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一刻も早く家に帰りたくて、小雨の中、傘を差した状態で走っていたのがいけなかったのだろうか。
でも、今日は久しぶりに妹と一緒に食事をする約束をしているのだ。
幼い頃両親を亡くし、それから二人で肩を寄せ合って生きてきた、たった一人の妹。
その妹から、一時間ほど前に仕事が終わり、わたしの家に向かっているとメールが来た。
ということは、ヘタをしたら妹の方が先に家に着いてしまう。
妹には合鍵を渡してはいるけれど、やっぱり待たせるのはよくない。
だからわたしは、濡れるのもかまわず家までひた走った。
それがいけなかったのだろうか。
いや、きっとそうじゃない。
だって、足元がいきなり光って思わず目をつむり、ふたたび開けた時には異世界に転生しているなんて、いったい誰が想像できただろう。
「少なくとも、わたしには無理…」
倒れ伏している床には青い線が走り、ちかちかと点滅している。
そして、「召喚成功だ!」とか「やった!」とか「我々の魔道の正しさが証明されたのだ!」と声をあげて喜ぶ、大勢の人の声。
……召喚、ね。やっぱりここは異世界で、わたしはこの人たちにいきなり呼び出されたってワケか……。
思わず遠い目で、消えてゆく青い線……たぶん魔法陣を眺める。
どこかの小説で読んだ、異世界転移。
魂だけでなく体ごとほかの世界へ移動するというそんなウソみたいな現象が。
「わが身に起こるとは……」
打ちひしがれるわたしをよそに、わたしを召喚したらしい人々が叫ぶ。
「念願の大魔導士がついに我々の手に…!」
「これで、サルト族のやつらを完全に駆逐できるぞ!」
「いや、サルト族どころか、ランドン族すらも滅ぼせるやもしれん!」
「そしていずれはこのイグヤードの地すべてを、われらヘルマール族のものに…!!」
怪しげなキーワードが次から次へと出てくるね。正直引くわー…。
要するに、超好戦的で野心家な人々のところに、転移させられたわけね、わたし。
しかも、侵略の道具として。
「さいあくぅー」
つん、つん。
「ん…?」
げんなりしているわたしの指に、何かぬるっとしたものが触れる。
…なんだろ…? ちょっとあったかいし、息づかいみたいなものも感じる。てことは生き物かな?
指をそっと動かしてみると、今度はぺろりと舐められる感覚。
「なぬ…?」
指のあたりに目を向けると、そこには。
「………フェレット?」
白く細長い、ぱっちりお目めのもふもふが、ちょこんと座っていた。
「……なぜ、フェレットがここに…誰かのペットかな?」
ゆっくりと身体を起こしてその場に座ると、フェレットをじっと見つめる。
フェレットも、エメラルドグリーンの瞳をきらりと輝かせてこちらを見て。
「やあ茉凛」
「しゃべった!?」
でも、今日は久しぶりに妹と一緒に食事をする約束をしているのだ。
幼い頃両親を亡くし、それから二人で肩を寄せ合って生きてきた、たった一人の妹。
その妹から、一時間ほど前に仕事が終わり、わたしの家に向かっているとメールが来た。
ということは、ヘタをしたら妹の方が先に家に着いてしまう。
妹には合鍵を渡してはいるけれど、やっぱり待たせるのはよくない。
だからわたしは、濡れるのもかまわず家までひた走った。
それがいけなかったのだろうか。
いや、きっとそうじゃない。
だって、足元がいきなり光って思わず目をつむり、ふたたび開けた時には異世界に転生しているなんて、いったい誰が想像できただろう。
「少なくとも、わたしには無理…」
倒れ伏している床には青い線が走り、ちかちかと点滅している。
そして、「召喚成功だ!」とか「やった!」とか「我々の魔道の正しさが証明されたのだ!」と声をあげて喜ぶ、大勢の人の声。
……召喚、ね。やっぱりここは異世界で、わたしはこの人たちにいきなり呼び出されたってワケか……。
思わず遠い目で、消えてゆく青い線……たぶん魔法陣を眺める。
どこかの小説で読んだ、異世界転移。
魂だけでなく体ごとほかの世界へ移動するというそんなウソみたいな現象が。
「わが身に起こるとは……」
打ちひしがれるわたしをよそに、わたしを召喚したらしい人々が叫ぶ。
「念願の大魔導士がついに我々の手に…!」
「これで、サルト族のやつらを完全に駆逐できるぞ!」
「いや、サルト族どころか、ランドン族すらも滅ぼせるやもしれん!」
「そしていずれはこのイグヤードの地すべてを、われらヘルマール族のものに…!!」
怪しげなキーワードが次から次へと出てくるね。正直引くわー…。
要するに、超好戦的で野心家な人々のところに、転移させられたわけね、わたし。
しかも、侵略の道具として。
「さいあくぅー」
つん、つん。
「ん…?」
げんなりしているわたしの指に、何かぬるっとしたものが触れる。
…なんだろ…? ちょっとあったかいし、息づかいみたいなものも感じる。てことは生き物かな?
指をそっと動かしてみると、今度はぺろりと舐められる感覚。
「なぬ…?」
指のあたりに目を向けると、そこには。
「………フェレット?」
白く細長い、ぱっちりお目めのもふもふが、ちょこんと座っていた。
「……なぜ、フェレットがここに…誰かのペットかな?」
ゆっくりと身体を起こしてその場に座ると、フェレットをじっと見つめる。
フェレットも、エメラルドグリーンの瞳をきらりと輝かせてこちらを見て。
「やあ茉凛」
「しゃべった!?」
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