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婚約期間、見えない分感じるモノ
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ヴィル様に求婚をされてから、1ヶ月程が経った。
その間に私の目は、真っ暗闇から少しの光を感じる位まで回復した。
昼間と夜の違いがわかる程度であるし、全てにおいて他人の介助を必要とはするが、私の気持ちはやっと落ち着いてきた。
1ヶ月前の私は、ヴィル様の表情が見えないからこそ、不安になっていた。そして今は、見えないからこそ、感じるモノが多くなった事に気付いている。
失明した後、心配するヴィル様からは療養を勧められたが、長期休暇を頂いても私が出来る事はないし、長く場を離れるとその分の理解が遅れてしまう。だから、体調不良でない限りは目が見えなくても自分の仕事である会議等には変わらず出席させて頂いていた。
視界という情報がシャットダウンされた私は、当然全ての情報を視覚以外から得ようとする。すると、徐々にではあるが、以前よりずっと同席者の心情がわかるようになった。焦った時、落ち着こうとする時、様子見の時、確信がある時……相手の微かな言葉の乱れや語尾の震え、その他本人が気付いていない不随意運動の音が耳に入り、如実にその相手の感情が流れてくるのだ。
嘘を言っていればほぼ分かるし、笑顔で騙されるだろう相手の快不快もわかりやすい。
玉井さんはそれがほぼなくて素直な人だという事が今回の事で確信し、私が彼女に寄せる信頼は更に深くなった。
グザヴィエさんは逆に、一見優しく見えて実は無感情な部類の人間だ。だからこそ、聖女を保護する立場でありながら元聖女の事も冷静に見極められたのだろう。ただ、玉井さんには素で尽くしてくれているので安心して彼女を任せられた。
そして何よりも……この能力のお陰で、自分が本当にヴィル様から慕われているらしい事に気付いてしまった。
私に話し掛ける時だけ、声のトーンが違う。そして甘い。
私が目が悪い事もあるのだろうけど、一際様々な事に配慮してくれる。
気付けば、他人に甘えるのが苦手な私も、ヴィル様にはちょっとした我が儘を言ってしまう程に、ヴィル様は私の本心を簡単に暴いてしまう。
ヴィル様に求婚された時。自分がヴィル様に好かれる要素なんて微塵もない気がして、罪滅ぼしで言い出したようにしか受け取れなくて、拒否反応が一番に出た。
王城に出入りする令嬢や他国のお姫様を見る機会もあり、そんな方々は紛れもなく美しい女性ばかりだったから。
そしてヴィル様から受ける愛情は本物だと光を失ってより感じるのに、自分に自信が持てなくてその事実を受け止めきれずにいる私に、当然の出来事が降り掛かった。
***
「まぁ、私のメイドがごめんなさい!!聖女様、ご無事ですか?」
「……はい」
「聖女様!早く冷やさないと!」
「そんなに熱くなかったから、大丈夫。ありがとう」
私の視力が漸くぼんやりと物の形を捉える様になった頃、私はこの国の女性貴族の集まり……伯爵令嬢の開くお茶会に招かれた。
私は基本的に他国から来賓される方々との付き合いの方が多く、国内での─とりわけ若い女性との─人間関係が希薄である事が気になっていた。
私が友人と呼べる人は玉井さんしかおらず、後は慕ってくれる侍女達と交流がある位だ。
だからヴィル様にはとめられたのだが、私はこっそりそれに参加した。
目が見えなくて出来ない部分は仕方ないが、自分の礼儀作法がその令嬢達にどれ程通用するのかを確認したかったのも大きい。彼女達は、私の目が見えないとわかっているから、逆に大胆な態度をするだろうという予測も今までの経験上あった。
ただ、私の予測は甘かった。確かに彼女達は本音が……聖女の価値を見定めてやろうという本音が明け透けだったが、まさかこんな手段でくるとは思わなかったのだ。口ではなく、行動で示す程とは。
私は、躓いたメイドが手にしていたティーポットの紅茶を頭から被っていた。
その間に私の目は、真っ暗闇から少しの光を感じる位まで回復した。
昼間と夜の違いがわかる程度であるし、全てにおいて他人の介助を必要とはするが、私の気持ちはやっと落ち着いてきた。
1ヶ月前の私は、ヴィル様の表情が見えないからこそ、不安になっていた。そして今は、見えないからこそ、感じるモノが多くなった事に気付いている。
失明した後、心配するヴィル様からは療養を勧められたが、長期休暇を頂いても私が出来る事はないし、長く場を離れるとその分の理解が遅れてしまう。だから、体調不良でない限りは目が見えなくても自分の仕事である会議等には変わらず出席させて頂いていた。
視界という情報がシャットダウンされた私は、当然全ての情報を視覚以外から得ようとする。すると、徐々にではあるが、以前よりずっと同席者の心情がわかるようになった。焦った時、落ち着こうとする時、様子見の時、確信がある時……相手の微かな言葉の乱れや語尾の震え、その他本人が気付いていない不随意運動の音が耳に入り、如実にその相手の感情が流れてくるのだ。
嘘を言っていればほぼ分かるし、笑顔で騙されるだろう相手の快不快もわかりやすい。
玉井さんはそれがほぼなくて素直な人だという事が今回の事で確信し、私が彼女に寄せる信頼は更に深くなった。
グザヴィエさんは逆に、一見優しく見えて実は無感情な部類の人間だ。だからこそ、聖女を保護する立場でありながら元聖女の事も冷静に見極められたのだろう。ただ、玉井さんには素で尽くしてくれているので安心して彼女を任せられた。
そして何よりも……この能力のお陰で、自分が本当にヴィル様から慕われているらしい事に気付いてしまった。
私に話し掛ける時だけ、声のトーンが違う。そして甘い。
私が目が悪い事もあるのだろうけど、一際様々な事に配慮してくれる。
気付けば、他人に甘えるのが苦手な私も、ヴィル様にはちょっとした我が儘を言ってしまう程に、ヴィル様は私の本心を簡単に暴いてしまう。
ヴィル様に求婚された時。自分がヴィル様に好かれる要素なんて微塵もない気がして、罪滅ぼしで言い出したようにしか受け取れなくて、拒否反応が一番に出た。
王城に出入りする令嬢や他国のお姫様を見る機会もあり、そんな方々は紛れもなく美しい女性ばかりだったから。
そしてヴィル様から受ける愛情は本物だと光を失ってより感じるのに、自分に自信が持てなくてその事実を受け止めきれずにいる私に、当然の出来事が降り掛かった。
***
「まぁ、私のメイドがごめんなさい!!聖女様、ご無事ですか?」
「……はい」
「聖女様!早く冷やさないと!」
「そんなに熱くなかったから、大丈夫。ありがとう」
私の視力が漸くぼんやりと物の形を捉える様になった頃、私はこの国の女性貴族の集まり……伯爵令嬢の開くお茶会に招かれた。
私は基本的に他国から来賓される方々との付き合いの方が多く、国内での─とりわけ若い女性との─人間関係が希薄である事が気になっていた。
私が友人と呼べる人は玉井さんしかおらず、後は慕ってくれる侍女達と交流がある位だ。
だからヴィル様にはとめられたのだが、私はこっそりそれに参加した。
目が見えなくて出来ない部分は仕方ないが、自分の礼儀作法がその令嬢達にどれ程通用するのかを確認したかったのも大きい。彼女達は、私の目が見えないとわかっているから、逆に大胆な態度をするだろうという予測も今までの経験上あった。
ただ、私の予測は甘かった。確かに彼女達は本音が……聖女の価値を見定めてやろうという本音が明け透けだったが、まさかこんな手段でくるとは思わなかったのだ。口ではなく、行動で示す程とは。
私は、躓いたメイドが手にしていたティーポットの紅茶を頭から被っていた。
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