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「胸だけでこんなに腰砕けになって、エロいですね」
「……っ」
時哉がもう殆ど口にすることのない「可愛い」を、この痴漢は三か月ずっと、私に囁き続ける。
痴漢なんかに言われても嬉しくない。
最初はそう思っていたはずなのに、今はその言葉一つで私の膣はまるで返事をするかのようにヒクヒクと蠢くのだ。
「綺麗なピンク色のここ、いつか舐めさせて下さいね」
「ん……っ」
キュンキュンと疼く子宮を自覚しながら、目に涙が溜まっていく。
私は最近、自分が恐ろしくて堪らなかった。
痴漢の愛撫を、身体だけでなく心が欲しがっていく感覚が、自分を侵食していく。
明確にそれを感じたのは、先日時哉と本当に久しぶりに身体を重ねた時のこと。
前戯に時間を掛けずに突っ込まれるのなんて慣れている筈なのに、私の心はそれを拒否した。
私の彼氏は時哉であるのに、触れられても、濡れなかった。
全てがおざなりに感じた。
私を思いやる気持ちも、お互いが気持ち良くなろうという気遣いも、何も感じなかった。
それに気付いた瞬間、血の気が引いた。
私は痴漢の被害者なのではなく、そうした性癖を利用したある意味浮気をしようとしていたのではないかと気付いたからだ。
気付けばいつしか、痴漢をしやすそうな服や下着を身に付けていた。
それでもかろうじて残された理性は、痴漢の指を、囁きを待ち侘びているなんて事実を、許さなかった。
──だから、昨日お願いしたのに。
***
「最近、毎朝痴漢にあうんだよね」
昨日、私は思い切って時哉に報告した。
「マジか。その年でも痴漢ってあうんだな」
時哉はスマホをいじりながら笑って言う。
私は「もう」とむくれてみせながら、本当に久しぶりの、お願いをしたのだ。
「だからね、明日、時哉に何の予定もなければ、私を会社まで……電車に一緒に乗るだけでいいから、送って欲しいんだけど」
「えー?別にいいけど、電車代勿体なくない?」
電車代と彼女が痴漢に遭うことは、天秤に掛けることなのだろうか?
しかし、私にも必死さが足りないのかもしれないと思い直す。
痴漢に対して恐怖し憎悪する気持ちが足りないのだ、きっと。
「電車代は私が払うから。お願い」
「んー、まあ、それならいいよ。でも、気のせいじゃないの?」
「気のせいじゃないから、絶対」
どれだけ乗り込む車両をずらしても、乗る電車を変えても、ほぼ確実に数日後にはあの痴漢が私の後ろに立つのだ。
「わかったよ、明日は早く起きるようにするから」
いつも十時頃に起きるらしい時哉がそう宣言してくれて、私はホッとする。
「ありがとう。じゃあ明日、よろしくね」
「目覚まし時計セットしとくわ」
そんな会話も私のお願いもすっかり忘れて、時哉は朝起きてきた。
心の半分は、やっぱりな、という感想だ。
でもどこかで、期待していたのだろう……痴漢を撃退してくれる、彼氏の姿を。
もう半分、凍えていく気持ちを抱えたまま、どこかで安堵する私もいた。
痴漢を警察に突き出す機会を伸ばしたことを。
そんな、ぐっちゃぐちゃに乱れた心で、私は今日も電車に乗ったのだ。
「……っ」
時哉がもう殆ど口にすることのない「可愛い」を、この痴漢は三か月ずっと、私に囁き続ける。
痴漢なんかに言われても嬉しくない。
最初はそう思っていたはずなのに、今はその言葉一つで私の膣はまるで返事をするかのようにヒクヒクと蠢くのだ。
「綺麗なピンク色のここ、いつか舐めさせて下さいね」
「ん……っ」
キュンキュンと疼く子宮を自覚しながら、目に涙が溜まっていく。
私は最近、自分が恐ろしくて堪らなかった。
痴漢の愛撫を、身体だけでなく心が欲しがっていく感覚が、自分を侵食していく。
明確にそれを感じたのは、先日時哉と本当に久しぶりに身体を重ねた時のこと。
前戯に時間を掛けずに突っ込まれるのなんて慣れている筈なのに、私の心はそれを拒否した。
私の彼氏は時哉であるのに、触れられても、濡れなかった。
全てがおざなりに感じた。
私を思いやる気持ちも、お互いが気持ち良くなろうという気遣いも、何も感じなかった。
それに気付いた瞬間、血の気が引いた。
私は痴漢の被害者なのではなく、そうした性癖を利用したある意味浮気をしようとしていたのではないかと気付いたからだ。
気付けばいつしか、痴漢をしやすそうな服や下着を身に付けていた。
それでもかろうじて残された理性は、痴漢の指を、囁きを待ち侘びているなんて事実を、許さなかった。
──だから、昨日お願いしたのに。
***
「最近、毎朝痴漢にあうんだよね」
昨日、私は思い切って時哉に報告した。
「マジか。その年でも痴漢ってあうんだな」
時哉はスマホをいじりながら笑って言う。
私は「もう」とむくれてみせながら、本当に久しぶりの、お願いをしたのだ。
「だからね、明日、時哉に何の予定もなければ、私を会社まで……電車に一緒に乗るだけでいいから、送って欲しいんだけど」
「えー?別にいいけど、電車代勿体なくない?」
電車代と彼女が痴漢に遭うことは、天秤に掛けることなのだろうか?
しかし、私にも必死さが足りないのかもしれないと思い直す。
痴漢に対して恐怖し憎悪する気持ちが足りないのだ、きっと。
「電車代は私が払うから。お願い」
「んー、まあ、それならいいよ。でも、気のせいじゃないの?」
「気のせいじゃないから、絶対」
どれだけ乗り込む車両をずらしても、乗る電車を変えても、ほぼ確実に数日後にはあの痴漢が私の後ろに立つのだ。
「わかったよ、明日は早く起きるようにするから」
いつも十時頃に起きるらしい時哉がそう宣言してくれて、私はホッとする。
「ありがとう。じゃあ明日、よろしくね」
「目覚まし時計セットしとくわ」
そんな会話も私のお願いもすっかり忘れて、時哉は朝起きてきた。
心の半分は、やっぱりな、という感想だ。
でもどこかで、期待していたのだろう……痴漢を撃退してくれる、彼氏の姿を。
もう半分、凍えていく気持ちを抱えたまま、どこかで安堵する私もいた。
痴漢を警察に突き出す機会を伸ばしたことを。
そんな、ぐっちゃぐちゃに乱れた心で、私は今日も電車に乗ったのだ。
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