。」

「……」
 ナイヤは、力任せに手に持っていた木の剣を地面に突き立てた。
 腕組みをして、さっさと話せという態度をとった。

「ガラ様は、あのルカというものに、関わりすぎでございます」

「なに?」

「秘書官のロゼにも聞きましたが、あのものは禁忌きんきも犯しかけたとのこと。
 午前の講義中もジロジロとガラ様のことを不潔ふけつな目で見ておりましたし、そもそもいやしい生まれのもの。信用できませぬ。」

「ふん。私を見ているのは、お前たちとて同じではないか」

「わ、我々は、ガラ様をお守りするためです」

 ミラスはつばを飛ばしながら弁明べんめいした。
 ナイヤはしらけた目で見下みおろす。

「私は別にかまわん。」

「はい?」

「たとえ、いやらしい目で見られようが、気になどしない。
 なぜなら、私は騎士であり、女であるからだ。女であることもほこりに思っている。
 私が美しいから見たくなるのだろう? 栄誉えいよなことではないか。
 もちろん、騎士であることにもほこりを持っている。
 騎士の心があるからこそ、そのような小さなことは気にせぬ」

「……」

「であるから……、ミラスもいやらしい目で見たければ見れば良い」

「ガラ様! いけません!」

 ミラスは叫んだ。焦っていた。口の端に泡が立っている。

「なんということを、、、これもあやつのせい。ミラス、ルカなるものを許すことはできません!」

「ガラ様。お願いです」
「お嬢様、一時の思いで行動してはなりませぬ。」
「ガラ様、我々の身にもなってください。」
「どうか我々一同の願いをお聞き入れください」

 ナイヤを取り囲んでいた全員の元騎士が、盾を置いて、臣下しんかの姿勢をとった。
 口々にルカとの関わりを見直すように求めていた。

 流石さすがに無視するわけにはいかない事柄だった。
 これはナイヤだけの問題ではない。ガラ家とガラ家に関わりのある貴族組織の問題なのだ。
 自分だけの考えで行動すれば、父や兄にも迷惑を掛けることになる。
 つくづく貴族というものは融通ゆうずうが効かないものだと思う。
 自由なルカがうらやましいと思う。

「わかった。確かに関わりすぎた。私の怪我が治ったら、二度と近づけさせないと約束しよう。」

「……」

 ミラスの返事がない。まだ、不満だというのだろうか?

「恐れながら、それは無理でございます」

「どういうことだ?」

 ミラスから返答はなかった。

「まさか、お前たち!」
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