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聖女の能力、緊張感しかない会話

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彼女は昔から、直感力のある方だ、と自分を認識していたらしい。けれどこの世界に来て、それが直感ではなく預言の能力の片鱗であったものだと理解する。

「何でだかわからないんですけど、こっちの世界の方が自分の居場所だと感じるんです」
彼女は困った様に笑って言った。ご両親とは不仲らしい。
そして、彼女がこの世界について一番初めに視た預言は、私と一緒に美味しい料理が並んだテーブルに座っているところ……と、逆に私と二人で牢屋に入れられているところ。

牢屋って何!?怖っ!!

それより、聖女とやらはこの国の発展の為に未来を預言する筈なのに、そんな内容のもので良いんだろうか……??


と、思いながらも一生懸命口を挟まない努力をして、私は彼女に話の先を促す。

「次に、おじーちゃんの前で王子様と向かい合ったじゃないですか。あの時に視たのが本当に最悪で……私が王子様に斬られて殺されるところと、先輩が王子様と話をしているところだったんです」
「……ええ!?」

玉井さんがあの王子様に殺されるって?聖女ってこの国にとって、大事なんじゃないの!?
かなり驚いたが、やっと納得がいった。玉井さんが王子様を急に怖がり出した理由は、そういう訳だったのか。

「だから先輩。今後、私は何があってもあの王子様と関わりたくありませんっっ!!」
そうだよね、と私は頷く。
誰がそんな危険人物に自ら近づこうというのか。

「なので、王子様から呼び出しがあったら、先輩が対応して下さいっ!!」

……ん?
「わ、私が?」

自分を指差して確認すると、玉井さんはしっかりはっきり首を縦に振った。

「はいっ!!私は、長髪の神父みたいな人のところに行くまで引きこもりますっ!!王子様は、先輩に任せます!!」
力強く断言する玉井さん。


ええー……


私に預言の能力はない筈なのに、脳裏に自分が刺されるシーンを想像してしまい、顔がひきつった。



***




翌日。

王子様が、私達に宛てがわれた部屋へやってきた。因みに玉井さんの強い強い希望により、一人一部屋宛てがわれるところ、二人で一部屋使わせてもらっている。私は聖女ではない為、多分部屋がグレードアップしたと思うけど、玉井さんとしてはダウンした筈だ。何故そんな事をするのだろう、とは思ったけど、王子様が来室された事で理解した。本当に玉井さんが王子様との関わりの一切合切を私に丸投げする気だという事に気付いて、私は腹を括る。

とはいえ、この世界の礼儀なんて知らない。
ひたすら失礼のないよう祈るだけだ。

「……どちらが聖女だ」
王子様の一言目がこれだった。
私が玉井さんと目を合わせると、彼女はまた真っ青になってガクガク震えている。

「……その質問に答えた場合、聖女はどうなるかを先に伺っても宜しいでしょうか?」
私は仕方なく、王子様へ質問に質問で返す。玉井さんの様子を見てると、彼女が聖女でーす、なんて言った瞬間に玉井さんが刺されそうだから。

王子様は、少し驚いた顔をして、考える素振りをした。

「聖女は……この国には不要だ」
「わかりました。では、私達がこの国から出て行く事にすれば、身の安全は保証されるのでしょうか?」
「……」

王子様は、再び考える。
「……この国から、出て行くのか?」
「命より大切なものはございません」
命、大切に。

ベッドの影に隠れたままだが玉井さんの頭もコクコク動いている。よっぽど王子様が怖いんだな、と思う。預言なんて視ていない私には想像する事が出来ない恐怖なのだろう。

「……ふむ」
「私達が望むのは、とにかく自分達の安全です。知らない世界に来て常識も何もわからないまま放り出されるのも辛いものがありますが、死ぬよりマシです」
「……成る程」
「でも出来たら、この世界よりは元の世界に戻りたいですが」
仕事が途中なので、かなり切実。出来たらこの世界に引き込まれたあの瞬間に戻りたい。この世界と日本が同じ時間を刻むのだとしたら……あああ、考えるだけで胃が痛む……!!

「それは無理だな」
苦悩する私にあっさりと王子様に否定し、私は肩を落とした。

理不尽極まりない。そして、この怒りを目の前の人物にぶつけた時点で首が飛びそうだから何とかやり過ごすしかなかった。
「だが……そうだな。お前の言う事はわかった。……名前は?」
「私は川添かわぞえ由良ゆらと申します。そして、」
「かわぞえ、か。また来る」

王子様はそれだけ言って、玉井さんの名前は聞かずにさっさと去って言った。

王子様の背中が見えなくなったのを確認し、ドアを閉めて私はズルズルと座り込んだ。
「緊張した……」
喉がカラカラだ。
「せんぱ~いっっ!!ありがとうございますっ!!」
玉井さんが目に涙を浮かべて、私に抱き付いた。

……腰の抜けた私にお水下さい、玉井さん。
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